人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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『なぁ、父上』


「なんですか、モードレッド」

『・・・なんで、オレに王位を譲らなかったんだよ。恨みや、憎しみじゃないならなんで・・・』

「・・・そうですね。伝えるべきでした」

『・・・』

「あなたは『王になること』しか考えなかった。王位とは手に入れる事が終わりではない、むしろ玉座に就いてからこそ始まるもの。国を治めるもの。――王になることばかりで『どの様に国を治める』のかをまるで考えてはいなかった。――かのブリテンは、自らを癒し、救う王を求めていた。己の威信と力、出生と立場をを頼りにするばかりの貴方には、王たる責務を背負う自覚がなかったのだ。だからこそ――私は貴方を拒絶したのだ」

『・・・・・・』

「もう一つは・・・『貴方は、人の営みの価値』を理解していなかった。・・・それは、貴方だけの問題ではない。私の・・・限界でもある」

『――だから、ベディの野郎を重用したんだな』

「――今更告げても歴史は変わらず、私達の溝は埋らない。だが――円滑な連携程度は、望んでも構わない筈だ」

『・・・おう。父上・・・ありがとな。話してくれて』

「貴方の嘆きなど知りません。私は人の心が解らない王ですから。ですが・・・まぁ、意固地になるのも、程々にしておかねば」

『――おう!だけど父上・・・寝首に気を付けろよな!』

「受けて立ちます。遠慮なく反逆なさい。大手を振って処刑します」


「フッ、有り得ざる第二の生だからこそ、夢を垣間見る・・・か。しかし奴等の治世、我では一日と保たんだろうな」 

(半日保ったら語り継いでやるよ)

――ブリテン・・・あ、そういえばマーリンさんがキャスパリーグってフォウを呼んでいたような?

(実はボクの芸名なんだ。フォウ=キャスパリーグ!カッコよくない?)

――あ、じゃあワタシはエア=レメゲトンになるのかな?

(やっぱなし!芸名無し!エアはエアのままで、ね!)

――う、うん!

《さて、魔神王が与えた銘・・・どのような因果を紡ぐやら》



ビーストネット


「我が偉業!!!!!!!」

「王子様まだ――――!?」



ネット『バビロニア』


『・・・出番が、ありません、ように・・・』

『お母様・・・?』


死を告げる天使、対話の龍の対峙

侵入者、生物を拒む山々。高き山は雲にすら届かんとする、美しくも厳しき自然の具現

 

 

 

天空は何処までも青、そして雲の白が広がる。凄まじい風圧が絶えず鎧を打ち付け、風切り音が耳を穿つ

 

 

【うひゃー・・・!さむーい!】

 

龍騎に乗り、天空を駆け抜けるリッカが所感を漏らす。誰一人おらぬ孤高の行軍。天を舞う邪龍と天馬

 

 

自らの生命を、漆黒の鎧が守護し保護する。一度でも解除してしまえば気圧、空気の問題で高山病待ったなし、凍死確定の極限環境だ

 

 

ふと下を見ると、漆黒の奈落が大口を開けてこちらを招かんとしている様が垣間見える。どれもが生存をけして許さぬありのままの自然の姿。人が、生命が存在を許されぬ極限なりし自然の偉容

 

誰が信じるだろうか。熟練の登山家ですら生命を落とさんと覚悟を決めるであろうこの峰の群れに・・・

 

【あっちだよ、龍騎!聴こえる!だんだん近づいてきてる!】

 

ただの少女が、天空を駆け抜け、挑み、踏破している、等という与太話を――

 

 

泥を魔力に変換し、己の生存を確保する。肉体を強化し、環境に適応し、死を乗り越える

 

 

気温と気圧の変化に対応するため表面に泥を生成し続ける。凍り付き、役目を果たさなくなった泥を押し上げ破棄しながら、次々と泥を生成し鎧に変換し続ける

 

それを龍騎にも同じように施す。翼で羽ばたくよりも安定性と機能性を確保する為に、馬の形に精製した泥の天馬

 

(騎馬なんてやったことはないけど――なんだかできそうな気がする!)

