人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
リッカ「なるほどぉ。生まれがどうしても気になるのはしょうがないよね、うんうん」
レン「案外驚かないんだね、リッカ。肝が据わっているのかな?」
リッカ「蛇がヒロインだなんて珍しくもないよ。ね、きよひー!」
きよひー『好き!!!!』
レン「そっかぁ。杞憂だったね。それじゃあ、少し付き合ってくれるかな、マシュは疲れて眠っているし」
リッカ「ラダーンさん呼ぶ?私の中で歓迎会開かれてるよ」
レン「あ、なら大丈夫。彼女のお母さん…タニスに話を聞きに行こうかなって」
『蛇の羊膜』
レン「間違いなく、何かを知っているだろうからね」
リッカ「…!」
「貴公ら、見たのか。あの娘の、ラーヤの…、真の姿を」
タニスにレンが伝えた事。それは、彼女の本当の名前と、姿を知ったこと。
ラーヤはゾラーヤスであり、ヘビの体を持つものであり、そして、自身らのカニ同盟であるということをだ。
「カニ?」
リッカが首を傾げる中、タニスは沈黙する。傍らの坩堝の騎士も、僅かながらに戦意をもたげたように感じ空気がひりつく。
「…。…いや、彼女が貴公に、ゾラーヤスの名を伝えたのなら。
私が何を言うべきでもあるまい」
だが、その言葉は納得と許容であった。ラーヤの、娘の判断を信じた事を、思わせる一言であった。
「だが、育ての母として願わせてくれ。ゾラーヤスに、これからも、よくしてやって欲しい」
そしてその次の願いは、娘との変わらぬ交友と親愛、その嘆願であった。血は繋がっていなくとも、そこにあったのは確かなる娘への情愛。
「その姿が何者であれ、あれはよい娘なのだ…私などには、勿体ないほどにな」
タニスは肌の見えぬ衣装と、仮面をまとい表情は伺いしれない。しかしその声音には、娘の身を案じる確かな母の慈愛があった。リッカの対話能力も、それを裏付けている。
「ソレはもちろんだ。私達は、姿形や生まれで差別なんてしない。ゾラーヤスはカニフレンドだよ」
(カニ…?)
「でも同時に、いつまでも無知のままじゃないよ、彼女は。彼女は知りたがっていた。自らが恩寵と共に生まれていたのか。確かな、タニスとライカードの娘であったのか。それをね」
「!」
「知ることを、知ろうとすることを止めることは出来ない。娘の知りたいという気持ちをあなたはどう想う?一人の、母として」
レンは問うた。そしてタニスは、娘の機微を把握していなかったのだ。
「あの娘がそんなことを…様子が少しおかしいと思っていたが、やはり悩んでいたのだな…」
タニスの声音は、怒りというよりも沈痛なものだ。
「…」
リッカは確信する。そこにあるものは、昏き秘め事であると。
「…ゾラーヤスは、貴公らに心を開いている。だからこそ、分かって欲しい」
そしてタニスは、真摯に告げた。
「…知るべきでない真実もある。生まれなど、当人に何の責もないのだから」
「ソレは……」
「分かるだろう?我らは、黄金樹の律に弓引こうとしているのだ
生まれなど、くだらん話じゃあないか」
生まれなど、大した意味を持たない。たしかにそれはそうだ。レンは生まれたことより、どう生きるかが大事だと言う事を理解し、問うていた。
「そうかもしれないね。生まれに当人の責は問えない。問えるはずがない」
「…………」
「それでも、聡明な貴女が育てた娘だ。いつまでも無知蒙昧の愚鈍に甘んじるような娘じゃないことは、あなたが一番理解しているんじゃないかな?」
ここで、リッカにレンがウインクめいた目配せを見やる。
『何かいい感じのフォローをしてほしいな』
との意志を読み取り、リッカは口添えを行う。
「あなた達は、単なる奪い合いや無知蒙昧が嫌だから反逆して、冒涜の道を選んだんでしょ?ならその娘のラーヤちゃんも、親の思うままの存在ではいられないはずだよ」
「…!」
「親が気高く、そして雄々しいのなら。子どもだって繋がりや絆を求めるのは当たり前だよ。立派な親の自慢の子でありたい。そんな憧れは、止めることはできないよ」
リッカの胸に去来する、沢山の家族達を思い浮かべながら彼女は告げる。それは、彼女が常に思っていること。
彼女は、カルデアの家族に恥じない娘でいるために生きている。信念を有した人間は、この世で何よりも誇り高く強いのだから。
「素敵なお話しの途中に失礼します!」
そこに、割って入ったのはマシュであった。跳ね起きながら、マシュは慌てて告げる。
「ゾラーヤスさんの姿が、館のどこにも…!勧誘の任務でしょうか!?」
「……やはり、調べているのだろうか」
タニスの態度から、ソレは予想外であったことを一同は把握する。
「どうして、わかってくれないのだ…」
「子供が親の思い通りに過ごすことなんて不可能なんだよ、タニスさん。絶対、絶対にね」
リッカの言葉に、タニスは懐からとあるものを取り出した。それは、琥珀色の製薬。
「貴公ら、頼みがある。火山館の主人としてでなく、ゾラーヤスの母として」
それは、母の切なる願いであった。それを秘密としているが故に、それに触れたがどうなるかを知るが故に。
「もし彼女が、自らの疑問に答えを見つけ、それに打ちのめされていたらこの薬を、彼女に飲ませてあげて欲しい…辛いことは、すべて忘れてしまうように」
『忘却の秘薬だな、それは』
(ラダーンさん!)
