人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「よくぞ戻ってきたわねハサン!民もお疲れ様でした!見るもみすぼらしい姿を存分に整え、存分に寛いでいきなさい!」

「あぁ、ありがとう、ありがとうございます・・・!」

「どうしても、どうしても・・・私達は、私達の信じるものを捨てることが出来なかった・・・こんな私達を・・・ありがとうございます!」

「――自らではなく、自らの信仰のために・・・」

「クレオパトラ殿。彼等を頼む」

「あら、ハサン。どちらへ?」

「彼等に恩義を返し――同時に『山の翁』達に連絡を取る」

「まぁ――」

「『カルデア、大恩在りし同胞なり』と――集落の皆に伝える!彼等に助力せぬは、最早山の翁の恥!恥に恥を上塗ろうとも、私が彼等との架け橋にならん!」

「ハサン殿――」

「その前に、『聖罰(・・)』の場に向かわねば!彼等の輝かしき光、我等が同胞の血にて塗り染める訳にはいかぬ!」

「で、ですが此処からは・・・ファラオ・オジマンディアスが出向けば休戦協定は破られ、カルデアのオジマンディアス様は更なる難民の回収へ・・・」

「ならばこの身を砕いて駆けるまで――!」

「わはははは!そう言うことなら此処に一人、制覇に定評のあるカルデア所属のファラオがいるわけだがなぁ?」

「貴方は――」


悲哀の終焉――輝け、理想なりし聖剣よ

サーヴァント戦、ひいては戦闘行為において『情報』とは絶対的な価値を持つ

 

 

如何な大英雄であろうとも、弱点を知られれば無力であり

 

 

如何な大軍、如何な軍勢であろうとも、背後に迂回されたり、間隙を突かれれば脆弱である

 

 

アキレウスのアキレス腱然り、ジークフリートの背中然り、黄金聖闘士の一度見た技しかり

 

 

『対処される』『手の内を知らされる』という事は――千の武力を放たれるよりも致命的かつ、厄介な『毒』である

 

一度回った『既知』という毒に、最早対処は叶わない。祝福であろうと、何であろうと

 

それは――『反転』していようとも防ぎようがない毒なのだ

 

何故ならそれは太古より伝わりし『真理』であるからだ

 

真理は球体である。どこをどう見ようと、反転等あり得ない

 

 

故に――迂闊に進撃し『既知』の毒を盛られた騎士、トリスタンに――

 

「こんな、事が――!」

 

万に一つも、勝利は有り得ぬのである――!

 

 

 

「くたばりやがれトリ野郎ォオ――――!!」

 

モードレッドが息をもつかせぬ連続技、獰猛な剣にてトリスタンの体勢を常に脅かし、突き崩す

 

乱雑ながら、魔力放出にて補佐されし一撃は、乱雑故に的確に急所を狙いに来る斬撃であり、回避し損なえば甚大なダメージは確実である

 

「前々から思ってたんだ!テメェの嘆き節は鬱陶しくてしかたねぇんだってなぁ!!」

 

「ぐっ――!!」

 

モードレッドが渾身の力にてトリスタンの脚を踏み、『その上から深々とクラレントを突き刺す』

 

「その優男面、グシャグシャにしてやるよ!!」

 

身動きがとれなくなったトリスタンに、『不貞隠しの兜』を装着し、渾身の頭突きを食らわせまくるモードレッド

 

「がっ、がはっ!ぐあっ――!!」

 

防御は叶わない。『両腕を常にアルトリアが狙っているからだ』

 

「貴方は指一本あらば事を為す居眠り豚!『反撃以外に奏でさせはしません』!」

 

防御に回せば、その瞬間に防御ごと叩き斬られる。ならば、反撃に回すしかないのだが――

 

「無論――とうの昔に見切っているのですが!」

 

苦し紛れに奏でた刃は、軽々と容易く叩き落とされる

 

此処に来て、『反転』が脚を引っ張った。今の彼は『セイバーこそが弱点』と化しているのである。モードレッドの攻撃に霊基を揺るがされ放つ苦し紛れの一撃など、アルトリアの剣技には容易い風でしかない

 

「オラァ!!オラァ!!オラァ!!」

 

