人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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【死】の領域

リッカ「此処が、狂三ちゃんの世界。あの女の死が現れた場所…」

ロマン『なんて反応だ…!ほとんどメソポタミアの冥界じゃないか!生き物が生きていられる環境じゃないぞ!?』

エレシュキガル「えぇ。これほど物理法則を変えられてしまっては、これはもう人類のテクスチャとは呼べないわ。定着し、歴史になれば間違いなくこの世界はデッドエンドに至るほどの…」

ハデス【諸君、あれを!】



少女【さー、たー、なー、えー、るー……】



山の翁【藤丸龍華。汝という生者が、あの死に伝えねばならぬ】

リッカ「!」

山の翁【征け。命は死にどう向かうべきか。全てはそこから始まるであろう】

シオン『敵性エネミー反応!』

オルガマリー『シャドウサーヴァント…!?いえ、これは…』

ハデス【死の瘴気だ。触れてはならぬ死の気配…生者を引き込む死そのもの】

エレシュキガル「重ね重ね、私達の為の戦場なのだわ!さぁリッカ、その精霊と向かいなさい!」

リッカ「うん!」

エレシュキガル「忘れないで!誠実に、そして──」

山の翁【宣誓は、今一度と心得よ】

リッカ「うんっ!!さぁ、狂三ちゃん!」

狂三「は、はい!」


絶死皇凰

終末に満ちた世界。破滅に溢れた世界。空は暗く染まり、地面は血を満たしたかのように赤い死の道だ地獄のような世界。

 

「彼女が…死。形を手に入れた、デッドエンドの証明……」

 

【さー、たー、なー、えー、る】

 

サタナエル、とひたすらに告げる少女。暗く分厚い暗雲を見ながら、ひたすらに唱えるその姿は、皮肉にも美しい美貌を備える少女。齎した破滅に似使わぬ、麗しき女性であった。

 

「士道さんは、精霊達の力を借りて彼女の眼の前まで辿り着きました。そして彼女に問いかけ、対話と和睦を説いたのです」

 

「知らない存在にもまずは対話。勇気に溢れた人だったんだね」

 

「ですが、会話になるまでもなく士道さんは昏倒し…そのまま還らぬ人となってしまったのです。……敵意など、何も無かった筈なのに…」

 

傍らでは、現れた死の具現にサーヴァント達が懸命に戦っている。生者は運命力を削られ、まともな人生を送れなくなるこの死の坩堝にて、悪神と一蓮托生のリッカだけが活動を許された生者である。五河士道が精霊を束ね受け継ぐ者ならば、リッカは二元論の頂点の一角。格になんら劣りはありえない。

 

「…士道君は、彼女になんて?」

 

 

リッカは最後の確認として、士道の言葉を尋ねた。

 

「彼は、君の事を知りたいと。俺の言葉を聞いてくれ、と」

 

狂三は、その想いと願いを口にした。

 

「──そっか。なら、私は別の言葉を選ばなくちゃね」

 

リッカは【彼女】に投げかける言葉を…

 

否、命が彼女に示すべき言葉を選び、告げるために歩み出す。星一つを滅ぼす者であるあの少女へと。

 

【さー、たー、なー、えー、る】

 

彼女はまるで意に介さぬのか、はたまた何も見てはいないのか、ただただそれを唱える。サタンの別名、堕天前の名前を。

 

「─────」

 

その様子に、リッカは覚えがあった。その益体のない言葉の発する意図を、遠い過去に知っていた。

 

「っつ………!!」

 

瞬間、少女から猛然と死の風、暴風や波動とも言うべき黒き力場が全方位へと放たれる。狂三がすかさずリッカの前に割って入り、その力を打ち消し護る。

 

「狂三ちゃん!」

「そのご様子ですと、活路は見えておりますのね…!?ならばどうか、そのままお進みくださいまし…!」

 

二度、三度、四度と力場が放たれる。生身の生者の運命力を瞬く間に刈り取る、死への手招き。或いは弱い命への審判。

 

