人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
リッカ「ミリセントは確か、マレニアが失った矜持や誇り…そういったものを宿す存在。呼び合うのは当然かもしれないね」
ミリセント『ここは私も先導しよう。もし差し支えないのなら、どうか共に最下層へと向かってくれないか。リッカ』
リッカ「うん、勿論!よろしくね、ミリセント!」
ラティナ『私も、いつでも待機している。何かあったなら是非とも呼んでほしい』
リッカ「うん!それじゃあ、ミケラの聖樹探索開始だね!」
ミケラの聖樹。聖樹とは名ばかりの捻じくれ、歪んでしまった巨大な樹木に降り立ったリッカ達は、聖樹に通ずる都市『エブレフェール』に繋がる道へと目指し歩き出す。
「わっ、何アレ!?…アリ!?」
その樹木には、人間の数倍大きいアリが何匹も闊歩している様相を示していた。そして、人間には吹き鳴らせぬラッパを有した、白き団子のような身体を持つ謎の使者の存在も同じ様に。
「この場にいる敵と戦っても、収穫や旨味は少ない。一気に突破し、駆け抜ける事を推奨させてもらう!」
ラスティは即座に先陣を切り、迫りくる脅威や攻撃を打ち払い道を拓く。マレニアは万全でなくば決して勝てない相手。故に、些細な消耗や損失すらも可能な限り減らすべきといった考えであるのだ。
『それなら、私達が露払いを行おう』
『道を拓き、敵を射抜く』
「うん、解った!よろしくねふたりとも!」
リッカは遺灰として、ミリセントとラティナを召喚した。卓越した剣技を振るう片腕の剣士と、その場から動けぬが苛烈かつ精密な弓矢の腕前を持つラティナの二名。それらの力と尽力は、群がる敵や攻撃を尽く切り払い、撃ち貫いて活路を拓いた。
ミリセントはマレニアの縁者であり、唯一強くマレニアを感じる事ができる。聖樹に飲み込まれた建築物、橋といった危険で過酷な環境でさえも、リッカ達に安全な行程を約束する。
『なんか、ここにいるのって命の混じり物が多いんだね。意外にも門徒は広く募集してるみたい』
ルゥの指摘が示すように、ミケラの聖樹を護るかの如く襲いかかってくるもの、それは大半が忌者として遠ざけられる混種である事に一行は思い出す。
「ミケラは弱いもの、名もなきものをこそ祝福せんとした存在。そこには誰もが拒絶されず、受け入れられる理想郷としての場所たらんとされた地域だ。ここにいる者たちは、ただ救済の願いと共にやってきたのさ」
黄金律の治世において価値がないもの、すぐに消えてしまう儚い弱者の救済こそが、ミケラの願いであり想い。数多の祝福されぬ命、存在をこそ。ミケラはそれら全てを懐き救わんとしたのだ。
『狭間の地において、すべてを受け入れる楽園の理。ミケラはきっと、そういった世界を作り上げたいと願ったんだろう』
ミリセントの言葉に、リッカは神妙にうなずく。弱者の救済、そして新たなる世界において確かな居場所と想いを。それこそが、聖樹に侍り守護せんとする者達の正体であった。
『だが、ミケラは今行方が知れず、聖樹の成長は歪みきった歪なものとなってしまった。皮肉にも、黄金律を原理とする信仰と同じような終わりを迎えてしまった…』
「掲げている理念は至極真っ当だね、ミケラ。そりゃあ皆必死になって立ちはだかってくるわけだ」
マシュらは厳重に辺りを警戒し、迎撃しながら慎重に聖樹を降りていく。
聖別を受けたものとしてその決意と自負が力を与えているせいか、普段の弱いものらより攻撃と苛烈さは段違いのものであり、雑魚と決して呼べぬ、侮れぬような力を発揮し攻撃を行ってきているのだ。
