人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
巨大な朱い花が咲き、その中からそれは生まれ出た。
無数の蝶が集まり、巨大な羽を生成する。
ふわりと浮かび上がり、それは一同を見下ろす。
【────腐れ!】
三度目の開花。完全なる覚醒。
腐敗の女神と化したマレニアが、一同の前へと現れた。
【─────!!】
身体中から朱き花弁が溢れ出る程の腐敗の力をみなぎらせながら、腐敗の女神たるマレニアは一同へと狙いを定める。それは、かつてケイリッドで咲き誇ったものの再現たる業。
【ッ! 緊急につき身体を借り受けるぞ! 皆! 退避しろ!!】
その脅威を誰よりも知るラダーンが表層に現れ、素早く指示を飛ばす。皆受けようとは思わず、一様に避難と退避を選択し散開を選んだ。
【!!!】
その刹那、巨大な花弁と化したマレニアが地表へと突き刺さり、巨大な一輪の花となって大爆発を巻き起こす。
辺りには腐敗の力が満ち溢れ、触れゆくものを皆腐らせた。それは、近寄ってはならぬ神の力。彼女がずっと抱えた神の宿痾。
『腐敗の女神…。いよいよもって完全にお披露目を果たしたということか』
ラニの忌々しげな言葉が伝える、完全なる神の覚醒。それを、マレニアは引き起こし選んだのだ。
【────!】
咲き誇った女神、マレニアの攻撃は先にもまして苛烈を極めた。ふわりと浮かび上がり、自在に空を飛び回りながら熾烈なる斬撃にて一同を縦横無尽に斬りかかり、その攻勢を押し付け叩きつけてくる。
『この姿はいよいよもって腐敗に取り込まれた姿…! オレもこの状態のマレニアにこそ、最も苦戦した…!』
ラスティが暗月の大剣にて彼女の腐敗に割って入り、その侵食を食い止める。かつて相対したマレニアの姿こそが、この腐敗の女神であるのだと。
『倒すだけしかできなかったオレだけど、皆は必ず違う道を選べる筈だ! どうかその道を! 探してもらいたい…!』
鍔迫り合いのち、渾身の力で押し返すラスティ。彼は今ラニの加護がある故、腐ることなくかの力と向き合う事ができる。
【─────!!】
だが、腐敗の女神の追撃は生易しいものではない。朱いオーラを纏わせながら、彼女はみずからの似姿である分身を無数に生成し、一同に向かわせ襲わせる。
「これは分身攻撃…! マシュ、気を付けて!」
『うわわわ! こっちに来るー!』
一同を同時に襲いかかる苛烈な分身攻撃。慈悲なく間断なく迫りくるそれこそは、必殺の連撃を纏い襲い来る朱き腐敗の力の奔流。
「ぬうううううううっ!」
【おおおおお!!】
ラダーンにヘラクレスはそれらを捌き切り、腐敗の力に対抗する。しかしそれは、必殺であるがあくまで分身たちの攻撃。
【……………!!!】
もう一撃。身体中より腐敗の力を漲らせた突撃の構えをとるマレニア。狙いを定め、今度こそ一撃にて全てを腐らせんと目論んだのだ。
【おおおおおおおっ!!】
狙いを定められたラダーンが、渾身の力にて突撃を打ち弾く。それにより軌道がそれた後、全身全霊をもって今一度退避する。
爆発時、咲き誇る腐敗の朱き花。おおよそ人が生きていけぬ地獄を作り上げる腐敗の力が、辺り一帯を満たし尽くした。
「なんて無茶苦茶な力の行使なんだ。道理も何もなくやたらめったらにすぎるよ、これは…」
レンの告げるとおり、先の熾烈なる剣技とはまるで違う、ひたすらに腐敗の力を押し付けてくる力押し。腐敗の女神と化したマレニアは、その力の権化となってしまっていた。
『聖樹の近くにありながら、この腐敗の力の行使…もう自分の大切なものや護りたいものも忘れちゃっているのかなぁ…』
ルゥは彼女の正気を懸念する。何度も開花を重ねた事により、記憶や正気すらも失ってしまっているのではと。
『…だが、これはチャンスかもしれない。今、彼女を蝕む力が全て前に出てきている。今の彼女を苦しめているものが』
しかしミリセントは、この状態こそを好機と捉える。今こそ、腐敗の宿痾を取り除きマレニアを救う絶好の機会に他ならぬと。
『かつて君達は、腐敗の力を焼き尽くした。その力をもって、今一度マレニアを焼き尽くす事が出来れば、その炎の中で今こそ私は彼女の中へと還る…!』
【されば、リッカと私の力を振るいマレニアを浄化するということだな!】
『その通りです、将軍。そして今こそ腐敗の全てを取り除く…!』
『腐敗の、全てを……』
ラスティはそれを聞き及び、得心のいった様に顔を上げる。
『ならばオレとラニは、この腐敗の根源たる外なる神を今こそ焼き払う!これからの先、決して腐敗が干渉すること無きように!』
「腐敗の根源…思い当たる節があるのだな、ラスティ殿」
『あぁ! オレは知っている。腐敗の神が封じられている場所を! そこに、オレとラニの力にてきっと…!』
再びマレニアが片足で跳躍する。それこそは、水鳥乱舞の前動作。
「であるならば行け、ラスティ殿! この場は我等が引き受ける!」
ヘラクレスが水鳥乱舞の間に割って入り、ラスティに向かわせる隙を作る。今この地に腐敗の力が宿っているのはマレニアのみ。ならばその大元を、今こそ断ち切る時なのだと。
【我が義弟よ! それを成し遂げたのであれば即座に戻れ! 炎によって、マレニアの腐敗を焼き尽くすのだ!】
『心得ました、義兄ラダーン! 皆、しばしこの場は任せるよ!』
『…決して死ぬなよ、お前たち』
ラスティは即座に祝福のワープを執り行い、その場より離脱する。ヘラクレス、ラダーン、マシュ、ルゥ、ミリセント、リッカ。それらで、この腐敗の女神を押し留める役割りを担わなければならない。
「耐久戦か…! 容易では無いが、やらねばならんな…!」
ただ倒すだけならば、困難なれどいくらか容易である。
しかしこれは、救う為の戦いだ。成し遂げる全てをせねば、たどり着く事は叶わない。完全なる勝利が遠のいてしまう。
『皆、手間を掛けさせて本当に申し訳ない。だが、もう少し、今少し力を貸してほしい…!』
ミリセントの願いに、一同は覚悟を決める。
マレニアを救うことが出来たなら、ミケラの悲願や狭間の地の脅威の一つが取り除かれる事となる。
何よりも、神の力を退けることは今を生きる者にしか叶わない。
【………………!】
『さぁ皆、より一層気合い入れていくよ!!』
なおも腐敗を刻まんとするマレニアの前にて、リッカの鼓舞する声が響き渡った──。
腐れ湖、腐敗の神殿
ラスティ『やはりここにあるんだな、腐敗の神殿…!』
ファストトラベルによりたどり着きし、腐敗の溜まりきった湖と、その神格を封じてある神殿。
『あの時はどうしようもなかった神格…腐敗の神を、今こそ討つ…!』
ラスティは焼き尽くさんと決意したのだ。狭間の地にて封じられし外なる神…
腐敗の神のすべてを、焼き尽くす事を。