人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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かつて、母は虐げられていたという。

角の生えた人々に、儀式の生贄にされるはずだったと言う。


それがすんでのところで神となり、力を得、虐げられる事は無くなった。

マリカにとって、角はおぞましいもの。忌まわしき過去。

忘れ去るべきもの。

それが、腹を痛めて産んだ子供に生えていた時の母の絶望はいかばかりか。

愛した男との間の子に、忌まわしき過去とおぞましき記憶が呪いの如くに備わったことへの、母の慟哭と涙。

それを、生涯忘れる事はないだろう。

『どうか私を恨み、呪わないでください』

神の威厳などどこにもない、ただただ震え、怯えながら平伏する母の姿が、始まりの光景。

それこそが───

私が愛を説く、変わらぬ願いなのだ。

変わらぬ、願いであったのだ…


希望を懐き、かの影の地へ

リッカ達の奮闘により、魅了よりモーグは解き放たれ、正気を取り戻すことが出来た。モーグは、モーゴットと同じく王の資質を持ち、大ルーンを所持するデミゴッド。

 

正気に戻った彼が行ったことは、自身の手により殺めてしまった王朝の民達の墓標を作ること。魅了による洗脳を、虐殺の免罪とせずモーグは自身の責とした。

 

【己の夢と、理想の下に集った者らを私は殺めてしまった。最早王朝を望む資格は私にはない…】

 

全ての民達の名を墓標に刻み、謁見の間を墓標で満たし終えた頃、弔いを手助けしたリッカらに、モーグは礼を告げる。

 

【ありがとう、愛と勇気に満ちし王たちよ。私はモーグ。頭にかかった霧を晴らす手間を掛け、すまなかった。個人として、礼を言わせてほしい】

 

モーグの振る舞いは厳格にして理知的。王朝の君主に相応しい風格を有している。これこそが、本来の人格たる姿。

 

【我が大ルーンを求めにやってきたのだろう?無論、譲らせていただく。感謝と、謝罪の意味を込めて】

 

あっさりと、エルデンリングの大欠片たる大ルーンを彼はリッカ達に託す。それは言葉通りの謝意と、自らは最早王になるに値せぬという意思表示。

 

【私は、殺めてしまった民の弔いと贖罪に残りの生命を捧げる。王の旅路を、邪魔はすまい…】

 

魅了によるとはいえ、愛する民を殺めてしまった。それはモーグにとって、最悪の禁忌を破ったに等しい。彼に再起の気力は、残されていなかったのだ。

 

『なぜ、あなたは兄様を聖樹から攫ったのですか?あなた程の傑物が、何故』

 

マレニアの問いに、モーグは誠実に答える。

 

【ミケラに、私は呼ばれていた。『聖樹に宿りはしたが、完全なる聖樹の成長にはまだ血が足りない。私と、あなたの血が必要だ』と。私は、彼の新たなる律…弱者を受け入れる世界を支持した。故に、私は聖樹に向かった】

 

【なんと!?ミケラが既にお手つきであったとは…!】

 

【彼は永遠に幼い宿痾を持つ。自らが一つになったとて、その宿痾でけして聖樹は完全に育たぬと知り、見切りをつけたのだ。…自らを神として、律を作る方向に舵を切った】

 

モーグはその時に、魅了を受けたのだと言う。ミケラが招き、聖樹を切開し、ミケラの抱擁を受け止めたその瞬間に。

 

【その繭は、隠されし地に続いている。かつてマリカが見出され、神となった地。見捨てられし者達の地…影の地に。我等王朝は、開闢の暁には影の地に向かう算段を立てていたのだ】

 

「狭間の地じゃなく、影の地に?」

 

【影の地とは、狭間の地より見捨てられし者達…黄金樹に見放された棄民達の住む場所である。そこに祝福はなく、ただマリカに見捨てられし土地。そこに我等が王朝が、見捨てられし影の地の拠り所となる。それが、計画であったのだ】

 

