人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

265 / 2537
「砂漠に向かえ、ですと?」



「次なる彼等の向かう場所は其処だ。アトラスの院。遊撃騎士の役を果たすがいい、ランスロット」

「はっ。――獅子王、貴殿は・・・」

「あぁ、立ち上がらずともよい。礼も不要だ」

「は・・・なん――」

「もう、出逢うことは無いのだから」

獅子王の指先から、『聖なる槍』が放たれる


避けるまもなく直撃したランスロットは吹き飛び、凄まじい勢い、その身一つで砂漠の直中に吹き飛ばされる


「――さらば、凄烈の騎士よ。次に出逢うときは、同じ円卓の騎士を名乗ることはあるまい」

獅子王は静かに呟き、玉座を後にした・・・


砦粉砕作戦

アグラヴェインの砦・・・

 

 

 

虜囚を血も涙も無い尋問、拷問にていたぶり、なぶり、血肉と情報を絞り上げる、語るもおぞましき鉄の男の独壇場

 

 

「噂じゃ、アグラヴェイン卿にかかりゃカバも人語で助けを乞うくらいのえげつなさらしいぜ」

 

「マジかよ、カバもしゃべるとかどんな残酷さなんだよ・・・」

 

「それだけじゃないぜ。地下に作られた遺跡には怨念がこびりついててさ、出るんだってよ、毎回!」

 

「マジかよ、マジなのかよ」

 

「それだけじゃないぜ。聞いた話だと・・・」

 

「厄ネタ多すぎだろこの砦ぇ!あぁ、聖都に住みてぇなぁ・・・!」

 

「どうなんだろうな。聖都も今じゃ大変な事になってるらしいぜ。害虫、血の雨、おぞましい災厄に見舞れてるとか・・・」

 

「・・・案外どこも同じなんだな・・・」

 

 

朝日に伸びをしながら、なんとなしに歓談を続ける砦の兵士たち

 

 

此処には捕虜しかおらず、また聖都の遠くに位置するこの砦には、外敵や驚異などいない。そう信ずるが故の気の緩みであったのだが――

 

「――・・・あれ?」

 

突如、『辺り一帯が闇に包まれる』。穏やかかつ静かな朝焼けは消え失せ、漆黒の空間、夜闇に周囲が包み込まれ、目の前すら見通せぬ程の闇の帳が降りる

 

「お、おい、朝だよな?朝だったよな!?」

 

突然の宵に声を上げる兵士

 

「お、落ち着け!夢でも、夢でも見てるんだろ!」

 

「バカ言うな!さっきまで朝だったろうが!歯も磨いた!顔も――ぶわあっ!?」

 

兵士達の顔面を打ち付ける――砂。そして砂利

 

「ぷわっ、わぷっ!?――砂!?砂利!?」

 

それらは即座に風となり、勢いを増し、巻き上がり、吹き上がり、巻き起こる

 

 

「おい!なんだ、どうなっんだよ!こりゃあ――『砂嵐』じゃねぇか!?」

 

「はぁ!?バカ言うな!砂漠じゃねぇのにどうして嵐が吹いてくるんだよ!?」

 

「知るか!これが夢かよ!がぁあ目が!目がいてぇ!」

 

「やべぇ、砂嵐の装備なんて持ってねぇぞ!」

 

有り得ぬ想定外の事態に困惑、大混乱に陥る兵士達。団長の指示を仰がんと慌てながらも――

 

 

「お、お、おぃ・・・!」

 

兵士の一人が、震えながら空を指差す

 

「な、なんだ、なんだよ、あれ――」

 

全ての兵士が、『ソレ』を認め、茫然自失となり、武器を取り落とす

 

 

「あ、あ、あぁ・・・」

 

――そこには、浮かび上がる【骸骨の面】。空中を、夜闇をバックに・・・

 

【生者よ、生を貪るものよ――】

 

――浮かび上がっていたのだ。【ソレ】が

 

一人の少女が授かりし『外套』が起こせし、暗殺者の独壇場を作り上げし現象

 

砂嵐は勢いを増し、いよいよ以て目を開く事すら叶わぬ程に、足を立たせることが出来ぬほどに強まる

 

 

――【ソレ】は、虚ろな眼底、空虚な頭蓋の眼を光らせ――告げる

 

砂を巻き起こし

 

生者を招き

 

魂を刈り取らん偉容を響き渡らせ、厳かに空間を慟哭させる――!

