人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
なんてことを…」
レン「あ、あんまり気にしないで。私もほらエルフ、耳の亜人だから」
マシュ「私はデミ・サーヴァントのデザインベビー!親の顔も知らない命です!元気を出してください!」
「…すみません。取り乱しました。貴方がたは、蛇の姿の私に、変わらず優しく、接してくださったというのに」
「「ほっ」」
「…レン様。これが私の、真の姿です。真実の名は、ゾラーヤス
貴方を偽っていたことを、お詫びします。ただ、信じてください。これは、私だけの偽り。火山館の、いえタニス様の言葉には、何の偽りもありません」
「「………」」
「タニス様は、私の母なのです。そして、偉大な王の恩寵を受け、私が生まれたと聞いています。だから、私だけのこの姿は、母の喜びであると。…この身は私の誇りなのです。…ただ、他人はそうは思わない。蛇の姿を目にすれば、話も聞いてはくれぬでしょう。それ故に、招き手として、偽りの姿に化けていたのです。
…けれど、貴方がたは違いました。…この蛇の身と、ゾラーヤスの名は、私とタニス様だけの、秘密なのです…そして今は、貴方との秘密にもなりました。どうか、他の方には、伏せておいてください」
レン「うん、わかった」
マシュ「誰にも言いません!」
『う…、お主らは、褪せ人だな。デミゴッドに、挑む者だな…』
屋敷の廊下、その隅にうずくまる霊魂はリッカを見つけ、そう言葉を紡ぐ。
『この衣装、ライカードの近しい騎士だったものか』
ラダーンの見立てに従い、リッカはそっとその騎士の言葉に耳を傾ける。
『頼む。大蛇を、殺してくれ。ライカード様を喰らった大蛇を』
それは、かつての主の身を喰らいし大いなる蛇の殺害。それの要請と嘆願であった。
『蛇殺しの槍は、王の間に置いてきた。褪せ人よ、あの槍を振るい、刺し貫いてくれ。大蛇を…、あの忌まわしい化け物を…』
蛇殺しの槍。ラダーンは、それに覚えがあった。
『蛇殺しの槍…。かつて遥か昔、大蛇を殺さんが為に用意されたとされる伝説の武具か』
「それを使ってまで、かつての主を殺せ、だなんて…」
尋常でない覚悟の物言い。それを紡ぐ騎士の霊魂は、続ける。
『かつて、ライカード様の冒涜の野心は、覇王の雄心であった。…だが、その身を大蛇に喰らわせてから、それは下卑きった貪欲に堕したのだ…』
騎士の語るライカードの末路。ライカードは自身を蛇に食わせることで、自らの果てしない成長を目論んだ。
蛇とは不老不死の象徴にして、黄金樹の時代に忌避されるもの。冒涜の時代に相応しき者。しかし、その本能はただ喰らい、肥大化していくのみのもの。
それにより、ライカードの魂すらも蛇の本能と混ざってしまったのであろう。冒涜の為の英雄喰らいが、食事と成長、本能にすり替わってしまった。
『…やはり、そうだったか。自らを何者かに食わせるなど、齟齬や歪みが出ぬ筈がないとは思っていたが…』
ラダーンは鎮痛に言葉を紡ぐ。それは予測される範疇の現象であった。
ラニは人形の身になり、意識が定期的に深き眠りに落ちてしまう。ラダーンはそのあまりの魂の強靭さに、リッカの肉体にすら変化を及ぼす程の影響を与える。本来の魂を異なる者に託すは、壮絶なる齟齬をもたらす危険と隣り合わせだ。
『…あれはもう、ライカード様ではない。…殺さねばならぬ。あのお方の名を、野心を、これ以上辱めないためにも…』
数多の英雄が、歓迎と共に貪り喰われた。家族として、今ライカードと共にいる強き英雄達。
冒涜を掲げた者の末路として、自身が穢らわしい怪物に成り果てる。因果応報であるのやもしれぬが、だがそれでも、彼を案じる者は存在しているのだ。
『褪せ人よ。蛇殺しの槍は、王の間に置いてきた。あの槍でしか、大蛇は殺せぬ。…刺し貫いてくれ。大蛇を…、あの忌まわしい化け物を…』
騎士の霊魂は、リッカとラダーンに告げる。もうライカードは存在していない。今いるのは、ただの化け物たる大蛇であるのだと。
『───リッカ。この件は、ラスティ殿やラニにも伝えるべきであると思う』
「うん、そうだね。色々、話を聞いてみよう」
騎士に一礼し、リッカは客間へと向かう。今後の方針を定めるために。
『ライカード。お前もきっと免れぬぞ。我が妹の言う、頭の良い馬鹿の名をな…』
怒るでも、蔑むでもなく。ラダーンはただただ、静かにそう告げた。
〜
『やはり、頭の良い馬鹿であったな。我が兄ライカード…』
リッカらの報告に、ラニは苦虫を噛み潰したような表情を示し吐き捨てた。
『ミイラ取りがミイラであったか。やはり、自らを他者に委ねる道が上手くいくはずもないのであろうな』
『ラスティ殿。あなたは異なる場所でライカードと戦ったのではないか?此度のライカードも、そう成り果てていると見ているのであろうか?』
ラダーンの問いに、ラスティは静かに頷いた。
