人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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ミリセント「そういえば、改めて伝えなくてはならない事があったよ」

リッカ「…!?」

ミリセント「リッカに。腐敗の魔の手より…狭間の地を救い出してくれて、ありがとう。皆にも、後でそう伝えておいてくれ」

リッカ「ミリセント…?」

ミリセント「短い間だったが…ほんのひと時とて、私は私として生きる事が出来たことを誇りに思うよ……──」


御祓の神炎

【! ……!!】

 

 

ぐらり、とマレニアの身体が大いによろめいた。腐敗の力の源泉、エオニアが討ち果たされたことにより、腐敗の力が大きく減衰を果たした為だ。

 

【……!!】

 

忌まわしくとも、ソレは半生ずっと傍に有り続けた力。揺らぎ、不安定となった事への影響は全く小さいものではあり得ない。熾烈を極めたマレニアが晒した大いなる隙であり───。

 

「今だ! どうか皆、最後の力を貸してほしい!」

 

マレニアとの苛烈なる対戦の、決着の瞬間の到来を意味していた。

 

『ここが好機なら、私も出し惜しみしないで全力を出しちゃおうかな!』

 

ルゥが密かに持ち込んでいた自身が最強と信じる鎧の一つ、『どんぐりメイル』に身を包み、鍋のフタと猫の手に扮した片手剣を装着する。

 

『これこそ、オトモのみが纏える最強の鎧! 『どんぐりメイル』だーっ!』

 

装着したルゥは意を決してコロコロと勢いを付け猛回転。精彩を欠いたマレニアへ一気に距離を詰める。

 

【……!!】

 

苦し紛れの振り払いを披露するが、そんな一撃にうっかり被弾するようなミスを事ここに至って犯しはしない。彼女は今、磨き上げたオトモスキルを発動し解き放っているのだ。

 

『喰らえーっ!!』

 

ルゥは跳躍し、そのままマレニアに向けてすれ違い様の一閃!

 

『……───メラルーガジェット。あなたはもう、麻痺っている!』

 

【!!!??】

 

カシャリ、とルゥのバイザーが締まると同時に、雷に打たれたかのようにマレニアが痺れ、硬直を晒す。

 

メラルーガジェット。ルゥがこっそり持ち込んでいた援護用の武装の一つであり、相手を猛烈な麻痺状態にさせ身体の自由を奪う、束縛性とスタン性能に特化したガジェット。

 

ルゥがハンターを助けるオトモに憧れ、血が滲むようなオトモアイルー修行をこなしたことを認められ、オトモアイルーらに贈られた必殺のサポートツールである…!

 

『今だよ、皆!』

 

「ナイスだよ、ルゥ。私たちも続く…!」

 

レンはラスティと協力し、『魔を敷く法』を展開。聖樹を焼き払わないよう、完璧な防護フィールドを展開する。

 

『聖樹を腐らせた腐敗を、今こそここに根絶する!!』

 

ラスティは狂い火ではない、自らに宿るもう一つの炎『アスラの炎』を展開する。これは重く、ひたすらに強く、しかし神聖なる神を焼き払う焔。アスラが宿した『神を殺す業炎』、その一端。

 

『私の王、傍には私がいる。憂いなく燃え滾れ』

『あぁ! 勿論だとも─────!!!』

 

マレニアの周囲、そして瞬く間に聖樹、そこに宿る腐敗を焼き払うラスティの炎。ソレは醜く歪み果てた聖樹の成れの果ての、介錯でもあった。

 

【ではこちらも締めといくぞ!! マレニアよ、かつての再戦、此度はこちらが勝たせてもらう!!】

『お願い、カグツチ! 力を貸して!!』

 

ラスティの『アスラの炎』を呼び水ならぬ呼び火として、リッカはカルデアよりカグツチの神威を自らに降ろす。その反動や熱を、最強のデミゴッドたるラダーンの魂が受け止め、燃え上がり力とする!

 

【ぬうおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!】

【ヒヒィーン!!】

 

我が身が燃えながらも、微塵も痩せ馬・サリアの歩みは揺らぐことは無い。ラダーンとリッカを乗せ、まっすぐとマレニアの下へ駆け抜け主を運ぶ。

 

【その身を蝕む腐敗!! 今こそ御祓にて浄化仕る!!】

 

そしてラダーン本人の重力魔術を完全解放。スクリュー回転を成し、その圧倒的質量と回転にてマレニアに浄化の炎を叩き込む──!