 

 

【――首を出せぃ!!!】

 

 

その、死の宣告に――

 

 

「「「「「「う、うわぁあぁああぁぁああぁ!!!」」」」」」

 

 

恥も外聞も無く、本能的な恐怖に突き動かされ、武具を捨て、立場を捨て、生にしがみつきながら逃げ惑う

 

指揮も無く、士気もそれほど高くない。其処に穿たれし――死の恐怖。

 

根源的な感情に突き動かされ、逃げ惑い、怯え惑う哀れな兵士達――

 

 

だが、兵士の受難、長き恐怖の一日は始まったばかりなのだ

 

――皆、今だよ!(はたらけ)

 

 

「「「承知!」」」

 

 

空間一帯に響き渡る、重なりあう死神と、少女の声に応える、三つの声音

 

「『煙酔庇擁(ザバーニーヤ)』」

 

煙酔のハサンの業にて、肉体が完全に煙、靄となり兵士の逃げ場を塞ぎ、取り囲む

 

 

「なんの煙ぃ!?」

 

「開けてくれ!助けてくれぇ!」

 

「ひぃいぃいぃい!?嫌ァアァアァア!」

 

 

「――百貌の、任せるぞ!」

 

煙酔のハサンの号令に応え、百貌のハサンが魔力を練り、奥義を開帳する――

 

「任せておけ!初代様の手前、失敗は絶対に赦されんからな!『妄想幻像(ザバーニーヤ)』!」

 

百貌のハサンの本領は個にして群、群にして個。生前の多重人格を山の翁の奥義に昇華させし本領

 

 

「骸骨だ!骸骨がいっぱい増えたぁあ――!」

 

「うわぁあぁああぁ!!」

 

 

「喧しい!暫く眠っていろ!殺されないだけありがたく思うのだな!」

 

ザイードが皆をダンスで幻惑し

 

「他愛なしッ――他愛なしッ――」

 

「なんだこいげぶぁ!」

 

「お、おいごふぁ!」

 

すかさず、怪腕のゴズールがラリアットで兵士を昏倒させ、気絶させる

 

「――――・・・」

 

迅速のマクールが散らばりし兵士を素早く回収し、整理し、一纏めに整頓し、積み上げる

 

「これで全員か!?」

 

呪腕のハサンが右腕を解放し、ぐるりと兵士を担ぎ上げ、数を数える

 

「――・・・伝え聞いていた数には合致する。問題あるまい。砦の外の木に縛り付けておくとしよう」

 

 

素早く砦から飛び去る三人のハサン。万能布ハッサンを取りだし、気絶した兵士達を巻き付け縛り上げ無力化する

 

 

【皆、お疲れ様!】

 

邪龍の鎧を纏ったリッカが、蒼炎と共に瞬間移動して現れる

 

「リッカ殿、人払いは終えました。我等の手際に不足はあるか――査定していただけますかな」

 

跪く三人。呪腕のハサンの言葉に頷き、砦を見つめる

 

 

――初代の外套を纏った事により、リッカは『蒼炎』の業、『生命の炎』を見分ける業を借り受ける事が叶った

 

 

蒼炎の業。自らを転移させ、或いは敵対者を焼き尽くし、また背後を取り、暗殺を為し遂げる初代ハサンの暗殺術

 

そして、『生命の炎』を見据える業。自らに敵対するもの、生きるものの所在を見据え、見通す事ができる暗殺者の眼力

 

【――うん!大丈夫!何処にも兵士はいないよ!皆、お疲れ様!後は私に任せて待機で!】

 

「「「御意」」」

 

 

瞬間に霧散、撤退するハサン三人。リッカもヴィマーナを見上げ、瞬時に蒼炎転移にて船の甲板に戻る

 

 

【兵士の皆さんは避難させてくれたよ!さぁ、行くよ!アルテミス!】

 

左手の女神の弓矢を起動させ

 

 

【行け!我が弓!我が信仰!!】

 

アキレウス譲りの啖呵を切り、砦の真上に力の限り弓矢を投げ放つ

 

――夜の帳は、この為に――!

 

猛烈な勢いで天に飛来する弓矢。両手を組合わせ祈るリッカ

 

『行くよ行くよ~!リッカ、せーの!』

 

月の女神、アルテミスの承認を得て、雲を突き抜けた月女神の弓矢が月光を祈りと威力に変え、臨界を越え叩き落とす!

