人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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ラニ『……私の王よ、気づいているな?』

ラスティ「勿論だ、ラニ。……リッカたちの介入か、はたまたマリカの導きがあったからなのか、ここの運命は大きく変わり始めている」

ラニ『あぁ。兄ラダーンの運命を筆頭にだ。これならば…』

ラスティ「…もしかしたら、出来るかもしれない。かつてミケラが諦めた、本懐を。彼女達と共に…」

ラニ『うむ。あのたわけた餓鬼が忘れてしまった目的を、せめてここでは叶えてやろう』

ラスティ「あぁ!では、皆に説明しなくては!」



リッカ「マレニアの、分け身?」

ラスティ「あぁ。かつてマレニアはラダーンとの戦いの際、禁忌と律していた腐敗を解放した。腐敗に抗う矜持を捨てることと代償に…」

レン「納得だよ。ラダーンに勝つ、或いは負けないためにはそれしかなかったろうし」

ラスティ「その時、彼女の矜持と人格は分け身となって分離したんだ。そして腐敗に蝕まれ、今はケイリッドの教会に眠っている。…腐敗を一掃した今、彼女がどんな状態かは不明だけれど…」

ヘラクレス「最強の片割れ、デミゴッドマレニアの分かたれた矜持の分け身…。リッカよ、これはマレニアとの和睦の道に繋がるやもしれんな」

リッカ「うん!マレニアがかつてどんな人か、その分け身と触れあえば掴める筈だよ!」

ラダーン『内側から失礼する。私も賛成だ。マレニアは兄を慕い、また恐れていた。矜持無くした今のマレニアはまともな状態ではあるまい』

リッカ「ラダーンさん…」

ラダーン『王都に向かう前に、その分け身と出会うことは私も望むところだ。…そも、ミケラは妹の為に黄金律を捨てたのだ。』

腐敗の宿痾を、乗り越えんがために──


分け身の少女〜ミリセント〜

「…………ううっ…き、君達は…?」

 

ケイリッド、腐敗に染まった教会。完全に崩れ廃れた教会の片隅に、ラスティ曰く『マレニアの矜持』たる彼女は瀕死の状態で存在していた。

 

紅き髪は無造作に下ろされ、腐敗の影響か右腕は肩から完全に欠損している。金色の目は虚ろでありながら、それでいて光を失っていない。

 

「…いや、誰でもいい。すぐに私から離れた方がいい。ケイリッドが、聖なる炎に包まれた今もなお…朱い腐敗は我が身に縋り付いている。人が触れるべきではないんだ…」

 

少女は、リッカ達を左手で制する。そう、カグツチの御祓の浄炎で焼き払い清められたケイリッドにあってすら、少女の内に腐敗は食い込んでいる。

 

『彼女がマレニアの分け身であるのだとする証明がこれだ。マレニアの腐敗は、ミケラやマリカですら遅らせ、遠ざけることしか出来なかった。黄金律における大敵の一つ。朱い腐敗』

 

ラダーンが、リッカの魂に乞う。

 

『勇者たる乙女よ。我が異母兄妹…その誇り高さを有する分け身を、救ってやってはくれまいか』

 

「勿論だよ」

 

リッカは迷うことなく、少女に歩み寄りそっと手を取る。腐敗を完全に、取り払うためだ。

 

「何を…。だ、だめだ。君も腐敗に、侵されてしまう…」

「患者に触れることを厭っていたら、救える命なんてないよ」

 

リッカは強く少女の手を握り、胸に手を当てる。朱き腐敗が、リッカの手に強く食い込み侵食を始める。

 

『させるか!!』

 

瞬間、ラダーンと大ルーンにより炎が吹き上がり、リッカの手の腐敗を焼き払う。そして同時に、リッカの手に白き輝きが宿り───

 

「祓い給え、浄め給え────はぁっ!!」

 

伊邪那美命の権能を有した左腕が、少女の身体に打ち込まれた。

 

「が────はっ────!!」

 

少女の身体が大きく痙攣し、そして朱く淀んだそれが解放される。少女を蝕み、侵していた朱き腐敗。マレニアに通ずる、その宿痾。

 

『─────』

 

ルゥがその腐敗を一睨みした瞬間、紅い雷撃が腐敗に落ち速やかに霧散する。雷槌はあらゆるものを消滅させる神罰の原典。抗える神格すら僅かにしか存在しない力故に。

 

「あ───…………」

 

少女はやがて、平静を取り戻す。呼吸は穏やかに、そしてリラックスすらする程に。

 

「身体が……こんなにも楽に……。君は、一体何を…?」

 

「腐敗を取り除いたんだよ。少なくとも、侵略の報いは受けてもらわなきゃね」

 

少女は呆然とリッカを見つめていたが、やがて、ゆっくりと立ち上がる。

 

「……出会ったばかりの、縁もゆかりも無い私の為に…自らが腐敗に侵される事も厭わず、私を助けてくれたのか。君達は、君は…」

 

「困っている人を助けるのに、理由はいらないでしょ?」

 

「…ありがとう。君の優しさと高潔さを、私は決して忘れない。私はミリセント。君の名を教えてくれないか?」

 

「私はリッカだよ。そして順番にマシュ、ヘラクレス、ラスティさん、レン、ルゥちゃん様!」

 

「ありがとう。君達と出会えた今日と言う日に、感謝を…」

 

ミリセントは健康という宝を手に入れ、腐敗から解き放たれた身体で立ち上がった───。

 

 

「……そうか。私はやはり、マレニアがかつて打ち捨てた矜持…それを宿した分け身、であったのか」

 

少しした頃、満月の下でラスティはミリセントにその来歴を話した。彼女の生まれた経緯、その存在の意義を。

 

