人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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リッカ「大丈夫?ルゥ様…」

ルゥ「チクッとしたぁ」

メスメル【……感謝する。母より、王たるを託された者らよ。そして…】

メリナ「妹よ。私は、妹。メリナ」

メスメル【……そうか。貴公らは、母の真実を求めているのだな】

レン「そうだね。マリカのみが知る、真に黄金樹の恵みが無限だった時代…それをふたたびもたらす為の修復ルーンを作るためにも」

メスメル【……母は、愛深きものであった。だが、この地の粛清を命じたのは確かなる動機がある。それを、貴公らは知らねばならぬ】

リッカ「動機…?」

メスメル【何故、角人を母は憎んだのか。何故、汚物とまで呼んだのか。……それもまた、母の一面。知らねば、ならぬのだ…】

メリナ「………」


善き人となるために

リッカ達は、メスメルに連れられて影の城の地下へと案内された。そこに、マリカが影の地を焼き払うに至った理由の一つが有されていると。

 

【我々は、彼女達を救い護るための使命をも秘密裏に授かっている。それこそは…彼女達の末路を、変えんとする為のものだ】

 

メスメルは、地下に火を灯す。照らされた先にある光景は、目を背けたくなるようなおぞましい存在が彩っていた。

 

【う、ぅう。ううぅぅ………】

【あぁ、あ、あ………】

 

破棄された壺、その中より現れたのは異形の肉塊。ぶよぶよとしたピンク色のぐじゅぐじゅとした肉塊が、這い出てきたのだ。

 

「うっ…!?」

 

【なんだ、この者らは…!?】

 

それは一見すればおぞましいだけの怪物だが、なんと二足で歩き、確かに意思が存在する。凝視すれば、それは背の高い女性の背中に、無数の肉塊がへばりついているフォルムをしている。常軌を逸したパッチワークの産物であろう。

 

【この者らには、意思がある。確かに考え、話ができる。……これらは、母マリカの同郷、巫子の村より攫われた女性の成れの果てなのだ】

 

肉塊の女性は、助けを求めるかのように縋り付いてくる。メスメルは静かに受け止め、語り出す。

 

角人の文化。忌むべき、おぞましき儀式の全容を。

 

 

ボニ村、という影の地の南西に点在する角人達の村がある。そこに介する角人達は、人から罪を取り除かんと様々な施策を施した。

 

悪人も改心し、いつか善人になるように。善人として生まれ、健やかな人生を送れるように。

 

そうしてボニ村は悪人達の更生所となり、連れてこられた悪人を善き人に生まれ変わらせる為の儀式が行われた。

 

まず、角人が罪人の五体を解体包丁で腑分けにし、バラバラにする。次は善き人に産まれてくるようにと。

 

そして、その五体と肉体を大きな壺に詰め込む。より良い存在に生まれてくるよう、熟成させるためだ。

 

ここで、悪人の魂を善とするため、『巫子』が必要となる。悪たる者の生まれ変わりを導くもの。穢れを知らない無垢なる魂を。

 

角人は『巫子』を繁殖させる村を見出し、そこより穢れの知らない少女達を攫い、悪人を導く魂、巫子として詰め込む事とした。

 

齢が一桁程度の娘の背中を、穢れきった歯で編み込んだ鞭でひたすらに打ち据える。泣き叫ぶ娘たちが、痛みで従順になるまで何度でも叩きつけ、ひたすらに。

 

そして、背中が見るも無残に膿み爛れた巫子達の肉は、腑分けにされ壺に込められた悪人の肉体とよく馴染んだ。そうして悪人と無垢なる魂は、壺の中で一つとなる。

 

さぁ、大人しく壺に入りなさい。お前達は巫子なのだから。そのために、お前たちは生まれてきたのだから。

 

麗しき娘を村より攫い、そう囁きながら壺へと詰め込み続けた。悪人を善人とするために。

 

巫子は皆麗しく、それでいて皆女性。それの数を増やす方法など、肉体的に強い角人達がどうするかなど語るまでもない。

 

巫子の村は角人の遺伝子により繁殖し、無垢に育てられ、そして攫われ壺に詰め込まれる。ずっとずっと、そうやってこの文化や風習は伝えられてきた。

 

だが、当然そんなもので本当に悪人が救われるはずもなく、爛れきった麗しき美女が、怨念に満ちた肉塊を背負った悍ましい怪物をひたすらに産み出すだけであった。

 

その風習はあまりにも非人道的で、恐ろしく、残酷だ。角人達ですら、若き者達は躊躇い、また麗しき巫子に誘惑され道を踏み外した。

 

壺に詰め込む事に嫌気が差した者もおり、壺にあらゆるものを詰め込み代替とする事を願ったものもいる。

 

正しいか悪かではなく、ソレは角人の風習であり、神聖な儀式であった。善き人を産み出すための大切な儀式。

 