 

 

【『アナタに届け、月の総て(アルテミシオン・アルテミット・レイ)』!】

 

 

月より放たれし光、対城宝具クラスの膨大な魔力光線が砦に降り注ぐ

 

小さいとはいえ砦、防衛を主目的とする一つの施設。生活をも考慮されし一つの拠点

 

それらを無慈悲に呑み込み、消し飛ばし、抱擁する白き偉容、威光、光の奔流――

 

『これ、人間が放っていい魔術じゃないよねホント・・・』

 

『まぁ、リッカだし』

 

――マスターって凄い!改めてそう思います!

 

触れた傍から浄化され、消し飛ばされ、消滅し、塵一つ残さず昇華されていく砦

 

あまりの高エネルギーに、崩落を通り越して『消え去る』という現象を起こし霧散していくのだ。人間など、巻き込まれれば肉片、血液の一つ残るまい

 

・・・そして、照射が完遂し、祈りを解く頃には

 

【――ふぅ!上手くいったね!アルテミス!】

 

砦が在った場所は、寒風吹き荒ぶ『更地』と化し、新たな分譲地と呼んでも差し支えないほどの広大な土地へと早変わりする

 

 

『なんという事でしょう・・・一生懸命設立された砦が影も形もないではありませんか・・・』

 

オリオンの嘆き通り、其処に、砦が在った形跡は影も形も無くなっていた――

 

 

『きゃー!やったぁ!リッカすごぉい!』

 

はしゃぐアルテミスにピースサインを返す

 

「流石です、先輩!」

 

【人類最後のマスターだもん、これくらいはね?――――『アーラシュ』さん!】

 

「ぎゃてえ・・・まさか、人間ってこんな事もできたんだ・・・」

 

マシュの称賛に照れながらも、直ぐ様次のフェイズに移る

 

 

「おう!同じ弓使いとして負けてられないね、っと!」

 

リッカの召喚に直ぐ様応じ、弓兵の中の弓兵、アーラシュがヴィマーナに現れる

 

「手筈通りに放て!地点は彼処よ!」

 

パチンと指をならし財を展開する。10本の宝剣宝槍が『穿つべき場所』に突き刺さり位置を示す

 

 

《エア、最低ランクの武器を放ったな!》

 

 

――はい!でもすぐに回収しますよ!使い捨ては良くないですからね!

 

(10本。2・5トキオミ)

 

――何の単位!?

 

《我が優雅にくれてやる全身全霊よ!》

 

「彼処だな、っと!」

 

 

女神アールマティより授かりし『弓矢作成』の技能、スキルにより

 

 

【ほわぁあぁあぁあぁあ!?】

 

 

『空中を埋め尽くす数万の弓矢』を召喚作成し――

 

「俺の矢は――大地を割るぜ!」

 

アーラシュの弓矢から放たれし一射に連なるように――怒濤となりて降り注ぐ!

 

 

大地を抉り、砕き、掘り進み、掘削し、貫いていく数万の弓矢の雪崩、怒濤

 

「ファラオの兄さん!今だぜ!」

 

アーラシュの言葉に応え――

 

 

「フハッ!!フハハハハハハハハハハ!!任せよ勇者よ!最早ファラオは落陽を知らず!その威光に陰りはなく!!――我が威光!!余さず世界を照らそうぞ!!」

 

『闇夜の太陽の船』の最大出力を練り上げ、都市すら焼き払わんとする火力と魔力を凝縮させた太陽光線を照射する――!

 

「放たれよ!!『闇夜の太陽の船(メセケテット)』!!!!」

 

 

臨界を越え放たれる闇を切り裂く威光。弓矢にて抉られぬいた哀れなる大地を焼き尽くし、融解させ、溶かし尽くす

 

 

「フハッ!!ハハハハ!ハハハハハハハハハハハハ!!!ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

ネフェルタリを抱き寄せ、モーセと肩を組み高らかに笑うオジマンディアス

 

どうだ、余は凄いだろうと・・・自慢する無邪気な少年のような、ありのままの振る舞いを、二人だけに見せつける

 

「ラーメス、あまり笑いすぎると過呼吸になってしまいます。お気をつけて・・・」

 

「いやいや、笑わないラーメスはラーメスじゃないからね。これでいいんだよ、ネフェルタリ」

 

二人はそんなオジマンディアス・・・ラーメスを、暖かく見据える

 

 

「さぁ!!道は開かれた!行くがいい!勇者達よ!!」

 

 

 

「――マシュ、マスター。では、参りましょう」

 

リッカとマシュを抱え、飛び立つ騎士王

 

【ギル!行ってきまーす!】

 

「お膳立てはしたのだ。目当ての財、必ずや奪還せよ!」

 

――お気をつけて!アルトリア!

