人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ほう、お前はお前の道を歩むというのか、ラニよ。
全てを裏切り、自らの信じる道へ…。うむ、良い。
それは気高き孤高の気概だ。私はその道を、覚悟を好ましく思う。
では、私はそれを後押ししてやろう。
数多の裏切りや困難があろう。数多の誘惑があろう。
だがしかし。己が成し遂げるべき使命と想いを忘れるな。
さすれば、貴様を理解する者はいつか現れよう。
気高く、誇らしく生きるのだ、ラニ。乙女たる妹よ。
どれ、覇者に相応しい言葉遣いを教えてやろうではないか──
〜
ラニ『……貴様が堕してどうするのだ、あれほど偉そうにしておいて』
『………………馬鹿者め』
【おぉおおぉおおぉお………】
神殺しの蛇を討ち、表層に姿を現せし火山館の君主、ライカード。彼は今や、蛇の身体と一体化した巨大なる世界喰らいの大蛇であった。
狭間の地において、蛇とは冒涜と不吉の象徴。ゆえにライカードは反抗と叛逆の象徴として自らを喰らわせ、神に届く冒涜を果たさんとしたのだろう。
しかし、自分を完全に捨てる事など出来はしなかったのだ。ライカード、並びに大ルーンは蛇と混ざり、融合し、そして全く異なる何者かに成り果てた。
覇王の雄心は消え去り、ひたすらに食事と成長を繰り返す。それが今の、冒涜の君主の成れの果て。火山館の主の正体であったのだ。
【おぉおお………!!】
ライカードが、冒涜の聖剣を振り上げた。それらに、火山の溶岩を魔術と化したものを爆炎として纏い、振り下ろす。
【おぉおおぉおおぉお………!!】
「回避ーッ!!!」
リッカの指示に一斉に散開する一同。その斬撃は疾走する溶岩として、大地を焼き尽くし抉り取っていった。
「魔術と化した冒涜の斬撃…これはちょっと普通じゃないね」
レンの瞠目は、本来は自然現象にして呪術であったろうそれを完璧な魔術に落とし込まれたその手腕に向けられていた。月の魔術を手にしたラニ、重力魔術を極めたラダーン。それらに全く恥じぬ、レナラの血筋を受け継ぐ者。
「残念だよ。まともなら、ラニさんやラダーンさんみたいに語り合ってみたかった」
【おぉおおぉおおぉお………】
今一度、聖剣の斬撃が来る。それらを受けては、死は免れぬであろう威力を有しながら。
【むうぅ………!?】
だが、それは阻まれる。この場在る者は決して、その威容に畏怖するなど在りえぬ者達であるが故に。
「蛇の攻略には一家言がある。対処が適わぬわけでは無い」
ヘラクレスの、対幻想種ホーミングレーザー。射殺す百頭、その対ヒュドラに向けた宝具開帳がライカードに迎撃で放たれる。
【むぅうおぉおおぉおおぉお………!!】
それらの威力は甚大であった。ヘラクレスは押しも押されぬ大英雄。これらの怪奇や怪物、試練や困難など無数に経験してきた。
彼が敵に畏怖すること、恐怖することは絶対に無い。故に彼は大英雄であり、狭間の地においてリッカの護衛を任されたのだから。
「大蛇を狩るのは槍ばかりでは無いということだ、かつての覇王ライカードよ…!」
引き絞られ、ドラゴンホーミングレーザーがライカードを穿つ。それらの威力は甚大だが、更にヘラクレスに気づきを齎す。
(まるで命に届いておらぬ……)
蛇となったライカードの生命力はまさに圧倒的であった。ヘラクレス渾身の射殺す百頭はその身体を抉りゆくものの、結局は鱗を抉る程度のダメージしかもたらせていない。
(大蛇狩りは蛇を殺す槍。特効と言うが其の実、無二の手段であるということか)
それでもなお、ダメージは通る。ならば死ぬまで挑み放つまで。無数の積み重ねこそ、試練の踏破の秘訣なのだから。
【おぉおおぉおおぉお………!!】
しかし、ライカードもまた木偶ではない。それらを甘んじて受けるばかりでなく、反抗と反撃の様相も即座に整えていた。
「先輩!空が赤くなっていきます!」
マシュの声音通り、空が染まる。ゲルミア火山の上空が、血染めの紅に彩られていくのだ。
