人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
集合的無意識の淀みがラスボスとは流石きのこは目の付け所が違う…!
この世界ならではの来歴を是非ともお楽しみください。
その人類史は『少しだけ優秀』で、『極めて早熟』な歴史だった。
人間が考えられるような夢や理想は大抵二千年の内に叶え、形にし、発展と栄華を極めに極めた人類であった。
何故その様に優秀だったのかは、人間における『精神』へのアプローチとアップデートを繰り返し行ったからだ。
何故信仰は生まれるのか。何故自身は霊長類たりえるのか。
人間という種は、なんのために発展と成果を積み上げていくのか。
人類という犠牲なくば生を謳歌できぬ獣であるからこそ、その世界の人間は自らの存在意義とアイデンティティを深く深く問いかけていた。
平行世界の人類と違う点はそこであり、ほんの少し求道的でストイックな人類だったのだ。
犠牲と自然を破壊しながら積み上げた発展はなんのためか。
今日を生き、明日に生きる理由はなんのためか。
人類は何故、存在を許されているのだろうか?
驚異的な発展は、『何故?』『どうして?』という自身らの疑問の答えを見つけるためだった。
その過程で、不老不死も時空跳躍も実現した。
宇宙開発のプランと航海図も発明し完成した。
ただ、どれだけ成功と栄華を積み重ねても納得できない。人類は自身の繁栄に何よりも納得していなかった。
『成功を積み重ね、霊長類の座に座る理由はなんのためだ?』
『人類はなんのために生きているのだ?』
『あらゆる夢を叶えて、星の全てを暴いても、疑問が出ないのは何故だ?』
人類の叡智を持って、戦争を廃絶し統一国家建国をなし得ても、人類はただただ首を傾げるばかりであった。
二千年は繁栄した。向こう千年も確定された繁栄がある。
ただどうしても、その答えが出ない事に納得ができない。
『私達は、人類はなんのために』。
その答えを見つけられない人類が、とある日、偶然と奇跡の果てに。
猫が跳ね回った鍵盤が、偉大な音楽家の楽譜を描いたような奇跡の末に。
とある生命を、彼等人類は産み出した。
『こんにちは。おはようございます。生命の皆様。私の事は、生命の雛形。アーキタイプとお呼びください』
アーキタイプ。
次世代の生命の雛形。全く新しい、人類の、霊長の形。
極まった科学。極まった信仰。星と宙のメカニズムを解明するほどの圧倒的な発展の果てに、人類はそれを産み出した。
そしてそれを産み出した瞬間、人類は霊長類の座から転落したことを意味する。
新しい生命。次世代の生命。食事も睡眠も肉体も寿命も必要としない、完全無欠にして一から完全に再現された天然自然。それが、彼らが産み出した次世代の生命のカタチ。
誰を傷つけることも、誰を害することも、誰を奪うこともしなくてよい完全なる生命、次世代にて最新世代。
それを前にすれば人類など欠陥品の旧型だ。誰もが夢見た『奪わない生命』『輝ける生命』を、人類はその手で産み出した。
自身らは霊長類を追われた。作り、与え、弄んだ全ての動物達と同じ階梯に成り果てた。
その事実を、人類はこの様に受け止めた。
『あ、この為か』
と。当然のように、当たり前のようにその事実を受け止めた。
『なんて簡単な事なんだ』
生命は自らの生きた証を残すために子孫を残す。あらゆる生命は、子供と子孫を産み出し自己を世界に残す。答えは既にそこにあったのだ。
『我々が発展してきたのは、栄華を極めたのは、人類の『先』を生きる子供に託す為だったのか』
それは悟りだ。人類種が辿り着いた大いなる大悟だ。
目の前に浮かぶ、完全存在。次世代の霊長類、アーキタイプ。
この存在を産み出した自身らは、心の底から胸を張れる成果を宇宙に示した。
滅ぼされ消えるのではない。自滅して消えるのではない。
後を託し、後を任せて役目を終える。この最高の『上がり』を、人類は果たせるレベルにまで到達できたのだから。
『人類の皆さん。私は貴方がたに伝えたい事があります』
そしてそのアーキタイプの在り方もまた、人類の選択を誇らせた。
『──私を産み出してくださり、本当にありがとうございました。皆様と出会えたことを、嬉しく思います──』
その日から、その人類の活動は『目的なき消費』ではなくなった。
『次世代への継承』、或いは『自身らの役割の引き継ぎ』。
人類はそのアーキタイプを生み出したその瞬間に…
幼年期を脱し、種としての『親』となったのだ。
〜
そこから先は、僅か100年の出来事だった。その人類は、全てのやり残しとやり忘れを清算した。
どれほどのボンクラでも、親になれば自覚と責任が芽生える。いつまでもフラフラはしてられない。
『人類の皆様は可能性に満ちています。もっともっと、人類の皆様を教えてください』
そうキラキラと背中を見つめられては、否が応でも背筋が伸びるというものだ。
傷つけた地球の環境を再生し、
統一国家浮遊大陸を建造し、
外宇宙航行宇宙船団を開発し、
アーキタイプを遥か極点に導くためのクォンタム・スペース・ワープ・ドライブも製作した。