どこまでも救われぬものと弱者、虐げられし者達の為に。モーグの目的は、ただただ博愛であった。

 

【ミケラはその地に、我等が開拓した道を伝い向かったのだ。マリカと同じ様に神となり、黄金律に代わる新たなる律を敷く為に。…私は、恐らく依り代としてとしか見られていなかったのだろうな…】

 

その魔王の様な見た目にそぐわぬ、冷静で慈悲深く、礼節を抱くモーグの言葉を、一同は真摯に聞き及んでいた。

 

「ミケラ…無垢な存在かと思ったら、何から何まで計算づくで動いてるね」

 

『成長できぬ故の弊害だ。己は未熟で何も成し遂げられぬ故、他者を利用し、愛する事を強い、利用する事になんら罪悪感を有さない。無垢などとは程遠い、自覚なき邪気に満ちた餓鬼こそがミケラの本性だ』

 

ラダゴンがマリカと作った子供である点から、ラニの吐き捨てるような侮蔑と罵倒は手心を知らない。マレニアは哀しげに、兜で目元を隠す。レナラを捨てたラダゴンの罪に負い目を感じたのだ。

 

【ラニ、マレニアの前で兄を蔑むのはよくない。堪えなさい】

『………すまぬ、マレニア』

 

「いえ、良いのです。ラダゴンは義母を壊した。それは事実ですから」

 

「ミケラが神になるという事は、新たなる次代の理を敷くという事。オレ達がエルデンリングを得るのなら、決して避けて通れぬ決戦が待つだろうね」

 

「うーん、成長できないから極端に走っちゃうのかなぁ。ひとまず、話を聞いてみたいねぇ」

 

であるならば、ミケラの行く末を追うのであれば。一同は向かうべきだ。彼が向かった見捨てられし地。マリカが神となった地。

 

狭間の地の裏、影の地に。そこが、ミケラと決着を付けるための場所となる。

 

「──モーグ様。その様子では、正気をお取り戻しになられましたか…」

 

その時、繭の枯れた手より現れし人影。それは、モーグに仕えし騎士アンスバッハであった。

 

「アンスバッハさん!?」

 

【おぉ、我が純血騎士よ…!戻ったか!】

 

アンスバッハの手は、震えていた。それは、彼が感じた恐怖そのものだ。

 

「私は、ミケラ様と刃を交えました」

 

『!』

 

「私の刃は、ミケラ様を切り裂いた。しかしミケラ様は何をすることなく、その佇まいのみで…私を魅了する寸前にまで追い込んだのです」

 

【愛を強いるミケラの魅了…それほどであったか…!】

 

ラダーンの苦々しげな声音。アンスバッハは譫言の様に呟く。

 

「ミケラ様。私はあれが、心底恐ろしいと感じました。純粋で、穢れを知らず、輝きに満ち、ただ、愛のみで心を漂白する」

 

騎士としての誇りも、主への忠義も、自らの意志と尊厳も、何もかもを奪われただミケラ様のみを愛する傀儡へと落とされる

 

「それはなによりも恐ろしい、魂の殺害に他なりません」

 

アンスバッハは震えながら、モーグの腕の中でリッカの頭を撫でる。

 

「アンスバッハおじい様…」

 

「フフ、しかし…私を救ったのもまた、愛。私に愛と使命をくださった我が君主。そして、血の指たる私を慕ってくださったリッカ殿や、その朋友の皆様…。それが、ミケラ様に奪われるはずだった心を繋ぎ止めて下さった」

 

感謝を。アンスバッハは、確かにそれを伝え、震えを止めた。

 

「ミケラ様は、影の地に。あの枯れた腕に触れれば、至ることができましょう…」

 

命懸けでつかみ取った情報。モーグは立ち上がり、リッカらに乞う。

 

【王たる者らよ。どうかミケラを止め、王となっては貰えぬだろうか】

 

「!」

 

