人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
レラーナ「これは、月の大剣…それに、レナラ姉さまの杖。となるとあなたたちは、本当に姉さまの名代であり、あなたはラニの伴侶たる王なのですね」
ラスティ「はい、義姉レラーナ。我が身はラニの伴侶たる夜の王。そして此処に在りしは、マリカと義母レナラに認められし王たる資格持つ者らです」
レン「レナラ様の次くらいには立派な魔法使いです(アピール)」
レラーナ「ふふっ…随分と愉快な仲間達と共に歩んできたのね、ラニ」
ラニ『私もそう思います。そして、今の狭間の地や影の地にも無いものを持つ者らとも』
レラーナ「……えぇ。それならば、メスメルの哀しみもきっと…」
リッカ「メスメルさんは、恐ろしい方なんですか?レラーナさん」
レラーナ「…いいえ。真面目で、実直で。それでいて悲観的で、自罰的な…哀しき人。その身に宿した炎を憎み、その身に宿った忌むべき蛇を憎み、苦しんでいる…」
リッカ「もし良かったら、メスメルさんの事を教えてください。メスメルさんの事…愛しているんですよね」
レラーナ「…解りました。私の知る限りの事を、お教えします。それが、あの人の救いとなる事と信じて…」
メスメル。串刺し公の名を冠する、赤髪のデミゴッド。マリカの子とされる男。
その風貌は手足が長く、美麗な風貌を有す。有翼の蛇を友とした、寡黙であり誠実な気性を有する男。
彼は妹と共にマリカに育てられ、王となるに値する充分な資格を有していた。特にその槍の腕前は凄まじく、黄金樹に仇なす者を尽く貫いたとされる。
しかし、狭間の地において彼を知るものは今や殆ど存在しない。それは、彼の有する宿痾にこそ関連し、その存在を秘匿、或いは黙殺されていたのだ。
彼は黄金樹の時代において決して許されぬ宿痾を懐き生まれてきてしまった。一つは、重く昏い燃え盛る炎。黄金樹の時代により封じ込められた、絶対の禁忌。
もう一つは、祝福なき深淵の蛇。かつてマリカが、自らの影獣たるマリケスと共に討ち果たした、宵闇の女王の化身たる蛇をその身に宿してしまっていたのだ。
炎と蛇。黄金樹における禁忌と敵対の象徴を宿したメスメルは、幽閉された妹とは別に影の地へと送られた。
祝福なき聖戦。黄金樹勢力に仇なす影の地の『角人』たる勢力の粛清と殲滅。その矢面に、メスメルは立つこととなり殲滅を行ったのだ。
祝福なき絶滅戦争。非戦闘員、集落などを問わず角人におけるあらゆる全てを焼き払い、焼き尽くした。メスメルと、それに従う軍勢はそれこそを使命として全うした。
メスメルはそれこそが母の願いと信じ、呪われし自分が母に恩を返せる無二のものとして忠実に粛清と根絶を全うした。
自らを恐怖の象徴とし、恐れと恨み、哀しみと憎しみの全ては自身のみを遮れば良いと定義して。影の地の全てを、メスメルは自らの炎で焼き払ったのだ。
それこそが母の願いだとした。それこそが、母の愛へと報いる…
否。忌むべき子である自らを愛してくれる成果だと信じた。
しかし…メスメルに、祝福が与えられる事は無かった。彼は影の地において、狭間の地へと呼び戻されぬままであった。
兵士達は口々に噂する。「我々は女王マリカに見棄てられたのだ」「メスメルは棄てられし、忌むべき子であるのか」と。
そして、裏切りと決裂もメスメルを苛んだ。
聖戦をともにくぐり抜けた彼の戦友、黒騎士アンドレアスがいた。
彼はメスメルの無二の友であり、敬虔な黄金樹の信奉者であった。それがメスメルの身の蛇たるを知った時、彼を糾弾し息子と共に反旗を翻した。
息子もまた、メスメルの友であった。しかし、信仰の前に友誼は意味を成さず、メスメルは戦友とその息子とすら戦う事となった。
彼は二人を退けたが、殺すことはできなかった。戦友たる情を、棄てることができなかったからだ。彼は二人を幽閉し、そして深く深く嘆いた。
影の地の生き残りたちからは、文字通り蛇蝎の如くに疎まれ、憎まれていた。角人の命、文化、文明などを等しく焼き尽くしたからだ。彼を憎み、その命を狙う者は数知れない。
見棄てられた黄金樹の民の諦観に、憎悪を募らせる角人たち。メスメルはその精神を着実に病ませていった。
炎を憎み、何度も何度も地面にたたきつけた。消し去ることはできないと分かりきっていても。
彼は祝福なき全てを敵とし、串刺しとした。それこそが、マリカから受け取った唯一無二の親の情だとメスメルは傾倒していたかりだ。
彼は今も影の城にいる。部屋の一室で、ただ忌まわしき己を封じ続けている。
彼こそは、恐るべき串刺し公。
そして、愛なき一人のデミゴッドである存在。