 

「行ってきます。吉報をお待ちください。――プリンセス」

 

「あたしも行く――!トータ、今行くからねー!」

 

騎士王に続き、三蔵もジャンプし続く

 

 

「お師さーん。どうやって着地するんだーい」

 

「え?へ?――ひゃあぁあぁあ~!!助けてモーセ~!!」 

 

後先考えぬ師匠の醜態をいとおしげに眺めながら、モーセが走る

 

「仕方ないから僕も行こう。すぐに戻るからね」

 

「構わぬ!行け!我が朋友よ!!」

 

ネフェルタリに投げキッスを返し、モーセが颯爽と飛び立つ

 

「ひゃっ!?善哉!善哉モーセ!」

 

空中で三蔵をキャッチし、そのまま太陽の黒き点より迷宮に落ちていく

 

「誇り高き龍よ!僕たちは彼女の弟子を探す!君達は本来の相手を探してほしい!」

 

 

【オッケー!いこう!アルトリア!マシュ!】

 

「高所、落下・・・コンラさん、私に勇気を・・・!」

 

『道はナビゲートするわ!すぐに走って!』

 

三人一組、二人一組にて行動を開始する救出部隊

 

 

「――15分か。露払いに十分とは。やはり数を動かすのは手間がかかるな」

 

 

真下にて『異常を察知し生成された騎士』達と交戦を始めるイスカンダルを認めながら、王は天空神の酒を口に運ぶのだった――

 

――皆、どうか無事で!

 

