人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
レン「この辺りらしいんだけど…、あ、いた」
ならず者「………」
マシュ「あの方が、絶妙な塩加減でエビを焼くと噂の御方…!」
レン「まずは話しかけてみよう。おーい」
ならず者「ああん?なんだガキ共、ぶっ殺されてぇのか?」
レン「怖〜…」
マシュ「あなたが、美味しいエビを作り出す褪せ人さんですか?」
ならず者「ああん?……なるほど、わざわざエビを食いたくてオレの所に来たってか。まぁ、確かに茹でたてだからな…」
レン「わくわく」
ならず者「解ったよ。ルーンさえ出すんなら、エビをくれてやるぜ。さすがにタダではやれねぇからな」
レン「やった!さぁ、あるだけおくれ!」
マシュ「いい匂いがしていて、楽しみでした!」
ならず者「…エビ好きに、悪いやつはいねぇ。仲良くやっていこうぜ」
「ん〜、絶妙な塩加減だぁ……」
「ぷりぷりの身が口の中で抜群の噛み応えを提供してくれます!凄く美味しいです〜!」
マシュとレンは、リエーニエに点在する縁を辿るついでに出会ったならず者から茹でエビを買って堪能していた。それは、ヘラクレス達が嵐の王と戦っている際と時系列を同じくする。
「ん、でもこれエビじゃなくてザリガニのような…?」
「美味しいのならそれでもOKです!」
結果は望み通り以上の成果。エビを焼くならず者と出会い、ルーンと引き換えに大量の茹でエビを手に入れた。それにより、ならず者本人とも仲良くなることに成功し万々歳の様子の二人。
「それもそうだね。皆で食べてまた買いに来よう。さて…」
その時だった。ふと、レンが立ち止まる。
「…、もし…そこの御方…、どうか、こちらへ…」
ふと、聞こえてくる声。マシュと警戒し、耳を澄ます。
「もし…、もし…こちらでございます…」
「あっちからだね」
「会話ができる方ならば会ってみましょう!」
二人は頷き合い、声のした方へと歩みを進める。少しすすんだ、屋根付きの小さな建物に、声の主はいた。
「はじめまして。このあたりは、少し肌寒いですね」
緑色の旅衣装を着た、姿勢の悪い少女。お辞儀の角度を保ちながら、丁寧にレンとマシュに声を掛ける。
「私は、主の使いで旅をしていたのですが…ならず者に襲われて、途方に暮れていたのです」
「それは大変だ…」
「見たところケガはないようですが…!」
「はい…ですが、あなたがたにお願いできないでしょうか。ならず者は、大事な首飾りを奪っていきました。それを、取り返してほしいのです」
ならず者に首飾りを奪われた。それを聞いたレンはふむと考える。
「ならず者か…」
「ただ…、彼は、この地に導かれた褪せ人です。同胞と争うことに抵抗があれば、無理にはお願いできませんが…」
マシュにそっと耳打ちし、レンは答える。
「解ったよ。その首飾り、取ってきてみせよう」
自信ありげに告げるレンに、少女は喜びの声を上げる。
「あぁ、ありがとうございます。あなたがたのような方に出会えてよかった。
…ならず者は、この先の空き家で休んでいると思います。どうか、首飾りを取り戻してください」
…ならず者は、この先の空き家で休んでいると思います。
少女の指し示した空き家…
それは、先程エビを買ったならず者がいる場所そのものであった。
〜
「緑色の服の娘の、首飾りを持っているかな?」
「なんだ、あの娘を知っていたのか。…細かいことは言いっこなしだぜ。いつだって、騙される奴が悪いんだ」
…細かいことは言いっこなしだぜ。いつだって、騙される奴が悪いんだ」
ならず者はレンの言葉に肯定を返した。やはり、ならず者とは彼のことを指していたのだ。
「それにしても、変わった娘だったが…まあ、よかったじゃねえか。野垂れ死んでいないのなら」
「実は、首飾りを返してほしいと頼まれていてね。ルーンなら払うから、買い戻させて欲しいんだ」
レンの頼みに、ならず者は僅かに考えこう返した。
「ふむ。いいだろう、持っていきな。もっとも、何の役にも立たねえだろうが…」
もっとも、何の役にも立たねえだろうが…」
ならず者は特に迷うことなく、それを返した。要求したルーンも300と、極めて良心的な値段で。
「ありがとうございました、ならず者さん!ところで、エビを追加注文したいのですが!」
「あぁ、解ったよ。今焼いてやるから待ってな、盾の嬢ちゃん」
再び、三人は鍋を囲んでエビが焼けるのを待つ。
「お前らみたいな、危なっかしい真人間達には言っておいた方がいいだろうな」
そして、ぽつぽつとならず者は語りだした。
この狭間の地における、最も忌むべき存在たるものを。
〜
糞喰いを知ってるか?
