人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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──ラニ、ラニ。こっちよ、こっち。

手を繋いで、離れたら駄目よ。


ほら、見てご覧。

満月に、暗い月。私とラニ、二人の月よ。

ラニ、これからあなたはどんな道を往くのかしら。

それがどんなに、暗く険しい道だとしても…

お母さんは応援しているわ。

あなたは私の、可愛い娘ですもの。

私のラニ。可愛いらしく、小さい月よ。

迷わず、あなたの道をお往きなさい。

信じているわ。

愛しているわ───。


満月の女王

『───さぁ、いらっしゃい』

 

3メートル50センチの巨体、最高の知性にのみ与えられるというカーリアの王笏を握りし、全盛期の満月の女王レナラ。かつて在りし日、ラニの目と魂に焼き付いた輝ける母の姿たる存在が、リッカ達の前に立ち塞がる。

 

「!!先輩!!」

 

マシュがリッカの前に立ち、素早く盾を構え立ち塞がる。

 

「ロード・カルデアス!!」

 

概念強度は低いものの、即座に自身で解放できるロード・カルデアスを自己判断で展開したマシュ。それは、守護者の直感が為せた判断。

 

『─────!』

 

レナラは王笏に、宇宙を駆け抜ける蒼き彗星の奔流を束ねた。それは輝石の源流、大彗星の溢れ出る奔流の具現。

 

『『彗星アズール』』

 

放たれし、リッカ達の世界の『魔法使い』の火力に匹敵するほどの魔力の大奔流。戦力の中核たるリッカに向けて、その一撃は放たれた。人など、即座に消え去る程の破滅の彗星。

 

「くうっ!あああぁぁぁぁっ!!!」

 

マシュの全身全霊の守護。しかし、咄嗟の防護で魔術師の女王の一撃は防げるものではなかった。

 

「ああああ───っ!!」

「マシュ!!」

 

なんと、ロード・カルデアスが『砕かれた』。それはマシュの宝具の中で即席のものである故、アヴァロンやキャメロットに比べれば脆い。

 

しかし、確かにマシュの防御は今…破られたのだ。それこそが魔術の頂点たる所以をまざまざと示す証明とばかりに。

 

「なんてことだ…!あの一撃の魔力、魔術師が一生かけても捻出できるものじゃないだろうに…!」

 

レンが即座にフォローに回る。即席の杖にて、輝石の礫と夜の彗星を交互に放ち魔術を使った弾幕を展開する。

 

『星の輝きよ』

 

しかし、それは全ての魔術師、全ての星を束ね治める女王たるレナラにとって児戯にも等しい攻撃として処理される。

 

「なっ…!」

 

放たれる結晶片、輝石の流星。流星群。輝石の彗星。それら一つ一つが最高峰の、遍く魔術師が習得を目指しては叶わず死んでいく至極の魔術。それら全てを、レナラは杖から、星から、空から無数に降り注がせ振るう神業を見せつける。

 

(量だけじゃない…!全く系統が異なる魔術を完全同時に完璧に操ってみせる…!)

 

『─────』

 

(千年魔法に生きたエルフでもここまでの領域に、果たして辿り着けるものか?それ程に彼女は魔術師として、神域にいる…!)

 

レンは決して非才でも鈍石でもない。むしろ、比類なき才能を有する天才の域だ。

 

故に理解する。レナラのいる領域は、天才でしか入口に立てぬ極みと深淵の、遥か彼方である。魔術師たる存在は、彼女を見上げることしか許されない。

 

(満月の女王…。その名に偽りなし、だね…)

 

「ボーっとしてちゃダメー!」

 

その美しいまでの魔術の腕前に、戦うことすら忘れたレンを素早くルゥが庇い距離を取る。

 

「上には上がいるなんて当たり前でしょー!人間みたいに挑戦して上回ればいいだけだよ〜!」

「気軽に言ってくれるなあ〜……」

 

「なら、接近戦で!!」

 

リッカは即座に刀を抜き、高速の抜刀術でレナラの懐に潜り込む。レナラは完璧なる魔術師。完璧すぎる故に、護身用の武器や刃、魔術剣士の魔術は使用していないのだ。

 

「懐に潜りさえすれば、魔術師には有利に立ち回れる!」

 

そう、それは鉄則にてセオリーである。圧倒的な魔術の腕を持つ相手であるならば、そこに活路を見出すであろう。

 

『─────』

 

しかし、月の魔術の女王にとって。そんな剣士の悪足掻きなど万を越える対処を行った経験を有していたことこそがリッカの誤算であった。

 

「!!?………………!?」

 

リッカは、一瞬何が起きたかすら把握に時間がかかった。叩きつけた斬撃が、一閃が、何かに阻まれた事に把握が遅れた。

 

それは、レナラの魔術杖たる『カーリアの王笏』。最高峰の知恵にのみ許されるそれが、なんとレナラの手を離れ童子切安綱の一撃を完全に防いでいたのだ。リッカの、頼光の武錬の斬撃を。

 

『回れ、回れ』

 

