人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
「どけ、それはおれんだ!テメェらは後だ!おれんだ!」
「くそぉ、うめえ、うめえなぁ・・・!」
嘆きの壁に辿り着く旅路、襲い掛かってきた『心を喪った者達』に、配給を渡していく一同
「ふははははは!貴様らのような雑種に、我が財を賜せし栄誉をくれてやる!半日ばかりの蘇生なれど、貴様らには過ぎた栄光を噛み締めるがいい!」
リッカマニュアル『飢えた、乾いた人にはまずお裾分け。話はそれから!』に従い、辺りを取り囲んだ者達に料理を振る舞う
「押さないで、押さないでください!食事は、食事は無限にありますのでー!」
我先にと配給を望む者達に、水と料理を振る舞っていく
――これは、英雄王にしか出来ない戦い方ですね!
《フッ、たまには無駄遣いも良かろう!物量、湯水のごとき浪費!札束頬殴りは我にのみ赦されし王の技なのだからな!》
聖都に向かう道すがら、一息休憩を兼ね食卓を囲む一行
「お前たち、あの聖都に行くのか?」
「そゆこと!どんな場所か知ってる?」
「・・・夢の国だ、なんでもある。だが――綺麗なものほど恐ろしい・・・命が惜しけりゃ、近付かない方がいい・・・!」
「――凄く危なそう・・・何が待っているんだろう・・・」
『ギル!前方5000メートルに、サーヴァント反応が二体!』
「む。種別は解るか?」
『こんにちは!アルトリアです!ギル、私のアルトリア・センサーが告げています・・・!』
「――これは『祝福』の感覚。――円卓ですね」
「ほう――」
「――あれ・・・?」
「・・・先輩?」
「――向こうから・・・何か・・・聞こえる・・・鐘の、音・・・?」
エジプト、太陽王の領地、その境界線の外側、一歩踏み出した先。ファラオ・オジマンディアスの威光が届かぬ、中東の領地
そこは『燃え尽きていた』。人理焼却の余波、狂い果てた特異点にも、世界を焼いた炎の影響は降りかかっていたのだ
気温、48度。相対湿度0%。大気の魔力密度は0.3%にも満たぬ・・・生き物が生存を赦されぬ極限の地獄
ソロモン・・・いや、ゲーティアは時代の一切を焼却するという偉業を成し遂げた。それらは人類史を残さず焼き払う業。逆に言えば、特異点にはその余波は降りかからない筈だったのだが・・・
有り得ざる要素が余りにも多かった、多すぎた。ファラオの領地、滅び去りし十字軍、そして――純白の聖都
その、あまりにも巨大な揺らぎに、世界は保たれなかった。かつてのファラオが、聖杯を使わなかった理由がこれである
もう、何をしなくてもこの特異点は滅び去る。手を下すまでもない。緩やかにも、確実に。滅亡は大口を開けて待っているのである
――しかし、大地は滅びたとしても、そこに生きる者達は諦めてはいなかった
聖地より逃れた民は、人種の差別無くその身を庇護すると宣言した太陽王の言葉に希望を見出だした
聖地は喪われども、胸に抱いた信仰を、大切な隣人を、明日を諦めることはしなかった
身を寄せ合い、助け合って。彼等は太陽王の領地を目指した
太陽王の領地に一歩でも踏みいれば、安心と安全は確約される
聖なる地に選ばれる為に向かうか、太陽王の庇護を受けるか。そして――
――その選択を助け、護り、戦う山の翁がいた
「皆、走れ!太陽王の領地は目前だ!足を踏み入れさえすれば、即座にかの王の威光は皆を照らそうぞ!」
『煙酔のハサン』である。彼は高潔な性格の山の翁であった
『聖都を滅ぼさねば民に限界が来る。討ち果たさねばならない』と戦う準備を進める山の翁達に、否を唱えた
『戦いを望まぬ、行えぬ者はどうなる。ただ死ねというのか』と。
共に生きる者達を死地に送る事を良しとしなかった煙酔は、やがて己のみの戦いを見出だし、村より起った
『太陽王の助力を乞う。かの王ならば、必ず弱き者を見捨てまい』と