「私があなたを導きますわ……!ですからどうか、この世界を!…士道さんを…!」

 

そう、今は特異点。解決しなくてはならない存在。今起きる全ては始まりに至る前の前奏でしかない。

 

彼女と交流し、理解し、デレさせ、奪われた命を取り戻さなくてはならない。まだこれは、スタートラインに立てるかどうかの戦いだ。

 

理不尽な事に、この世界の全ては立ち向かう事すら許されなかった。致命的に、間違えてしまった。

 

今どき選択肢を間違えたら即死のギャルゲーなんてそうそう見ない。ならば自分は、全く違う答えを示さなければならないのだ。

 

「──大丈夫!」

 

リッカは踏み出す。死の象徴、根源たる少女に向かって。

 

【さー、たー、なー、えー、る】

 

「っつ……!」

 

死の暴風が、死の神威がリッカの全身を打ち据える。マシュは来れなかった。今を生きる命は、この空間にはいられない。

 

精霊の加護と力を受け継いだ少年と、原初の人類と悪神、悪龍の真髄たる彼女という人間のみがこの空間に存在を許された。

 

しかし、その根源的恐怖は尋常ではないものだ。狂三に防がれ、一歩一歩歩みを進めるだけの行為にすら、死に懐く全ての感情が去来する。

 

手足の末端が腐り落ちていく感覚。自らの存在が、全て跡形もなくなっていく感覚。次の瞬間全てが爆散して、自分が消えてなくなる恐怖。

 

落ちていく、消えていく。なくなっていく。消し飛ぶ、死に絶える。何もかもが、命ある存在全てを押し潰さんとするデストルドー。

 

(この感覚を乗り越えて、士道って人は対話をしようとしたんだね)

 

何もかもを喪失するような感覚と、全身が怖気立つ程の恐怖を乗り越え、あの少女に言葉を伝えたのだろう。彼は間違いなく、死へと向き合ったのだ。それだけで、比類なき勇者と言える。

 

だがそれは、少なくともあの存在には間違いだった。誤りだった。一体何が間違いで、誤りで、いけなかったのだろう?

 

あなたを知りたいと言う言葉の、何がいけなかったというのか?

 

「──そうだよ。知らない訳ないんだ。私達、生きる者はみんなあなたを知っている。知らないはずがない」

 

絶死の嵐が巻き起こる中、リッカは確信する。エレシュキガルに言われた言葉。

 

【彼女には誠実でいてあげて】

 

彼女が死であるとして、彼女が死のそのものだとして。ならばそれは、全生命が『もう知っている』存在なのだ。

 

生命あらば、死は不可欠。生命は死に向かって生きていく。死ぬ事こそ、命が走り抜けるゴールであるのだから。

 

今更知りたいなど、不誠実極まると彼女は思ったのだろう。彼女を知りたいなどと告げることは、『生には死が不可欠』という事実を知らない、或いは知っていて目を逸らしているようなものなだから。故にこの世界の希望は、死に魅入られ絶たれてしまったのだ。

 

死とは、生きとし生けるもの全てが知っている事象。今更知りたいと問うことは、あってはならない蒙昧と受け取られてしまったのだ。

 

【さー、たー、なー、えー、る】

 

「くっ…!くうっ…!」

 

狂三は、巻き起こる死の波動を懸命に受け止めていた。当然、武力で鎮圧することもこの力の前には無意味であろう。

 

一歩一歩歩みを進めることに感じる喪失感。どうにもらないほどの壮大なる存在。精霊たちが全員かかったところで、どうにもならぬ存在であるのだから。

 

「今度こそ…!今度こそは…!」

 

狂三は今、世界の為に抗っているのではない。ただ、想いを寄せる異性の為に死に抗っている。死に立ち向かっている。

 

大切な者との約束。これもまた、真理である事に間違いはないのだから。

 

「……!!……!!」

 

リッカには確信があった。正解とされる振る舞い、正解とされる態度、正解とされる答えを示せる確信が。

 

