人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
?『………………』
「──随分とお探しいたしましたぞ、ミケラ様」
?『………………』
「我が主、モーグ様の御心を取り戻さんが為に。──覚悟、なさいますように」
ミケラ『……………』
「純血騎士、アンスバッハ。───参る」
「いよいよ、確保していない大ルーンは二つ。確保し、修復ルーンを手に入れ、エルデンリングに掲げればこの地をより良くできる準備が整う。これから挑むのは『血の君主モーグ』で良いんだね?」
ラスティの確認に、一同は頷く。モーゴットの弟にして、報われぬもの、弱者のための王朝を夢見築き上げるために地下へと潜む、大ルーンを所持せしデミゴッド。ラスティは交戦経験がある為、ブリーフィングの体で皆へと情報共有する手はずとなったのだ。
【我等としても、知り及ぶはモーゴットのみ。破砕戦争においても、モーグは決して表舞台にはでなかった故に】
『だが、モーグは兄様たるミケラを聖樹より攫った下手人でもある。…いや、もしやそれすらも…』
ラダーンとマレニアに頷き、ラスティは皆にとある結晶を配る。ソレは紋章が刻まれし、赤き凝結した液体。
「モーグは外なる神、真実の母たる存在と交信し力を得ている。モーグと接敵した際に、必ずそれを飲むことを徹底してほしい。彼の恐ろしい『数え上げる呪い』から生命を護るために」
「数えあげる呪い…?」
「『トレース、ドゥオ、ウーヌス、ニーヒル』。この順番にて数え上げられる、血の君主の恐ろしい秘術だ。ニーヒルまで数え終わった時、周囲の生命は身体中全身から血を撒き散らし死ぬこととなる。その結晶は、その呪いを打ち消す薬になるんだ」
血の君主の秘術と、真実の母の力。それらを駆使するモーグは、類を見ない強敵であったとラスティは振り返る。
「この儀式を終わらせた際に第二形態に移行し、彼は翼を得て灼熱の血液を撒き散らす、忌み嫌われた宿命を愛する君主の力を全開させる。近接戦はオレとマレニア、ヘラクレスが担当するから、リッカにレン、ルゥ、マシュは距離を取りつつ出血の対策をしてほしい」
【むぅ、我が猛き依代に無茶はさせられん。任せたぞ、三方】
『了解した。マレニアたち兄妹の無念を晴らす意味でも奮起しよう』
『この陣営なら負けることは無いであろうが…私の王よ、懸念は別にあるのではないか?』
ラニはラスティの真意を問う。伴侶の問いに、彼は頷き続けた。
「……モーグは比類無き強敵だ。だが、それを踏まえた上で…『モーグとは、和解の道を探してほしい』」
ラスティは一同にその願いを告げる。ラダーン、マレニアは驚いていているが、ラスティは続ける。
「手段はともかく、モーグが行い願うは弱者の救済、そして虐げられし者への居場所を作ること。苛烈にして恐ろしくはあれ、彼は断じて暴君や暗君ではないんだ」
「ラダーンやマレニアみたいに、協力者になってくれる可能性があるってことかな?」
「ああ。…王朝を掲げる以上、同盟にせよ屈服にせよ、力を示す必要はある。必ず。そして…」
その時、ラスティをマレニアが遮った。ソレはミリセントでなく、マレニアの意志にして言葉。
『モーグは、我が兄ミケラに魅了されている。倒さねば、まともな対話は望めない』
「ミケラ…マレニアのお兄さんに、って事!?」
『あぁ。私は兄より全てを聞いた訳では無い。モーグがいつから正気を喪ったのかは定かではないが…今は間違いなく、正気を喪っている筈だ。兄様の目的…『神』となる、そのために』
マレニアの言葉は、ミケラの目的に通ずる核心に至るもの。彼女は仲間として、情報を開示した。
『いつか新たなる律を作るための案は二つ。それは聖樹になること、または神と至る事。片方の手段が潰えた以上、兄様はきっと、モーグを利用する算段を立てたのだ』
「モーグを利用…?何のために?」
『狭間の地の外には、マリカに見捨てられた土地がある。それは【影の地】。その地はマリカが初めて神となった地であり、兄様はそこで新たなる神となる事を目論んだのだろう』
そこまで言った時、ラダーンは天啓を得たかのように声を上げた。
【そういえば、母より聞いた事があるぞ!我が父ラダゴンより聞き及んだとされる、神の降臨の禁断の技法!】
『またあの男の話か……』