立ち向かうのではなく、戦えぬものを護ることを決意したのだ
山の翁の勤めとして・・・誇りよりも何よりも、自らが守護せし者達の今を優先した
異教徒、異人を頼ることを決めた瞬間より、首を落とされる覚悟を決めていた
『己の手では民を護るに不足である』と、告発するも同義である、と。彼は既に首を捧げていた
偉大なる初代『山の翁』その人に
一秒の刹那に首が落ちる事すら覚悟で、煙酔のハサンは辺りを飛び回り難民達を守護し、保護し、誘導し、導いた
その業を存分に生かし、その高潔なる精神で、民を導き続けた
彼の戦いは守護すること。騎士と事を構えず、助けを求める者を守り続けた
『戦えぬ者達には平穏を、戦うものには幸運を』と
彼の存在は騎士にも知れ渡り、何度も討伐の手が回された
が、単機で駆ける彼は誰にも捉えられず
どういうわけか獅子王も『単独で逃れんとする民を害することは禁ずる』と追撃を良しとしなかった
それは細やかな、そして確かに救うための戦い
援護する同郷の同胞なき、孤独なる翁の戦い
そして、それは――悪辣なる騎士により、進退窮まる事となる
「落ち着いて――ぬっ!?」
40人ばかりを導き走るハサンの前、領地が目と鼻の先にある、生死の境界線
其処に――獣が待ち受けていた
「――私は哀しい。あと一歩、あと数瞬速ければ。私の追撃からは逃れられたはず。だが、運命はこうも残酷だ」
赤毛、閉じた瞳。左手に『琴』を握る絶世の美男子
「――妖弦の、トリスタン・・・!」
絶望の名、おぞましき忌名を呻き上げるハサン
彼は円卓が一角『悲しみの子』トリスタン
躊躇いなく悪逆を行う、非道にてその名を轟かせる、妖弦の騎士である――
「こんばんは。待っていましたよ、『貴方が肉袋達と共に行動するのを』。そして、あの領地に向かうのを」
彼は待ち伏せしていたのだ。いくら山の翁と言えど、難民を導く際には機動力が落ちる
庇いながら戦っていては、例え己は生き延びたとしても、彼等は生き残れない
『単独で無いのなら、殲滅は構わない』という獅子王の言葉を逆手にとった悪辣なる追撃であった
「王の戯れにも困ったものです・・・私に任せてくだされば、今まで逃れた民の全てをこの手で断ち切るなど容易かったというのに・・・」
「――不覚・・・なんたる未熟か――まさか、待ち伏せを果たされようとは・・・!」
「何処やの戦士も消え去った今、あなたを守護する者は今やおりません。・・・あぁ、私は悲しい・・・」
かぶりを振りながら、告げる
――殺される。
鍛え抜かれた勘が、そう告げている
万に一つも慈悲はありえまい。背後の民は、皆殺しにされるだろう
撤退もかなわない。背後から切り捨てられるだろう
・・・抗戦など、返り討ちにされるだけであろう。愚にもつかぬ真似を、勝ち目のない戦いを挑むは愚者の行いだ
――無念極まる。自らは此処に来て、騎士を名乗る獣達の悪辣さを侮った・・・!
・・・いや、嘆くのも、悔やむのも首を落とされてからでよい
「あぁ、私は悲しい・・・」
今はなんとか、『彼等』を生かす術を手繰り寄せなければ・・・――!
「私は悲しい。山の翁よ。貴方一人であれば窮地を脱するは容易い。――しかし、貴方はあきらめてはいないようだ」
嘆きの詩が如く、言葉を紡ぐ。その言葉に、人の情は見られない
「貴方の背後に怯える聖地の人々。彼等難民を守るために、貴方は闘い続けているのですね・・・」
嘆きながらも・・・その口には、嘲笑を浮かべている、悪辣なるトリスタン
「価値なきものを守らんと、価値あるものが失われる・・・私には、それが悲しい・・・」
――ハサンは、その言葉に希望を見出だした
ある。彼等を救う手段が
価値ある彼等を『価値なき』と宣い、自らを『価値ある』などとほざく彼の思い上がりを、今ならば突ける
――天命が下ろうとも
「は、ハサン様・・・」
「わ、私達のせいで・・・」
――何としても、民を守護せし『山の翁』の本懐を果たさん――!