 

母上の真似事、とリッカは言ったが・・・事実、此は母上たる頼光・・・いや

 

 

【はい。母は何時でも貴女の助けとなります・・・そう、何時でも・・・】

 

リッカの深層に潜む神性『丑御前』の助力が働いているのだ。武芸に関する技は、全て母たる頼光の加護と庇護を受けている

 

出立の際、母に声を掛けていたのが功を奏した。その言葉にて丑御前は目を覚まし、リッカも気付かぬままに母の愛を受けているのである

 

 

【よーし!どんどんいこう!龍騎!行こう!風の如く!ハイヨー!】

 

 

リッカは駆ける。己の耳に届く鐘の音――

 

 

穏やかながら荘厳な、耳に届くその晩鐘の導きに従い、ただ進む

 

 

リッカは、感じていた。『呼んでいる』と

 

自らを呼んでいる、招いている

 

警告なのか、歓待なのか、それとも告死なのか?それは解らない

 

解らないが――解ることはただ一つ

 

 

(誰かが私を呼んでいる!それだけは、確か!)

 

 

誰かが私を待っている

 

誰かが私を見つめている

 

ならば行く、ならば駆ける

 

誰かが私を呼んでいるなら、私はただそれに応えたい

 

例え何が待っていようとも

 

例え、死地が待っていようとも

 

 

私は私の生き方を貫くためにただ走る

 

 

手綱を握る手に力を込めて、龍騎を走らせる

 

 

私は、私であることから逃げないために、私を呼ぶ誰かと『対話』しよう

 

 

【――!見えた!あそこ!】

 

リッカは見定める。山々の間、陽を拒み、一際強く輝く・・・漆黒の空間を見定める

 

【――っ】

 

鐘の音が荘厳により強く響き渡る。肌が粟立ち、心臓が早鐘のように鼓動を打つ

 

カラカラになった喉に、唾を飲み込み、龍騎を強く走らせる

 

【あそこに、何かがいる――母上、皆。――必ず戻るから!】

 

覚悟と決意を奮い立たせ、天馬を駆け抜けさせる

 

山の間、あらゆる意味で死角となる『其処』に、一息に滑り込む

 

 

【――はっ!】

 

手綱を繰り、龍騎をぶつけぬよう神業にて操りながら山々の間を潜り抜ける

 

繊細な手綱捌きで龍騎を駆り、硬い山肌のすれすれを怒濤のように駆け抜ける

 

 

【――!!】

 

目の前の山肌が『突如狭まる』。しかし人一人がギリギリ突破できるかどうかの間隙を認め、リッカは即座に行動する

 

【――はっ!!】

 

龍騎の背中に直立し、踏み台にし身体一つで『跳躍』する

 

【――っっっ!!】

 

勢いのまま、翼を展開。身体を余すことなく包み込み『ドリルのように身体を変化させ』、身体を間隙に捩り込む

 

【龍騎!!】

 

龍騎の身体を構成する泥を強化にあて、硬い山肌を『穿ち』、回転し削り飛ばす

 

 

【はぁあぁぁあっ!!!】

 

そして――突き破る。僅かな隙間を抉じ開け、突破し

 

【――っづぅうぅっ!!】

 

脚と左手の爪と掌をブレーキがわりに食い込ませ、ギャリギャリと火花を散らし勢いを殺し速度を減速させていく

 

【――セーフ・・・】

 

何を壊すこともなく、激突することもなく己の生存を掴み取り、身体を起こすリッカ

 

【――・・・】

 

 

辺りを見回す――そして、即座に上を見上げる

 

 

 

――鐘が、鳴り響いている

 

 

もはや耳にではない。目の前の『廟』荘厳かつ冷厳な建造物の、頭上。天空によりその音を鳴らしている

 

【――静か・・・】

 

リッカが所感を漏らす。鐘の音以外、呼吸の一つすら見受けられぬ、感じられぬ、痛みを感じると錯覚する無音

 

余りに静寂、余りに無繆。其処に、『生』は一つも見受けられはしなかった。生物、植物。あらゆる生命は戦き、戦慄し、その場所にはけして近寄ろうとしないからである

 

――鐘が、鳴り響いている

 