顔面を執拗に叩きつけられ、美男子の顔が台無しに潰れていくトリスタン

 

「ぬぅ、ぬぅうぅう――!!」

 

悔し紛れ、いや、最善手として『マスター』を狙おうとも

 

「マシュ、目を閉じなさい。見ようとしているうちは彼の弓矢は見切れない。風を見、音を聴くのです」

 

「はい、騎士王!」

 

騎士王の冷静かつ的確なアドバイスにて、悉くを盾にて防がれ、阻まれ、マスターに届く前に叩き落とされる

 

ギャラハッドの名を知ったことによる自覚と決意、行ってきた肉体改造に依り、マシュは今、ほぼ完全なコンディションと言っても過言ではなかった

 

そして、マシュは何かを護るときにこそ最大の力を発揮する

 

『マスターを守護する』その戦いに専念しているマシュの護りを崩すことは、けして叶わぬのである

 

 

――そして、此処に例外が存在した

 

ここに在りしマスターは、唯のマスターに非ず

 

 

【すうっ――――】

 

対話の怪物にして、必要悪より産まれし人類悪を担うもの

 

人類最後の希望にして、敵対者を慈悲なく叩き潰す【最悪】のマスター、藤丸リッカなのである――!

 

 

【――――⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛――!!!!!⬛⬛⬛⬛⬛⬛――――!!!!!!】

 

 

リッカは人間の声量を遥かに越えた力で叫び、辺り一帯の空気を『震わせた』

 

世界を震わし、聴くものの心をへし折る【邪龍】の咆哮。ドラゴンブレスの理論『喉と肺を異界化させる』という荒業を泥を魔力変換させ、器官を強化し再現する

 

単純な【咆哮】にて【狂騒】。しかしその怒号は、『大気』と『空気』、それを震わす『音』と『真空』を掌握する

 

あまりの大音量に声すら聴けぬ有り様ではあるが――マスターとサーヴァント、そして『英雄王』の支援にて完全に連携を果たす

 

――耳栓、聴覚保護の原典は選別してあります!皆に既に射出し、耳をカバーしました!

 

《あまりに喧しい事よ。杯が割れんばかりでは無いか》

 

財『防音』の原典により邪龍の咆哮を完全に遮断

 

(皆、今だよ!畳み掛けて!)

 

マスターとサーヴァントの念話にて、こちらはコミュニケーション、意思疏通を果たす

 

「ぐっ、ぬぅっ、――っ!」

 

原始的な本能に訴える『音』を聞き、身が竦み上がるトリスタン

 

再現されし『竜種』に迫らんとする凄まじい絶叫は、まともに聴く生物の自由を奪う

 

同時に――『フェイルノート』の琴すらもでたらめに爪弾かれてしまい、本来の威力、勢いとは見る影もないほどに弱体化してしまっている

 

(これほど、これほど迄に封殺されるなど――!)

 

固有結界の内部に引きずり込まれ、撤退、離脱すら叶わない

 

よしんば離脱が叶うとしても――上空に在る『王』の財、『姫』の眼からはけして逃れられない

 

背中から撃ち殺されるだろう

 

――かつて民達にそうしたように

 

今や万事休す。まともな抵抗すら叶わない

 

――かつて民がそのように殺されたように

 

このまま待つのは『死』のみ

 

――かつて彼が、そうしてきたように

 

「こんな、こんな―――わた、私が・・・!『何も出来ず』散るなど・・・!」

 

 

運命は、此処に追い付いた

 

悪辣なる騎士に――『黒き帆を張りし黄金の船』が迫り来るのである――!

 

「テメェのやらかしは全部ファラオサマから聞いた!畜生に落ちたテメェらに話すことは何もねぇ!!」

 

「モード、レッド・・・!」

 

雷をたぎらせ、モードレッドが吠える

 

「馬鹿な選択をしたテメェらを、オレを含めて赦さねぇ!どんな理由があろうともだ!理性を顕し、規律を示し、民どもの光になるのが騎士の在り方!そいつを騎士が破っちまうことの意味はなぁ――死ぬより重いんだよ!!」

 

クラレントを引き抜き、肩から胴体に目掛け――

 

騎士達(オレたち)が『騎士道(ミチ)』を見失っちまったら!騎士達(オレたち)が獣に堕ちちまったら!オレ達の背中を見て希望を懐いた奴等の希望は何処に行くっつうんだよ!!オレは認めねぇ!獅子王を、テメェらを!!獣になったテメェらなんぞ――」

 

真名解放。モードレッドの叫びに、クラレントが呼応する――!