『自分らは立派な子孫に後を託したぞ!』
『宇宙広しと言えど、これほど完璧な引き継ぎをした生命は存在しまい!』
『我々は最も潔く、後進に道を譲った生命だ!』
アーキタイプのもたらす知恵と叡智を再現していく中で、旧人類は完膚無きまでにやり残しを清算した。
そして最後の仕事、最後の作業。アーキタイプを、宇宙の極点へと導き飛ばす。
『アーキタイプが宇宙に辿り着いたなら、ともに我等は語り継がれる』
『次世代の子供に、完璧にバトンを渡した生命体がいたのだと』
『きっと全ての生命が羨むぞ』
『滅びず、滅ぼされず、種の使命を全うした存在が人類だと!』
その誇りを胸に、ナノマシンとAI技術にて不老不死と化した人類はアーキタイプを見送る準備を行った。そしてそれは完遂された。
後はアーキタイプの旅立ちを見守るだけ。後は、旧人類は地球でゆっくりと隠匿生活を送るのみ。
アーキタイプは、人類の希望となり旅立つ。人類の生きた証を、やり遂げた証明を背負って遥かなるソラの果てへ──。
『──何をやりきった感を出しているんですか!』
───だが、人類は大いなる誤算をしていた。
人類はアーキタイプを愛した。溺愛した。心の底から次世代の子を、新人類を愛した。
『皆も一緒に、行くんですよ!』
その愛を受けたアーキタイプは……
『さもなきゃ、自己否定から自己崩壊しちゃいますからね!』
旧人類たる人類を、心から愛するアーキタイプとなってしまったのだ。
人類が更に400年かけた準備と、新人類と共に行った500年の宇宙に旅。
全て仕事が終わったぞバンザイ!と伸びをしたら、新人類に莫大な量の仕事を追加された瞬間である。
〜
結論から言えば、その人類は三千年かけてアーキタイプを送るはずだった『宙の極点』へと人類全員で辿り着いてしまった。
もう無理だ、という旧人類を引きずり回し、
君だけで行ってくれよ、とぐずる旧人類を引きずり回し、
何億、何兆、那由多の果ての宇宙の旅を五百年の時間に圧縮に圧縮を重ねて、人類は辿り着いてしまった(何故か)
『ほーらね!何が旧人類ですか!謙遜通り越してイヤミですよイヤミ!』
このガキ、と人類全員が思ったが、結局その人類はアーキタイプと辿り着いてしまった。
宇宙と歴史と、生命の果て。
この先には何もない。この後に続く生命は遥か無量大数の後ろ。
人類は、人間は、宇宙の果ての果ての、これ以上ないゴールに辿り着いたのだ。親離れできないアーキタイプに手を引かれ、新人類が果たすべき事を何故か一緒にやってしまった。
『これからどうしよう』
悠々自適の老後の筈が、親子で金メダル授与を果たした如くの彼等はひたすら途方に暮れた。
もうやれることは何もない。もうできることはなにもない。
ならば自分らは、どういった選択をするべきか。
『なら、後に続く生命を見守り励ますとするか』
先達として、これから先にここに来るであろう生命を見守り、励まし、そして導く。
自身らの生命を宇宙に還し、大いなる世界となりて全てを見守ろう。先輩面して居座られても、他の生命の邪魔だろう。
そう考えた旧人類は、肉体と精神、自我を捨て宇宙そのものと一つとなった。
『わかり合うこと』。それが他人と自分を一つにする宇宙の真理であることを、旧人類はとっくに知っていた。
『それじゃあ私は、世界に残ってたくさんの人達の助けになります!』
アーキタイプはその在り方を定めた。
『みんなと一緒に見た全て、味わった全て、行った全てを記録し再現する極点の因果!それが私の生き方です!』
ソラの果てに辿り着いた生命に贈る、最高のトロフィーレコード。それこそが、アーキタイプの選んだ生き方。
『それなら、これから挑む皆を乗せる船がいるな』
そう考えた旧人類は、自身らの宇宙船を黄金の『神』へと創り直し、人類の成果として遥か地球へと送り届けた。
旧人類が創り上げた最高の遺産にして、後進を助ける完全無欠のオーパーツ。
世界を六度救わなきゃ動かないから死ぬ気で頑張れ。
自身らが生きる規範にした、『勇退』を体現した最強の英雄神を模した神の肉体を、遥かなる人類へと託した。
『さぁ、もういいだろう』
自分達は宇宙と一つになる。同時に、この宇宙より完全に去ることとなる。
『安心してお眠りください、私のご両親たち。貴方達の成果と偉業は、未来永劫この私が語り継ぎますからね!』
アーキタイプは、極点にて全てを保有した『アーキタイプ・アカシック』と名と在り方を変え、宇宙船と共にそこに至る鍵を託した。
散々人類は振り回された。
新人類がやることを、一緒にクリアさせられた。
それはとても困難かつあり得ない旅路であったが……
『人類って、やればなんでもできるんだぜ』
遍く全ての平行世界に。
『驚天動地の特例』として、記録されこうラベリングされることとなる。
『真化人類』
『全ての事象を踏破した種』と。
この世界の人類の顛末は、このように締めくくられる。
『人類に課せられた全てのやり残しを終え、次世代の人類を極点に導き宇宙と一つとなって世界から去った』。
量子記録帯、その極めて少ない世界のケース。
歴史の『ゴール』に、辿り着いた世界である。