「ラスティさん!あれは!?」
「魔術の行使だ!怨霊を呼び爆導索のように連鎖範囲攻撃を行う予兆…!」
ラスティの見通しは、当たっていた。ライカードは火山の全てを統べ、並びに英霊の魂をも統べしもの。
【家族よ!共に喰らおうぞ!!】
【【【【【【───────■■■■■■!!】】】】】】
紅い空より無数に降り立つ、ライカードに貪り食われた英雄たち。ライカードの家族と化したそれは、無数の怨霊として生者全てに牙を剥く。
「ヒィン!いっぱいこっち来る〜!たすけてぇ〜!」
生命力において他の追随を許さないルゥ目掛け、無数の怨霊が彼女に殺到する。それは即ち、ラダーンの愛馬とレンも狙われるということ。
「『トープスの力場』…!」
しかし、レンはそれらを全て弾き飛ばす。呪術と魔術に連なるものであれば、それらは全てトープスの理論で対処が可能だ。
「私が弾く。ルゥちゃんは手綱を離さないで」
「ヒィン…死ぬ気で今は逃げさせて〜!」
怒涛のように迫りくる怨霊の対処に、二人は封殺される形となる。それほどに、食らった魂は膨大を極めたのだ。
『リッカ殿!これ程溜め込まれたあらゆるもの、個別の力では穿てはしまい!』
マシュにトレントの手綱を任せる中、リッカにラダーンが問いかける。
『私に考えがある!そしてそれは、数多の英霊と心を通わすそなたにしかできぬ役割も必要となるのだ!』
「マスターとして、ってコト!?」
『うむ!神とは違い、人は数多の者と力を合わせるものであろう?この怨霊を退け、ライカードを目覚めさせるには──!』
瞬間、膨大なる地響きが起きる。謁見の間が、火山全てが揺れていた。
【むぅううおぉおおぉおおぉお………!!】
足元から、溶岩が噴き出し始める。ゲルミア火山そのものが、まるで一つの生き物として脈動きしているのだ。それは、活火山が起こす最悪の災害として機能する。
『皆!逃げるんだ、その場所から離脱しないとまずい!』
ロマンが通信に割って入り、切迫の状況を示す。
『火山全体の溶岩が活発化している!正確には、魔術で火山の現象を再現しているんだ!』
「───火山噴火…!」
『現象的には超広範囲を巻き込んだ大規模爆発よ!即座に対処行動を取って!チリになるわ!』
オルガマリーの言葉の刹那、より一層火山の鳴動が巨大化する。それは立つのも困難な天地鳴動に変化し、火山を激震させる。
【何者も、我を律せられぬ………】
無数に降り注ぐ岩石岩。溶岩弾。噴き荒れるマグマ、血染めに染まる空。
高々と、冒涜の聖剣が掲げられる。世界喰らいの冒涜を、誇示するかのように。
【家族よ!!共に神を喰らおうぞ────!!】
その宣誓と共に、聖剣が深々と火山に突き刺さる。
それを契機に、火山の振動が破滅的に高まり、終末的光景が爆発的に広まる。
最早大地は融解し、空からは隕石弾が降り注ぎ、辺りには怨霊が無数に飛び立ち、生命を狙う。
それらはやがて、ライカードが巻き起こす超巨大な火山魔術の大噴火に全てが呑み込まれ────
【………ふふふ、はははは…】
低く響くような哄笑と共に、ライカードは眼前を見やる。
そこには、冒涜の大噴火が全てを呑み込み破壊し尽くした跡。
そこに存在していた生命は、何処にも存在していなかった。
冒涜の君主、ライカードの謁見の間には、誰一人として生存者がおらず。
その全ては、火山に飲み込まれた。
【おぉおおぉおおぉお………!ふはははは、はははは…!】
ライカードは確信した。この力は、神に届く。
先ほどの強き英雄達の魂を手にした、今ならば。
この身は、この力は。必ずや、神に届くであろう。
【ふふははは………!はははは────!!】
狂ったように笑うライカード。それは、確信した冒涜の成就。
【家族らよ!!今こそ共に神を喰らおうぞ──!!】
荒れ狂う火山の中心にて。
冒涜の君主は、ひたすらに神への叛逆の時が訪れた事に歓喜していた。
…………そして、空には。
ただ暗月が、静かに浮かんでいた。