人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
(人を知りたい。それが私の願いな事は変わらない)
〜
君と私は同類だ。
君の答えの前に穢らわしい魔物がいたのなら。
君は排除を躊躇うのかね?
〜
レン(…本当の私は、一体どんな人なのだろう。もし、ギデオンと同じ、自身のために冷酷になれる存在だったのなら)
「……私は、人の傍にいるべきなのだろうか。彼女達の旅に一緒にいるべきなのかな…」
レナラ『悩んでいるのね、あなた』
レン「!」
レナラ『それなら、リエーニエのイリス教会にいるトープスという魔術師にお会いなさい』
レン「トープス…」
『きっと、あなたの道標になってくれるわ…』
「……お前さん、亜人なのかい?随分と可憐な見た目をしているから、驚いてしまったよ…」
レンは一度ヘラクレスをリッカの下へと帰還させ、レナラの導きに従いイリス教会へと至った。するとそこには、座り込む禿頭と髭を生やした、穏やかな雰囲気の男がいた。
「あなたが、トープスだね。ここで何を?」
「実は…。あぁ、すまないがその前に、ルーンを恵んでくれんかね。恵んでくれたのなら、少しばかりでも魔術を教えてあげられる。こう見えて、私はレアルカリアの輝石魔術師でもあるんだ…」
レンは頷き、ルーンを彼に恵む。リッカの魔術回路に使った際のあまり、それでも一万ルーンがあるそれをトープスへと渡す。
「あぁ、ありがとう、ありがとう…お前さんはいい人だ…」
「困った人は助ける。そういう旅の連れだからね」
「ますます素晴らしい。私はトープス。約束通り、君に魔術を教えよう…」
トープスはレンに、魔術を教えた。それのどれもが初歩的、かつ簡素なものでありレンにとっては容易いものだが…それでもレンは真摯に学んだ。
(復習にもなる。ついでに、杖でも製作してみよう。そうだなぁ……)
魔術の素養がない人も、気軽に魔術を使えるような杖をレンは製作に着手する。それは天才や秀才のためでなく、非才や凡才の為の杖。彼女は、そういった相手のためのものを目指した。
「おぉ、お前さん魔術杖を作れるのかね…」
「うん。なんだかこういうの、得意だったみたい」
レンとトープスは、しばし魔術の時間を過ごした。そして、全ての魔術を学び終わる頃には日は傾いていた。
「お前さん、すまないね。せっかくルーンを恵んでもらったのに、大した魔術を教えてあげられなくて…」
「ううん。人の学んだ事はどんなことでも真理だよ」
「優しいな、お前さんは…ああ、そうだ。せめてもの替わりに、この地について、私の知る限りを教えようじゃないか」
〜
ここから北に、水面に高く聳える建物が見えるだろう
それが、レアルカリアの学院。輝石の魔術師たちの学び舎だ。
だが、学院はもう、閉ざされて久しい。
破砕戦争において不干渉を貫くために
学院は、王都に向かう東門とこの地に繋がる南門を、共に魔法で封印したのだ。
…そして、その封印は今もまだ残っている。
輝石鍵を持たぬ限り、学院に入ることはできぬのだ。
…ああ、私もそうさ。輝石鍵など、しがない下級魔術師には望むべくもなかった。
封印の時、たまたま学院を離れていたというだけで、私はもう、あの学び舎には戻れぬのだ…。
〜
「トープスは、そこに戻りたいんだね。なら、心配はいらないよ」
「それは、どうしてだい?」
「女王レナラが正気を取り戻した。学院は、かつての英雄を迎え復活した。君に導いてくれたのも、レナラ様なんだよ」
レンの言葉に、トープスは目を見開いた。
「お前さん、本当かね?本当に、レアルカリアは開かれたのかね!?」
「うん。ほら、これはレナラ様から借りているカーリアの王笏だよ。レアルカリアは、再び月を迎えたんだ」
レンの言葉に、トープスは天を仰ぐ。涙を浮かべ、胸に手を当て、
「…おお、おお…!ありがとう、本当にありがとう…!
