人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ローデリカ「あぁ、雄々しい褪せ人様。どうか、お聞きください」
ラスティ「…あぁ」
〜
貴方に、お知らせしておきたいことがあります。
少し前に、円卓を挟んだあちら側の奥に、誰かがやってきたようなのです。
…そして、この離れた場所からでも聞こえてくるのです。
呪いを恐れ、嘆き、泣き叫ぶ霊たちの声が。そして、おぞましい狂った呪詛が。
霊体は夥しく多く、その声の途絶えることも無いのです。
想像もできないのです。一体どれだけの人に、どれほどの事が行われたのか。
…あの、接ぎの所業でさえも、こんなことにはならないでしょう
…近付くべきではないと、思います。
たとえ貴方のような、強い人であっても。
〜
ラスティ「大丈夫だ。私がなんとかする」
ローデリカ「褪せ人様…」
ラスティ「リッカ達には、内緒で頼むよ」
ラニ『どうやら、暗き夜を過ごすようだな。私の王』
ラスティ「ラニ…」
ラニ『よい。お前の夜は、私が照らそう』
ラスティ「…ありがとう」
〜円卓、死骸の間
呪い【お前は、呪いを感じたことがあるか】
ラスティ「…」
【恐れ、忌み嫌われる生命の宿痾。その醜い祝福を。…いや、まて】
ラスティ「…」
【お前、呪いを感じているな。そして、重く滾る様な昏き焔を。ぷんぷんと臭っているぞ。生乾きの宿痾が。…どうやら、我が苗床は十分に熟したようだ
思えば短い静寂であったわ】
ラスティ「…」
【…お前、我が身体を解放するがよい。王都地下、下水の牢に囚われた、我が身体を】
『下水牢の鍵』
【そうしたら、お前を殺し、穢してやる。その宿痾を、本当にお前のものにしてやるぞ】
ラニ『…臭い息をべらべらと…』
ラスティ「分かっている」
「何もかも、解っているとも」
リエーニエ 捨てられし廃坑
溶岩土竜マカール【グオ、オオオ………】
大山羊のトラゴス「あんた、凄まじい強さだな!まさか竜を子供扱いとは…!」
ならず者「あんたが、尖り耳の巫女の褪せ人か?……まさかこんなにも強いとはな…」
ラスティ「協力ありがとう。また会おうトラゴス、ビッグ・ボギー」
トラゴス「あぁ!いつでも呼んでくれよ!」
ビッグ・ボギー「…褪せ人が王になる。あながち夢物語じゃないのかもな…」
ラスティ「…久しぶりだな、ここも」
『アルター高原』
ラスティ「時間がない。竜体で忍び込もう」
ラニ『忙しない上に誉れもない行軍だ。お前に相応しくないぞ、私の王』
ラスティ「そう言わず。これはリッカたち…」
ラニ『?』
ラスティ「ひいてはきっと、マリカの為にもなる筈だから。………」
懐にある、修復ルーンを見やる。
【忌み呪いの修復ルーン
糞喰いが宿した忌まわしいルーン
エルデの王が、壊れかけのエルデンリングを掲げる時
その修復に使用できる
それは、子も、孫も、その先も
永遠に続く忌み呪いの病巣である
律のすべてが穢れてしまえば
すべての穢れは、穢れでなくなる
すべての呪いに祝福あれ】
忌み捨ての地下。
黄金の都の地下の下水道。黄金律の世においての穢れたる『忌み角』を生やし生まれてきた子らが投げ捨てられ、永遠に封殺される場所。忌み子らは、その醜い角を全て切られここに捨てられる。
ラスティは深夜、此処に忍び込んだ。ここならざる狭間の地の全てを踏破した彼は、此処に至るルートなど全て把握していた。
『マリカの暗部、黄金樹の陰といったところか。こんな所に入り用があるのか?』
「ごめんよ、ほんの少しだけ我慢しておくれ、ラニ」
下水道を迷いなき足取りで進んでいくラスティ。そして寂れた牢屋の鍵を開けた所に、それはいた。
【出せ!ここから出せ!もっと喰わせろ!穢させろ!】
狂ったように頭を打ち付ける、膿み爛れた肉の色をした、角を切られた跡まみれの体を模した鎧の男。
【お前たちのすべてを!お前たちの未来を!俺は【糞喰い】だ!お前たち皆の呪いだ!】
彼こそが【糞食い】。忌まわしき呪いを以て死体を、世界を穢す…忌み子の心を持った人間である。
【お前、誰だ?】
「牢を出ろ」
糞食いの言葉に、ラスティはそれだけを告げた。
【…出る。ここを出る。…殺してやる。念入りに穢してやる】
ふらふらと、忌み嫌われし糞食いが牢の外に出る。