「・・・・・・価値がある。彼等より、私の方が価値がある、と言ったな」
「はい。私の弓を以てしても、貴方を捉えるのは困難でしょう」
ならば、例えそれが口から出任せであろうとも
この身を差し出せば、為せることはある――
「・・・取引だ。貴様の騎士道とやらが誠のものであるなら・・・」
煙酔は、はっきりと口にした
「我が命を、此処で差し出す。その代償として、民達を見逃してほしい」
民達40人の命
自ら一人の命
どちらを生かすなど、考えるまでもない
「なんと高潔な方か。――しかし、逃がすといっても具体的には?・・・ここで貴方達を見つけた以上は、この場から立ち去るということは出来ないのです・・・」
「・・・――では」
――ファラオの言葉が、頭をよぎる
『煙の。貴様の戦いにて立ちはだかるは『妖弦』であろう』
『・・・トリスタンか』
『然り。忘れるな。ヤツは『指一本あれば事を為す』。封じたくば、ヤツの指を奪うことだ』
――指・・・
「――では、トリスタン。我が首の代わりに『指の一本も動かすな』。これより一日、その弦の爪弾きを封じられよ」
太陽王の言葉を思い返し、けして聞き間違えぬよう声に上げる
「――それは、よき提案です。違えよう筈もない」
トリスタンの了承を確認し、薄く笑う
――これでいい。我が戦い、潰えるとも。必ずやファラオが、皆が遺志を受け取り、この時代を救ってくれるだろう
その確約を果たせたことこそが・・・自らの戦いの、最大の成果と信じたい
「情けない我が首だが、その代償としてなら釣り合おう」
後ろにいる民達、同胞たちに告げる
「走れ!同胞達よ!太陽王は必ずや、そなたらを受け入れよう!」
同時に、高々と振り上げる手刀
鍛え抜かれた山の翁の手ならば、即座に首を落とせよう
「然らば――御免!」
――我が戦いは、ここで終わる
赦せ、呪腕の。そして、我が未熟さを嗤うがいい―
振り下ろされる、刹那――
――それは、起こった
【――愚か者め。自らが始めた闘争を、自ら投げ出すことは赦されぬ】
「――?」
初めは、突風であった。二人を、難民を取り巻く『魔力を伴わぬ自然現象』の風が巻き起こる
「これは――!?」
訝しむトリスタン、驚愕するハサン
【精神、業。劣化しておらぬならば首は落ちぬ。山の翁の命を果たせ、煙酔の】
それらはすさまじき勢いとなりて辺りを覆い尽くし、僅かな先すらも見切れぬような暴風となる
「ーまさか、まさかこれは――!」
彼は、見たのだ。その風が巻き起こり、嵐となり、竜巻、暴風となるとなるその上空に
――死神が如き『骸骨』の面を目の当たりにしたのである――
「ッッッ――皆!私に続け!はぐれるな!走り続けろ!!」
この地にて生きてきた民達ならば、これほどの嵐でも、山の翁の導きあらば踏破は叶うだろう
(まさか、このような未熟者に――まさか――!)
「・・・随分と都合良く、地の理が味方するものです」
そう、これを知っている
この超常を起こせし存在を、心得ている
(――感謝します!『初代様』――!)
それは、ハサンを殺すハサン――
トリスタンはゆっくりと、琴弓を構える
「不運にも貴方達を見失ってしまいました。・・・ですから、『安全確保の箇為に奏でる』事は、けして契約違反にはなりませんね」
そして、指の一本にて妖弦を奏で、音速の刃を射出する
トリスタンの弓は『琴弓フェイルノート』。糸を張った弓で、それを奏でることにより音の刃を放つ『弓というものを根本的に勘違いしている』とアーサー王に謳われし弓
その刃は、余さず難民と、ハサンを穿ち――
「――!?」
いや、放たれた弓矢は総てが叩き落とされる
(何――!?)
