人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
レン「ラーヤからも招かれていたからね。顔を出してみる意味でも丁度いいと思うな」
ルゥ『ライカードってどんな人なのぉ?』
レン「ギデオンが言うには、慈悲なき裁判官にして責問吏たちの長、蛇のように忌み嫌われた男。冒涜の罪を侵したことで、破砕戦争において許されざる敵となった人物である…だって」
ヘラクレス「穏やかではないな。冒涜の罪…か」
リッカ「ラダーンさんは将軍、ラニは魔女。ライカードさんは法務官に裁判官…凄い兄妹だなぁ…」
ラニ『……兄上と似てはいる。その雄心は間違いなく覇王のそれであったな。最も…在りし日は、の話であったが…』
ラダーン『あぁ。今のライカードは最早…葬ってやるが慈悲となる有り様に成り果てていよう』
リッカ「…!」
『人は法を護り、遵守し、自らを厳しく律することにより正しき生を送るに足る。ゆめ忘れるでないぞ、ラニ。兄上もだ』
ライカードはレナラの子、次男にあたる存在である。ラダーンの弟、ラニの二人目の兄という立場である彼は、極めて厳格かつ厳粛なる規範を重んじる苛烈なる存在であった。
『何が過ちか、何が過ちでないのかを私は知り、そしてまた悪辣や悪行には然るべき報いを与えねばならん。そうでなくば、人は人の尊厳を抱く事は出来ぬ』
人は法を、規律を、尊厳を護る事で初めて人たるに値するという観点と概念を持っていたライカードは、その苛烈なる正義感と信念を以て法務官という法の番人へと就いた。それは全ての悪人を、罪人を裁き罪を暴くという決して礼賛されぬ職務。
あらゆる罪を暴くために、あらゆる罪人を裁く為にライカードは苛烈極まる酷吏と拷問、恐ろしい刑罰を生み出し、強いた。それらは全てが、黄金樹の敵や律に仇なす者らに苛烈極まる劫罰となって振るわれた。
罪を暴き、人を裁き、苦痛と絶望を与える。ライカードは無慈悲極まる悪魔として蛇蝎の如くに嫌われ、疎まれ、憎悪を一心に受けていたが、本人はそれらを受けて微塵も改める気配を見せなかった。
『例え生命の、尊厳の冒涜にあたろうとも。必要なる規範であり罰であるのだ』
恐怖と法への畏怖が、世界と人を正しく律する。ライカードはそれを心から信じ、望み、罪人を怨嗟と憎悪の声と共に裁き断罪を続けていった。
『我は知る。正しき道の遠き険しさを。罪を厭って、歩む事はできぬ』
自他共に厳しき法の番人。法務官ライカード。それが、ラニやラダーンの知る彼の人となりであり、彼という人物の評価であった。
〜
「聞いた限りだと…すごく厳しいけれど、話せば力になってくれそうな印象を受けるね」
リッカの答えは、皆の総評でもあった。極めて厳しい法務官にして雄心を持つ存在であるのなら、レナラやラダーン、ラニの如くに力を貸してくれるのではという所感は当然の帰結と言えるであろう。
「……いや。恐らくライカードの助力を得るのは…難しいだろう」
しかし、それに否を捉えるのがラスティであった。彼の旅路において、たしかにライカードと相対した彼の言葉に、ラダーンとラニも同意する。
『うむ、義弟ラスティの所感は正しいものであろう。そもせあやつは、黄金樹そのものを忌み嫌い、憎むようになっていたからな』
「それはまた、穏やかじゃないね。どうしてかな?」
『憎んだのだよ、神を。女王マリカと黄金樹の全てを。その憤慨は、私達兄妹もよく知るところだ』
そういうラニも、ラダーンも声音は暗い。思えばそれは、ライカードという存在の命日であったのかもしれないのだから。
〜
エルデンリングが砕け、デミゴッド達に大ルーンの欠片がそれぞれ託された破砕戦争の始まりの折。ラダーン、ラニ、ライカードは集まり方針を話し合った。
黄金樹、そして黄金律の終末を悟り、新たなる王に仕える将軍としての在り方を定めたラダーン。
それらを齎すよう導いた二本指を厭い、自らの宿命と肉体を捨て、自らの律を夜空に求めたラニ。
それに対し、ライカードが選んだ道は果てしない冒涜の道。その始まりは、あまりにも強き怒りと憤慨、憤懣の発露であった。
『女王は、神は我等に浅ましくも力を奪い合えというのか。肉親同士、兄妹同士で殺し合い、喰らい合う。そんなものが、次代を招く為の儀式であるというのか』
獣のような浅ましい生き方を導いた神に、女王マリカにライカードは誰よりも激し、怒り狂った。ラダーンとラニを前にして、ライカードは誓ったという。
『兄よ、妹よ。我は抗うぞ。この身を畜生に貶めんとする神に。黄金樹そのものに』
