人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
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ラニ『兄上はずるい。強くて、優しくて、かっこよくて、なんでもできる』
ラダーン『そんなことはないさ。私はお前のように可愛くない、無骨な男だよ』
ラニ『そうか!私は兄上より可愛いんだな!』
ラダーン『そうだとも。ははは、私もまだまだだな』
ラニ『よし!なら私は兄上みたいな人と結ばれる!』
ラダーン『おおっ』
ラニ『強く、優しく、父のように伴侶を大切にしてくれる伴侶を見出すぞ!そして母上のような偉大な母になる!』
ラダーン『ははは、そうかそうか!お前なら必ず見つけられるさ、ラニ。私のような…いや!私より素晴らしい漢を伴侶にできる!』
ラニ『嘘をつけ。兄より素晴らしい男などいないぞ』
ラダーン『急に落ち着くな妹よ…。そんなことはない。私にはわかるのだ』
ラニ『ん……』
ラダーン『カーリアの女性は愛深きもの。素晴らしき伴侶を見出すもの。お前の可愛らしい内面を愛する男は、必ず現れるはずだ』
ラニ『…そうかな』
ラダーン『そうだとも。その時は、是非私に紹介してくれ。我が妹、神人たるお前の伴侶は即ち王だ』
ラニ『王…』
ラダーン『もしかしたら、私が仕える王になるやもしれない。その時は、心から祝福させておくれよ。ラニ』
お前と、お前の見出した王を。心から────
〜
ラニ『………………』
「皆、奮い立て!ラダーン将軍に名誉の最期を!」
ネフェリが鼓舞し、ラダーンの絶望の小手調べを乗り越えた戦士達を奮い立たせる。いよいよ、祭りが本格的な苛烈と過熱を見せるのだ。今からが、ラダーン祭りの大一番である。
「赤獅子フレイヤ!将軍ラダーンに挑まん!戦士たるならば恐れることなく私に続け!!」
「おうとも!誇らしく戦い、狭間の地にて証を立てる!」
「鉄拳のアレキサンダー、ゆくぞ!!」
真正面から誉れ高く挑むは、フレイヤ率いる戦士部隊。武力と武勇、誇りを重んじる武人達にて構成された戦力の中核だ。
「ぬあああああああああ!!」
フレイヤは剣を地面にて叩き付けその、反動にて回転。勢いを込めたまま叩きつける『獅子斬り』を解放。ラダーンに武力を叩きつける。
「喰らえ!大山羊の質量を!!」
全重量100kgを超える大山羊のトラゴスは、全身を叩きつけるヒップドロップをラダーンの真上から叩き込む。
「鉄拳の名、伊達ではないぞ!」
アレキサンダーは下からアッパーをもってラダーンの顎を狙う。大柄なラダーンになおも届く、必殺の跳躍からの鉄拳。
【────────!!!】
しかし、ラダーンの戦闘の冴えは、三人が誉れ高き勇士であるが故に研ぎ澄まされてしまったのだ。
「な、なにィ!?」
なんとラダーンは片手から剣を離し、重力魔法にてトラゴスのヒップドロップを離した剣で防御した。
「むおぉ!?」
アレキサンダーをむんずと掴み、今斬りかからんとするフレイヤに向けて突き出す。
「なんだと──!?」
「ぐわぁあぁあー!!」
全身全霊の一撃は最早止められず、フレイヤの獅子斬りはなんとアレキサンダーに直撃してしまった。
【!!】
そのまま、アレキサンダーごとフレイヤは凄まじい力で殴りつけられ叩き伏せられる。誉れ高き三人の戦士が、瞬く間に無力化されてしまったのだ。
「なんという…流石は、将軍だ…」
「俺の全身全霊は、届かぬのか…!」
「わ、割れてしまった…中身が、溢れて…」
三者三様に叩き付けられてなお、戦士達は祭りを決して辞めはしない。
「では翁どの、参りますぞ」
「うむ」
アンスバッハ、翁面の二人が参ずる。彼等は狡猾に戦うことを選んだ。
【!!】
翁たるそのものはラダーンの図体を跳躍し、首筋めがけて赤い血塗れの刃を振るう。生きているならば、急所は必ずあるがゆえにだ。
「殺るぞ、将軍」
繰り出されしは血を宿した斬撃。直撃すれば刃の傷から出血する恐ろしい人斬りの技。
「あなたの恐ろしい覇気に、爺は勇気を持てませぬ故」
アンスバッハもまた、弓矢による扇射ちにてラダーンの気をそらしながら気勢を削いでいく。
老獪にて狡猾なそれは、ラダーンに確実な傷を加えていく。腐敗しているが故、普段ならば許さぬ接近までは拒めぬのだ。出血と、手傷が増えていく。効いているのだ。
【────────!!!!!】
だが、ラダーンは尚も吠えた。羽虫が如くに切り裂く翁への対策は、再びの重力場の生成。
「斥力…!」
翁が吹き飛ばされる。重力ならば引き寄せる他に弾くことも可能であるが故、翁とアンスバッハを重力で刀は愚か弓矢すら届かぬ距離まで吹き飛ばしたのだ。
【!!!】
更にラダーンは自らの刃に重力魔法による岩石を付着させた殺傷力向上を測り、アンスバッハ達にそれらを射ち放つ。
「これは…!」
それは岩石弾であり、ラダーンの代名詞たる魔法『星砕き』。無数の重力塊が、翁とアンスバッハに降り注ぐ。
「………!!」
翁が降り注ぐ隕石を、刀で切り落とし、アンスバッハが弓矢で魔術を吹き散らす。
しかし───アンスバッハは気づいてしまった。
【!!】
(ラダーン将軍、もしや──)