『……しろがね人は知ってのとおり、足の不自由な忌み嫌われ種族だ。迫害を受け、生きる希望の見いだせぬしろがね達を憂い、この地に安寧を求めそして目指した』
ラティナが、その受けた差別が報われる可能性であることを伝える。弱く醜いからこそ、それらは真実として確かに聖樹に、ミケラに捧げられていることを皆は彼女の神妙な顔と声音から読み取る。
『それならば、既にいるのかもしれない。かつてカーリアに仕え、そしてやがてしろがね人の安住の地を目指して遥かな旅路を行ったとされる、騎士ローレッタが』
『む……。確かに、この地で聞くのは何らおかしくない名前だ。カーリアから離れ、しろがねの騎士として立ち上がったあやつ…なんら矛盾しない状況だったな』
ラニはカーリア女王の娘。当然ながらローレッタなる騎士の存在も、自らの歴史やそれによる争いを全て把握し網羅している。かつてカーリアを取り仕切っていた司祭に、ローレッタなる騎士がいた。
虐げられる命に、魂に、生まれながら害される残酷な世界より、弱きものを守らなくてはならぬ。
そう、強き者の責務たる強い使命感において、ローレッタはカーリアより離れたのだ。自らが望む世界。何者も害されぬ優しい世界の誕生を願って。
「もしかしたら、この道で出会うかもしれない…って事だよね」
【ミケラの膝下であるのならば、既に守護騎士の祝福を賜り重要な場所にて警護を受け持っているのはほぼ確実だ。ローレッタと言えばカーリアきっての使い手かつ強敵。熾烈な戦いとなるだろう。こちらも、可能な限りに全力を発揮せねばならない日は…目の前やもしれんな】
ラダーンの言葉に、重々しくリッカは頷く。話し合いの相手に応じるのであればそれでよし。そうでなくては、やはりお互いゆずれないもののために戦う他無いのだから。
そして更に、リッカ達は進んでいく。混種を退け、兵士達を下し、聖樹に通ずる道を。その足取りは揺らぎなく、盤石なコンビネーションを発揮していたのだ。
「さぁ、もうすぐで広場に出るよー。皆、気を付けてねー」
どんなときでもマイペースなルゥの言葉により、一同は気合を入れなおし踏み込む。聖樹の街、エブレフェールに通ずる場所に繋がる前の大広場。その地に、その存在は現れた。
『───止まりなさい。この地はミケラ様が残した聖なる樹と、それにまつわる者達の安息の場。そんな場所に、強き者達がなんの用です』
大広場より現れし、銀と青い装飾が施された、槍を有する騎馬状態のローレッタ。それが、ミケラの聖樹に至るまでの広場を守護する強固な英雄であったのだから。
『あなた方が何をしようとしているかは、私には拘りのないこと。ただ、この地にいる生命はこれ以上の迫害を受けないためにここにやってきた。この地を荒らし、穢すと言うのならば。このローレッタにとって、それは卑劣な侵略行為と同じ。…警告は行いました。これ以上先へは行かせません。全てのしろがねの生命達の為に……あなた達を、討ち果たしましょう』
戦闘態勢を取るローレッタ。俊敏たる愛馬であろう存在に騎乗しながら、一直線にリッカらを串刺しにせんと目論む。
【話していた通りの展開となったようだな…!】
リッカは素早くラダーンに代わり、堂々とした態度にて受けて立つ。
『我が絶技は全て、後の世に行き着く。救われぬ生命全ての安息に届くよう…研ぎ澄まされたこの武勇、ご覧に入れましょう…!』
こうして、聖樹最初の脅威たる番人。カーリアのかつての騎士たるローレッタとの対決の時が今、始まろうとしていた───。
ラティナ『ローレッタ……我等しろがね人を気にかけてくださり、感謝の極みです』
ローレッタ『!何故しろがね人が褪せ人達の味方を…!』
ラティナ『ですが、申し訳ありません。我々は、行かねばならないのです…!』