人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
カドック「……必死こいてやった記憶しかないから、あんまり楽しい振り返りになるとは思えないが」
アナスタシア「それでも無駄な努力では無かったのだから、胸を張って誇りなさい。付き合ってあげた私が保証してあげるから」
カドック「………じゃあ、なるべく簡潔にな」
僕がカルデア…今の国家規模に膨れ上がったトンデモ組織に籍を置いてるのは、何も必然というわけじゃない。
懸命に努力はしたものの、肝心要の時に何も出来なかった役立たず。レフの仕掛けた爆弾に半死半生にさせられてた自分への評価は、決して覆らないものだった。治療され、不要なものとしてお払い箱。それが、人理を救うために集められたAチームの末路だったわけだ。
ごねたって仕方ない。世界を救ったのは藤丸リッカ。これは絶対に覆らない事実だ。今の僕からしてみれば、覆そうとする奴こそを僕は許さない。彼女たちの頑張りは、その栄誉に相応しいのだから。
…話を戻そう。ソレにしたって、彼女にも弱点がある。敵には強く味方の真心に弱いという弱点の他、もっとシンプルなものだ。
藤丸龍華は一人だけ。人類最後のマスターという存在に相応しい決定人材。彼女のスペックは最早時計塔の冠位ですら脅かせる領域にあると僕は思う(本人は開位魔術師だよ、と言ってるけど)
それ故に、彼女には全ての責任がのしかかる。成功の栄誉と同じくらいの、失敗の責任。万が一にも彼女が負け、あるいは死ねばその瞬間人類は終了する。
この重荷は、正直言って半端じゃない。百枚あるトランプの中、ジョーカーを引いたら世界の全てが終わります。さぁ無限に引き続けてください。あなたに望むものを与えましょう。そんなゲームに、彼女は挑んでいる。
たった一枚。たった1%。しくじったその瞬間、人類を滅ぼした戦犯として永遠に名を遺す羽目になる。それを、人類を救うその日まで行い続けるとんでもない作業。
一般人の精神がやっていいものじゃない。たった1%とはいえ【自分が全てを滅ぼし終わらせた】なんて引き金を引くと思えば、残りの99%がどれほど素晴らしくても心は囚われる。
いつまで成功していられる?
次の瞬間、全てを終わらせてしまうのではないか?
1%の最悪を意識してしまえば、あとはそれに怯えるだけの挑戦。『99回大丈夫』より、【1回引いたら死ぬ】という事実のほうが小市民には覿面なものさ。
その危険性を、オルガマリーは見抜いたんだ。彼女、肩の力を抜いたらまさに君主の器だったんだなと驚いた(本人には言ってないけど)。
その過程で、Aチームは再び再招集。リッカの言う『グランドマスターズ』のカタチが生まれる、きっかけになった出来事が…僕の挑んだ特異点。テストを兼ねたギャングの小競り合いの仲介だ。
結論から言えば、アナスタシアやうさんくさい教授やらの協力を受け、菩提樹の葉のオークションの胴元儲けに成功した…というのが正直な感想かな。
オークションに出された聖遺物は、ジークフリートの背中の弱点を生み出した聖遺物。魔術師に対してのとんでもないお宝。
それを悪用されないため、当の持ち主が竜鎧魔術を振るい、オークションの参加者を蹴散らしていった。
僕はそれに対し、捨て身で挑んでなんとかした。……アナスタシア、そんな顔をしないでくれ。自分の活躍を仔細細やかに覚えているほど僕はナルシストじゃない。
聖遺物は無事モリアーティやオルガマリーが回収し、僕はなんとか提供された課題をクリア扱い。こうして、僕はカルデアのマスターとして再び再起の機会を与えられて今に至る。
初めは、リッカにしょうもない嫉妬とやっかみを感じていた。
『僕だって、君みたいに出来るはずだ』と、身の程知らずの負け惜しみと劣等感から来る対抗意識。
だけど、今は違う。今はキリシュタリアとは違う意味で、キリシュタリアと同じ領域にいる傑物だとリッカを尊敬している。
さっきのゲームで話した小市民。それは言うまでもなく僕の事。僕の精神性はそうなるって話だ。
今は上手くいった。でも次は?
最後の最後まで、ハズレを引かない保証はどこにある?
そんな甘い話が、本当にあるのか?