その身には宿っているのだ。
封印の木を焼き尽くすであろう、重く暗いメスメルの種火が。
彼は決して、黄金樹に愛されることは無い。
祝福なき深淵の蛇として、この見棄てられた土地にしばられ続けているのだ。
〜
「……私は、王女の立場を捨て彼の傍にいることを選びました。蛇も、炎もどうすることもできない、気休めにもならぬものと知っておきながら、それでも」
レラーナはレナラの妹であり、カーリアの女王候補でもあった。それでも全てを捨て去り、メスメルを支える事を望んだのだ。
「彼が、あまりにも哀れではありませんか。生まれもった宿痾だけで、宿命だけで、誰一人からも愛されないだなんて。メスメルが、あまりにも…」
レラーナの言葉には、メスメルを労しいと嘆く声音が宿る。彼女に全てを捨てさせるほどに、彼の生には一切の救いがない。
月の光が、彼を癒すことは決して無い。それを知り、解っていたとしても。レラーナは彼を想わずにはいられなかったのだ。
【我が母、レナラ。その妹、レラーナ。そして我が妹、ラニ。一つ解った事がある】
「最強魔術一家?」
【違う、レン!もっと心を見るのだ!情愛に篤いのだ、我らが家系の女たちは。ラニは義弟ラスティにこれ以上無いほど惚れ込んでいるし】
『だ、ま、れ。兄上』
【照れる必要はないぞラニ!愛無くして生命なし!愛を否定する世界こそ誤りである!】
故にこそ、レラーナは願わずにはいられない。メスメルの、愛する者のささやかな平穏を。
「ラスティ、そしてラニ。…これは、叔母としての願いとなります」
「はっ」
「…メスメルに、救いと安寧を。私に果たせなかった事を、どうか成し遂げて。その為に、私も力を振るう覚悟だから」
レラーナの願いは、メスメルの救済。それは、どのような手段で果たされるかをあえてレラーナは口にしなかった。
「メスメルは、祝福なき全てに死をもたらす事が自らの使命としているわ。ラニの王といえど、あなたは褪せ人。そして、破砕戦争のデミゴッド達に外からの旅人…。全て、メスメルは焼き尽くそうとするはず」
協力関係を結ぶには、無力化させなくてはならない。その力なくば、レラーナは自らが夜と炎の力を以て阻むつもりであったが…。
「あなたたちを信じます。どうかメスメルの炎と蛇を、討ち果たしてあげて」
「『魔を敷く法』を使えば、忌むべき炎くらいは没収できると思う。ここでもレナラ様の魔術は大活躍だね」
討ち果たす事さえ出来れば、メスメルを仲間に、或いは同盟を組むことも不可能ではない。殺すだけの旅ではないとは、そういう事であるのだ。
「約束します。メスメルを、あなたの下へ参じさせると」
『種火など不要だが、叔母の伴侶をそのまま不幸にはできん。そして、苦しむ輩を見過ごさぬお人好しどもがメスメルをそのままにはせぬからな』
ラニは正直なところ、メスメルの来歴などどうでもよかった。マリカの子である以上、遠き親戚以上の価値はない。
しかし、レラーナはメスメルを慕っていて、それが報われぬ事は容認できないという気持ちを有していた。レラーナはレナラの妹、叔母にして家族たる存在。
伴侶とはいかないまでも、せめて叔母の献身を省みてもらう。叔母の思慮を徒労にすることは断じて認めぬ、という想いを以て接していたのだ。
なんのことはない。ラダーンの言った通りである。カーリアの女は、皆深い愛情を伴侶に注ぐ者達なのだ。
「では、あなたたちをメスメルのいる部屋へと転送させます。準備はよろしいですね?」
その問いに、一同は頷く。レラーナと剣を交えることは無かったが、彼女は魔術と剣技を使いこなす双月の騎士。戦えば、メスメルの連戦により死者が出ていたかもしれないほどの傑物であった。
そして、レラーナの導きにより影の城の最深部へと飛ばされる。
そこは、種の保管庫。絶滅や根絶を嫌った部下の進言により、影の地の生物たちの生態やデータを保管する影の城の一画へと飛ばされる。
メスメルから、禁忌の炎を取り祓う戦い。
その戦いが、幕を開けようとしていた。
リッカ「ここに、メスメルさんが…?」
【─────不躾な侵入者よ】
リッカ「!?」
リッカの前にいたのは、赤き有翼の蛇。一行が構える中、声は響く。
【貴公らが、褪せ人か】
赤い衣装、死人のような白い肌、祝福が刻まれた金の瞳。
【母は、本当に王たるを託したのか】
2メートル近い体長。串刺し公メスメルが立ち上がる。
【光なき者などに…】
ラスティ「メスメル、聴いてほしい。我々は」
【だが、我が使命は不変なり】
メスメルは、右手にそれを宿らせる。
【黄金の祝福なき全てに死を】
そして、祝福なき者らを始末するために。
【メスメルの火を】
ゆっくりと、槍を構えた。