人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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神肌の貴種

【──────!!】

 

でっぷりとした脂肪を有する、神肌の貴種。その巨体に見合わず、華麗なる騎士のような足さばきのレイピア剣術を強烈な頻度でマシュ、レンへと見舞う。

 

「すうっ──はぁっ!せいっ!おぉおっ!!」

 

マシュは当然ながらレンを庇いたて、その刺突からレンを守護し、同時に神肌の貴種を押し返す。彼女の傍らに今はマスターはいないが、魔術回路を増やしたリッカは既に、同じ世界にいれば契約したメインサーヴァントの力を十全にする程の魔力供給を実現している。

 

「神肌の貴種、神肌の貴種。宵眼の女王に仕えた昔ながらの存在。より強い原初の技と、黒き剣のマリケスに封じられたとされる黒炎を使用する…」

 

マシュの傍らにて、レンは神肌の貴種の情報を祈祷書から把握する。彼女はマシュの護りを信頼し、傍らにて対処法を探していたのだ。

 

「何故、宵眼の女王の勢力が火山館にいるんだろう…。まぁいいや、使ってくる技は…」

 

めくったページに目をやると、そこに気になる単語が記されていた。『貴種の腹芸』と。祈祷に連なるそれを、マシュに伝える。

 

「マシュ、彼は腹芸をしてくるんだって。虚を突かれないようにね」

 

「はい!?腹芸ですか!?それはどういう…!?」

 

マシュが怪訝に聞き返した、その瞬間。

 

【!!!!!】

 

貴種の身体、特に腹回りの部分が瞬間的に膨大な膨張を見せ、その勢いがマシュとレンを吹き飛ばす。その名の通りの、膨張した腹の爆発だ。

 

「重力魔術、軽減」

 

レンは杖を振るい、マシュと同時にふわりと降り立ち同時に告げる。

 

「生半可な攻撃は効かなそうだ。いつまでも護っていたら分が悪いしマシュに悪い。一気にケリを付けよう」

 

「は、はい!具体的にはどうしましょう?彼は先輩の言う『動けるデブ』系列の敵と見受けますが…」

 

マシュの問いに、レンはニヤリと笑みを浮かべ告げる。

 

「ダイエットするのさ。強制的にね」

「ダイエット…?」

 

するとレンは、マシュのラウンドシールドにそっとエンチャントを使用する。魔術による形態と用途の付与。

 

「そうだなぁ、これくらいやってもいいかもね」

「お、おぉ〜!」

 

すると、ラウンドシールドに武器に値する属性が添加される。魔力による無数の刃が並び駆動する、『魔力のチェーンソー』。並びに先端には蓄積された魔術を爆発的に解放する『魔力のパイルバンカー』。

 

「ルゥちゃんと話して考えたハンター用の新武器プランだよ。さぁマシュ、一気に切り裂き打貫いてしまおうか」

 

「これは…!先輩の好きな武器種トップファイブにランクインしていた武器種!これなら、いけます!」

 

マシュは物怖じせず、柱の影より貴種の眼前に躍り出る。姿を見つけた貴種はレイピアを振り上げ、軽快ながら体重ののった渾身の刺突を披露する。

 

「はぁあぁっ!!!」

 

だが、マシュはその太刀筋を見抜いていた。素早く振るわれた刃の内側に鋭いダッキングからのステップイン。

 

「レアルカリアチェーンソー!起動します!!」

 

そして、マシュの意志で起動しエンチャントされた無数の輝石魔術鋸を、盾を振るう渾身の様相で───

 

貴種の腹に、押し付け切り裂き始めた。

 

【───!!!!!!】

 

声なき絶叫を貴種があげる。体型のシルエットに影響が出来るほどの脂肪を、チェーンソーにて切り裂かれ続ける羽目となったが故の当然の反応であろう。

 

「邪魔な脂肪は切り落としてしまえばいい。ダイエットに手っ取り早い手段だと我ながら感心するね」

 

魔力のエンチャントが終わり、チェーンソーが消え去る頃には貴種は甚大な傷を受け、肉の奥の身体の部分が見いだせる程に削り取られていた。

 

「レアルカリア、パイルバンカー起動──!」

 

マシュがラウンドシールドを片手に持ち、大きく振りかぶる。身体の全身を使用し、渾身の一撃を打ち出す構え。

 

ラウンドシールドの先端には、彼女が打ち貫かんが為にレンにエンチャントされた莫大な魔力が込められている。それを爆発的に解放すれば、あらゆる物体は物理的に破壊され、駆逐されるであろう。

 

神肌の貴種の脂肪であれば、それも阻めたかもしれない。しかしその頼みは、チェーンソーにて壮絶に剥ぎ取られた後。

 

故に────。

 

「せぇえぇえぇえやぁあぁぁっ!!!」

 

マシュの渾身の一撃を、貴種は阻む手段を持ち合わせていなかった。

 

【!!!!】

 