僕は必ず、こう考える。やがてカードを引く手が震えだし、そして最後には進むことも、戻ることもできなくなる。
キリシュタリアは違う。彼は揺るぎない自信と研鑽、決意でもって自らの判断で当たりを引き続ける。揺るぎない才覚、才能、自己への信頼。そういう存在だ。
それに対し、リッカは迷わない。躊躇わない。自分が引くことを、挑むことから全く逃げ出さない。
彼女の耳にはイヤホンがついていて、彼女の服は皆が信じて仕立てたもので、彼女の手にはメモ帳がある。ハズレはどこだ、カードの傾向はどうだ、と。ありとあらゆるスペシャリストやエキスパートが、彼女のゲームを完遂できるように支えている。
彼女は逃げない。何故なら彼女は一人じゃないから。
彼女は諦めない。何故なら自分はたくさんの素晴らしい人に支えられているから。自分の命は、自分だけのものじゃない。
彼女がする事は、カードに手を伸ばし引くことだけ。キリシュタリアのように知り尽くしはしないし、圧倒的な自負はない。
ただ、絆を信じている。
『皆が大丈夫だと信じた道を切り拓いて進む。私のするべき事はそれだけ』
ゲームから決して降りない。自分の運命を皆に託し、皆の運命を力に変えて、絶望をねじ伏せていく。
キリシュタリアの孤高じゃない、絆と信頼の強さ。一人でなんでもできるくせに、自分以上に誰かを信じる。だから、1%の絶望に挑み、逃げない。
逃げない事。自分が唯一できる、世界を救うという『当たり』のカードを引き続ける戦いに揺るぎなく挑む事をやってみせる。誰より強いくせに、自分以上に誰かを信じている。
『たくさんの凄い人に支えられている私は凄いんだから、失敗も挫折もするわけない!』
…無茶苦茶だけど、とんでもない強さ。彼女が世界を救った、原動力の強さ。驕り高ぶるだけの魔術師には、絶対に理解できないし到達できない強さ。
敗北宣言のように聞こえるだろうけど…僕は、そんな強さを持った奴が世界を救ってくれて、良かったと感じている。
それは生まれ持った才能とか、家柄とか関係ない強さであり、僕もまた、持ち得られる強さだったから。
選ばれた英雄じゃなくて、『誰かを誇りに思えるお人好し』が、僕達のやるべき仕事を引き継いでくれた事。
何より、リッカが僕達と一緒に世界を救ったと言ってくれるような人間だったから、僕達は今ここにいるのだから。
…昔は卑屈なまま、『グランドマスターズのみそっかす』『お情けの数合わせ』だなんて予防線を張って、逃げていただろう。
でも、今は違う。リッカ程じゃないけど…僕にだって、支えてくれるチームメイトや、なんだかんだで見守ってくれる皇女様や、なんか呑気な吸血鬼がいる。だから、自分から逃げはしない。
僕はグランドマスターズの一員、カドック・ゼムルプスだ。周りの個性的な天才達と比べて、劣っているのは間違いなくても。
それでも、僕を強くしてくれる存在の価値は決して負けていない。僕を僕として強くしてくれた全ての為に、どれほど不適格だろうとやり遂げてみせる。
リッカがいつまでも、世界を救うアタリを引き続けていられるように支える。
そして、懸命に走り続ける彼女に追いついてやる。
皆で世界を救った暁に、彼女に全てを懸けて挑んでみせる。
彼女が駆け抜けた果てで、人と離れすぎたと寂寥感を抱かないように。
僕らは君と、対等でいられるんだって。
だから君は、一人ではないんだって伝えるために。
アナスタシア、申し訳ない。僕の振り返る価値のあるものはこれだけだ。
自分の功績や活躍なんてどうでもいい。
ただ、リッカという存在に挑み続ける。
それだけが…
僕にとって、価値ある全てなんだから。
アナスタシア「重いわね、マスターへの感情が」
カドック「そりゃあそうだろ。世界を救った……いや」
「世界と僕達を『救ってくれた』マスターなんだから」
アナスタシア「………ふふ、そう」
カドック「しまったな。これじゃただの決意表明だ…」
アナスタシア「いいのよ」
カドック「は?」
アナスタシア「あなたはそれでいいのよ。きっとね」
カドック「…それなら、いいけどな」
(…これからも、君は君のままに頑張れ)
「………────おめでとう、リッカ」