【神となった者が、盤石な治世を作ることはついぞ叶わなかった。我等が母マリカが出来なかった、或いは過ちであった道をミケラは辿らんとしている。それは、また新たな哀しみの土壌となる】

 

彼もまた、心に深い嘆きと哀しみ、絶望を有する立場である。しかし、その厳格かつ揺るぎない覚悟のままに願いを託す。

 

【そして何よりも…我が母の真意が、我が母の本当の想いが宿る故郷が在る地もまた、影の地なのだ】

 

「!ギルが先に向かったのはその為なんだ!」

 

【……私と兄、モーゴットは生まれた事により母を哀しませた。かの母は、かつて虐げられていた。その忌まわしき記憶を、我等は思い出させてしまった】

 

我等は、生まれるべきではなかったのだ。誰よりも愛を与えんとせしモーグは、その身に母の愛を一度も与えられなかった事を静かに受け入れていた。

 

【忌み子である我等ではなく、マリカと祝福、黄金樹に導かれしそなたらならば、きっと母の心に触れることができる。隠されし地、マリカの故郷、巫子の村を見つけ出すのだ】

 

「──きっと、そこが…マリカの本当の想いが宿る場所!そこで大ルーンを掲げれば…!」

 

マリカが願った、誰も傷つけぬ優しき祝福と豊穣の意志を宿した修復ルーンが出来上がる。マリカの心が、慈愛が、エルデンリングと世界を正しき方向へ導く。

 

【我が騎士達も、そなたらを助けるよう伝えよう。我が純血騎士もまた、そなたらの味方だ】

 

「モーグ様をお救いいただいた大恩ある皆様に、我が血と我が王に誓って御力添えを」

 

モーグは、モーゴットに並ぶ王の器であり、その愛の深さはデミゴッドにおいて随一だった。

 

【……我が母は、我等を見て絶望した。忌むべき角が、忌まわしき過去がそこにあったが故に。母は、子を愛せなかった】

 

「モーグ様…」

 

【王たちよ。新たなる世界を作るのならば…この様な哀しき悲劇を終わらせておくれ。腹を痛めて産んだ子供が、母に絶望を送らぬ世界を、どうか作っておくれ】

 

どうか世界に、等しく無償の愛が満ちんことを。

 

【王朝が掲げし愛を…そなたらに、託させてくれ…】

 

一同は、モーグに向けて力強く頷く。

 

…狭間の地にて、大ルーンは集め終わった。

 

マリカの意志にて大ルーンを束ね、マリカの願いの修復ルーンに生まれ変わらせ、エルデンリングとマリカを修復する。

 

そして──新たな神とならんとするミケラと決着をつける。

 

「いよいよ、旅の終わりが見えてきたね」

 

これより挑みしは、影の地。

 

マリカという神が生誕した、見捨てられし地である。

 

 




ルゥ「あ、モーグくん。ちょっといい?」

モーグ【む?どうされたかな、古き龍よ】

ルゥ「えーい(ハグ)」

モーグ【…!?】

ルゥ「愛されてなかった分、私が愛してあげるねぇ。愛を受け取って〜」

モーグ【………………………おおおぉ……………】

レン「じゃあ私も。側転投げキッス。ちゅっ」

リッカ「モーグ様魔王チックで超角カッコいい〜!!」

マシュ「ノブレス・オブリージュな振る舞いを是非ご享受ください!!」

ラダーン【フフ、我等は今更身体的特徴など気にせん!】

マレニア「これよりも、よろしくお願いします」

モーグ【そなたら………】

ラニ『次は血を撒き散らしてくれるなよ、兄モーグ』
ラスティ「あなたにたくさんの、愛よあれ」

モーグ【………………ありがとう。ありがとう、愛に満ちた者達よ………】

アンスバッハ(…レダ殿。あなたもきっと、本当に大切なものを見出だせる筈です…)

モーグに、一行が集う様を見て、アンスバッハは確信する。

彼女こそが、彼女らこそが。

愛なき世界を、救うのだと。
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