人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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縋り付いて涙する女の子がいた。

もう流す涙がないくらいに、涙の跡が顔に出来るくらいに。

その子の心と、魂が涙していた。

理不尽に貶められ。

理不尽に地獄に落とされ。

当たり前の愛すら奪われて。

全てを諦め、自分の全てを諦めたつもりでも。

彼女の心は、彼女の魂は。

ずっとずっと、泣いていた。


慈悲と怒りの目醒め

『ぁ………あぅ……』

 

エンシェント・デイと睨み合うカルデア、そして精霊たち。あまりにも巨大なる天の遣いの問いかけの先にいるのは、零光。

 

彼女こそはアイン・ソフ・オウル。神が造り、神が齎した無限動力機関にして、世界に存在しないはずの無限のエネルギー。人が未だかつて到達できない、世界にとっての全てのエネルギー問題を解決する可能性すら有するもの。

 

零光は自身の肉体と、サタナエルという枷を有された存在である。それにより、彼女は無限の力を封じられあらゆる時空を放浪する事となった。

 

それが今、天に還れる資格を得た。天に還れる手段が眼の前にある。エンシェント・デイは彼女を迎えに来たのだ。天の世界へと、再び彼女を招くために。

 

「何を勝手な事を!私達は知っているのだぞ!お前が神と崇める悍ましい外道の事を!」

 

『───』

 

「天から追放し、今の今まで放逐していたのはお前達だろう!それなのに何を今更恩着せがましい事を言う!卑劣にして破廉恥な輩め、恥を知れ!!」

 

十香が激し、戦闘態勢にて剣を突きつけ零光を庇い立てる。彼女は正義と義憤に燃える精霊、甘言などに耳を貸すことはない。

 

「───。この世界が、あなたを見捨て、利用しようとしたのは紛れもない事実ですわ」

 

それに対し、あくまで中立の立場で言葉を投げかけるのは狂三。庇いながらも、彼女に判断を促す。

 

「もう既に、この世界にあなたの決断に異を唱える資格はありません。ですので、気兼ねなく判断を為さってください」

 

『!』

 

「その上で…、私達と道を同じくしていただけるのなら、それに勝る喜びはありませんわ。短くとも……」

 

共に、出逢えた精霊同士ではありませんの。狂三は笑顔と共に、零光の判断を促した。

 

『愚かなり。お前という輝きに縋る浅ましい生命の戯言に耳を貸す必要はない』

 

『ぁ……』

 

『お前という輝きは、天に在りて輝くものである。地を這い、愚かなる世界を目の当たりにしてそれが理解できただろう』

 

エンシェント・デイは告げる。神を騙る者の真意を。

 

『それこそが、神がお前にもたらした試練である。神はただ、お前に強く正しく育つ機会を齎すためにお前を放逐した。それは紛れもなき、お前への慈悲である』

 

「何処までも戯言を!!」

「当たり前に与えられる無償の愛を奪っておきながら!」

 

『子は親の思うままに育つことが使命である。お前は、神の齎すままに成長し、育つ事が求められ、事実私はそれを見守っていた』

 

「!」

 

『お前をずっと見ていたのだ。お前という存在が、世界に触れて成長する様を。それは神の意志である。それは、神の慈悲である』

 

エンシェント・デイは、告げた。

 

『神は、お前を愛していたのだ』

 

『───愛し、ていた……』

 

…その時、零光の記憶が蘇る。

 

遠く、遠く、遥かなる昔の原初の記憶──。

 

 

 

アイン・ソフ・オウル。確かに私はお前に光を齎す使命を与えた。

 

しかし、お前を生み出したのは使命を果たしてほしいからではない。

 

この美しい世界に、ただお前を迎え入れたかった。

 

世界と共に生きる光であり、またお前も世界を感じる事のできる命であってほしかったのだ。

 

お前は私の、私の生み出した光である。

 

私が生み出した、輝かしき命である。

 

ありがとう、アイン・ソフ・オウル。

 

生まれてきてくれて、ありがとう。

 

お前が世界が照らすと同じ様に。

 

世界がお前を、愛さん事を心より願う。

 

私は、お前を愛しているよ。

 

それはお前が全てを愛する光だからではない。

 

お前が、お前であるから。

 

愛しきお前であるから、愛しているのだ──。

 

 

『────違う』

 

瞬間、その場に、世界に輝く光が如き声が響いた。

 

『………?』

 

『違う…!お前のは、愛なんかじゃない!お前のは、慈悲なんかじゃない!!』

 

それは、零光の声。白痴と愚昧の中にいた彼女が発した…

 

『お前が!お前なんかが!あの優しい御方の慈悲を語るな───!!』

 

燃え滾るような、憤懣の感情であった。

 

「零光!?」

「あなた……」

 

