人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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アンスバッハ「ミケラ様、御覚悟を」


ミケラ『……………────!』

アンスバッハ「一安心です。我が刃、神人にも届き得ましたな…」

ミケラ『…………………』

アンスバッハ「モーグ様の魅了を解いてくだされ、ミケラ様。彼の王の尊厳を、弄んではなりませぬ」

ミケラ『………………』

アンスバッハ「聞き届けては…もらえませぬかな?」

ミケラ『……………──私は』

アンスバッハ「────!?」

(目眩が…これは…!?)

ミケラ『私は、誓います。楽園の理、千年の旅を』

(言葉、視線…動作の全てで、魅了を…!?)

『私だけを、想ってください──』

アンスバッハ「ぬぅ、うう……っ」

ミケラ『さぁ──』

アンスバッハ「…ミケラ、様……」



ありがとう!アンスバッハさん!



アンスバッハ「───!!」

ミケラ『…!』

アンスバッハ「…いけませぬ。かの娘を、彼女らを落胆させ裏切る真似は…どうしても」

ミケラ『…………』

アンスバッハ「彼女らこそは、我が王が求めし者ら──!」

ミケラ『………………………』

アンスバッハは、消えていた。撤退したのだ。

ミケラ『……………………』

ミケラは、ただ静かに佇んでいた。

その目線の先には…

厳かな、塔の町が屹立していた。


一欠片の愛

【来訪せし賓客は、私自らがもてなそう。さぁいざ参るがいい…!】

 

 

モーグは自らの王朝に訪れた者たち、リッカらを歓迎し饗さんとせまる。手にする聖槍、王朝の象徴たるそれを振るい上げながら。

 

【トレース…!】

 

そして数え上げる。真実の母と交信せし、恐るべき呪いの儀式を始めんが為に。

 

(数えるのが早い…!ならば!)

 

ラスティ、ヘラクレス、マレニアが前線を形成し、リッカらは霊薬をマシュの背後にて飲み干す。霊薬を飲まねば、リッカとマシュ、レンは問答無用で失血死してしまうが為に。

 

「正気に戻す!アンスバッハ卿の為にも!」

 

ラスティとモーグが交戦する。モーグの大振りながら怪力の槍の一撃を聖樹紋の盾で受け止めながら、暗月の大剣の光波にて灼熱の出血を封じつつ戦線を維持。

 

【ドゥオ…!!】

 

なんとしても、リッカらの準備を保たせるまでの時間を稼ぐ。そうしなければ、戦いにすらならず希望を失うこととなるが故だ。

 

『貴公の相手は、彼だけではない』

 

瞬間、ラスティの肩を踏み台にマレニア・ミリセントがモーグを神域の剣技で切り刻む。その斬撃は、モーグをもってして不可視と回避の困難を備えた絶技。

 

【オオオオオオオオオオオオオオオ…!!!】

 

全身から血を噴き出し、たたらを踏むモーグ。ラダーンに並ぶデミゴッドたる彼女は、リッカとラダーンの抜けた穴を十二分に埋める活躍を魅せる。

 

【流れる血、傷と痛みは聖痕となり我等血の閨を満たす】

 

瞬間、モーグから流れ出す血が炎を伴い、辺り構わず灼熱の火の海となり埋め尽くす。

 

【ミケラの繭を血で満たせ…!我等王朝、今こそ開闢せん!!】

 

その発言や言動には狂気が満ち満ちており、彼の本来の人格を伺うことはできない。血塗れになりながら槍を掲げる様子は、神々しさと恐ろしさを同時に妊む。

 

【ウゥゥヌス……!!!】

 

そして、数え終えた。呪いの儀式、真なる交信たるおぞましき儀式。

 

「来るぞ!備えろ!!」

 

ヘラクレスの喝破と同時、偽りの夜空が真紅に染まる。それは、外なる神、傷と痛みを望む真実の母に捧ぐ血儀。

 

【ニィヒル!!ニィィヒィル!!ニィィヒィィイィイィイィイィイィイィイルッ!!!】

 

狂ったように天空に槍を掲げる。それは別の空間に繋がる、神体の体を傷付け、血を溢れさせる。

 

変化は、即座に起こった。

 

「こ、これって…!?」

 

その場にいる、生命の息吹を感じる龍たるルゥのみがその歓喜の血儀の意義を知ったのだ。

 

地下にいる、王朝に招かれし民たち。虐げられし居場所なきしろがね人や、それに連なる生物たち。

 

地下にいる全ての生命の全身から、血が大噴出する。肉袋に詰まっていた液体が、肉袋を爆発させ弾け飛ばしたかのように、朱い果実が破裂し果肉が飛び散るように。

 

霊薬を飲んだ者以外の全てが、モーグの恐ろしき儀式により即座に絶命した。生きていられたのは、ラスティに霊薬を託された者たちのみ。

 

【おぉお、民たちよ嘆くことなかれ…!お前達の聖痕、命は糧となってミケラの繭と閨を満たし尽くす…!】

 