 

【がっ────あ……────!!】

 

直撃を受けた瞬間、マレニアとラダーンが神聖なる炎に包まれ、巨大な火柱となって燃え盛る。レンとラスティの魔術なくば、聖樹そのものが焼き払われ燃え落ちる程の超高火力の火柱が。

 

────これにて、全ての準備は整った。

 

「マレニア。今こそ貴女に、貴方が打ち捨てた矜持と人格をお返しする」

 

ミリセントは静かに、しかし決意を以て──刃を投げ捨てる。

 

「願わくば……この場にいる者たちを助ける、不敗の刃とならん事を────!!」

 

ミリセントは駆け出し、リッカらが燃え上がらせた神の炎へとその身一つで飛び込んだ。

 

カグツチ、火之迦具土神の炎とアスラの炎。全ての穢れと不浄を焼き払う二つの業炎は重なり合って、ミリセントとマレニアの二人……そこに害する腐敗を、今度こそ焼き払っていく。

 

【貴公、は────】

 

『マレニア。今こそあなたの兄ミケラの願いを、果たす時だ───』

 

ミリセントは全て覚悟の上で、マレニアに矜持を返す覚悟であった。

 

矜持を、自らを還すということは紛れもなく……自身の全てを捧げるということ。それは、ミリセントという束の間に生まれた人格を排すると言う事。

 

ミリセントにとって、腐敗から解き放たれた後の生はあまりに迅速かつ苛烈、そして鮮烈であった。振り返る時間が無いほどに、それでいて思い出せない事が無いほどに。

 

故にこそ、自らの使命に殉ずる事に迷いは無かった。思い出と、ミリセントという存在の生は最後の最期に鮮やかに彩られた。

 

ミリセントという存在が確かにあり、王たちの記憶の片隅に残ってくれたのなら。悔いなどあろう筈もなく。

 

ミリセントはその全てを、マレニアへと捧げ返却を果たしたのだ──。

 

【──────】

 

燃え盛る炎は暫し滾り、揺らめき、聖樹の腐敗を、焼き払い続けた。

 

それは強く激しくはあったが、狂い火のような恐ろしく、おぞましいものではない……ともすれば優しく、暖かみを感じるものですらある炎。

 

それらが聖樹を焼き続け、そしてそれがいつともしれぬ自然の果てで消え去った時…

 

「無事か、リッカ。ラダーン殿」

 

ヘラクレスが、リッカに声をかける。彼はサーヴァントであったため、霊体化で万が一に備えていたのだ。

 

【おぉ、ヘラクレス殿! マレニアはどうなった!? 顛末は!?】

『ラダーン将軍元気すぎ問題……』

 

あれほど燃えたぎる、燃え盛る炎の種火になっておきながらまるで意に介さぬラダーンの強靭ぶりにおののきながら、リッカは辺りを見渡す。

 

「ミリセント、マレニアさんは…!?」

 

「心配ない。彼女はそこだ」

 

すると、リッカの眼前より歩み寄る者。紅き髪、そして気高く美しき女神の如き美貌の女性。

 

『───本当に、本当に世話になってしまったな。王たる者達よ』

 

その身に刻まれし腐敗は消え去り、大半が腐り落ちていた身体は回復を見せる。表情は凛としてなお柔らかく、優しくリッカの頬を撫でる。

 

『ミリセントが持ってきてくれた矜持、誇り、誓い……。確かに私が、受け取らせていただいた』

 

「……!」

 

『最早この身に、腐敗はない。健康な心身がこれほど素晴らしく、得難いものだと君達は教えてくれた。このマレニア、感謝の念に…』

 

マレニアの紡ぐ言葉に、リッカは苦笑しながら返す。

 

「照れくさいかもだけど、無理はしなくていいよ。『ミリセント』」

 

君、という二人称を使った時点で、リッカには見抜かれて当然の演技であった。マレニアは……ミリセントは苦笑する。

 

『……恥ずかしい話だが、マレニアとミリセントの人格は混ざり、再統合されていてね…。私もこうして消え去ることなく、マレニアの主人格として共に在れているんだ』

 

「それじゃあ…!」

 

『あぁ。これより先も、私はこの剣で君達の刃として助力させてもらうよ。これは勿論ミリセントとしての願いでもあり、マレニアの償いと感謝の気持ちでもあるんだ』

 

【おぉ…! まさかマレニアと肩を並べる日が来ようとは!】

 

『マレニアからも、感謝の気持ちを伝えよう。『感謝する。王たる慈悲持つ、貴公らに』…とね』

 

一同は、安堵しながら集まる。

 

マレニアとなり、再誕したミリセントを、暖かく迎えながら。




ラスティ『後は、モーグとミケラか…その前に…』

ラニ『?どうした?』

ラスティ『あぁ、なに。この捻じくれた聖樹を…もとに戻してあげようかなって、ね』

ラスティは見上げた。

ミケラが抜け、抜け殻となった聖樹を。
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