『何が慈悲だ、何が愛だ!本当に助けて欲しい人の願いを無視し続けたくせに!ただの一度も、声すらかけなかったくせに!!』

 

『……………』

 

『私よりずっと小さい女の子だった!誰も助けてくれなかったから、誰も寄り添ってあげなかったから、私達という死が救いとまで言った!言わせてしまった!!慈悲を語るなら、愛を語るなら何であの子を助けなかった!!なんで!!』

 

『───救われる側には資格がいる。救われる側には覚悟がいる。それがあり、初めて神の愛は』

 

『資格!?愛!?ふざけるな!!助けてもらいたい側が考えるのはいつだって『私を早く助けて』だ!!愛と救いに、条件なんてあるわけない!あるならそんなものは愛じゃない!あの御方がくれた愛はそんなものじゃないっ!!』

 

零光の情緒は加速度的に進化していく。その痴愚は、偽神の洗脳と干渉による価値観の汚染の対策であり、自己防衛本能であった。

 

『サタナエルだって本当は、あの御方の左にいるべき人だった!それをあいつは、無理矢理貶めて、私を人質にして追い出した!ルシファーの系譜は『いずれ神を継ぐもの』としてある存在!あいつには都合が悪いから!』

 

『─────』

 

『あの御方は、宇宙の向こうから皆を見守るつもりだったんだ……!宇宙と一つになって、全ての命がちゃんと命を駆け抜けられるように!命の進化を邪魔しないように!それを殺した!あいつが!あいつが殺したんだ!!そして成り代わった!そんな資格もないくせにっ!!』

 

『貴様──天の主を涜神せしめるか』

 

『何が神だ!自分の事ばかり考えて、自分は表舞台に出ようともしない卑怯者!力だけ立派で、誰かを妬み、嫉んで、貶める事しか出来ない恥知らず!神の座に縋り付くしか出来ないケダモノのくせに!!』

 

『─────!!』

 

『勘違いするなっ!!立派なのはあの御方が遺してくれた遺産だ!あの御方が遺してくれた偉大なる世界だ!あの御方が生み出した、今を生きている遍く全ての命だ!お前なんかちっとも凄くない!お前なんか、誰も必要としていない!!』

 

彼女は泣いていた。もう二度と還らない、優しく、大きく、輝かしい在りし日の父の記憶が蘇っていた。

 

もう、記憶にしかいない父の。大いなる愛を穢す輩への、狂おしい怒りに満ちていた。

 

『この世に無用なものはお前だけだ!!因果地平の全てから!未来永劫に消え失せろおっ────!!!!!』

 

同時に、零光の身体が輝く。強く、眩しく、煌めきを齎す輝き。

 

『アイン・ソフ・オウル………覚醒したというのか…!』

 

瞬間、満ちた輝きは瞬く間に世界を覆う。それは、神が齎した真なる光。

 

傷ついた万物、喪われた命。特異点における全ての悪しき事象、起きてしまった悲劇と理不尽が、光に照らされ在るべき姿に復元されていく。

 

「これは───」

 

「傷ついた都市が、治っている──」

 

───全ての事象を、最良の結果へと齎す。

 

死者蘇生、過去改変、事象編纂、進化への発展。

 

それら全てを可能とする、無尽無辺の光にして輝き。

 

それこそが、アイン・ソフ・オウルの持つ権能。

 

かつての神は、自身の力や威光に微塵も頓着していなかった。

 

優しすぎるが故に、自身より強く輝かしいものすら作り上げた。

 

それの一つが、アイン・ソフ・オウル。世界の全てを照らし、あらゆる悲劇を照らして癒やす至高の光。

 

それは、真化を果たし愛する命から永遠に離れてしまうことを寂しがった大いなる父の…

 

愛する魂達に捧ぐ、変わらぬ不変の愛の証。

 

逆説的に……。

 

【自分しか愛せない】という自尊の獣の、全てを否定する証であった。




零光「はぁ、はぁ、はぁ…!」

十香「よく言ったっ!そうだ、あんな奴ら、話し合うことすら馬鹿馬鹿しい!」

狂三「愛は決して欺けはしない。普遍に変わらない愛情。それが、証明されましたわね」

エンシェント・デイ『神にそぐわぬ光。神の手を離れる光』

零光『!』

エンシェント・デイ『抹消する。神の意に在らぬ者は不要なり。神にそぐわぬ者は無用なり』

十香「やらせるかっ!!」

エンシェント・デイ『消え───、!!』

瞬間、黒き死がエンシェント・デイを穿つ。

サタナエル【───成ったな、零光】
零光『サタナエル…!』

サタナエル【お前こそ、神の慈悲を知る者だ。これよりも、お前を護りつづけよう】

リッカ「皆──!」

そして、集う。

「デートの締め、はじめよっか!」

デートのクライマックスを担う者達が。
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