人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
なぜ、自分は導かれていたのか。
正直なところ、何もわからなかった。
だけど、一つわかるのは。
自分が、とてつもない後悔をした…していたということ。
知らなくちゃならない。そうとすら思っていたこと。
その為に、自分は旅を始めたんだと思い出したんだ。
途方に暮れていた私を、祝福は導いた。
この旅路の果てに、私の知りたいことの答えがあるはず。
だから進んでいこう。この杖に誓って。
人を知る旅を。
人を、助ける旅を。
「ここは…」
夜空と満月は去り、一同は戻ってきた。レアルカリアの大書庫へ。先の激戦は、一同が再現した月の幻影であったが故に。
『…皆。感謝する。よくぞ、私のわがままに付き合ってくれたな』
人形のラニが浮かび上がり、皆に礼を行う。カルデアの皆に、確かに示されたのだ。満月の女王が、誇らしき英雄であることが。
「こちらも感謝だよ。魔術や魔法を扱う者として垂涎の時間だった。凄かった。本当に…凄かったよ」
カーリアの王笏を握るレンは理解している。最高の腕前を持つ存在の術が、どれほど素晴らしいものかを。エルフの寿命を以てして長すぎる星々の輝きを垣間見たことに、深い感謝を示した。
『その杖は母のものだ、大切に扱ってくれ。指巫女としての使命を全うする力にするがよい』
「あぁ。これより素晴らしい杖は無いだろう。心を込めてお借りするよ」
こうして、魔術を継承するための戦いは終わった。大ルーンも手にし、後は去るのみであるが…。
『怖がらなくてもいいのよ、あなたたち』
まだ、向き合わなくてはならない存在は此処にいる。壊れた心のレナラだ。
『きっといい子に産んであげるわ…』
先の戦いも、レナラは認識できていたかは定かではない。彼女にとっては、夢以上の価値は無いのかもしれない。
「なんとかしてあげたいな…あんなに凄い人だって解っちゃったら…」
ルゥの意見に皆が頷く。彼女を、このままにはしておけないと。
「だが、彼女の心を壊したのは夫ラダゴンの裏切りだ。はたして私達の干渉で癒える傷であるのだろうか」
ヘラクレスの懸念に皆は俯く。心という器は、壊れやすく決して壊れる完全なる前には戻りはしないものだ。
「せめて、彼女とラダゴンさんの間にあった時間が間違いでなかった事を示すものさえあればよいのですが…」
マシュの言葉に、頷いたのはラスティだ。
「──それならある。確かに、ラダゴンが義母レナラを愛していたであろう証のものが」
『私の王…』
「オレが狭間の地を旅していたのは、義母の傷を癒せないかという目論見もあった。その旅路にて、見出したものがある」
そうしてラスティは、懐から一つの武器を取り出した。それは、光り輝くエルデンリングを模した大剣。
「わぁ…綺麗…」
「黄金律の大剣。王配ラダゴンが、黄金律原理主義の象徴として鍛え上げた聖剣。伝説の武器に数えられる狭間の地の秘宝の一振り…」
これを観てほしい。そうしてラスティは片手に常に携えしラニから贈られた、暗月の大剣を掲げ両手に剣を構える。
『暗月の大剣は、歴代カーリア女王がその伴侶に贈る剣でな。今の剣は私が我が王に贈ったものだ』
「その通り。そして…この黄金律の大剣こそ、ラダゴンと義母レナラの運命が偽りでなかったことの証なんだ。二つの剣を、良く見てほしい」
ラスティが掲げる剣の共通点。ルゥが声を上げる。
「似てるー!二つの剣、同じ鋳型みたいな感じかな?」
「うむ。黄金律の大剣の方は、暗月の大剣の面影を確かに宿しているな」
ヘラクレスの補足に、ラスティは頷いた。
「そうなんだ。かつて義母レナラもまた、この月の大剣をラダゴンへと贈ったんだ。その一件を踏まえることで、この剣は二人の愛の証明となるに相応しいものになるんだよ」
「…マリカの所に行ったあとも、ラダゴンはレナラさんに想いを寄せていて、その大剣はレナラさんを想い鍛え上げた…ってことかな…?」
リッカの推察を受け、ラスティはリッカに黄金律の大剣をそっと手渡す。
「見せてあげてほしい。義母レナラの心に、僅かなりとも救いとなる事を願いながら」
「……うん!」
リッカはその剣と、ラスティの真意を受け取りそっとレナラに近付く。その大剣を、レナラに捧げ示す。
「レナラさん。この剣は、ラダゴンが自分の手で打ったものだそうです」
『………あら…』
「この剣に込められた想いを、感じて見てください。それはきっと、レナラさんへの……」