此処は山の民、山の翁達に伝わる伝説の場所。此処には脚を踏み入れるものは無い。いるはずもない

 

何故なら――此処には【死】しか在らぬからだ

 

 

山の民は此処に至ることはもとより、近寄ることすら愚にもつかぬ行いだと考える

 

山の翁、当代のハサンが此処に至る事の意味、それは懺悔と告発、そして『死』を授かると同義

 

 

――自らに『山の翁』の資格無し――

 

そう告げるに等しき愚行、そして、それを裁く者が此処には在らん

 

【――!】

 

霊廟の扉が、厳かに開く

 

【死】が、顕れる。それは、その偉容と威厳はそう形容するに相応しきものだった

 

リッカの身体はいよいよ以て警告を最大限に発揮する。喉はカラカラになり、下着はぐっしょりと濡れ、手足の震えは尋常ではないほどに高まる

 

 

【――怯えるな、対話の龍。世界を救わんと吼える龍よ。汝の奮闘、敢闘を我が剣は認めている】

 

目の前の【死】が言葉を響き渡らせる。ガシャリ、と踏みしめられる大地が悲鳴を上げ、大気が震え、天が嘆く

 

 

【我に名は無い――が、我が晩鐘を聞きながら堕落せず、恐怖せず、単身にてこの廟に脚を踏み入れし龍には――名乗らねばなるまい】

 

顕れし【死】そのもの。あらゆる者に平等に、安寧と救済をもたらす『死を告げる天使』

 

右手に握られし【剣】。左手に握られし漆黒の盾

 

 

其処に在りしは、【暗殺者】の極致にして、頂点。――【冠位】を賜りし、死そのもの

 

 

――原初の母すら、その存在に戦き嘆くであろう、暗殺者の原典にして、頂点――

 

 

【我が名、ハサン・サッバーハ。あらゆる生者に死を馳走せし、【冠位】を戴く暗殺者也――】

 

ハサンを殺せしハサン。『山の翁』が・・・その姿を、リッカの眼前に晒したのである――

 

 

【――・・・】

 

リッカの身体の反応に対して、精神は平静、かつ、穏やかだった

 

 

覚えがある。この総身を感じる感覚には、覚えがある

 

 

あらゆる生命や希望を放棄し、諦め、手放しているような感覚

 

 

懐かしい、とすら思った。――此は、久しく忘れていた感覚

 

・・・中学にてグドーシに出逢う前の・・・あらゆる事を諦め、日々を生きてきた感覚にそっくりなのだ

 

だからこそ、だからこそ。リッカは言葉を紡ぐことができた

 

【――貴方が、私を呼んでいたのですか?】

 

リッカの言葉に、威厳を形にしたような声音が返答する

 

【晩鐘は汝の天命を見定めていた。人類が産み出せし悪でありながら、人類を護らんとするその矛盾に問いを投げ掛けていた。――晩鐘は警鐘となり、また汝を導いた】

 

彼は言う。天命は定まらねど、汝を査定していた、と

 

人でありながら龍となり、その総てを未来のために振るわんとする者の在り方を、存在の真偽を見極めていたと

 

 

鐘が鳴り響いている。リッカの頭上に、光を注ぐ

 

【龍よ。晩鐘は汝を導いた。故に――我は問わねばならぬ。そして、この廟に脚を踏み入れし者、例外なく死なねばならぬ】

 

ガシャリ、と。【山の翁】が宣告する

 

【証を示すがいい。汝が真実、世界を、未来を望まんとする者である在り方を。我が総てを以て、汝の魂、汝の運命を見届けん――】

 

山の翁の言葉は冷たくも、真摯であった。そこに偽り、虚飾は欠片もない

 

『お前がお前である証を示せ』と、目の前の存在は言った

 

 

――震えが、止まる

 

【――はい!】

 

なんだ、それなら・・・ずっと前からやってきた事だ

 

「――ふうっ」

 

鎧を解除し、マント、盾、弓、そして・・・

 

 

「母上、待ってて」

 

己の半身、安綱をゆっくりと置き、決死の表情で歩み寄る

 

――ずっとやってきた事。私が私であること

 

 

一歩一歩、確かに踏みしめ、やがて【山の翁】の目の前にて停止する

 

 

――断崖絶壁、一歩踏み出せば奈落へ落下せんとする状況、命綱すら付けず突き落とされんとするようなその喪失感と恐怖をねじ伏せ、リッカは息を吸う

 

 

――なんてことはない。それをまた、やればいいのだから

 

そして、告げる。自分が何者なのか

 

自分が――どんな人間なのか・・・その在り方を、己のみで示す――!