 

~~~~~

 

「トータ!トータ――!」

 

侵入を果たした三蔵が声を張り上げ、弟子に呼び掛ける

 

「返事してよトータ~!!・・・うぅ、まさか、もうやられちゃったのかも・・・」

 

走りながら、涙を浮かべる三蔵

 

「私のせいだ・・・私が、ダメなお師匠様だから・・・」

 

「ん~、ダメなところは敢えて否定しないけど、弟子がやられる理由としては弱いんじゃないかな?」

 

「ぎゃてえ!?」

 

爽やかに切り捨てるモーセ。悲鳴を上げる三蔵

 

「君は悲観的に過ぎるよ?『もうだめだ』なんて走る旅なんか辛いだけだ。歩むなら、進むなら『大丈夫だ』と考えて進む方がいいと思うけどね」

 

「モーセ・・・」

 

「取り返しのつかないミスなんてそうない。人生を棒に振る失敗なんて杖を二回鳴らすくらいしか無いんだから、悲観なんて馬鹿馬鹿しいよ?なぁに、大丈夫大丈夫!ダメならダメでそのときはそのときさ!約束の国に入れないわけでもなし、元気にいこう!」

 

ぱんぱんと背中を叩き励ます

 

三蔵は、その爽やかさの裏にある・・・モーセの本心に触れたような想いを抱いた

 

「・・・そうね!私には二人も弟子がいるんだもん!頼もしい弟子候補も!頑張らなきゃ!ね、モーセ!」

 

「トータさんやーい」

 

「聞いて~!?」

 

励ますだけ励ましさっさと切り替えるモーセに振り回されながら叫ぶ三蔵

 

そして――

 

 

「――その落ち着きのない困った声!お主、三蔵か!?おーい!!」

 

壁の向こうから響く精悍かつ豪快な声に、三蔵の顔は晴れやかになり歓喜を表す

 

「トータ!!やったぁ!生きてたのね!モーセ!こっちこっ――」

 

 

「来るのは構わんが気を付けろ!『門番』がいるからな!蹴りが強いぞ蹴りが!まともに食らえば内臓がでんぐり返しよ!」

 

 

響き渡る足音、巨大な体躯、見下ろす威圧

 

 

「おや、石像に精霊の根を埋め込んだ兵か。ギリシャにこんなのいそうだなぁ」

 

暢気に呟くモーセ

 

「ほわぁあぁあぁあぁあ!?」

 

吃驚仰天する三蔵――素早くモーセは行動に移る

 

「お師さん、行ってらっしゃい!」

 

素早く三蔵の袈裟を掴み

 

「よっと!」

 

隠し壁となり、牢に繋がる空間を遮る障害を粉々に粉砕し、三蔵を投げ入れる

 

「モーセ――!?」

 

「感動の再会、しっかりね。お師さん」

 

ばいばい、と手を振り、スプリガンに向き直るモーセ

 

「さて、と。型破りだけど、弟子は弟子っぽいところを見せなきゃね」

 

脚を振り上げるスプリガンの『軸足』に即座に接近し

 

 

「態々片足になってくれるなんて優しいなぁ」

 

ダッキング、踏み込みにて距離を詰め

 

「――ほいっと」

 

左ジャブで距離を測り――

 

「――とりゃっ」

 

右をため、捻りを加えた渾身の・・・いや、ほどほどのコークスクリューブローをスプリガンに叩き込む――!

 

 

『右拳大の穴』を左足に穿たれ、拳を捻り込まれるスプリガン

 

「柔らかいなぁ。ちゃんと材質から見直さなきゃ。大天使は一日殴らなきゃ死ななかったよ?」

 

ずぼり、と拳を引き抜いた瞬間――スプリガンの身体から光が、輝きが、聖なる光が満ち溢れ――

 

 

「塵は塵に。安らかに。今度は主の手により新生しますように」

 

爆発、そして四散。巨大な体躯を誇るスプリガンが天に召され、砕け散り、在るべき姿へと戻る

 

 

「あ、根っこ見っけ。戦利品戦利品」

 

落ちていた根っこを拾い上げ、ホクホクのモーセ

 

 

「おおっ!あの石像を一人で倒したか!御主がこの三蔵が言っていたモーセ殿か!いやぁお見事お見事!ははは!」

 

俵を抱えし緑髪の侍、三蔵の弟子たるトータ、『俵藤太』が膝を叩く

 

「うんうん、無事に救出できて良かったね。お師さん」

 

「うむ・・・御主、三蔵を如何にして説き伏せた?顔を合わせるなり『いつもありがとう』だなどと・・・鳥肌が立ったぞ?」

 

「どーいう意味――!!?」

 

「あはは!お師さんの威厳の為にも黙秘しておこうかな?いやいや、大分振り回して振り回して、たまに振り回したくらいさ!」

 

「自覚あったの!?振り回してるって!?」

 

「ははははは!俺も甘やかしすぎていた、ということか!よし、俺も厳しくいくかな?」

 

「ぎゃてぇえぇえ――!!泣く!厳しくしたら泣くからね――!!!」

 

 

笑い合う弟子、泣く師匠

 

型破りな三蔵一行が、ようやく巡りあったのであった――

 

 

・・・同時に

 

 

 

「こちらですぞ、三人方。静謐のめはこの扉の向こうにおりまする」

 