リッカから剣を受け取ったレナラは、黄金律の大剣を暫しじっと見つめていた。長い間、その剣を見つめ、微動だにしなかった。
『あぁ………』
そして数分が経った後、レナラは愛しげにその大剣を抱き寄せた。
『ラダゴン…。あなたは私を、裏切ったわけでも…謀った訳でもなかったのね…』
「レナラさん…」
『あぁ、あなた。この剣はね、似ているの。かつて私が、彼に贈った大剣に……満月の大剣に……』
〜
あの人は喜んでくれたのよ。
この剣を、生涯の相棒とするとまで言ってくれたの。
そうだったわ。思い出したの。
私達が結ばれたあの日から過ごした時間は、幸せなものだった。
あの日、愛を誓い合ったその瞬間からの時間は、過ちでも…間違いでもなかった。
どうして行ってしまったのかと、何もかもが嘘であったのかと私は深くその別離を嘆いた。
そんなことは無かったのね。私達には、確かに共に過ごした意味があった。
私には、子供たちに琥珀。あなたには、私達家族との未練。
嘘では無かったのね、ラダゴン。
私達の愛は、互いへの気持ちは…
嘘では、無かったのね。
貴方は、私を…
私達を、愛してくれていたのね…。
〜
『───ラダゴン。解ったわ。あなたの想いが』
レナラはそっと琥珀を撫で、顔を上げる。
『あなたもきちんと、私達を愛してくれていたのね…』
そして、リッカ達の前のレナラは一同へと言葉を発する事となる。
『ありがとう、あなたたち。私達のかつてが、嘘や間違いで無いことを教えてくれて』
『………母よ、私が解るのか?』
『えぇ、勿論よ。ラニ…。見つけることが出来たのね。自分だけの王を』
レナラはもう、虚ろなる妄言を話していた存在ではなかった。ゆっくりと、彼女は立ち上がる。
『長い夢を、悪い夢を見ていたのね。何もかもが嘘であったのだと絶望する必要は、もうなくなったわ』
『………!』
『素敵な道を、選んだのね。私の知るラニとはちょっと違うようだけど…それでも、本当に良かったわ』
レナラの言葉に、ラニは静かに俯いた。それは、彼女が二度目に垣間見た母の目覚め。
心の壊れを乗り越えんと立ち上がった、気高き母の有り様そのものであったからだ。
『皆、エルデンリングを求めて旅をしている途中なのね?世界を元に戻す為の、遥かな旅を』
「はい!ラスティさんやラニ様の力も借りて、私達はいつかエルデンリングへとたどり着いてみせます!」
レナラは頷き、リッカ達に告げる。
『それなら、ここで色んな魔術を学んでいくとよいわ。学院の建て直しと解錠は、私がやっておくから』
「いいんですか!?」
『えぇ。教わりたい教室の魔術があったのであれば、教えてあげる。だから、会いにいらっしゃい。素敵な事を思い出させてくれたから、御礼をさせてもらうわね』
先の惚けた有り様はそこにはなく、ラダゴンの思い出が込められた琥珀を抱く、かつての女王がそこにいた。
『あなた達の旅の無事を、ここで祈っているわ。魔術を学びたいのなら、是非いらっしゃいね』
「…レナラ様、この杖は…」
レンがカーリアの王笏をおずおずと示すと、レナラは微笑んだ。
『えぇ、存分に使ってちょうだい。あなたならきっと扱える。叡智に尖った、耳の貴女』
「!」
『この旅で、知りたいことや忘れてしまった自分にきっと出会える。信じて…暗き夜を皆で進みなさい。きっと、大丈夫だから』
レナラの言葉は、レンの中の僅かなる不安を静かに取り去った。
いつか、忘れた気持ちや知りたいことに出会える。この旅の果てに。
「……ありがとう。偉大なる月の女王。満月の女傑、レナラ様」
レンは深く跪き、彼女への敬意を示す。
僅かなりとも、心を取り戻した…。
偉大なる、満月の師に。
リッカ「じゃあレアルカリアを拠点に、リエーニエを探索してみよっか!」
ルゥ「異議なーし!野宿は早くもおさらばだね〜」
ヘラクレス「ハイマの筋肉魔術教室…学び極める準備はできている」
一同は和やかな空気をレナラと共有する。
『あなた。そう、ラニのあなた』
「…!」
『ラニをどうか、よろしくお願いね』
「──勿論です。どの狭間でも関係ない。偉大なる義母、レナラ」
この後、レナラのメンタルケアも含めカルデアはレアルカリアを
拠点とする事になる。
カルデアは手に入れたのだ。
魔術の学院と……
比類なき、魔術師の頂点たる存在を。その彼女は…
レナラ『悲しませないようにね…』
ラスティ「勿論です…!」
偉大なる、魔術師の師を。