 

「認めてたまるかよッ!!消し炭になりやがれトリ野郎擬き!!『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』ッッッ!!!!」

 

真紅の稲妻を懐いたクラレントが、トリスタンの肉体を砕き散らし引き裂き、吹き飛ばす

 

 

「――よう、やく・・・離れてくださいましたね――」

 

吹き飛ばされながら、トリスタンは笑う

 

「せめて、かのマスターだけでも――!」

 

せめての望みと共に宝具を開帳――

 

 

「いいえ、もう貴方は何も爪弾くことはありません。何故なら此処で切り捨てられるからです!」

 

吹き飛ばされた勢いよりも尚早く、迅速に『魔力放出』のブーストで追い付くアルトリアが宣告する

 

「後世の恨み辛みをこの一刀に!具体的には捨て台詞のツケを叩き付けてやりましょう!切り飛ばしですがね!!」

 

白黒の聖剣を振りかざし

 

「――――人の心は解らなかったけど人の営みの尊さは知ってたよカリバーーーーーーーッッッ!!!!」

 

X字に、トリスタンを切り裂き――悲しみを爪弾く両腕を切り飛ばす――!

 

遠くに吹き飛ぶ右腕、左腕

 

悲しみの子の生命線は、今此処に絶たれる――

 

 

「――これが、私の――」

 

末期の言葉は、――赦されなかった 

 

――彼が、民達の命乞いに、けして耳を貸さなかったように

 

『突き立て、喰らえ。十三の牙』

 

その因果を精算せよと騎士王は告げる

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

 

十三拘束を解き放たれしロンゴミニアドが巻き起こす世界を砕く嵐。巻き起こる白銀の暴風がトリスタンを浚い、固定し、空中に磔にする

 

 

「トリスタン。その身、祝福もろとも私が討つ」

 

騎士王の宣告に応え、ゆっくりと抜刀され、掲げられる聖剣

 

「――眠るがいい。罪人として、獣として狂い果てた円卓の総ては、余さず私達が裁く。――獅子の円卓、女神の槍は――我等が砕くのだ」

 

光が集まり、伸び、屹立し、黄金の巨大なりし刀身と化す。

 

その偉容は天を穿ち、雲を割り、星空を貫く

 

――綺麗・・・

 

星の大気すら貫通し、さながら星に立つ塔がごとき偉容

 

(これが、白き巨人を退けた聖剣、かぁ・・・)

 

桁違いの出力。巨大さにして1㎞。巨人すら致命傷は避けられぬ理想なりし幻想の結晶

 

《人の身に過ぎた輝き。やがて持ち主すらも焼き尽くす穢れなき光。――まさに地上の星よ。些か、担い手にズレがあるのが惜しいがな》

 

ヴィマーナより、朝日がごとき目映さに目を細める三人

 

願いにより打たれ、理想により磨かれ、星の内海にて鍛え、高貴なる幻想となり、聖剣の頂点に位置する神造兵装

 

「束ねるは星の息吹。輝ける生命の奔流。――さらば、トリスタン卿。悲観的に過ぎたが――貴方の奏でる音は、円卓の中でも並ぶものの無い美しさだった」

 

――その言葉を聞いて、トリスタンが何を感じ、何を想ったかは語られることはない

 

余りの悲劇に目を潰し、愛するものを手に掛け、悲しみにて十全にて指が動かず

 

それでも――忠誠に殉じ、『己』の全てを反転させてまで王に仕えた一人の騎士の物語は、此処で終わる

 

――ただ、一つだけ。一つだけ言葉にするならば、何かを、残すことがあるならば

 

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』」

 

膨大にして巨大なる、聖剣の極光に呑まれしトリスタンの浮かべていた表情である

 

モードレッドの鎧に穿たれ、砕かれ、見る影もなく腫れ上がった痛ましいその風貌、その(かんばせ)

 

怒りではない

 