道中の霊、怨霊を騎士王が蹴散らしながら、呪腕のハサンの案内を受けながら、一同は辿り着く

 

「皆様、お下がりください――はあっ!!」

 

シールドバッシュにて扉を打ち砕きながら部屋に一同が殴り込む

 

 

「――・・・・・・だれ?まだ、あきらめていないの?」

 

 

跪き、両手と脚を黒い鎖で縛られている灰色の肌の少女、仮面の暗殺者が顔を上げず呟く

 

「早く、首を落として・・・解ったでしょう。どんな痛みも、苦しみも・・・私を殺せないのだから・・・」

 

「・・・相変わらず、汚れ仕事を請け負ってくれているのですね、アグラヴェイン」

 

安堵と、悲哀を含ませた声音で騎士王が呟き

 

「マスター、かの戒めを解き放ってあげてください。あの鎖はアグラヴェインの『黒き戒め』。サーヴァントには効果絶大な拘束だが、人にはただの鎖です」

 

【解った!・・・よく頑張ったね。じっとしてて!】

 

鎖を掴み、力尽くで引き千切る邪龍の乙女

 

『リッカ、せめて、せめて武器を・・・』

 

『迷わず素手を選ぶ辺り最高にリッカ君だなぁ!』

 

「ははは、現代の乙女とは様変りしていますなぁ」

 

ブチィ、ギチィと音を立てながら引きちぎれていく鎖

 

大丈夫!?(おろかものめ)

 

「っ――!?は、はい・・・」

 

肩を掴み、見つめるリッカに、畏怖と、困惑を向ける静謐のハサン

 

「あなたは、いったい・・・」

 

【私は藤丸リッカ!好きな事はコミュニケーションとサブカルチャー全般!嫌いなものは先入観!座右の銘は『意志があるなら、神様とだって仲良くなってみせる』だよ!】

 

肩に手を当て、真っ直ぐに目を見つめる

 

「・・・あなたは・・・私に触れても・・・」

 

『手が触れている事』に驚いている事に気付いたリッカは見抜く

 

 

『彼女は、温もりに飢えている』と。同時に、じぃじの言葉を思い返す。

 

 

――毒の華。汝の力となろう

 

毒の華・・・温もり・・・

 

「――静謐さん、ちょっといい?」

 

フルフェイスヘルメットを解除し、静謐の仮面をゆっくり外す

 

「ぁ――」

 

「――魔力供給っ――!」

 

そのまま、静謐を抱き寄せ――

 

「んっ――」

「――!!?」

 

唇を重ね合わせ、『静謐の望み』を叶える――

 

 

「先輩!?」

 

「――なんと・・・」

 

「リッカ殿、それは――!!」

 

『なんで彼女躊躇いなく女子の唇奪いにいくの?』

 

『・・・・・・』

 

『どうかしましたか?マリーさん?うふふっ♥』

 

『な、なんでもありません!』

 

 

魔力供給の際の、きわめてソフトな口付け

 

 

「――私たちは敵じゃないよ。貴女を助けに来たの!」

 

身体に走るしびれを捩じ伏せながら、安心させるようにウィンクする

 

「――どう、して・・・」

 

目を見開く静謐に、マシュが捕捉を加える

 

「先輩には『耐毒スキル(仮)』があります!恐らくギャラハッドさんの在り方が、先輩や私の守護となっているのでしょう!」

 

「・・・・・・だから、私に触れても・・・」

 

『リッカ!ダメですよ己の唇を安売りしては!もう!身持ちは固くいなさい!』

 

ジャンヌの叱咤に頭をさげるリッカ

 

「ごめん、ジャンヌ。でも・・・あなた、なんとなく、だけど・・・」

 

ゆっくりと、髪を撫でる

 

「誰かに・・・触れられたいんじゃないかなって。肩に触られて嫌がるって言うか、なれてない感じだと思ってさ」

 

静謐はただ目を見開き、目の前の女性を見つめている

 

「大丈夫。私はあなたに触れるよ。・・・今までお疲れ様。さぁ、私達と一緒にいこう!もう大丈夫だからね!」

 

直ぐ様フルフェイスメットを展開し、静謐をお姫様だっこに抱え、皆に声を上げる

 

【目的は果たしたね!ギルに回収してもらおう!】

 

「――ハサン、様・・・」

 

「彼女は、初代様に認められし我等が希望。あまり粗相のないように」

 

「初代、様に・・・?」

 

会ってきたよ!厳しくて優しかった!(くびをだせぃ!)

 

「ぴゃいっ――」

 

縮こまる静謐、目の前の女性から副音声で発せられる威厳に萎縮してしまう

 

 

【あ、ごめんね!】

 

「・・・本懐果たせど、前途は多難。首を落とされぬよう、気を付けよ、静謐の」

 

ハサンの仮面の目が、感傷に細められる・・・

 

 

「・・・マシュ、アグラヴェインの名を聞いて・・・なにかを感じましたか?」

 

騎士王の問いに、マシュは己の想いを告げる

 

 

「・・・はい。不思議なのですが・・・『彼がいるなら、王は大丈夫』だと・・・」

 