【みんなみんな、次は呪われて生まれるように。子も、孫も、その先も、ずっと呪いが終わらぬように】
「………」
【…まずは、お前からだ。王都の外郭にて、お前を穢してやる。その醜い人形もろとも、穢してやるぞ…】
『貴様……』
「あぁ、待っている」
ラニの突き刺すような冷気。
それと同じ程度に、ラスティの目線と声音は冷ややかであった。
……そして、王都外郭。深夜の誰もがおらぬ一角にて。
【お前を殺し、穢してやる…】
静かに佇むラスティの前に、それは現れた。
【その宿痾を、本当にお前のものにしてやるぞ……!!】
忌まわしき糞食い。醜く歪んだ骨の大剣を掲げ、狂ったようにラスティ目掛けて走り寄る。
【お前を!穢してやるぞおおおおおお!!!】
身体中から呪いを解き放ち、一斉にラスティへと飛ばす。
「………」
しかし、ラスティはそれを一瞥し、ゆっくりと武器を構える。
【……!?】
それは、光り輝く両刃剣。狭間の地の外にあるとされる秘宝『エウポリア』。それらは、まばゆい輝きを以てラスティに握られていた。
「─────!!」
高速で回されるエウポリア。するとその輝きから光線が放たれ、全ての呪いを弾き飛ばし吹き飛ばす。
【!!】
そしてすぐさま、目にも止まらぬ速さでラスティが糞食いの前に現れる。その右手には、別の武器が握られていた。
【が─────】
糞食いの頭から身体を一直線に突き刺した『劫罰の大剣』。最上の苦痛を齎す無数の逆棘がゆるりと巻き取られた黄金の大剣を、一息に突き刺し。
「──────」
それらを全て、解き放った。
【ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!】
糞食いの夜を切り裂く断末魔。頭から突き刺されたそれは、糞食いの身体中の全てを内側から突き刺し、壮絶に傷付け磔とする。それは、耐えられるものなどいない地獄の苦しみ。
【が────】
ずるり、とラスティが大剣を引き抜き、足元に倒れ伏す糞食い。
致命傷の痙攣を二度、三度繰り返し…、糞食いは、静かに霧散した。
『消えろ、下郎』
「………」
『もう二度と、私達の前で臭い息を吐くな』
ラニの言葉と、ラスティの射殺す視線が、赤黒い粒子を見送った。
〜
円卓、死骸の間にて。
【…待っていたぞ】
呪いは、そこにいた。それはラスティを待っていた。
【…お前は、祝福を拒んだ。呪いを感じている、お前が。全てを殺し尽くし灯った、昏き業火を宿したお前が】
「………」
【誰も拒めなかった、祝福を。何故だ?…俺はやっと分かった】
糞食いは、天啓を得たように語る。
【お前は、俺だ。そして俺は【糞喰い】だ。我が身体を、祝福するときがきたのだ】
『────────』
最愛の夫を、汚物と同列に語る事に絶対零度の殺意を向けるラニをそっと制し、ラスティは語らせる。
【我が身体を、祝福するときがきたのだ。…俺を、祝福してくれ。苗床の呪いで、我が身体を侵してくれ。何度でも、何度でも、そうしてくれ】
糞食いの心中が、ラスティに語られる。
【いつか、律を穢す、呪いの輪がもたらされるように。…俺はたくさん殺した。俺はたくさん穢した。そして、それは結実する】
〜
数百の呪いが生まれ、
数千の呪われた子が生まれ、
数万の呪われた孫が生まれ、
そこから幾人もの俺が生まれ、
永遠に殺し、穢し、祝福し続ける。
…ざまあみろ。我が導きは、かくも素晴しきものであったわ。
〜
【我が身体は、王都地下、あの下水の牢にある。祝福してくれ。苗床の呪いで、我が身体を侵してくれ。いつか、律を穢す、呪いの輪がもたらされるように】
糞食いの言葉を聞き届けたラスティは、小さくうなずいた。
「あぁ。──穢してやるとも」
『………?』
ラニはラスティのらしくもなきその頷きに、僅かながら疑問を抱くのであった。
…そして再び、忌み捨ての地下の牢にて。
【うう、ううう…】
糞食いが、自らを決して逃れられぬように縛り付け、呻いていた。
【呪う。呪ってやる…すべてが、呪われて生まれるように…子も、孫も、その先も、ずっと呪いが終わらぬように…】
彼は、人の身体に忌み子の心を持っていた。
忌み子の心、そうでない体。その齟齬に苦しんでいた。
だったら全て、呪われるがいいと思う程に。
【すべてが、呪われて生まれるように…子も、孫も、その先も、ずっと呪いが終わらぬように…】