気色悪い忌み鎧を纏った、世を呪う狂人を…。
あいつと出会っても、決して近づくんじゃないぞ。
…昔、同じ牢に囚われたことがあるから、分かるんだ。
あいつは、俺みたいな小悪党とは違う、恐ろしい男なんだ。
…あいつは、魂を永遠に呪うために、殺す。
死体を穢し、たっぷりと植え付けるのさ。あいつの呪いを
…俺は、あんなにも吐き気がする光景は、見たことがない。
ただ怖くて、ガキみたいに竦みあがっちまってたよ。
…友が、穢されていたというのに…。
〜
「…穢す。魂を…」
黄金樹は、魂を黄金樹に戻らせ再び生を与える。
しかし、その糞食いの行いは、魂を苗床に呪いを育てる。
そうなれば、もはや死は黄金樹に還ることなく、永遠に呪われたままとなるだろう。
生と再誕のサイクルの黄金律を敷いた狭間の地では、最も忌まわしいもののひとつである事に疑いようは無かった。
「お前さんは、巫女なんだろう?だったらいるのか?祝福の導きが見えてる褪せ人が。俺はもうさっぱりだ」
「全員が見えてるわけじゃないんだ…」
「あぁ。もっとも俺みたいな小悪党が、この地に導かれたこと自体質の悪い冗談みたいなもんだけどよ。もしかしたら、とっくにおかしくなっちまってるんじゃないのかね…あの黄金樹ってやつは」
ならず者は自嘲するように語る。同時に、エビが茹で上がった。
「エビが!エビが茹で上がりましたよ!」
「解った解った、今包んでやる。…気を付けろよ、トンガリ耳の巫女さんよ」
「糞食い、だね。解った。ありがとう、ならず者くん」
「…ビッグ・ボギーだ」
「え?」
「俺の名前だよ。次は、お付きの褪せ人も連れてきな。どうせ褪せ人なんぞ、まともな飯も食えてないだろうからよ」
「…ありがとう。必ず連れてくるよ。ボギー」
「茹でエビさいこー!!」
マシュとレンは、買えるだけのエビを買いビッグ・ボギーの下を後にした…。
〜
「ああ、確かにそれは奪われた首飾りです。ありがとうございます。あなたがたは恩人です」
少女の下に戻り、ついでに茹でエビパーティーを行いつつ、首飾りを彼女へと渡すレンとマシュ。マシュはエビを黙々と食べていた。
「まだ、名乗っていませんでしたね。私はラーヤ、火山館のタニス様に仕えています」
私はラーヤ、火山館のタニス様に仕えています」
「火山館…初めて聞く単語だね」
「はい。火山館は崇高なる英雄が集う場所。そして私は英雄たる褪せ人様を探し館に誘う、招き手です」
ラーヤもエビを食べ、言葉を紡ぐ。
「…あなたがたは強い方です。ただ、戦いに優れるだけでなく、同胞に刃を向けることも厭わぬ、強い心をお持ちです」
同胞に刃を向けることも厭わぬ、強い心をお持ちです」
(あ、殺して奪い取ったと思ってるのかな)
「その強さこそが、我が主が求めるもの。どうか、これをお受け取りください」
そうしてレン達に渡されたのは、一枚の招待状。その館へと招く為のもの。
「英雄たる褪せ人、その巫女様。黄金樹の地、アルター高原をお目指し下さい。祝福に導かれながら、狭間の地の辺縁ばかりをうろつき、彼方の黄金樹をただ見上げるばかり…。貴方のお迎えする方は、そんな凡夫ではありません。それを確かに示したとき、火山館は真に貴方をお招きするでしょう。共に戦い、英雄たる家族として…」
(やっぱり、褪せ人と協力して奪い取ったと思ってるんだ)
ラーヤは告げ、最後に言葉を結ぶ。
「私は、あなたがたを信じています。きっと、英雄たる方であると。またお会いできるのが楽しみですね。次は、褪せ人の御方と是非お話をさせてください」
「解ったよ、ラーヤ。私の仕える者達に、話はつけておく」
「それではまた!お気をつけて!!」
マシュとレンはラーヤと別れ、レアルカリアへと帰還する。
「…おやおやおや。宝物に目が無い亜人の嬢ちゃんもリエーニエに来ていたとはね」
それの一部始終を観ていた、怪しげに笑うスキンヘッドの男。
「あんな嬢ちゃんらが冒涜の道に進むとはゾッとしないが…ま、見守るとするかね」
火山館。英雄の集う館。
その意味するところを、レン達はまだ知らずにいた。
レアルカリア
レン「という訳で、茹でエビを買ってきたよ。ボギー君とも仲良くなった。戦果は上々だろう?」
オルガマリー『こちらも、リッカとロマニがヘラクレスを治癒中よ。生命のストックが治るまで少しかかるわね』
マシュ「ラスティさん、茹でエビをどうぞ!とても美味しいですよ!」
ラスティ「…………………」
マシュ「ラスティさん?」
ラスティ「マシュ、レン。糞食いの話は聞いたね?」
レン「?あぁ、恐ろしい男みたいだね」
ラスティ「ボギーからエビを買ったんだね?」
マシュ「は、はい!」
ラスティ「…解った。エビは美味しくいただこう。アルター高原に行ったら、彼はカニを振る舞ってくれるよ」
「「カニ!?」」
ラスティ「期待していてね。…………」
(…大分タイミングが早まってしまったが…最早、やるしかあるまい)
ラスティの目付きが、これ以上ないほど鋭くなる。
その手には、リッカから渡された傀儡の薬が握られていた。