そしてモーグに起きる変化。黒き翼が、モーグの背中に巨大な威容を以て展開される。外なる神と深く連なった事により訪れし、祝福。

 

【今こそ!!我らが王朝開闢せん!!!】

 

飛び立つモーグ。左手は既にこの場とは異なる空間に繋がり、真実の母の傷より灼熱の血を撒き散らす。それこそが、モーグが求めた救いにして、神託の形。

 

【おおお、ミケラを渡しはせぬぞ!ミケラは、私のものだ!!】

 

「───!!」

 

【私のォオォオォオ!ものだァァァァァァァァァ!!!】

 

縦横無尽に、モーグは空を飛行する。そして血を撒き散らし、槍の一撃を突き立てる。ヘラクレス、ラスティ、マレニアはそれらをかわし続けるが、灼熱の血は火の海となり、触れば焼け爛れる死の空間となり三人を追い詰めていく。

 

「皆さん!私の後ろから出ないでください!これでは熱だけでも脱水症状を起こしかねません!」

 

マシュらもまた、身動きを封じられる。それほどまでにモーグの攻撃範囲は広く、モーグは自在に動き反撃の糸口を掴ませない。

 

彼もまた、デミゴッド。それをミケラの魅了により無慈悲かつ盲目にされているためのリミッターの不在。彼を止めるには、正しく殺すより方法はない。

 

『余程徹底的に魅了されたか。あの餓鬼め、余程兄上を迎える依代が必要だったようだな』

 

その時、マシュらの周りの炎が即座に鎮火される。ラニの月の魔術が、呪いの血を祓ったのだ。

 

『和解の道を探せとは私の王の願いではあるが、無茶はさせられん。不可能であれば私の責任で殺害も已む無しと判断するが…』

 

「魅了………」

 

その時、レンの脳裏に何かが過った。この瞬く間に構成された不利を覆す、起死回生の一手。

 

確かに自分は、誰かをこれで魅了できたような、気がする。そんな確信と共に、皆に提案する。

 

「彼の魅了を、揺らがせればいいんだね」

 

「レン…?」

 

「ここにいるメンバーなら、きっとできる。ラダーンもいるなら絶対」

 

【我か?】

 

「ミケラはラダーンを魅了出来なかった。だからマレニアに、ラダーンの肉体を壊させた。つまりラダーンは自前で魅了を打ち払っていた。って事は、ラダーンの力を大ルーンに込めて殴れば魅了を揺らがせられるかも」

 

レンの言葉に、リッカの中のラダーンはおぉ、と頷く。ミケラの魅了は強けれど、まだ神ではない。魅了に抗う事は可能なのだ。

 

「そこで提案なんだけど…私が、…するから…」

 

「ええっ!?だ、大丈夫でしょうか!?」

 

「任せて。何故か分からないけど、上手くいく気がするんだ」

 

レンの言葉に、一同は僅かに迷い後に了承する。どのような手であれ、殺さぬ道ならば挑む他ないのだ。

 

「じゃあ、やってみよう。愛なき魅了なんて無意味な事を教えなくちゃ」

 

ラスティ、マレニア、ヘラクレスは懸命にモーグを押し留めている。空中を舞うモーグに、有効打を決めあぐねている膠着状態。

 

【この期に及んでは信じる他あるまい!いざ!!】

(任せたよ、ラダーン!)

 

ラダーンが表層に現れ、あたりを戦技【星呼び】にて震撼させる。それは、モーグを重力で叩き落とし縛らんがための一撃。

 

【ぬぅおぉお…………!!】

 

モーグは片膝をつきながらも、重力に抗う。動きを止めている時間はもって十数秒。

 

その隙に、レンはモーグの視界に入る。

 

「血の君主、モーグ」

 

【────!!】

 

レンは恐れず、躊躇わず彼の目の前にて───。

 

「目を覚ましなさい、ちゅっ♡」

 

【────────】

 

渾身の、投げキッスを披露した。彼女にとって、魅了への全身全霊のレジスト。

 

何故それを選んだのか、正確な根拠はおぼろげだ。ただ、これをして心を動かされた誰かがいたような気がして。

 

誰かに教わった、心を動かすための大切な手段だと魂が覚えていたような気がしたから、レンは躊躇わずそれをやってみせたのだ。

 

【────それは、愛、か…?】

 

(((効いた!?)))