「…オレが戦ったライカードは、神喰らいの蛇と完全に合一、融合を果たしていた。彼の面影は、蛇の後頭部に張り付いていた顔面と王冠程度にしか感じられない程に、蛇に染まっていた」
数十メートルはあるであろう巨体。ゲルミア火山に伝わる呪術。そして、貪り食った英雄達を怨霊として使役する魔術の腕前。
手にした冒涜の聖剣は、火山の溶岩を噴き上げ斬撃とし、こちらを苛烈に攻め立てる。デミゴッドのライカードと神を喰らう程の蛇の融合は、まさに冒涜の君主に相応しい威容であったとラスティは語った。
「彼の意志らしきものは言葉を紡ぎはした。しかし、そこに覇王の面影はなく、ただ喰らい、肥大化することだけを目的とした蛇の本能のみがあるだけだった。もしここにいるライカードも、同じ状態であったのなら…」
その時には、最早殺すほか無いのだとラスティは沈黙にて告げた。それがやがて極限まで肥大化した時、本当の意味でその冒涜は黄金樹を食らいつくすのやもしれぬのだから。
「兵士と会話したんだね。その彼が言っていたであろう槍は、これのことだ」
ラスティは懐から、両手で持つ程に巨大な、槍と大剣が一体化した武器『大蛇狩り』を見せる。これこそが、蛇を殺す武器だと。
「この槍は大蛇と戦うその時、輝ける嵐の刃を纏う。彼の圧倒的な生命力を削るには、これと運命の死の他にはないだろう。…リッカ。これをヘラクレス殿に渡してくれるかい」
「えっ!?いいの、ラスティさん…!?」
「今のオレは竜にもなれる。あの蛇は酸の毒や、溶岩をぶつけてくるからね。それらから君等を護る為に変身して戦うから大丈夫さ」
ラスティは大蛇狩りをリッカに託す。これによりヘラクレス、ラダーン分の大蛇狩りを確保した事となった。
『…おそらく、我が兄ライカードは自身と共に大ルーンも蛇に食わせたのであろう。それ故に、今もなお肥大化を続けている。それは騎士らに言わせれば、生き恥なのであろうな』
『自らも見失い、初心を失い、ただただ貪食に耽る様を見続けるは偲び無かろう。終わらせてやるが、慈悲となるか』
ラダーンも、ラニも、ライカードの痛ましさを殺す事で終わらせんとする。それこそが、兄妹の情であると。
「…だけど、かつての旅路はオレのみだった。今は、そうでない要因と仲間がいる」
ただ、ラスティだけは…別の可能性を模索せんとしていた。
「リッカやカルデアス、皆の力を合わせれば、堕したライカードの雄心を、僅かばかりでも蘇らせる事は可能なのではないだろうか。せめて、化け物でなく…義母レナラの息子、ラニやラダーンの兄妹ライカードとして弔うことは可能ではないだろうか」
「ラスティさん…」
「オレは褪せ人であり、殺す事でしか王道を歩めなかった。だが、今は違う。他者を生かし、尊厳を尊重し、次代に繋がる道を選べるのであれば…オレはその為の手助けをしたいと思う」
ラスティは、狭間の地において僅かも傲ることは無かった。真摯に、誠実に、使命と自らの歩む道を見つめ続けた。
それが今、彼の密かな願いを叶える眼の前にあったのだ。レナラの家族達を、殺すことなく再び巡り合わせるという夢を。
「戦う事は避けられずとも、せめて覇王を看取る戦いを。…リッカ。オレは君なら、きっとそれが出来ると信じているんだ」
「…!」
「困難な道の向こうに、必ず素晴らしき宝はある。義母レナラ、義兄ラダーンをそうしてくれたように…。今一度、君達の手で。褪せ人では出来なかった未来を、見せてはくれないか」
それは即ち、ライカードに覇王の雄心を取り戻させること。
そして、神を喰らう蛇を完全に討ち果たす事。それらは遠く困難な難行であれど───。
「…ここまで来て、ライカードさんだけ殺しましたはちょっとレナラ様に申し開き出来ないよね」
その願いと言葉を、リッカは受けとめる。
「全力を尽くそうよ、皆。ライカードさんの、尊厳を救うために!」
『……フフ。御人好しめ』
『うむ!どうせなら、爽やかな終わりのほうがよかろう!』
ラスティの願い。今一度、ラニの家族が揃うという願いを…
リッカは汲み取り、叶えると誓ったのだった。
「…あなたがたには、お話ししたほうがいいかもしれません」
〜
私は見たのです。夜の闇、廊下で蠢く影を…
それは、この部屋の隣の部屋に入り、出てくることはありませんでした
そして、私の見間違えでなければ
あの影は、私と同じ、蛇の姿をしていました
…火山館には、私の知らない秘密があり…
タニス様は、私に何かを隠しているのでしょうか?
…本来、貴方がたにお願いすることではないのですが
もし何か分かったら、私にも教えていただけますか。
〜
レン「…火山館の秘密、か」
マシュ「ごくり…」
レン「面白そうだ。ゲルミア火山にはライカードが呪術を魔術に変えたとされるものもある。探しに行ってみようか、マシュ」
マシュ「秘密の探検…!ワクワクしますね!」
ライカードの戦いの最中…
サブクエストが始まろうとしていた。