人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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強く在らねば、生きるが叶わず
誇り在らねば、生きるに能わず


───戦士の理性、アスラ・ルーの兵法書にて───


あらゆる迷いを、払いし嵐

『──────!!!』

 

ヘラクレスと壮絶なる神話の戦いを繰り広げていた嵐の王。圧倒的なる威容を誇り一進一退の攻防を繰り広げていた筈の嵐の王は、突如ヘラクレスから対象を切り替えた。

 

嵐を纏い、突撃を行う軌道にはマスターであるリッカが存在する。猛り狂う嵐を身に纏う巨大な鷹の姿は、まさに今災害となってその力をリッカへと向けられてしまったのだ。

 

「守、らねば…!」

 

だが、その絶望的な光景を前にして立ち上がるものがあった。ネフェリ・ルー…。戦士の末裔たる彼女はリッカの傍らにおり、それを受けて嵐の王よりリッカを護らんと立ち上がったのだ。

 

「この力は、この武力は大切なものこそを護るために…!」

 

叫び、或いは自分に言い聞かせるように双斧を構えリッカに庇い立つネフェリ。目の前にいるものが、圧倒的なる王の暴風だとしても。彼女には違えてはならない誇りがあった。

 

『──────!!!』

 

しかし、王の蹂躙はそのような脆い誓いをいたわるほどの慈悲を宿すことなどあり得なかった。嵐そのものとなった嵐の王は、ネフェリの介入に全く懸念すら示すことなく。

 

「ぐ────あああっ……!!」

 

あっさりと、ネフェリの双斧を叩き壊し辺りの全てを嵐の刃にて切り刻み吹き飛ばす。

 

【ネフェリさん!】

 

リッカが彼女を飛ばされぬよう抱き抑える。辺りは余すことなく削りきられ、まさに王の暴虐の爪痕をこれ以上なく示していた。嵐の王は遥か天空まで飛び去り、また旋回にて嵐を纏い始める。

 

「あやつ、もしや───」

 

ヘラクレスの懸念、そして彼を阻むような嵐の配置。ヘラクレスは嵐の王の真意と目論見を、推し量らんと構えていた。

 

「やはり、私では…何も護れぬのか…っ」

 

手にしていた斧は完膚なきまでに砕け散る。片膝をつき、ネフェリは悲嘆と無力感に打ちのめされた。

 

「しろがね人…今まさに戦う子供すら…っ」

 

ネフェリは、弱者が蹂躙される光景を何度も目の当たりにした。始まりの故郷ですら、虐殺と略奪にて滅びたのだから。

 

世界に弱さがなき姿を。虐げられぬ世界を。それがネフェリの願いであり、それを叶える王の翼になるがネフェリの望みであった。それを作るとしたギデオンを、彼女は信じた。

 

しかし、今は何も無い。信じた義父も、守るべき村も、手にする誇りの斧も砕け散ってしまった。

 

今ここにいるのは、戦士としてすらの誇りすら喪われた女という自責と現実が、再びネフェリの膝を折った。

 

「私は、何も…護れぬのか…」

 

繰り返し、譫言のように呟くネフェリ。完全に、誇りは失われたと。

 

「何も、成し遂げることなど出来ぬのか…」

 

そう、絶望が彼女の心を支配せんとした──

 

【いいえ!そんな事はありません!】

 

その瞬間。ネフェリの前に、仁王立ちするリッカがいた。

 

【ネフェリさんは今、嵐の王の前に立ち塞がりました!どうしてですか!?】

 

「どうして…?」

 

【あの王は規格外のパワー、生きて帰れる保証なんて何処にもないはずでした!それでも、あなたが嵐の王に立ち向かったのはなぜですか!?】

 

リッカはネフェリに、それを問うた。なぜ、勝ち目などないであろう敵を前にして奮い立てたのかを尋ねているのだ。

 

「それは……。今度こそ、私は護らねばならないと…」

 

【はい!私の事、護ろうとしてくれたんですよね!】

 

嵐の王は大きく旋回し、嵐を巻き起こしそれを纏う。最早空にかかる雲が嵐の王の肉体。その威容は高層災害の領域に手をかけんとしていた。

 

【大切な、弱い人々を護りたい!そう考えてくれたから、私を庇ってくれたんですよね!それは絶対、間違いなんかじゃないんです!】

 

「!」

 

【勇気ですよ、ネフェリさん!恐れを知らない、恐れないんじゃなくて!恐れを知っても、それでも立ち向かえる力が、あなたにはあるんです!】

 

リッカは、叫んだ。それこそが、真にネフェリが示したもの。

 

【折れない人なんていません、打ちのめされない存在だってきっっといません!あなたが折れても尚、立ち上がろうとしてくれたように!立ち上がることが出来たのなら!恐怖を知っても、困難に立ち向う事が出来たのなら!】

 

嵐の王の二撃目が来る。天空の暴虐そのものとなった王の姿に、威容に立ち向かいながら、ネフェリに向けて言葉を贈る。

 

【あなたは戦士として、一番大切な物を持っています!だから、どうか、その心にあるものを信じてください!】

 

「………!」

 

【恐れを知りながらも立ち向う力!勇気を!!