憎悪ではない

 

まして――悲しみでもない

 

彼は『本当に、愉快なものを見た』と言わんばかりに

 

まるで、悪辣と非道を繰り返した騎士の最期に立ち会う衆生のように

 

心から、愉快げに――笑い

 

大瀑布がごとき光の熱量に――呑み込まれ。跡形もなく・・・消え去ったのである

 

 

 

――悲しみのトリスタンは、此処に討ち果たされた

 

悪辣と非道の連鎖は、此処に――輝きにて断罪され、裁ち切られたのである

 

 

 

「――」

 

やがて、世界が在るべき姿に戻り、景色が元に戻る

 

 

「――バカ野郎が。獅子王だかなんだか知らねぇが、カルデアに来る前に絶望なんかしやがって」

 

べッ、と唾を吐くモードレッド

 

「あばよ。清々したぜ」

 

 

「アーチャーは犯罪者として処分します。そこに例外はありません」

 

ブン、と剣を振り払い、収めるアルトリア

 

「貴方の敗因はたった一つです。たった一つのシンプルの答え。『貴方は私を曇らせた』。――安心してください。貴方を寂しくはさせません。獅子王の円卓は皆、仲良く切り捨て、晒し首にしてあげますから」

 

にっこりと、爽やかに笑う。円卓粛清リストが埋まり、御満悦である

 

 

「――ギャラハッドさんが言っているような気がします。・・・『悲しみの終わりは、近い』と」

 

「――うん。必ず、この特異点を乗り越えよう」

 

空を見上げ、決意を新たにする二人

 

 

こうして、『反転』のギフトは討ち果たされた

 

 

残る祝福は――『不夜』『暴走』『凄烈』

 

 

――勝利の余韻に浸る暇なく

 

 

「離別式は終わったか?中々に見応えのある蹂躙であった。ヤツも心残りは無かろうよ」

 

「ギル!」

 

「さぁ、乗るがいい。前哨戦は完遂した。――此処より先が、正念場となろうよ」

 

――一同は、嘆きの壁、王城正門へと向かう

 

 

――其処には『不夜』が待ち受ける




(大丈夫かい?エア?)


――ありがとう、フォウ。・・・大丈夫、とは断言できないのが悔しいけれど・・・

(・・・辛ければ・・・)

――ううん、止めないよ。どんな辛いことも、怖いことも・・・震えはしても、観ないことだけはしない

(――・・・)

――世界の総てを見たい。知りたい。それがワタシの『愉悦』だから・・・怖くても、恐ろしくても。目をそらさず、逃げ出さず、立ち向かわなくちゃ

《――――》

震えながらでも、『観た』なら・・・きっと、覆せる何か、変えられる何かがある筈だから

(・・・そうだ。そうだね。その通りだ)

――行きましょう。王!『聖抜』の地へ!

何が待っていようとも・・・ワタシは、目をそらさない!それがワタシの『英雄姫』としての戦いです!

《――うむ。お前の決意、闘志。それが招く結果。我が全霊を以て見届けてやろう!》


――フォウ、手を握っていてくれる?

(エア・・・?)

・・・ワタシに・・・勇気を分けて・・・!


(・・・もちろんだとも!)

魂にピッタリと寄り添うフォウ

(さぁ、ボクをもふっておちつくんだ!)

――うん!


《――・・・常日頃からそうではあるが。我も万に一つたりとて・・・下手を打つ訳には行かなくなったようだな。――全く。王に万全しか認めぬなど、まこと苛烈な姫もいたものよな――》

「まじゅ、のどぁめもっでない・・・?」

「先輩のお声が――!?」



【生者を狂わせし鐘の音が知らせるは天命か、道標か。――悪を抱く龍なりし娘よ。堕落なく進むがいい】


【――この剣を託すに相応しき縁を、願わくば汝の道筋が結ばん事を。総ては晩鐘の導きにて、霊廟に導かれん――】



聖都・荒野

「――此処は・・・僕は、招かれたのか」

「――聖なる都・・・さて、僕の役割は、あるか否か・・・君は、いるのだろうか?・・・ラーメス」


難民キャンプ

「――・・・」


「ラーメス?」


「――いや、まさか・・・な」

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