人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
レアルカリア魔術学院
ラニ「レアルカリア魔術学院。ここは輝石の魔術を研磨する者共の総本山。星の在り方、星見の志を始まりとした場所であった。…権力闘争、裏切り、派閥間の諍いにより、蔓延るのは魔術師もどきばかりだがな」
ロマン『この世界の魔術の始まりは星見、だったんだね。カルデアの意味を考えると運命を感じるなぁ』
ラニ「…。我が母レナラは、レアルカリアを魅了し統治した満月の女王であった。卓越した魔術の腕前、異なる種族とも手を取り合う友誼と手腕。まさに、魔術と星を統べる美しき満月そのものだったのだ」
レン「そして、英雄ラダゴンと結ばれ…傑物たるラダーン、ライカード、そして神人の君を産んだんだね」
ラニ「あぁ。…だが、今は…」
ラスティ「………」
ラニ「…寄り道などは後でいい。今より学院の全てを眠らせる。速やかに母に会ってくれ」
リッカ「そんなこと出来るの!?」
ラニ「今は、特別だ。…いいな?私の王」
ラスティ「もちろんだ。オレが皆を大書庫へ導こう」
レン「ラニ…」
ラニ「…レン。魔術を嗜むのなら…必ず、母レナラの粋は目の当たりにするのだ」
レン「もちろん。大いに参考にさせてもらうからね」
ヘラクレス「魔術、魔術」
ルゥ「えくすぺくと!ぱとろーなーむ!」
「───あぁ、皆。何処に行ってしまったのかしら。眠ってしまったのかしら?隠れてしまっているのかしら?」
神たるラニが、魔術学院の全てを眠らせた事によりリッカ達は即座にレナラの下へ至ることが出来た。玉座でなく、王の間でなく、大書庫へと幽閉されている事の真意を一同は理解することとなる。
「怖がらなくていいのよ。ちゃんと、きちんと産んであげるから。いい子に産んであげるから。だからほら、出ておいで。怖がらないで、出ておいで…」
そこにいたのは、かつて美麗なる満月の魔術で全てを魅了せし女王たる威厳の欠片も感じられぬ、琥珀を愛子のように抱いた大柄の女性。愛おしげな我が子を撫でるように、琥珀を大切に抱き寄せ譫言のように愛を囁き続ける女性の姿。
「この御方が、満月の女王…レナラ様…?」
マシュの声音には動揺と困惑が含まれる。数多の肖像画、偉大なる逸話。それら全てに当てはまらぬ、虚ろなる姿を見た故だ。
「……心が、壊れてしまっているのだな」
ヘラクレスの言葉に、ラニはうなずく。そしてラスティの肩に小さき人形として乗り、ラスティと共に歩み寄る。
「異なる時空故、もしや…と期待していた。だが、変わらず…心は壊れてしまっていたのだな…」
「………」
静かに、ラスティはレナラに跪く。
「あら…?あなたは、誰かしら…?」
レナラはラスティに、そっと手を伸ばし頭を撫でた。
「もしかして、産まれ直しに来てくれたのかしら…?私から、産まれてくれるのかしら…?」
「産まれ直し…?」
「大丈夫。怖がらなくてもいいのよ。きっといい娘に産んであげるわ…。大丈夫だから…」
跪くラスティの頭を、ラニの宿る人形を優しく撫で続ける。二人が誰か分からないままに。娘であるラニが解らないままに。
「…………っ…!」
リッカは思わず、目を背けてしまう。それはあまりにも、あまりにも残酷な光景であったからだ。
親が愛する子を忘れてしまう。子が愛する親に自らと理解してもらえない。それはどれほど惨たらしい現実であろうか。
ラニは母を、何よりも誇りに思っていた。カルデアにおいても、紙芝居においても、レナラの事を自慢の母と言外と言内に多分に含めていたのだ。
そんな彼女が、自らを忘れたまま、壊れたままに自らを他人と接する事へのラニの心中、そして新たに紡がれた親と同じ事が起きたと共感したのならば。
リッカは、目を背けずにはいられなかった。引き裂かれた親子の絆。それより痛む傷など彼女は知らぬが故に。
「…それでも、彼女は誇り高き満月の女王な事に変わりはないはずだろう」
レンはリッカの背中を擦り、言葉を紡ぐ。
「心が壊れてしまったからといって、彼女の功績や生き様が全て消え去った訳じゃない。何の報いもない生き恥を晒させるなんて、君達がするわけない筈だしね」
ラニは、その言葉とリッカは労りに頷き、俯きながら答える。
「……あぁ、そうだ。大ルーンは此処にある。まずは、これを持っていけ」