 

 

「――私は藤丸リッカ!マスター番号48番!好きな事はコミュニケーションと、サブカルチャー全般!嫌いなものは先入観!座右の銘は――」

 

 

リッカの言霊が廟を揺らす。天命の鐘をかきけさんばかりに響き渡る

 

「『意思があるなら、神様とだって仲良くなる』です!!もしお時間よろしければ、私が此処に来るまでの半生をお話ししたいのですが宜しいでしょうか!」

 

【――――良い。汝の生、我が前にて示すがいい】

 

武装を解除し、丸腰にて自らに挑んだ少女に瞠目しながらも、目を細め対話を促す

 

 

「ありがとうございます!えっと、じゃあ――」

 

リッカは、話始めた。己の半生を

 

 

父と母のコピーとして産み出された事、その期待には応えられなかったこと

 

父と母を失望させ、生きてきたこと。中学校にて、あらゆる迫害を受けたこと

 

生の感覚が稀薄になった時にグドーシと出逢ったこと。かけがえのない時間と救いを貰ったこと

 

そうして卒業し、生き方を変えたこと。グドーシが逝ってしまっていたこと。涙を流したこと、泣きわめいたこと

 

グドーシの最後の導きで、カルデアに来たこと。そしてそこから、人理を救うために戦ってきたこと

 

フランスでマシュ、ギルと一緒にランスロットを倒したこと

 

ローマで、親友のオルガマリーの固有結界を初めて見て感嘆したこと

 

オケアノスで、友人を思い出させてくれた偉大な大海賊と縁を結んだこと

 

ロンドンで母と兄を得て、敬愛する英雄王の全身全霊を目の当たりにしたこと

 

 

アメリカで、最高にカッコいい兄貴の姿を魂に焼き付けたこと

 

 

 

そして――自分の大切な相棒にして誇りたる『竜の魔女』。正当なる憤怒の復讐者、鋼鉄の天使と共に、人類悪・・・有り得た自分の可能性を打倒したこと

 

大切な親友、後輩、仲間達。そして――偉大なる王と共に歩む旅路が、今も続いているということ

 

 

「私は必ず、未来を取り戻します!私は、皆のものだった未来を奪った魔術王、・・・ゲーティアを許さない!」

 

【――・・・】

 

山の翁は、ただ目を細め聞いていた

 

魂の総てを懸けて、己の『生』を、『在り方』を示す一人の少女を、穏やかに見つめていた

 

「私は人類悪かもしれないけど、そんなの関係無く、未来を取り戻したい!皆が生きる未来を、明日を、この身の総てを懸けて取り戻したい!」

 

【――其は、汝の意志か】

 

「勿論!私は私のために、皆の未来を取り戻します!世界中が私を待っているから、世界中が私を呼んでいるから!」

 

廟を震わし、リッカは吼える

 

 

「私は藤丸リッカ!憐憫を越えて悪を討ち、いつか必ず、世界を救う乙女です――!!!」

 

そう、宣言し、示したのだ

 

『私は私であり、世界の未来を望むものである』と

 

【――――】

 

一字一句を聞き届けた山の翁が、剣を下ろす

 

 

【――解なりや。汝の魂、確かに見定めた】

 

左手の盾を地に突き刺す

 

「・・・あれ?」

 

ふと、耳にしていた鐘の音が収まり、静まっていることにリッカは気付く

 

【藤丸リッカ。汝の生、確かに晩鐘も認めたようだ。最早、汝の運命を天が違えることはあるまい】

 

目を細め、愉快げに山の翁は告げる

 