その時、ラダーンがリッカの内から声を上げる。外には出ず、静かに渡された薬と意図を理解する。
『辛き事象を、忘れさせてしまうというのだ。何も知らなくば、疑問を抱いた事すら忘れたのならば、そこには痴愚の幸福が持つであろう』
「───それは、冒涜だよ。ゾラーヤスちゃんの願いの、想いの、人生と魂の!」
忘れたままで。永遠に疑問も持たぬままで。その娘への冒涜に、リッカの声音は荒ぐ。
「解っている、分かっているさ。私の願いは、ゾラーヤスの尊厳を愚弄している黄金樹が、我らにするのと同じように」
「じゃあ…!」
「だが、だが私は…、そう願わざるを得ないのだ…」
タニスはそれきり、俯いてしまった。彼女にも葛藤と、想いと願いがあるのだろう。
『ひとまず、留守を義弟ラスティとヘラクレス殿に任せ、我等は娘を追ってはどうだろう。恐らく、真実に向かった先にいるはずだ』
(…うん。そうだね)
リッカは走り出し、そして背よりタニスに告げる。
「タニスさん。あなたが、親としての自分をどう評価しているかはわからないけれど…」
「…………」
「そんなに娘に必死になってあげられる母親は、素晴らしい以外に表す言葉はきっとない。どうか、忘れないでいてください」
それだけを告げ、マシュの案内で駆け抜けていくリッカ。レンは、タニスにまた言葉を送る。
「知りたいと想うことは止められない。成長には痛みが伴うのも事実だ」
「……………」
「それでも、私は彼女に歩んでいってほしいと思うよ。辛く険しい道を、知ってしまったのだとしても」
レンも後を追い、駆ける。
「……良き友に、恵まれたな。ゾラーヤス」
タニスの目には、リッカやレン、マシュ達が…
良き知人や、友人の様に見えたのだった。
火山館 最奥
レン「ラーヤ!」
ラーヤ「あぁ、貴方がたは…」
ラーヤがいた場所、そこは生誕の間。
人が無数の蛇と交わり、また蛇に喰われ、人と蛇の子を産み落とす場。
無数の姦淫と堕落、生命の冒涜の果てに命を生み出す場所。
マシュ「ラーヤさん…!」
「…そう、ですね…。貴方がたには、お伝えしておくべきでしょう。私は、落とし子でした。恩寵などとは無縁の、おぞましい儀式の子だったのです」
祝福されぬ生命。正しく生まれない生命。ラーヤが、そうだという。
「それは、人からも、蛇からも、到底許されない…タニス様にも、許されるべきではないものです…」
ラーヤもその一つ。姦淫と儀式の果てに生まれた、恐ろしい生命であったのだ。
「…貴方がたには、とてもお世話になりました。でも、最後にひとつだけ、お願いします」
ラーヤはうなだれ、告げた。無数の蛇の死骸に囲まれながら、生贄の人間らに囲まれながら。
「どうか、私を殺してください。覚悟していたつもりでした。でももう…」
ゾラーヤスは、人でも蛇でもない。
親もわからぬ、どの胎で生まれたかもわからぬ。
何者でもない、誰でもない命。
「呪われたこの身から…自由になりたいのです…」
淫蕩と邪教、冒涜の果てに生まれた命に…
ゾラーヤスは、耐えきれなかったのだ。