ラニはラスティの肩より、琥珀から大ルーンを抜き取り一同に授ける。
それはかつて、産まれることの無かったデミゴッドの大ルーン。レナラが耽りし禁断の秘術『産まれ直し』を完全なものとする。
「母の力と、その大ルーンがあれば。自らが望む理想の姿、理想の生命、理想の魂に産まれ直す事が出来る。それが、大ルーンの恩恵なのだ」
「産まれ直す…新たなる自分に…」
「サーヴァントの受肉も容易かろう。……しかし、リッカ。お前には不要なものだろう?」
この様な、安き逃げになど。その言葉にリッカは、力強くうなずいた。
「本来ならば、大ルーンを手に入れた以上もうここに用はない。母の泥濘の眠りを妨げぬよう、静かにここを立ち去るのみだが……」
ラニは静かに、ラスティの頬に手を置いた。それを受けた彼は立ち上がり、一同に告げる。
「此処には、ラニが義母レナラを護る為に、彼女が義母レナラの全盛を再現した魔術がかけられている。…これは、ラニの王としての願いになる」
それこそは、伴侶たる彼女の願いであるがゆえに。
「どうか、かつての義母の全盛の姿と戦ってほしい。満月の女王レナラの、気高き夜の在り方を皆に知ってほしいんだ」
全く戦う意義はない。大ルーンは手にし、ただ去ればそれで用は済む。しかし、それではレナラの名誉と尊厳はカルデアには過去の話となるであろう。
「母は、貴き方であったのだと。眩い月であったのだと。どうかお前達にも、知ってほしいと感じてしまったのだ」
その願いは、まさに母への愛の発露。
母のかつての姿を、真価を、真髄を知ってほしい。
壊れ、狂い、永劫を過ごす哀れな女であったとは思われてほしくない。
神でありながら、何一つ大切な想いを捨てることの無かった一人の乙女たる…
当たり前の、孝行娘の願い。そしてそれに、ラスティは王たるを捨て真摯にリッカに、カルデア一行にそれを願ったのだ。
「うん、もちろん」
誰に相談することもなく、迷う事もなく。リッカはラニとラスティの願いに即断を返した。
「私も、ラニのお母さんのカッコいいところ見てみたいし!」
「リッカ……」
「うんうん。旅は道連れ世は情け容赦無しっていうからねぇ」
ルゥもまた、拒否する理由など無かった。人は愚か神すらもおらず、原初の混沌とビッグバンより生きている祖龍にとって、この願いを叶えるなど造作もない。
「私も問題はない。女性には手を挙げたくないのでマシュのサポートに回らせてもらうが」
「お任せください、ラニさん!ラニさんの願い、私達が受け止めます!」
仲間たちも、正しくラニの願いを受け取らんと頷いた。
「魔術を扱うものとして、まずは満月の女王の全盛期に大いに興味を持ってはいる」
「レン…」
そして、レンもまたラニの願いを肯定する。
「でも、魔術師である以前に私は、私達は旅人だ。仲間の提案には、快く受け止め受け入れる。きっと──」
「………」
「きっと、勇者であるならばそうするってこと。リッカたちカルデアの旅路は、勇者の道行きといって差し支えないだろう?」
ラニの言葉に、レンはウィンクを返した。それがきっと、正しい選択だと信じて。
『魔術なら、ボクも力になれるよ。せっかくだからとびきりのスーパーママを再現しようじゃないか!』
「………感謝する。その軽薄さと優しさに」
『軽薄さ!?』
「────嬉しいよ。私の王の仲間たちが、お前たちで良かった」
ラニは、一同に感謝を示した。
「〜…」
照れを言外に残らせる伴侶の姿に、微笑みながら王はそっと彼女を撫でる。
これより始まるは、伝説への挑戦。
カーリア王家の頂点の栄光を、刻む戦いであった。
ラニ「では、行くぞ。準備はいいな」
一同「「「「おう!!」」」」
レン「緊張するな…魔術師の頂点に挑むのだから」
ルゥ「大丈夫だよ〜。私達なら大丈夫」
レン「…そうだね。これは、私の望んだ戦いでもある」
ラニ「────では、暫し眠れ。我が母よ」
ラニの手で、レナラは眠りに落ちる。
そして現れしは──。
────運命は、我が月と共に。
魔女ラニの名において告げる。
王の仲間たちよ。
どうか語り継いでほしい。
カーリア最後の女王、満月のレナラの…
気高い夜の有り様を。
満月の女王、レナラ『──────』
カーリアの王笏を構え、水の足場と満月の満ちる空間に現れし…
かつての母の姿、そのものであった。