【さー、たー、なー、えー、る】

 

その存在を、伊邪那美は説いた。リッカを助けた。リッカを支えた。一番辛いときにリッカを助けたのだと。

 

その意味を…、リッカは既に、知っていたのだから。

 

「辿り、つきましたわ……!」

 

その拮抗を退け、その破滅に抗い、いよいよリッカは辿り着いた。少女の眼の前。かつて五河士道が辿り着いた死への断崖。

 

「なっ───!?」

 

その時、信じられぬ者が現れた。少女の背後より、六つの黒き羽根を持つ、黒と赤の意匠の鎧と剣の存在としか言いようのない何者かが出現したのだ。

 

「これが、彼女の【霊装】…!?」

 

絶死皇凰(サタナエル)】。それが、彼女が有する死の力の根源そのものたる名前。かつての戦いでは、姿すら見つけられなかった彼女の【天使】。

 

「くあああぁぁぁぁぁっ!?」

 

無数の斬撃に晒された狂三は吹き飛び、倒れ伏す他無かった。二メートル近くある鎧の姿よりも長い大剣が、精霊を打ち払った。

 

「!!」

 

すかさず、リッカの首筋に黒と赤の剣がつきつけられる。これこそが、かの存在が死そのものなる証明。

 

【あー………………?】

 

辿り着いていた。真正面の眼の前。少女たる死の前へと。

 

「…………………」

 

ここが、生命全ての分岐点。

 

汎人類史はリッカを喪うか。

 

この滅びの世界が首の皮一枚繋がるか。

 

少女の死の具現たる鎧に、葬送の剣を首に添えられて尚。

 

リッカは、辿り着いたのだ。

 

───全てを懸けたデートの誘いに、リッカの二の句に、全ての世界の命運がかかっていた。




────だが。

リッカ「─────久しぶり、だね」

【…!】

狂三「え………!?」

数多の死を司る者達の言葉と助言から、リッカは既に掴んでいたのだ。

リッカは跪き、膝を折り、少女の前にて祈りを捧げた。

「リッカさん、何を…!」

首には大剣の刃。少しずらせば首が落ちる。

しかしリッカは──目の前の少女に、祈りを捧げたのだ。



山の翁【心せよ。死は理解するものに非ず。忌むものに非ず】

リッカ「!」

山の翁【死とは、想うもの也】



少女【あ……。うー、あぁ。あー!】

するとその時──不思議な事が起こる。

【きゃはは。あー!うー!】

なんと少女が、笑顔を浮かべリッカに近づき、抱擁をかわしたのだ。それは、彼女がリッカに興味を示した証。

ハデス【おぉ……!】

死は、理解しようとしてならない。知らぬまま生きる命は蒙昧だからだ。

死は、拒絶してはならない。死は命の至る先、等しき安らぎだからだ。

ならばどうすべきか?

エレシュキガル「そうなのだわ。死とは、誠実に想うもの!」

死は、直ぐ側にある。彼女は、ずっと傍にいたのだ。


ならばそれは、思いを馳せて迎えるもの。かつての人類は、それを大きく間違えた。

山の翁【─────】

それでも、数多の恐怖や数多の喪失感を越え彼女を想うなど不可能であろう。

かつての人類は、それでも最善を尽くし希望を繋いだ。

サタナエル【きゃっ、きゃっ。きゃはははは!】
リッカ「うん。本当に…久しぶりだね」

狂三「死ぬこと無く…共に在る…」

五河士道が、命を懸けて見つけた『対話』という即死の誘いへの道の断絶。

その奮闘により楽園カルデアは、死ぬ事なくその世界の希望を首の皮一枚繋げたのであった。 

狂三「…でも、リッカさん…」


リッカ「〜(なでなで)」
サタナエル【あぅ〜、きゃははは!】
絶死皇凰【……………】


「久しぶり、とは…一体?」 

リッカの、【死】への不可解な態度という謎を残して。
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