【――まさか丸腰にて、敵意ではなく、害意でも、まして生存の意志ですらなく。『己が在り方』一つで天意を黙らせ、我に挑み、疑念を殺すとは。――フ。この山の翁が、正面からの暗殺を赦すことなど、初である】

 

「え、武器で戦うとか挑まれた事あるんですかハサン様」

 

【悠久の過去に、そのような記憶は確かにある。――藤丸リッカ】

 

「は、はいっ!」

 

ぴしり、と姿勢を正すリッカに、山の翁は満足げに告げる

 

 

【よき旅だ、良き思い出だ。――良い、実に良い・・・旅の道筋だ。汝は異教徒でありながら、信ずるに値する者のようだ。――その決して揺らがず、動じず、泰然として在る心こそ――我等、山の翁に必要な物だった・・・】

 

・・・彼は、暗殺者を殺す暗殺者、ハサンを殺すハサン。その破綻した役割に大義をもたらすため、武器は大剣を担ぎ上げた

 

彼は山の翁の堕落を、けして赦さなかった。神に仕えし者が人の欲に堕ち果てる。その罪過を、斬首によって免責、次代の希望と成してきた

 

当代に伝わる山の翁にて、その軛から逃れしものは一人もいなかった。つまり――

 

――精神も、肉体も。皆、人の欲に堕ち、堕落を免れなかったという証左である。故に彼も、幽谷にて、永劫の刻を刻み続けたのである

 

 

・・・彼は、思わずにいられなかったのだ。人類の悪を背負いながら、気高く進む精神と魂が、山の翁に備わっていたならば

 

力に溺れず、欲に溺れず、その務め、生を全うする強さが、山の翁達に備わっていたならば

 

或いは――己が身は『終わることが、できたのではないか』と――

 

【――藤丸リッカよ】

 

その思いのまま、山の翁は告げる

 

「は、はい!」

 

【――汝の旅路に、暗殺者の剣は必要か?】

 

 

息を呑むリッカ

 

「え――それは、つまり・・・」

 

【汝らが求める結末、その助力の一端に・・・我が暗殺術は要るものか、と聞いている】

 

一瞬の空白、そして即座に頷くリッカ

 

「勿論!勿論です!なんかすっごく強そうだし!いや、強い!絶対に強いです!」

 

【――請け負った。ならば我が剣、汝と縁を結び、助力を誓わん】

 

差し出されし剣に、そっと手を重ねるリッカ。信仰が染み付いたその剣から、決意が伝わってくる

 

 

【此処に縁は結ばれた。暗殺の剣、汝らの道筋の助けにならん事を。――願わくば、末永くな】

 

「はい!よろしくお願いいたします!じぃじ!」

 

【――】

 

突拍子もない呼び名に固まる山の翁

 

「あ、・・・不味かったですか?」

 

【――良い。我は無銘。取り決めもなく、望みもない。好きに呼ぶがいい】

 

「器が大きい!!――あ、じゃあじぃじ、一つだけ、いいですか?」

 

リッカがコホン、と声をあげる

 

「――いつか私が、人類悪の力に溺れるような事になったら・・・私の首を、落としてください」

 

深々と、頭を下げる

 

【――・・・】

 

「私は、人間だから・・・いつか、間違えちゃうかもしれない。皆の前に立ちはだかるかもしれない。――堕落してしまうかもしれない。そうなったとき、皆を哀しませるのは嫌だから・・・じぃじ、よろしくお願いいたします」

 

リッカは、覚悟を決めている

 

そして、嘆願したのだ、自らの『介錯』を

 

 

誰かを哀しませる前に、終焉を

 

じぃじになら、任せられる。彼は、死そのものだから

 

 

死は、誰にでも平等だから。――きっと、『獣』に成り果てた私にも、終わりをくれる

 

 

それこそが縁、それこそが絆

 

 

山の翁の助力の代償として・・・リッカは『首』を、差し出したのだ

 

【――請け負った。龍が獣に堕ちし刻、汝の魂、我が剣が解き放とう。――顔を上げよ】

 

顔を上げたリッカの肩に、山の翁は手を置く

 

【――互いに、その様な結末を迎えぬ様、泰然と在らねばなるまい】

 