その言葉に、満足げに頷く

 

「はい。彼は人間嫌いで、その献身と忠義に合わぬ冷遇と評価を同僚から一身に受けていましたが・・・彼無くして、円卓はけして語れず、彼無くして栄光は有り得なかった。――欠点を語るとすれば・・・」

 

王は、此処にはあらぬ、影の功労者を思う

 

アグラヴェイン。積極的に働き、汚れ仕事を請け負い、献身にて支えてくれた、かけがえのない忠臣

 

彼がいてくれたなら、例え、狂い果てていたとしても――最後の、最後には・・・

 

「――ギャラハッドさんが言っています。『彼は、働き過ぎていた』と」

 

ギャラハッドの優しい指摘に、思わず笑う騎士王

 

「ふふっ。はい。あの休暇届で、少しは息抜きが出来ていれば良いのですが」

 

瞬間、目の前に『黄金のロープ』が現れ、英雄王の声が響き渡る

 

『目当ての宝は手に入れたな!ならばダンジョンなど用済みよ!さっさとそれを掴み、ヴィマーナに帰参するがいい!』

 

これはエアが選別した『脱出』の原典。あらゆるダンジョンの最奥から抜け出せる『迷宮抜けの紐』だ

 

――アルトリア!皆さんでこれに!

 

 

「――ありがとうございます、プリンセス。さぁ、皆さん脱出しましょう」

 

 

よーし!撤退だぁ!(くびをだせぃ!!)

 

「ぴゃいっ――」

 

「ははあっ――!!」

 

副音声に戦きながらも、三蔵一行、リッカチームは『迷宮抜けの紐』にて、アグラヴェインの迷宮より脱げだし、ヴィマーナへと帰艦した――

 

 

 

 

――一同、回収を完了しました!

 

 

ヴィマーナの甲板に参列を確認し、即座に数を数え報告する

 

《問題なく仕事を果たしたな。流石は騎士王よ。――これより続けて砂漠に跳ぶぞ!ワープドライブの用意をせよ、エア!》

 

――はい!フォウ、管制をお願いね!

 

(任せてくれ!キミとボクでダブルヴィマーナパイロットだ!)

 

「征服王!得るべきものは得た!帰艦するぞ!太陽の!ヴィマーナにアンカーを繋げ!」

 

 

鋭く指示を飛ばす英雄王。『神威の車輪』を駆け回らせていた征服王が口を尖らす

 

「む、潮時か。がらんどうの兵士なぞ、蹴散らしがいの欠片も無いわな!よぉし!次の戦に急ぐとするか!はあっ!!」

 

戦車を駆け上がらせ、ヴィマーナのアンカーを接続する

 

 

《よし、此より次の目的地、砂漠の遺跡に向かう!準備は出来ているな!では行くぞ!A・U・O――!!》

 

黄金と翡翠の輝きが放たれ、即座に二つの船と戦車を包み込み

 

 

――ワープ!

 

眼前に現れた黄金の波紋に飛び込み、一ナノ秒の一瞬にて

 

 

・・・ゴージャス一行は、ワープアウトを果たしたのだった――




「・・・はっ――!私は・・・何を・・・」


「目覚めたか、アグラヴェイン卿。よい報せと悪い報せ、どちらを寝覚めの報としたい?」

「・・・悪い報せを。私が対処します」

「貴卿らしい。・・・捕虜を捕らえていた砦が落ちた。カルデアの戦力だ」

「――――いえ、些末です、王。サーヴァントの一基や二基、どうなろうと王の妨げにはなり得ない」

「そうか。ではよい報せだ。卿にはな――ランスロット卿を追放した」

「――なんと」

「ランスロット卿は必ず此方を糺しに彼方に与するだろう。我が治世に疑問を持っていたのだからな。――不満はあるか、アグラヴェイン」

「あろうはずがございません。――英断を下した我等が王に、賛辞と敬意を」

「他人事でも無いぞ、アグラヴェイン。彼方に与するということは・・・」

「解っております。私が、あの狂犬を討つ。貴方の威光に、傷の一つもつけさせはしない――」

「――白亜の塔は崩れ始めている。円卓は最早磐石ではない。ならば――各々の生が、何を示すかという所にまで来ている」


――よ、――――は

「・・・――」

――貴方の生が活気付くのはよいことだ、『○○○○○○○○』


「――アグラヴェイン」

「はっ」

「・・・私の」

「・・・?」

「――私の最期を看取った騎士の名前は・・・なんだったか――」




砂漠 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

どのキャラのイラストを見たい?

  • コンラ
  • 桃太郎(髀)
  • 温羅(異聞帯)
  • 坂上田村麻呂
  • オーディン
  • アマノザコ
  • ビリィ・ヘリント
  • ルゥ・アンセス
  • アイリーン・アドラー
  • 崇徳上皇(和御魂)
  • 平将門公
  • シモ・ヘイヘ
  • ロジェロ
  • パパポポ
  • リリス(汎人類史)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。