呻くように、糞食いは呪詛を繰り返す。
【黄金律よ、呪ってやる…お前をきっと、穢してやるぞ…】
彼はひたすらに、全てを呪い続けていた。
『…ここまで来ると呆れたものだ。忌み子を真に蔑み、差別しているはこやつと言うに』
ラニの侮蔑を聴きながら、ラスティは歩み寄る。
『どうするのだ、私の王───』
ラスティは懐から、用意していた『苗床の呪い』を四つ取り出し──
【!!〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!】
糞食いへと叩き込んだ。未来永劫穢れる呪いを束ね、叩き込まれた糞食いは無上の苦痛と共に悶え狂う。
【〜〜〜〜〜〜!………………!!】
しかし、その吐息には歓喜があった。あと一息。あと一息で律すら穢す呪いが宿る。
【はぁ、はぁ……いいぞ、もう、少しだ……】
「………」
【あと一息。あと一息俺を穢してくれ。そうすれば、俺は……】
希うように、ラスティを見上げる糞食い。ラスティの手には、最後の呪いの苗床。
それを──
「────」
ラスティは足元に投げつけ、踏み躙った。
【!?お前、何を────】
「穢してやるとも。だがそれは、お前の肉体や魂を祝福するものじゃない」
ラスティは、左手にそれを持った。
心を壊し、人格を壊し、傀儡とする秘薬を。
【!!!】
それを、糞食いに静かに、有無を言わさぬ慈悲を持って飲み込ませた。
【う、ううう……ううう………】
飲み込まされた糞食いが、その人格が、人生が壊れていく。
あと一歩。あと一息で至れた救い。或いは、世界を穢す呪いの祝福を前にして。
それは、糞食いにとって最大にして最悪の絶望。
今までの穢しを、呪いを、全て無に帰す最低の生命の終わり。
【や、やめろ…、お、俺は、俺だ……………【糞喰い】、だ…】
間もなく人格の全てを奪われ、祝福も、呪も、全てを奪われる傀儡の、最後の呻き。
【…最後まで……………………………】
………糞食いと名乗り、生きてきた何者かは、ひたすらに醜く忌まわしい、忠実なる傀儡と化した。
その最期。尊厳と人生を凌辱され、踏み躙られ、自身と同じと悟った相手に裏切られた絶望の中で。
「行こう、ラニ」
傀儡を見届け、ラスティは静かに牢屋を後にする。
『うんざりだ。お前の息は臭すぎた』
吐き捨てるような、ラニの呪いを最後に。
…いずれ、至尊の律を掲げる狭間の地にて。
絶望の祝福を掲げる男は、永遠に消え去ることとなった。
リエーニエ
ビッグ・ボギー「なんだ、お前もエビ好きか?遠慮なく食いな」
ラスティ「うん、美味しい!」
ラニ『よくぞ食欲が湧くな、私の王…』
ラスティはその足で、茹でエビを食べていた。
ビッグ・ボギー「へへ、嬢ちゃんたちに急かされてよ。王都の外郭に行って早くカニを茹でてやらにゃあな」
ラスティ「あぁ、安心して向かうと良い。きっと大丈夫だから」
ビッグ・ボギー「ああん?……前々から妙なあんちゃんだな。王様みてぇな格好しやがって」
黙々と、エビを食うラスティ。
ラニ『……私の王』
ラスティ「うん?」
ラニ『お前は、あんな汚物なんかではないよ。お前は私の、唯一人の…』
ラスティ「大丈夫」
ラニ『!』
ラスティ「大丈夫だよ、ラニ」
ラニ『………うん』
ラスティ(これでリッカも、レンも、マシュも、…マリカも。穢される事は無くなった。…安心だ)
輝きに満ちた、命と魂を護る。それこそが王の使命。
ラスティは、人知れずそっとそれを果たしたのであった。
ラニ『………』
その誉れなき王命を果たしたラスティを…
暗い月は、優しく照らし癒していた。
〜後日
フォウ『ヴォエッ!!!』
『献上品です』と、ラスティは糞食いの傀儡をギルガメッシュに献上。
ギルガメッシュ「ほう、この絶望に満ちた傀儡は中々の珍品…にしても限度があるわ!シュールストレミングが生温いわ!?あの王め、親愛極まった嫌がらせか!?」
──た、直ちにスピリチュアル消臭力を…うぐぅ!(パタ)
《エア!?えぇい、迂闊に開けた我が愚かであったわ───!!》
フォウ『ヴォエッ!!!!』
この後、あらゆる敵の斥候、タンクとして『うんちイーター君』として生まれ変わった糞食いは良く働いたという。
最高の肉壁として、リッカ達を何度も助けるのは別のお話。