「うん!もしも、にしては物騒すぎるからね!」

 

目を細める山の翁、笑うリッカ

 

 

【――そして、汝に告げる事がある】

 

同時に、駆け抜けし後輩に助言を告げる

 

 

【龍よ、怒りは良い。決意も良い。だが、汝がけして忘れてはならぬものがある】

 

「忘れては、ならないもの?」

 

穏やかに、山の翁は頷く

 

【――慈悲。力を振るえど、未来を望めど、けして慈悲を忘れてはならぬ。其は、人理焼却を成し遂げた者に対しても同様である】

 

「ゲーティアにも・・・?」

 

【かの者の、人類悪と呼ばれし者達の真意、決意を見通すには不可欠なモノであり、かの者達を真に討ち果たす為に・・・忘れるな、龍よ】

 

・・・リッカは峻巡しながらも、その言葉を噛み締める

 

「――慈悲の心。分かりました、じぃじ。胸に刻みます」

 

【――良い。そして――若き身空には理解が及ばぬかも知れぬが】

 

そっと、山の翁はリッカに手渡す

 

【休息もまた、人生には不可欠。――此を一助せよ】

 

受け取りしは『アル・ブクール』。嗅ぐものに安らぎを与えし香だ

 

「わぁ!ありがとうじぃじ!・・・んん、落ち着いたにおひ」

 

【・・・――招いた手前、此では礼を失しよう。――持っていけ】

 

リッカに、漆黒の外套を手渡す

 

【我が生前、身に纏っていた物である。汝の龍鎧の飾りにするが良かろう】

 

「かっけぇ!!これでブラックゲッター戦法ができるよ!ありがとうじぃじ!」

 

早速武装をフル装備するリッカ

 

【似合う!?じぃじ似合う!?】

 

右手に斬艦刀、左手に月の輝きを宿す弓。両手にガントレット、背中にネメアの龍翼。そして――山の翁の外套を変化させた、血が染み付いたマフラーと、威厳を醸し出すマント

 

更に凶悪に、禍々しく装備されし龍の鎧。山の翁の技巧が染み付いたソレは、リッカに気配遮断と生命総てに対する畏怖を与える

 

 

【――良い】

 

【わぁい!ありがとう、じぃじ!私、此処に来てよかった!】

 

やがて、リッカと山の翁は会合を終え、別れる

 

【龍よ。残された時間は少ない。聖槍が真の姿を取り戻す前に・・・獅子王を打倒せよ】

 

龍騎に乗り、飛び立たんとするリッカを見上げる山の翁

 

【かの砦に、身柄を囚われし愚か者がいる。――汝を助ける毒の華となろう。赴くがよい】

 

「はい!何から何までありがとう!じぃじ!」

 

【――礼を言うのは此方だ。・・・この旅路、この戦いの果てに・・・今度こそ、消えたいものだ。――それこそが、我が望みし『結末』に他ならぬ――】

 

漆黒の軌跡を描き、霊廟から抜け出すリッカの後ろ姿を、山の翁は、いつまでも、見つめていた――




「鐘の音――!?マシュ殿、それは真か!」


「は、はい。鐘の音がするから、行ってくる、と」

「そんな、そんな馬鹿な・・・なぜ、なぜ初代様は彼女に告死を!?」

「告死を・・・告げる?」

「かの鐘の音を聞いたものは生きては帰れぬ!おぉ、何故、何故私のような未熟者ではなく、我等が希望に――」


【ただいまー!】


「あ、先輩!」

「なんと!!リッカ殿、よくぞ無事で―――」


心配かけてごめん!皆!(くびをだせぃ!!)

「ははぁっ――!!」

【え!?】

「ハサンさん!?」

「い、いえ!何故かリッカ殿から、初代様のお声が・・・」



『・・・帰ってきましたね、リッカ。心配はしていませんでしたよ。私の身が保ちませんからね』

『えぇ、えぇ。母は信じていましたよ、リッカ。また一回り頼もしくなって・・・』

「ただいま、二人とも!・・・マリー?」

『通信も繋がらない場所に何をしていたの貴女は――!!!』

「すみませんでした――!!!」

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