かききえた、のではなく【叩き落とされた】のだ。――有り得ない、とトリスタンは愕然とする
彼の刃は音、そのもの。難民や、まして背を向けたハサンなどに見切れるはずがないのだ
ましてや、それを【叩き落とす】など――ランスロット程の腕前なくば叶わぬ絶業である
「――何者――」
――陽炎がごとき幻影、夜闇の彼方に、トリスタンは幻視した
死神が如き面
漆黒の甲冑
手にするは、血と信仰が染み付きし大剣
「――貴方は・・・」
【外道よ。汝の天命を告げるものが来る】
バサリ、と外套を振るう
【――見るがいい。死期を見失いし亡者、騎士を騙る獣よ。その悲哀、此処に断ち切られる刻也――】
巨大な漆黒の幽鬼が、魂の底冷えするような声音を響かせし刹那。砂嵐、そして耳鳴りのするような天変地異が即座に収まり、辺りは静まり返る
「――今のは・・・一体・・・」
――トリスタンが、冷静な思考を行うことは叶わなかった
「――――」
かの幽鬼が伝えた事は、真実となるのである
「――ハッ、随分とアホ面に磨きがかかってるじゃねぇか、トリ野郎」
真紅と反逆の騎士、モードレッドが獰猛に笑う
「寝てるか起きているか解らない事で私が大の苦手とする居眠りの騎士トリスタン!弁明の余地なく叩き斬ります!イエスかはいでお応えください!」
両手に白と黒の聖剣を構え、殺意を隠さず突きつけるアルトリア
「ついにこの日がやって来ました!!円卓粛清七番勝負!行きますよモードレッド!覚悟もろとも皆殺しです!セイバー・円卓殺すべし!!」
「よっしゃあ!円卓潰しはオレの得意分野だぜ!なんでガレスがいねぇのか、聞き出してやらなきゃいけねぇからな!」
「・・・円卓の騎士、トリスタン・・・!」
震える身体を、奮い立たせるマシュ・キリエライト
【鐘の音がする場所に来てみたら・・・円卓の騎士がいるなんて!?】
マスター、対話の龍。リッカ
そして――
「――貴方は・・・!」
蒼きレオタード、金の冠。白銀の鎧
金髪、碧眼の美女。聖剣を持ち、聖槍を構え、白馬に乗るその姿は――
「――獅子王――!」
愕然とするトリスタンに、剣を突きつけるは――
「違う。私は人理を守護し、切り拓く騎士の王。乱心した円卓を諌め、糺し――」
騎士王が、獅子の円卓に宣告を下す
「天に、返すものだ。――弓を執れ、トリスタン。祝福を受けし貴方の獣身、ここで断ち切る」
開幕の号令に応えるかのように
『『
辺りを力強く書き換える、固有結界に引き摺りこむ!
「これは――!?」
【ファラオから聞いてたトリスタン!やらかした事が本当なら、ここで倒しておいた方が絶対にいいよね!行くよ!マシュ!】
寒波吹きすさぶ不毛の地に、祝福を受けし騎士を討ち果たさんと、人理の防人、騎士達が吠え猛る
「はい!マシュ・キリエライト!――私の中のギャラハッドさんの叫びに従います!」
盾を振るい、叫ぶ!
「『彼等を、止めてほしい』と――!」
此処に、獅子の円卓を砕く戦いが幕を明ける――!
上空・ヴィマーナ
《さて、感動の同窓会だ。アルトリアどもの手前、拝見させてもらおうではないか》
――王、かの聖抜とは、選ばれし者を選抜するものだと聞きました
《然り。かの獅子王に相応しき民を選ぶ、下らぬ儀式なのだろうよ》
――では、『選ばれなかった者』は・・・一体、どうなるのでしょう・・・?
《――エア、選別を始めておけ。『上空より放つことが叶う対人武器』をな》
――はい
――どうか、ワタシのこの最悪の予想が・・・外れますように・・・
(エア・・・)