【『神の降臨には王の魂が必要であり、王の魂には依代が必要である』…!よもやミケラは、モーグを王の魂の依代にするつもりであるというのか!?】
『……兄様が王とする魂。それこそがあなただ。ラダーン兄さま』
ミケラの目論む計画に一足飛びで至ったラダーン。ラスティが、その概要を整理し皆に説明を行う。
〜
まず、ミケラは黄金律を捨てた。マレニアの腐敗を癒せる新たなる律を作らんが為に自らが行動を起こす。
そのプランの一つが、ミケラの聖樹。黄金樹に代わる新たなるシンボル、新たなる時代の導を作らんとした。
しかし、これはモーグにより失敗。新たなる王朝を作らんがため、ミケラを伴侶として王朝に招かんがために自らが赴いた。
しかしミケラ自身は既にラダーンを自らの王と定めていたため、切開され攫われた時点から魅了の力でモーグを籠絡。
そのまま、マリカ発祥の神の地に向かい自らが新たなる世紀を作る『神』として再誕する為に、モーグは利用されたのだ。
ミケラが神となるためには、ラダーンの魂を手に入れ、ラダーンを収める依代が必要となる。
その為には、誰かがモーグを殺し、ラダーンの肉体を破壊しなくてはならない。
それを担ったのがマレニアである。マレニアはラダーンに挑み肉体を破壊した後、モーグを殺めその肉体をラダーンの魂の依代にする計画だった。
モーグの肉体を依代に、ラダーンはミケラの王として再誕。
そしてラダーンという王は、神となったミケラをこの世界に呼び戻す。
モーグの尊厳を踏み躙り、ラダーンの魂を玩び、それにより齎される弱者救済の理。
それこそが、ミケラの願う『楽園の世紀』。
彼の目指す、最終目標の形であるのだと。
〜
『結論から言えば、私の王はミケラの傀儡に成り下がった兄上ラダーン、神となったミケラをまとめて叩き潰した。私もその戦いには、共に戦ったからな』
「あぁ。ラニと共に、私はミケラとミケラの王ラダーンを討ち果たした。これがその証だよ」
ラスティは、消えかけの光の冠を取り出し見せる。それが、楽園の世紀の儚い名残にしてミケラが神であった事の証明。
【あの餓鬼めが…!!腹違いと言え、家族たる者になんたる仕打ちを行おうというのだ!!】
ラダーンの怒りは、家族にして同胞たるモーグに対する仕打ちが存分に含まれていた。自身ではなく、モーグの尊厳のための怒りであった。
『兄様は、全てを捨てることが償いとおっしゃっていた。力も、肉体も、運命も。……そして、迷いや恐れ、愛すらも』
「…心のない神様なんて、ただのシステムだよ。誰も救ってなんてくれない、思わない。ミケラの選択は、誰も救えないと私は思う」
リッカの言葉に、ルゥはうんうんと頷いていた。彼女は見届けていた。とある神の、後世を思いやった誇りある勇退を。
「故にモーグを討つことは、ミケラの計画に加担すること。私は討ち果たし、殺すことしか出来なかった。だが、君達は違うはずだ」
ラスティは確信している。彼女らなら、必ず違う道を選べると。
「王の魂、そして依代が必要だというならば、リッカとラダーンはミケラの魂を引きずり下ろし、対話に持ち込めるはずだ。今の私達なら、ミケラを止められる!」
大ルーン、そしてミケラの暴走を止めるための戦い。故にモーグと戦い、下さねばならない。
「皆、共に行こう。ミケラを神に…心に愛なき神の座より取り戻すためにも!」
「「「「おーっ!!」」」」
一同はラスティの意思に賛同し、決心のままにそれを使う。
『純血騎士褒章』。モーグへの謁見叶うそれを使い、向かう。
血の君主、モーグ。ミケラの魅了を受けし、デミゴッドの下へと慶
そこは、地下でありながら星空輝く地。
一同は、朽ちた神殿の様相の祭壇に当たる場所に座するそれを見た。
繭のような、巨大な物体。
そこから出でる、枯れきった腕。
そこから滴る血液。血溜まりの中より、ソレは現れた。
モーグ【私のミケラよ】
陶酔しているかのような、優しき声にて語りかける。
【少しだけ、独りでお待ちください】
黒と赤の司祭服。魔王が如き忌み角を有する怪物の威容。
【来賓が参りました】
だがそこに、理知的な響きや慈愛の響きはない。
ただ、あるのはミケラへの愛のみ。
【───我らの素晴らしき王朝に!!】
現れた来賓、リッカたちに向け。
モーグは、血の歓待を見舞わんと聖槍を振り上げた──。