 

リッカの言葉と、嵐の王が大いなる旋回を行い突撃を敢行したのは全くの同時だった。

 

「勇気…。恐れを知りながらも、立ち向う力…」

 

ネフェリはその刹那、リッカの言葉を反芻する。

 

嵐の王はまさに孤高の王であり、敵うなど微塵も思わなかった。只人の身でそれを討ち果たすことが出来ぬなどわかりきっていた。

 

人は、神や王を殺すことはできぬ。かつての義父が告げた言葉が去来する。だがそれでもネフェリは、立ち上がり立ち塞がった。勝ち目のない、嵐の化身たる存在へと。

が去来する。だがそれでもネフェリは、立ち上がり立ち塞がった。勝ち目のない、嵐の化身たる存在へと。

 

それは何故か?わかりきっていたその存在の強大さを知りながらも、自身は何故立ち向かわんとしていたのか?

 

それもまた、ネフェリには明白であった。

 

「弱きものを……護るべきものを、護るためだ…!」

 

リッカは強い。恐らく守護など余計な世話だったのだとネフェリは思う。

 

しかし、彼女は戦士の如き人であり、このような戦場にいるべきでない存在であるとネフェリは直感した。戦いながらも、優しき人であるのだと。

 

故に自身は庇った。勝ち目のない強大な敵に、それでも自分は立ち塞がった。

 

それこそは、自らの誓いの原点。弱きものを、戦えぬものを護り抜く。

 

その為に力を有し、その為に王に挑んだ。かつての誓いが、ネフェリを突き動かしたのだ。

 

(あぁ、これこそが──)

 

誓いに伴う王の故。

 

否、戦士たる存在に必要不可欠な心の矜持をもう一度呼び覚ます。

 

それが勝ち目のない戦いであろうとも、決して敵わぬ敵であろうとも。

 

己を見失い、勇気を捨てることなかれ。

 

【!!】

 

リッカの前に、再び立つ一つの影。

 

「───心より感謝する。私に、道を示してくれたお前達に」

 

ネフェリ・ルーは再び立ち上がった。リッカの前に立ち、嵐の王の眼前へと。

 

「戦士に必要なもの。戦士に不可欠なもの。それこそが、私を戦士たらしめる誓いなのだと思い至れた」

 

嵐の王が迫りくる。だが手に武器なくとも、防具がなくとも。もうネフェリが迷うことはなかった。

 

「弱きを助け強きを挫くために、強き力に屈せず抗う…!戦士とは、そう在るべきものなのだと!」

 

がっしりと踏ん張り、その身を呈する。今度こそ、自身は成し遂げる。

 

「強く在らねば、生きるが叶わず!誇りが在らねば、生きるに能わず!!」

 

その誇りを他人任せにしない。自身の誓いのままにそれを果たす。

 

「私は、ネフェリ・ルー……!!」

 

『───────!!』

 

「弱きを護り戦う、戦士だ!!」

 

嵐の猛る最中で、高らかにネフェリは叫ぶ。

 

迫りくる嵐の王。背後には、護るべきリッカ。

 

二度と彼女は折れず、迷うこともなかった。最後まで、最後の最後までその意志を嵐の王へと示した。

 

『────────』

 

「………!!」

 

そしてそれは、嵐の王が彼女という戦士に求めし無二の資格であり、それは嵐の王が認めるに足る、大いなる勇気たる力であった。

 

「ッ!?」

 

嵐の王とネフェリがぶつかり合った瞬間、竜巻と轟音が辺りを支配する。

 

巻き起こるそれに、リッカは今一度強く強く踏ん張る。しかしそれらは、最早誰も傷つけることはなかった。

 

「……嵐の、王………」

 

嵐が収まり、周囲の静寂と共に。ネフェリに託されたものがあった。

 

それは、嵐そのものが具現化した一対の斧。古き嵐そのものたる、神秘の斧。

 

そして──、その斧を鍵として唯一召喚に応じる事を許した古き嵐の王の遺灰。

 

嵐王の古鷹、ヴィル。その誇り高き魂が、ネフェリの手に委ねられていた。




ヘラクレス「かの嵐の王は、我々の目論見も把握していたようだ。よもや一杯食わされるとはな」

ネフェリ「ヘラクレス……身体は大丈夫なのか?」

ヘラクレス「勿論だ。殺したくらいで死んでしまっていては、英雄など名乗れぬのよ」

ネフェリ「フフ、流石だ。…すまない、リッカ。出過ぎた真似をしてしまった」

リッカ「いえいえ!……嵐の王は、あなたを主と認めてくれました。だからどうか、胸を張ってください。あなたは誰の傀儡なんかじゃない…一人の誇り高き戦士なんだって!」

ネフェリ「……本当に、ありがとう。私は君達の、戦士たるを心より誓う。この、嵐の王の遺灰に誓って…」

嵐の王『────』

ルゥ『むむ。……大英雄よ、少女よ。決着は預ける』

ヘラクレス「!」

ルゥ『お前達が王となった暁、精も根も尽き果てる戦いの果てに雌雄を決さん!………だって』

リッカ「〜。少年漫画メンタルだったね、ヘラクレス!」

ヘラクレス「うむ。望むところだ!」

ネフェリ「ふふ、それでこそだ。…改めて、私はお前達の嵐たる戦士、ネフェリ・ルー。戦いあらば呼び出してほしい。嵐の王と共に、お前たちを助けよう」

(……さらば、義父よ。私は、戦士の道を歩みます)

懐で猛る、嵐の昂りと共に告げる義父への別れ。

ネフェリ・ルーは、未来の王たちに仕える嵐となった。


そしてそれは、王たる資格を得たのだ。

嵐の城の王。リムグレイブを治めるに足る、王の資格。

ゴドリックの後継たる、強き領主たる王。

ネフェリ・ルー。

この狭間の地における嵐の王が、誕生した瞬間であった。
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