黄金樹から分け与えた力を漁り争う浅ましい生き様。それを強要されることにライカードは何よりも憤った彼は、自らの生き様を定めた。
『どうするのだ、ライカード。黄金樹に抗うのであれば、お前こそが王を目指すのか?』
『違う。黄金樹を、黄金律を否定し、それらが生み出す祝福も、招かれし者たちも、導きも、全て全てを喰らい尽くす。我等の尊厳を奪い、醜く浅ましい争いをせんとする全てを我が喰らうのだ』
ライカードは殺人や背律、冒涜を犯してでも…自分達を愚弄する黄金樹と神に尊厳の反旗を翻すことを決意したのだ。
『断じて、忌まわしき黄金樹の言いなりなどにはならぬ。我等の生命の主は、他ならぬ我等であるべきなのだから』
『…。兄ライカードよ。しかし、具体的にはどうするつもりなのだ。神に抗い、反旗を翻すというのは並大抵では…』
ライカードは、不安げに語るラニにそれを告げた。
『我は、蛇となる。永遠に生き、全てを喰らう黄金樹において忌避と憎悪の象徴。我はそれとなり、永遠に喰らい力を高めようぞ』
その手段は、紛れもなく禁忌であり、狂い果てた妄執そのものであった。
『馬鹿な……。力を求め、自らが蛇となる。いくら我等がデミゴッドたる存在であろうと、そのような外法に耐えられるはずが無い。考え直せ、ライカード…!』
ラダーンが止めに入ったのは必然であろう。しかしライカードは、頑として聞き入れることは無かったのだ。
『兄よ。私は神に、世界の法たる存在に反旗を翻さんというのだ。その道は、その工程は果たして真っ当なる手段で踏破が叶うものであろうか?』
『むぅ…』
『我が為すべきは世界への反逆にして、いずれ神をも喰らう大業。我は知るのだ。その冒涜の道の遠き険しさを』
『兄ライカード、だからといってそれではあなたの魂が無事ではすまぬぞ』
『覚悟の上よ。我は強者を貪り、力を高め、永遠の生命の中で己を高め、必ずや神たるマリカに至り神殺しを成し遂げてみせる』
ライカードは既に、神とは排除すべき存在であった。自らに下卑た浅ましい略奪を許した下劣なる存在として、それらを敵と定めていたのだ。
『我は成長し、我は肥大し、増大し、やがて神をも超えてみせよう。そして新たなる世界の行く末は、新たなる者達に託すのだ』
『ライカード…』
『新たなる世界、新たなる律、新たなる法を。それを敷く為に、古き神もその理も疎ましき邪魔者でしかない。ならば我はそれら全てを喰らい飲み込み、新たなる世界の礎としてくれようぞ』
しかし、それでもなおライカードの魂は高潔であった。神殺しは、新たなる時代の始まりの為のものであると。
『黄金樹が、我等が父ラダゴンの掲げた原理主義が誤っていた、間違っていたのであるならば。その時代に生きた我等がすべきことは後始末であるのは明白。旧き時代が、新しい時代を侵害せぬように我等は行動するべきなのだ』
あくまでそれは、次代の到来を助ける手段。自身が覇権を握りたいわけでも、私利私欲に目が眩んだからでもない。
『奪い合うのではなく、譲り、託す。それこそが我の望む次代への貢献である。その為に我はゲルミア火山にて集めよう。冒涜を厭わぬ英雄達を。火山館にて集わせるのだ。黄金樹に弓引く為に』
礎として、次代に全てを託すこと。それこそが、ライカードが望んだもの。
そのために、彼は黄金樹の全てと敵対する道を選んだ。そしてそれが、ラダーンとラニが見たライカードの最後の姿である。
その後は破砕戦争が起き、あらゆる全ての勢力が戦い、やがて誰も勝つことなく終結を迎えた戦争。
ラダーンは、実際のところライカードとその際に出会い、再会を果たしていたのだ。
ライカード率いる、ゲルミア火山の勢力達。
──あらゆる冒涜を極めた陰惨なる戦い。
その果てに、ラダーンとライカードは戦ったのだ。
黄金樹を守護する将軍と……
世界を喰らう、覇王として。
ラスティ「……二人の言うように、今のライカードからまともな話を聞くことは不可能だ。大ルーンを有しているから、戦いは避けられない」
リッカ「ラスティさん…」
ラスティ「この世界においても、覇王の雄心は堕した欲望に成り果てているかもしれない。その事だけはどうか覚悟して、ライカードの下へ向かってもらいたいんだ」
ルゥ『こ、こわそう…』
リッカ「……………」
…ラスティの言葉を刻み、一同は足を踏み入れる。
〜ゲルミア火山 火山館
?「ラーヤから、話は聞いている。私はライカードの妻、タニス。火山館を仕切るものだ。…よく来てくれた。歓迎しよう」
あらゆる冒涜が集う場所。ゲルミア火山の山頂、火山館へと。
下卑た欲望を抱く覇王を、討つために。