そしてそれは、高速回転しレナラの周囲を守護する武具と変わる。

 

「くっ!っ───!!」

 

信じ難い事に、懐に潜り込み防戦一方になったのはリッカの方だった。カーリア王家に伝わる伝統的な護身術。魔力による杖の回転攻撃は、リッカの武芸を以てしてようやく捌ききれる程に研ぎ澄まされていたのだ。

 

『───』

 

瞬間、リッカの刀が腕ごと跳ね上げられる。胴体ががら空きになった、致命的な隙。

 

「!!!」

 

迫りくる杖。殺られる──。リッカの本能がそう告げたその時。

 

「やらせぬ」

 

ヘラクレスが杖をハルバードにて弾き返し、リッカを護る。吹き飛ばされた杖は回転し、穏やかにレナラの手に収まる。

 

「誓うとしよう、黄金樹に」

 

高々と掲げ、戦技『黄金樹に誓って』を発動。防御と攻撃を高め、堂々たるリッカの鎧となる。

 

「強い。強すぎるほどに…」

 

メディアすら上回り、大魔女キルケーに届かんとする程の洗練された魔術。護身術にてリッカの上手を行く程の対応力。

 

その強さは、ヘラクレスの顔に戦士の緊張を張らせるには十分すぎるものであったのだ。

 

『旧き盟約よ』

 

レナラは即座に杖を突き立てた。それは、カーリア王家が有した旧き盟約の起動。

 

『『『『グルルル……』』』』

『□□□□□』

『ウォオォオォオォオォオ!!』

 

霊体として召喚されし、四体のオオカミ。言語を放たぬ猟犬騎士。そして旧き盟友、トロルの騎士。

 

「エクスペクトパトローナムまで使えるのぉ!?」

 

『『『『『グルルルルァァァ!!』』』』』

『ウォオォオォオォオォオォオ!!』

 

「ひぃい〜〜!なんだか私だけ狙ってくるぅ〜!?たすけてぇ〜!」

 

その強大さを本能で感じ取ったのか、霊体はルゥを総出で追いかけ、行動を封殺する。ルゥのサポートが、丸々封じられた形となったのだ。

 

『…………』

 

レナラは身体を丸め、魔力を練る。それこそは、カーリアがレアルカリアを魅了した真髄たる魔術。

 

『我が月よ、此処に』

 

その身に宿せし、満月。レナラが見出した、空に浮かぶ月そのものを魔術としたもの。

 

『対城宝具クラスの魔力が込められているわ!直撃は避けなさい!』

 

オルガマリーの指示が飛ぶと同時に、一同は一つの場所へ早急に集った。

 

「『今は遥か理想の城』────!!」

 

そのカーリアの象徴を防ぎ得る、カルデアの象徴たる守護に。

 

着弾、大爆発、魔力の大奔流。マシュの周囲以外の空間が、遍く魔力に晒され吹き飛ばされる。

 

「はぁ、はぁ……!」

 

マシュは、キャメロットはそれを受けきった。その満月の齎す光から、一行を守り抜いた。

 

『…………』

 

しかし、レナラの魔力に枯渇や翳りは微塵も見られない。泰然と、静謐に、その姿を誇る。

 

そして…

 

『来たれ、竜よ』

 

杖を突き立て、レナラはそれを呼び寄せる。

 

『グオォオァアァアァアァア!!』

 

巨大なる竜。盟約の竜。カーリアに忠誠を誓った、飛竜の霊体。

 

自らの隔絶した腕前。

 

近接戦にすら穴がない、全距離の対応力。

 

数多の種族と友誼と盟約を結ぶ慈悲深さ。

 

それこそが、かつて黄金と戦いし月の王家の女王。

 

『────』

 

カルデアの面々は、疑いなく彼女を評価するだろう。

 

時計塔のロードすらも上回るであろう、神域の魔術師。

 

神代において、覇を築き上げた至高の魔術。

 

魔術王ソロモンにすら比肩するであろう、空に浮かぶ満月。

 

満月の女王、レナラ。

 

狭間の地における、マリカと並ぶ比類なき女王であると。




レン「…凄いや」

リッカ「レン?」

レン「まさか生きているうちに、魔術や魔法の頂点を目の当たりにできるだなんて」

リッカ「…もしかして、ワクワクしてる?」

レン「うん、きっとそうだ。私の目の前には、私が修める道の頂点がいる。これが…高揚なんだね」

ラニ『レン。魔術師たるエルフよ』

レン「!」

ラニ『存分に母の業は見せた。ならば、次はお前に受け継いでほしい。我が母の技を』

レン「…いいのかな?門外不出じゃないのかな」

ラニ『よいのだ。母の魔術で、母の力で、仲間たちを助けてやってくれ』

レナラ『………』

レン「…!」

『(にこり)』

ラニ『きっと、母も喜ぶ』

レン「…………。解った」

レンは、立ち上がった。

レン「満月の魔術…レナラ氏の魔術…。王の旅路に寄り添わせてみせるよ」

リッカ達を助ける、指巫女の魔術師として。

自らの、旅の理由を果たす為に。
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