撃ち込まれる撃滅の魔力。一度だけではない。二度、三度、四度。込められた魔力が幾度も、幾度も弾け爆ぜ、吹き飛び、抉り取っていく。

 

【!!────………!!】

 

込められ、爆発する魔力は1個の爆弾に相当する。それを何発も、何発も撃ち込まれる。致命に至るであろう一撃。

 

いや────マシュの【致命の連撃】の直撃を受け、神肌の貴種はふらふらとよろけ、膝をつく。

 

「手応え、ありました…!」

 

油断なく距離を取るマシュだが、その連撃は確かに命に届いた感触を有していた。その確信のまま、貴種の動向を見守る。

 

【……………!!!】

 

神肌の貴種は──立ち上がる。身体から、それは噴き出していた。

 

「黒い炎…。何をする気だ…?」

 

立ち込める黒い炎。それは貴種に集っていき、やがて貴種に凄まじい変化を齎すこととなる。

 

【!!!!!】

 

なんと、貴種の身体が何倍にも膨れ上がりそのまま車輪の様に大回転。辺り全てを巻き込み破砕する肉弾戦車の要領にて暴走を開始したのだ。

 

「おぉ…とんだ奥の手を隠していたんだね」

 

レンはマシュの背後にて、ポンと手を叩く。どうやらよほどこちらを通したくないないらしい、そう彼女は受け取った。

 

「レンさん!私の背後から出ないでください!」

 

マシュは歯を食いしばり、その突進を受け止めた。真正面から、単純明快な質量の暴力たるそれを。

 

「くぅうっ……!!まだ、まだ…!!!」

 

大回転する貴種は、勢いを味方にしマシュらを圧殺せんと目論む。それは単純明快ゆえに強く、マシュを半歩、下がらせるほど。

 

「マシュ、もうひと踏ん張りだよ」

 

レンは立ち上がり、魔術詠唱。再び、マシュの盾にエンチャントを披露する。

 

「これは…!?」

 

現れたのは、魔力の盾。しかしその層と膜は薄く、分厚く弾くそれではない。マシュが困惑しているさなかにも…。

 

「さぁマシュ。えいやっと跳ね返すんだ」

 

レンは落ち着きながら、うんうんと頷く。ソレはともすれば胡散臭くもある振る舞いだが…

 

「───えい、やぁあぁぁあっ!!」

 

マシュは信じた。マスターのように、迷ったら信じろを実践したのだ。

 

【!?】

 

今一度、力にて跳ね返された貴種。しかし、それだけでは留まらない。

 

マシュのシールドに張られた魔力の膜が、ガラス細工のように砕け散ったのだ。ソレはまるで、固形の物質のように。

 

「弾けた魔力のかけらは、輝石魔術を運び繋げる星々となる」

 

レンは既に詠唱を完了していた。それこそ、しぶとき生命を焼き払い生命を断ち切るレンの輝石魔術、その一端。

 

「『葬送の星空』」

 

魔力の欠片に向けて、極細のオリジナル輝石『かぼそい流れ星』を放つレン。

 

ソレは反射し、反射を繰り返し、無数の乱反射を得て──。

 

【!!!!!】

 

マシュと自身以外の全てを焼き切る光の刃となり、館の全てをレーザーめいて切り裂いた。無論、神肌の貴種も諸共に。

 

「盾を掲げる者がいる限り、魔術を担う者は負けることがない」

 

肉片となった貴種にレンは、静かに告げる。

 

「十全に術を振るえる魔術師や魔法使いより強い存在は、そういない。残念だったね」

 

レンはマシュを信じていた。信じ、入射角と反射角の計算、必要な魔力を練り、担っていた。

 

レンの魔術は、静かに研ぎ澄まされており──

 

その真なる力の発揮を、待ち続けていた。




マシュ「レンさん!すばらしかったです!!」

レン「ありがとう。まともに戦えて良かったよ」

マシュ「はい!これからも先輩を、導いてくださいね!」

レン「頑張るよ。……さて、この羊水を浸した器…」

それを、二人は持ち帰りラーヤへと渡し、託す。


「これは、なんでしょうか?とても、懐かしい匂いがします…
…」

マシュ「きっと、生まれに関係するものです!」

「…はい。不思議なものですね、分かるのです。これは、私の生まれたところ…産みの母の一部であると」

そして、ラーヤは告げる。

「…感謝します。貴方のおかげで、やっと覚悟ができました私は知りたい。私がどのように生まれ、タニス様と出会ったのか。…そしてまた、心から、あの方を母と呼びたいのです」

レン「…辛いかも、しれないよ」

そのラーヤの問いに、レンは返した。

その羊水は、祈祷書に書かれ理解が及んだ。

数多無数の種族と姦淫を結んだ娼婦から、取り出されたもの。

蛇と人の禁断の儀式により生まれたもの。

それが───誰なのかを。

レンは静かに、見定めていた。
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