ラダーンの行動傾向、そしてその戦法が洗練されているとアンスバッハは感じていた。武具を振り回すだけの畜生ではなく、戦士達の滾りに呼応するかのように強く、速く。
【─────!!】
それは、ラダーンの大弓がダメ押しとばかりに飛来する刹那に気付いた事。アンスバッハと翁は、なすすべもなく吹き飛ばされ宙を舞う。
(滾られておるのですな。戦士達の熱量に。頭の腐敗が焼き払われている)
翁、アンスバッハ共に甚大なダメージを受けながら、彼は思う。
(リッカ殿、あの方々が目指す結末…。その活路が、見いだせたやもしれませぬ)
【!!!!!】
瞬間、ラダーンの全身に無数の針が突き刺さった。魔力で編まれた、金の針。
「将軍。私の針が、あなたとミケラを繋ぎ止める」
【!!!】
「約束をお果たしください、ラダーン将軍。ミケラが待つ、あの地へ──」
突き刺し、地に伏せさせたレダの針。それらは神の祝福を受けており、ラダーンすら拘束する程の成果を見せる。
(リッカ。私は、君を信じるよ)
〜
「リッカ。私はあの痩せ馬を、討とうと思う」
それは、合流した際のやりとり。
「ラダーン将軍は足の末端を腐敗で失った。機動力をあの痩せ馬に頼り切りだ。活路はそこに在るはずだ」
「ダメ、待って!あの馬をラダーンさんから奪ったら、最悪の事態にきっとなる!」
「最悪の事態…?」
「あの馬はラダーンさんの半身とも言える存在!ラダーンさんに倒した後を求めるなら、絶対に傷つけちゃダメ!私達が絶対になんとかしてみせるから、馬はどうか傷付けないで!レダ!」
(ここまで言うほど…か)
「…わかった。私は君を信じる。皆にも、馬を狙わぬよう伝える。これは憎しみの戦いではなく、名誉の祭りだ」
「レダ…!ありがとう!」
〜
(ならばこそ、我々がラダーンを削らねばなるまい。あの少女が見ている結末、それが最適解と今は信じることにより)
「我が毒が、貴方を弱らせる」
「力を、奪う」
レダの針に釘付けである今、ティエリエやムーアが毒を振るいラダーンを弱らせる隙を生む。レダは全員に馬を狙うことを禁止させ、今尚リッカ達をやや後方に陣取らせた。
(ヘラクレス殿、ゴッドロード殿。その二名において我々という存在は枷であろう。ならば二人が全霊を出す場を整える…)
レダの懸念は的中した。ラダーンはようやく、その武の真骨頂を発揮し始めたのだ。
【ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!】
大絶叫したラダーンが、なんと自身に重力魔法を纏う。それはなんと、自分の肉ごとレダの針を引き抜いたのだ。
「っ!!」
そのままラダーンは猛烈に錐揉み回転を開始。紫の弾丸となったラダーンは地上に残る全ての戦士達を蹂躙し尽くし始めたのだ。
「僕が、止める…!」
青銅の鎧のムーアが立ちはだかり、止めようと計ったそれを、
「うわああっ…!!」
あっさりと砕き、戦士達を巻き込み紫の嵐が吹き荒れる。それらに巻き込まれた者は、最早戦いなど望むべくもない。
「くうっ…!!」
レダ、アンスバッハは軍馬を駆り嵐となったラダーンを決死の覚悟で回避する。だが、その最中でレダは見た。
(肉体の崩壊が進んでいる。出血と我が針の成果が出ているのだ)
そう、ラダーンの力はあまりにも強大。それ故に、今の崩壊しかけたラダーンの肉体自身が耐えられぬ。傷付けられればられるほど、猛り狂えば猛り狂うほどラダーンの肉体は壊れていく。
だが───それは苛烈さもまた加速度的に増していくと言うこと。
【ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!】
ラダーンが回転し、なんとそのまま砂丘へと自身を叩き付け───
【ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!】
砂丘全域に、重力魔法たる石の刃を展開。余すことなく、レダ達褪せ人連合勢力を貫き切り裂いた。
「くうううううっ…!!」
レダもまた、例外ではない。無数に極まる石の刃を受け、身体を切り裂かれ吹き飛ばされる。
(マレニア様が、誇りも誉れも捨て…腐敗を解き放つわけだ……)
吹き飛ぶ最中、レダは悟る。
何故マレニアが、卑劣極まる土地汚染を厭わぬ自爆という戦争犯罪を選んだのか。
(彼は最早、強すぎたのだ…)
その力は、将軍を越え王にすら届く。
【ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!】
褪せ人達の決死の攻撃を受け続け、傷だらけになりながらもなお。
その全てを打ち払い、ラダーンは吠え猛っていた。
アンスバッハ「レダ殿、無事ですかな?」
レダ「アンスバッハ殿…あなたは、無傷なのか…?」
アンスバッハ「臆病故、安全地帯を探しておりましたゆえに。…これでわかりましたな。神に挑むは、人の愚行。我々の力は、神には届かぬと」
レダ「…………」
アンスバッハ「……えぇ。神を討ち果たすはできぬやも知れません。しかし…」
アンスバッハは、ラダーンより離れた場所で見ていた。
「分かり合い、鎮めるのならば…或いは」
「……リッカ…」
今なお、ラダーン祭りに挑み続ける者達の決意を。