人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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ミケラの聖樹、最下層───。

本来神を迎え、輝ける聖樹になるはずだったその樹の下に、その根本に彼女は在った。

マレニア『─────長い、夢を見ていた』

彼女は、リッカらを見定め、身体を起こす。

『身体は貧金、血は腐れ』

欠け身、自らの右腕に義手を嵌め、

『幾万の屍を積み上げ、ただ一人を待つ』

無垢金の兜を被り、向き直る。

『貴公らも、知るがよい』

その姿は、熾烈なる女神が如く。

『ミケラの刃、マレニアを』

ゆっくりと、歩みを進める。

『敗れを知らぬ、在り方を』

ラダーンの双璧を成す、最強のデミゴッドが。


熾烈なる翼

「来る……!ミケラの刃、マレニア…!」

 

一同は速やかに戦闘態勢を取る。目の前にいる、ただ技量のみで最強の名を手にしたデミゴッド、マレニア。それが今目覚め、ゆっくりと刃を構え歩みを進めてきている。

 

「まずは前衛を私とラスティが受け持とう。その剣、如何程のものか…」

 

ヘラクレスが石斧を構え、ラスティが静かに暗月の大剣を抱える。まずは、二人がマレニアと剣を交える。

 

その時だった。

 

「──!!」

 

マレニアが、瞬間移動もかくやの速さでヘラクレスに踏み込む。それは、跳躍とも呼ぶべき瞬時の歩法。

 

「疾い!」

 

瞬間、ヘラクレスは打ち合っていた。マレニアと、瞬時に十、二十、それらを即座に上回る熾烈の剣戟。

 

目で追う事は叶わない。ただ、散る火花が、絶えず来る衝撃波が、苛烈なる出血が、その剣戟の激しさと壮絶さを物語る。

 

「ヘラクレスと渡り合う技量…!皆!指示通りに!!」

 

リッカは即座に仲間たちに指示を飛ばし、自身も戦闘態勢に入る。まずリッカは遺灰としてミリセントとラティナ、そして自身も魔力を練り上げる。

 

「レンさんは私の後ろに!絶対に御守りします!」

「うん、信じてるよ。マシュ」

 

魔術担当のレンはマシュとパートナーとなり、斬撃からの防御を図る。レンは魔術を駆使し、そのフォローをマシュが担当する形だ。

 

『サポートは任せて!的確に援護しちゃう!』

 

ルゥは単独で全員の回復とバフ、マレニアへのデバフを担当。何故一人かは明快、彼女は決して討たれぬ安定さを誇るからに他ならない。

 

『第二形態に備えて兄上は温存か。私の王、油断するな』

「解っているよ、ラニ。君の力も存分に借りる!」

 

ラスティは魔術、祈祷、武器全般においてヘラクレスをフォローする。大英雄の手の届かぬ部分をサポートし、また自身も戦う。王とは万能、不得手などないのだ。

 

「───!!!」

『……!』

 

ヘラクレスとの剣戟は壮絶極まるものだ。一振りするたび大地が砕けるような豪剣を、マレニアは義手の刀のみで打ち払い、鍔迫り合う。

 

「ぬぅっ……!」 

 

懐にきたかと思えば跳躍し離脱。距離を空けたかと思えば、熾烈極まる刺突。それらが見事に研ぎ澄まされており、僅かな油断すらもヘラクレスに許さない。

 

「はぁっ!!」

 

ラスティの暗月の大剣の光波も、突き刺すような鋭い足捌きのステップでかわしてみせる。その強さは、ただ刀で相手を圧倒する技法に極みを置き、ひたすらに特化させたもの。

 

「マシュの盾の裏からなら、一方的に魔法を使える」

 

レンが放つは無数の輝石魔術。レアルカリアに伝わる星の魔術を、魔力が許す限りに投擲。それが牽制、あわよくばダメージへと至らせることができれば、と。

 

「!」

 

しかしマレニアはそれらを一瞥した瞬間、義手刀の形態を変え振り払い、薙ぎ払うように輝石魔術の全てを切捨ててしまった。聖別された無垢金の刃は、魔術ですら退け切り捨てることが可能だったのだ。

 

「当たり前のように魔術を斬り捨てられた…後方職の立つ瀬がないよ……」

「気を落とさずに!必ずきっと好機が来ます!」

 

『出血、凍傷、発狂!なんでもいいからくらえーっ!』

 

ルゥの日課と趣味、ライフワークたるアイテムクラフト。彼女は人の創意工夫と生命力を愛し、信じるが故にアイテムクラフト担当に立候補していた。

 