「先のリッカの技、それは腐敗を退ける強く高き神の所業と見受ける。…もしや、君達ならば叶うのだろうか? マレニアの腐敗を、退ける事を」

 

ミリセントの問いに、一同は深く頷く。先のカグツチの手により、腐敗は焼き払われ致命的な不可逆を起こした生命の他は腐敗より解放された。

 

「…解った。ならば私はマレニアと出会い、この矜持と命を還す為に旅立つ事にする。彼女がラダーンに打ち勝つ為に捨てた誇り、矜持。それらをマレニア自身に取り戻させる」

 

「ミリセント…」

 

「そうすれば、マレニアはもしかしたら…君達に力を貸してくれるやもしれない。彼女の意志が私にもあるのなら、この心が宿す君達への感謝も同じ気持ちであるはずだから」

 

ミリセントは、決意強き瞳で彼方を見やる。その果てに、マレニアがいると信じて。

 

「なら、よかったら私達と一緒に行かない? 私達も、全てのデミゴッドの大ルーンを集めてるの。いずれ必ず、マレニアに出会わなくちゃいけないし!」

 

リッカは、ミリセントを旅の仲間へと誘う。彼女は、高潔であるが故に放ってはおけない存在であるがために。そして、裏切りの心配もない人格を有しているが故に信頼できる。

 

「……君達の足手まといになってしまわないかだけが不安だ。見ての通り、私は欠け身。腐敗によって片腕が無くなってしまっていてね。一人旅なら知らず、旅の同行となればそんな甘えは…」

 

「それなら心配ないよ。君にピッタリの義手腕は、ここにあるからね」

 

ラスティが、かつて王となる旅にて討ち果たしたマレニアの義手腕をミリセントへと託す。

 

ラスティにとってもマレニアは比類なき強敵であった。決まり手は義手腕を跳ね飛ばした上での暗月の致命の一撃。その際、義手刀と分け保管していたのだ。

 

「…!この、義手は…」

 

嵌めてみたミリセントが驚愕の声を上げる。それは彼女にとって、喪われた腕以上のフィット感と精度を齎したが故だ。

 

「少し、離れていてくれ。…烏滸がましいが、剣の腕には少し自信があるんだ」

 

ミリセントは義手腕の剣を構え、その剣技を披露する。はじめは素振り、やがては剣技へと。

 

「む…!」

「うんうん」

 

ヘラクレスが眉を上げ、ラスティが懐かしげに頷く。その動きは、心得が在るという領域ではなかった。

 

流麗なる水の如く。熾烈なる翼の如く。苛烈にして美麗、一振りするたびに不敗の幻視を皆に齎すその剣技。

 

『あれこそは流水の剣技。かつて盲目の剣士が妖精から授かり、腐敗の神を封じた際に齎されたという留まることを知らぬ剣の領域』

 

やがてミリセントは片足で飛び上がり、周囲に熾烈なる斬撃を撒き散らす。それはかつて礼拝堂にてラスティが披露した、流水の奥義。

 

『あれこそが水鳥乱舞!マレニアを不敗たらしめた流水の秘伝!かつて最後の戦にて存分に味わった絶技なのだ!ウオオまさに彼女こそマレニアの分け身たる最たる証であろう!次に戦う際には完璧に捌いてみたいものだ!』

 

武道に興奮するラダーンの声に苦笑しながら、リッカはそれを見守る。ラスティに加え、絶技の技量有する剣士が更に加わるとなれば。

 

「──素晴らしいよ。これなら、君達の役に少しは立てそうだ」

 

感激に手を震わせながら、ミリセントはリッカに歩み寄る。

 

「では、どうか私を連れて行ってほしい。私を助けてくれた君達の為に、この身とこの剣は振るわせてくれ」

 

「勿論!よろしくね、ミリセント!」

 

『こやつらの動きは破天荒だ。リッカの遺灰として傍らにあるがよい。手配は私がしてやろう』

 

ラニは頷き、ミリセントに遺灰としての魔術を施す。これで、いつでも呼び出せる戦力へと変化したのだ。

 

『少し妙な気分だが…それでも、私は私だ。よろしくお願いするよ、リッカ』

 

「うん!マレニアに、必ず会いに行こう!」

 

「マレニアのいる場所は、狭間の遥か北の聖樹…その最下層だ。今も彼女は待っているんだ。神となったミケラが、自身を迎えに来ると信じて」

 

ラスティの言葉に、一同は決意を新たに入れ直す。

 

「大ルーンは、これで三つになったね」

 

『だったらいよいよ、行けるんじゃない?』

 

「あぁ。エルデンリングがある王都、ローデイル。君達を、きっと待っているはずだよ」

 

エルデンリングへと見える資格。

 

それは即ち、リッカ達が王となる資格。

 

そして、マリカに見える資格でもあるのだ。

 

マリカは待っている。

 

世界を救う王を。

 

 

 

 




ネフェリ「此処に居たか、お前たち」

ヘラクレス「ネフェリ」

ネフェリ「祝福王、モーゴットからの文が届いた。お前達を、ローデイルの王座へと導けと」

ヴィル『………………』
ルゥ『ふぁ〜、おっきぃ』

ネフェリ「お前達に、伝えねばならぬ事があると。……王となる覚悟は良いか?」

マシュ「祝福王…いよいよですね、先輩」

リッカ「…どうかな」

マシュ「先輩?」

リッカ「まだ大ルーンが集まりきっていない。それなのに王座に呼ぶのは…なんだか、嫌な予感がするよ」

ラスティ「………全ては、己の目で見届けてから考えよう」
ラニ『………』

一同はネフェリらに運ばれ、ローデイルの王座へと向かう──。
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