 

果たしてそれは、微かなりともミケラの魅了を揺るがしたのか、或いはモーグの博愛は、完全に縛り一人独占はできぬ大きなものであったか。

 

【私は、齎すのだ…ミケラと共に、愛溢れし王朝を……!!アンスバッハ、エレオノーラ、翁、ヴァレー、ナタン、ネリウス…!!】

 

頭を抑えながら、モーグは再び翼を開く。

 

【邪魔はさせん!!生命には、愛こそが必要なのだ───!!】

 

それでも尚、ミケラと共に築く王朝を夢見て飛び立たんとする。

 

【ぬぅうあぁあぁ─────ぐおぉぉっ!!?】

 

瞬間、モーグは光の陣と鎖により地に縛り付けられる。それは、ルゥがラスティより受け取っていた切り札の一つ。

 

「これは!あなた専用の拘束具だー!」

 

忌み子たるモーゴット、モーグ。永遠に幽閉されし二人を縛る拘束具。それをルゥが、渾身のタイミングで使用したのだ。呪縛され、地に伏せるモーグ。

 

「これならどうだ」

 

レンは極めて真面目な様相でモーグに近付く。それは、前転でんぐり返しから繰り出される、魅了を強めた必殺の技法。

 

「エルフでんぐり返し前転投げキッス。正気を取り戻せー」

 

レン、渾身の投げキッスが再びモーグへと炸裂する。それは先程よりも距離が近い。

 

【ぐうぉおぉおぉおぉおぉお…………!抱擁、口づけ、接吻、求愛、無償の愛……!どれも、我等兄弟には無かったもの…!!】

 

モーグは譫言のように呟く。レンの投げキッス程の愛すら、モーグは与えられなかったのだ。

 

【私は認めん!!愛なき生命を容認する世界など!作るのだ、愛に満ち溢れた世界を!!王朝を!!】

 

「モーグ……」

 

【『私を恨み、呪わないで』などと───!もう誰にも言わせるものか──!!】

 

モーグは、力尽くで拘束を叩き壊す。そして、レンに向けて血を手に浸す。

 

【モーグウィン王朝に!!栄えあれ────!!】

 

その血がレンに投げられ、焼き尽くす刹那。

 

【モーグよ────!!!】

 

レンを庇い、躍り出る真紅と黄金のシルエット。ラダーンを宿した、リッカの侵攻。

 

【──────!!!】

 

それはモーグとの距離をゼロにし、音がするほどの握力を込めた拳を以て────。

 

【目を覚まさんかああああああーーーーーっ!!!】

 

【ぐごぉおおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおっ!?】

 

燃え盛る大ルーンの一撃を以て、モーグの横っ面を捉え殴り飛ばした。ミケラの繭の眼前にまで、吹き飛ばされるモーグ。

 

【ぐ、ぉお、お…………ぐはあっ………】

 

ラダーンの全身全霊の一撃を、リッカの鍛え抜かれた肉体を通じて出力され受けたモーグは、一撃で戦闘不能へと追い込まれる。

呆然と、モーグはミケラの枯れた腕を見やる。

 

【………おぉ…ミケラは、もうここにはおらぬ…私は、それすら気づいていなかったか……】

 

一同が戦いの態勢を解き、モーグに歩み寄る。

 

【…私は、一体…何をしていたのであろうか……】

 

モーグは呆然と呟き、動かない。一同は、それを……

 

「ひとまず、治療が先だよ。はい、ぬくもり石ー」

 

【…!?】

 

「お話はできますか!?顔の角が何本か折れてしまっております!大丈夫でしょうか!」

 

『案ずるな、デミゴッドはそうそう死なぬ。まずは治療してやれ。兄上の一撃は加減知らずだったろうからな』

 

【すまぬ!死なぬ程度にするので精一杯であった!】

 

『……そなたら、何故…』

 

そう、治療したのだ。交流どころか、慈悲すら受けたことなきモーグは呆然と返す。

 

「我々は、あなたを殺しにきた訳では無いのです」

『兄様の行方を…聞きに来たのだ』

 

一同は、モーグを労り話した。それすらモーグには、得難い経験であり…

 

『……先の、耳の亜人は何処に?』

 

「私の事?」

 

レンに、モーグは告げる。

 

『……あの様な、拙くぎこちない愛は初めてであった』

 

「ダメ出し…」

 

『だが……私が、初めて受けた…愛であった…』

 

モーグは静かに倒れ伏す。

 

愛を与え、弱者をいたわるかの血の君主は敗北を悟った。

 

敵ならば倒すだけだが、彼の魅了を跳ね除けし愛を導いた…

 

拙くぎこちない愛を、彼は倒すことも傷付ける事も出来なかった。

 




深き根の底


レダ「……どうやら、リッカはやってくれたようだ。流石、黄金樹に導かれし勇者だ」

そこには、血塗れに倒れ伏す死衾の乙女の亡骸。

レダ「ミケラ様は、神の門に至る。その為の依代は、ここに」

そこには、醜く穢れきった巨大な成長を続ける肉体。

「新たなる世界を懸けた決戦、それはあの地で行われる。…ゴッドウィン様と、暗き太陽を伴い」

レダは、静かに呟いた。

レダ「真なる神の生誕が、始まるのだ…」

黄金樹の根元に埋葬されし、デミゴッド最初の死者。

死王子ゴッドウィンの座にて、レダは回収した。

腐りきった、デミゴッドの遺体を。
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