その制作結果は大量であり、今や狭間の地のルゥはアイテムマスターを名乗るほどにアイテムに精通していた。故にこれらは、ルゥが自分で創作したアイテム達なのだ。

 

『!』

 

剣戟の最中、横槍のようにアイテムをぶつけられる事は想像以上に煩わしく集中力を欠くというもの。図らずか計算通りか、ルゥはその戦法から極めて高いヘイトを向けられる。

 

『うわぁ!助けて〜!?』

 

なんと投げられたアイテム全てを切り捨て切り払い、ヘラクレスを蹴り反動でルゥへと猛突進していったのだ。その刀の一撃は、容易く命を裁断するもの。

 

あわや、ルゥが惨殺される刹那、二つの戦力がマレニアを阻む。

 

『漸く出会えた、マレニア…!』

『!』

 

全く同じ太刀筋、同じ赤い髪、金色の瞳。自らの面影深き女剣士の存在を、マレニアは訝しむ。

 

『私はミリセント!マレニア、あなたが失ってしまった矜持と誇りは、私自身が宿し持ってきた!あなたにそれを返す為に…!』

 

『………』

 

『目を覚ますんだ!あなたは腐敗の神に抗い、人としての矜持を宿していた筈だったろう!』

 

ミリセントは必死に問いかけた。マレニアとて、最初には人の心や想い、プライドや矜持があったはずだと。

 

『………筈がない』

 

だが、そのマレニアの返答は冷たく、機械的なものでありすぎていた。

 

『兄さまが、約束を違える筈がない。神の愛、神の誘惑……』

 

『何を……』

 

『ミケラこそ、最も恐ろしいデミゴッドなのだから』

 

そう言うが早いか、マレニアはミリセントを蹴り飛ばし距離を取る。

 

「余所見をするのはやめてもらおう。傷付くからな」

 

すると、そこにはヘラクレスが仲間を救うために猛然と割って入る。

 

「ならばこちらも技量にて押し切る。一瞬千撃の技、受けてみるがいい!」

 

それより放ったのは、射殺す百頭、バーサーカー状態の宝具ナインライブズ。暴力的な斬撃を文字通り100発見舞う、単純ではないが、それ故に圧倒的な連撃の型。さしものマレニアも直撃すれば無事では済まない。

 

…それを、マレニアも理解したのであろう。秘奥ともよべるそれの、構えに入る。

 

『!!あの構えは!』

 

片足で跳躍し、身体を引き絞り刀を構える姿勢。ラスティはそれを見知り理解していた。それこそが、マレニアの剣技の中でも最強の──

 

『ヘラクレス殿!『水鳥乱舞』が来る!!』

 

水鳥乱舞。それはマレニアが会得した、圧倒的な手数による縦横無尽の斬撃。数多の褪せ人が、この刀の前に敗れた斬撃。

 

「受け止めてやるまで!」

 

百も承知で、ヘラクレスは宝具開帳に踏み切った。それは全力を出していないなどという、世迷言を覆すための一撃でもあった。

 

『…………!』

「──────!!」

 

二人の剣士と大英雄はぶつかり合う。瞬間に剣戟は衝撃波を伴い最下層にソニックブームを撒き散らす程であった。

 

再び地上へ降りたあと、ヘラクレスとマレニアは無数極まる斬撃の応酬を切り上げ距離を取り合う。

 

「受けきった!?ヘラクレスのバーサーク・ナインライブズを!?」

 

瞬間に百連撃を叩き込むバーサーク・ナインライブズは単純なる威力では他の流派の追随を許さない。一撃でも食らえば即死を免れる事はできない。

 

故にマレニアは、それら全てを刀で打ち払い、相殺し、あまつさえ反撃してみせた。

 

それらは如実に告げている。彼女の技量は、狭間の地における最高峰のものであると。

 

「絶対にこの人は、ここで目を覚ましてあげなくちゃいけない人だって事も再確認!」

 

その事実に、何よりもリッカは震えていた。

 

「そんなあなたを倒した時、きっと新しい景色が見えるはずだから…!」

 

そう。武者震いという高揚と熱狂からくる強者の喜びを浮かべながら、リッカは思案をまとめる。

 

(あのマレニアを無力化するのは……)

 

一同の思惑と白熱を加えた、最適解の化身。

 

(ミリセントしかいない!)

 

それの突破口は、彼女こそが寛容であると…

 

マレニアの良心たる彼女に、告げられなくてはならないのだ。

 

意識と意地、長期に渡る戦いが今、始まろうとしていたのだった…




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