そして、マリカは巫子の村の生まれ。無垢なる巫子の一人であった。

 

角人の誤算は、彼女が神へと見出された事だろう。家畜のように産まされ、利用されるだけの存在が神へと至り立場は逆転した。

 

マリカは苛烈なる弾圧と粛清を指示した。女子供も、あらゆる全てを焼き払い、滅ぼし尽くすようメスメル軍へと命令した。

 

メスメルへ粛清を指示したのは、自らがあの忌まわしい地を直視することがどうしても出来なかったためであろうと彼自身が語る。

 

メスメル軍は、角人の積み上げた文化の一切を焼き払い、焼き尽くした。

 

火を操り、理性的なメスメル軍がその所業を知ったとき、躊躇いなく村ごと焼き尽くす程の蛮行。

 

角人にとっての神聖な儀式であれ、それは人間やマリカから見たら唾棄すべき悍ましい蛮行以外の何者でもない。

 

『汚物を焼き払え。汚物を焼き尽くせ。忌まわしい角を生やした化け物どもを情けなく、容赦無く滅ぼし尽くせ。子も、孫も、全て、全てを焼き尽くせ!』

 

マリカがそう指示したのは、モーゴットとモーグを生んだ後であった。

 

『あの角を、あの角を殺せ!穢らわしい汚物の全てを、その文化を、その生命を根絶やしにしろ!殺せ、殺せ!全てを焼き払い殺し尽くせ───!!』

 

マリカを知るものからすれば、あまりにも苛烈かつ無慈悲な物言い。

 

だが、それはマリカの拭えぬ恐怖と怒り、そして絶望の記憶であった。

 

そして、最愛の男との子にすら、角が生え過去が追いかけてくる絶望。

 

マリカは完全に狂ってしまった。歪んでしまったのだろう。母らしい慈悲と、女らしい気丈さも、子の愛が反転した憎しみに支配されてしまった。

 

メスメルは、何も言わず全てを焼き尽くした。彼とて、粛清と虐殺を是とする筈がない。

 

だが……泣き縋り、嗚咽する母を振りほどけなかった。

 

『お願い。お願いよ、メスメル』

 

そこに、神はいなかった。

 

『お願い……助けて……』

 

そこには、恐怖に震える女が一人いるのみであった。

 

粛清の範囲は影の地全土に及び、角人は女子供問わず焼き尽くされ串刺しにされた。

 

『何故だ!マリカ、何故裏切った!』

 

『奸婦め!我等角人から生まれい出ておきながら!』

 

『あの毒婦を許すな! 女子供を護れ、立ち上がれ!』

 

メスメルはあまりに強く、角人たちを串刺しにし尽くした。

 

『おにいさん、どうして?どうしてこんなことをするの?』

 

火の雨を降らし、焼き尽くし、子供すらも串刺しにして。

 

『ぼくたちは、ただ生きていただけなのに…』

 

黄金の祝福なき全てに死を。

 

メスメルの槍は、あらゆる全てを貫いた。

 

そして、巫子達は保護された。そして治療を施された。

 

結果で言えば、もとに戻せたのは皆無であり、保護された無事な巫子はマリカの実働部隊、黒き刃となった。ゴッドウィン暗殺の際の部隊も彼女らである。

 

影の地、それは即ちマリカの生誕と絶望の地。生まれた宿痾と業が渦巻く地。

 

メスメルは、角人全てに憎まれている。自らの文化を破壊した悍ましい串刺し公として。

 

メスメルは果たしてどうするべきであったか。何を護り、何を害するべきであったか。

 

その答えを、彼は見つけられていない。

 

角人は決して、黄金樹に虐げられた無辜の民や弱者などではない。

 

ただ、敗者となっただけ。マリカとの絶滅戦争に敗れたというだけの話。

 

生物学的利用能有生物が、劣等種の烙印を敗者として刻まれただけの話。

 

これが、影の地における粛清の真実。

 

無限の豊穣を終わらせた、マリカの業にして原罪の全てである。






リッカ「はい、これでもう大丈夫だよ」

巫子「あぁ、あぁ……!ありがとう、ありがとう…!本当にありがとう…!」

レン「生きているのなら、どうとでもなるよ。私達には神様がたくさんいるからね」

マレニア「こちらにも包帯と治癒を!」

ルゥ「あわわわ、急いで急いで〜!」

巫子「あぁ、メスメル様…!ありがとうございます…!」

メスメル【…いや、私は…】

巫子「マリカの子は、あの子に似て優しく育ってくれたのね…!」
巫子「このご恩は、決して忘れません…!本当にありがとうございます…!」

メスメル【…………良かった。本当に…】

リッカらは、イザナミやアナーヒターの力を借り巫子らを治療。

そして、彼女達は導かれる。

マリカの始まりの地…巫子村へと。
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