これでまた、あの学び舎に戻ることができるのか。輝石の魔術を…、星を、また探求することができるのか…!」
「…そんなに喜んでくれるなら、伝えた甲斐があったというものだよ。良かったね、トープス」
その姿から、レンは一つの、当たり前の事を思い浮かべる。
(人は多彩なんだ。一つの観点でこうと決めつけられる事じゃない)
真摯も、誠実も、はたまた狂気も。また一つの人の側面。他者を平然と踏みにじることもあらば、こうして自身が窮していても誰かを助けることのできる親愛も示す。
「うん。私もいい気分転換になったよ」
まだまだ人を識ることは始まったばかり。自身が何者かなど、その後に考えてみればいい。
旅は長いのだ。まだ、答えを焦るような段階じゃない。好きなだけ迷い、好きなだけ悩むといい。
今の自分は巫女。人を導く巫女なのだから。
「ありがとう、可憐なお前さん
厚意に甘えて、レアルカリアの学院に向かわせてもらうよ。
…そしてよければレアルカリアで、私の魔術の開発を手伝ってはくれんかね」
トープスはレンに、意外にもそのような申し出を持ちかけた。自身は、とある魔術を開発し、研究しているのだと。
「私は鈍石だ。魔術の才能など、欠片もない。
それでも、諦められぬ理論がある。生涯をかけて、完成させたい成果がある。それは、私の非力や凡才では総てを捧げても届くかどうかのものなのだ」
「生涯をかけて…」
「私には解る。お前さんには輝く一番星のような才能と、煌めく発想と改良の腕前が備わっている。…本来なら私が、地に頭を擦り付ける立場であるであろう程の」
トープスは、レンの手を握り乞うた。
「お前さんの、溢れんばかりの才を貸しておくれ。完成した魔術はお前さんに託す。お前さんが生み出し、発見した事にしてくれて構わない」
「それじゃあ、あなたには何も残らないんじゃ…」
「いいんだ。私のような非力な凡才、鈍石が何のために生まれ、星の明かりに憧れ、魅せられたのか。それは、自身が名声を掴むためでも、偉大なる魔術師になるためでもない」
「ならば、何故?」
「お前さんや、後に生きる生命の為に…ほんの少しでも、役に立つ何かを残す為なんだよ。だから、私を助けてくれたお前さんと、私の人生の全てを懸けた魔術を作り上げたいんだよ…」
レンは、その願いを聞き及び、静かに納得した。
(人は、そんなに長く生きられない。だからこそ、他者に何かを残そうとする。或いは、知ろうとするんだね)
或いは、苦しみを分かち合い助けてあげようとする。長い命を持たぬからこそ、懸命に命を次に繋げるのだと。
(そうか──人の生きる理由の一つなんだ、これが)
レンは頷き、トープスに了承を返した。
「解った。レアルカリアに行こう、トープス」
「おぉ、お前さん!」
「あなたの生きた証、私が形にしてあげようとも。それはきっと、誰もが驚く発見に繋がる筈さ」
トープスの事を、レンは鈍石や凡才などとは捉えていない。
彼もまた、懸命に生きる人。
それはリッカやマシュと同じ、輝ける命。
それを手助けすることで、得られるものがあるならば。
きっと自分の答えに近付くはずだ。
いまだ思い出せぬ自分の正体。
そして、そんな自分が忘れ得ぬ渇望。
人を知りたいという願い。
人を知るという旅の答えに。
「じゃあ早速向かうとしよう。祝福を伝えばひとっ飛びさ」
「祝福……すまないね、お前さん。私は褪せ人でないから見えんのだよ…」
「あ。……差別されてるのに祝福されてるだなんて。褪せ人は変な立ち位置だね」
そうして、トープスとレンはレアルカリアに帰還する。
「おぉ…!これこそが我が学び舎、魔術学院…!変わらぬままだ…!」
(また泣いてる…)
「おぉ…!これこそが我が教卓、学びの机なのだ…!」
(なんで外にあるんだろう…)
何かするたびに感涙するトープスに若干引きながら、レンはその魔術製作に着手する。
「これは………」
そして、レンは知るであろう。
鈍石と呼ばれたトープスの成し遂げんとする…
一つの偉業の、雛形を。
レン「『魔術の力場』…それを研究していたんだね」
トープス「あぁ。私は輝石の輝きを再現できる才能がない。だからこそ、星々が輝く空間、そこにかかる力場に目をつけたんだ。誰もがそれを、愚かな着眼と笑ったがね」
レン「これが完成したら…魔術を弾く力場が出来るという事か…」
トープス「はは、そうだな。だが、それはあくまで完成したらの話。それに女王の満月のように打ち消せず弾くだけの他愛のない理論だ。それでも…これだけが私の、生涯を懸けた探求なのだ。力を貸しておくれ、私には過ぎたるお前さんよ」
レン「………………」
…レンは、その理論の価値を知り戦慄した。
この理論の恐るべき点。それは、まだこれがトープスが求める魔術の初等にあたるものでしかない事だ。
これがどんどん応用され、洗練されていったのならばどうなるか。
高出力化が果たされれば、逃れ得ぬ運命、神の業すら弾けるようになるであろう。
範囲を増大させれば、街や国を覆う巨大な対魔術防護になるであろう。
持続力の強化を果たされたなら、個人を魔術と祈祷に対して完全に無敵にすることができる。
普遍に普及化されたのならば、魔術を完全に無価値にすらするであろう理論。
魔力を形にして放つ程度で満足する魔術師の隣で、星の流れは宇宙の空間の影響を受けており、宇宙の空間を理解し工夫すれば、星々の流れ全てを把握することができるのではないかという理論を究めている程の視座。
レン「───なんてことだ」
レンが心から敬服するほどに。
トープスの発見は、革新であった。