人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
マシュ「先輩はパワフル…パワフルなんですよ!ならばその影響を受けたアンリマユさんもパワフルなのは至極当然と言えます!」
藤丸マシュ「そうです。先輩はとてもパワフルなのです!」
「【「先輩いい………」】」
マシュ「………あっ。そうです!先輩と言えば、振り返らなくてはならない事がありました!」
「【?】」
マシュ「それは成れの果てでもあり…、でも確かに、『先輩』だった人のお話です。私が、覚えておくべきの…」
私はその日、エルキドゥさんと日課の全方位極限集中攻撃対処訓練を終え、自らの部屋に戻りました。その時に私は、不思議な体験をしたのです。
そこは、楽園カルデアではないカルデア。何者かの襲撃を受け、完全に崩壊していた別世界のカルデア…とも言うべき場所でした。本当に、誰もいない…凄惨極まる虐殺の後。私はそこに、一人でいたのです。
進んでみると、私はとんでもなく奇妙なものを見つけました。なんとそれは、超巨大なガチャガチャ装置! その中には入っていたのです…! 各世界の『藤丸立香』、即ち数多無数の先輩の身柄と存在が!
そのガチャガチャと無数の先輩を閉じ込め、そして悪用としていた存在。それもまた、『藤丸立香』の姿をしていました。なんというか、その…等身は、ヘンテコであったのですが。それは間違いなく、先輩でした。
ですがその見た目とは裏腹に、その先輩だった人は恐ろしくも悍しい計画を企て、そのために先輩達を利用しようとしていたのです。
その『先輩だった人』は、私の先輩…即ち『藤丸龍華』に成り代わろうとしていたのです。彼が言うには、力もあり、強く、誰にも真似できない唯一無二の存在たる藤丸立香である。だから、自分がそれに成ってやる、のだと。自分は世界を救い、数多無数の英霊を従える最高のマスターなのだから、それに相応しい存在になるんだ、と
〜
マシュオルタ【なんですかそれ! それいわゆる【イキリ鯖太郎】ってやつじゃないですか! とんでもない先輩がいたものですね!】
藤丸マシュ「…………哀れな……」
マシュオルタ【え? 哀れ?】
藤丸マシュ「恐らく、彼のそばに…マシュ・キリエライトはいなかったのではありませんか?」
マシュ「はい。その通りです。彼のそばには…私達は、いませんでした」
〜
先輩が戦うのなら、未来のために、生きる為に戦うのならば。私はいつだってお傍にあります。無断で離れるなどありえません。それなのに、彼の周りには誰もいませんでした。マシュ・キリエライトの気配も、何も。
それは、恐らく欠落した感情を埋めるためのもの。先輩だったものは、自身が喪ってしまったものを取り戻すために、錯乱して…私に襲いかかってきました。
それすらも、フレンドサポートのサーヴァント。自身が契約を結んだ筈のサーヴァントすら、彼の周りにはいなかったのです。
私は確信しました。彼こそは『藤丸立香』が選んだ結末のうちの一人。自尊心に食い尽くされた、かつて先輩だったものの成れの果て。
どれほどの理屈があり、過去があろうとも、誰かの人生を奪うなんてできない。許されるはずがない。私は、その怪物とは決して相容れないと確信し戦闘に入ったのです。
〜
藤丸マシュ「私を失った先輩……あの人を残して逝くなんて、考えたくもありません」
マシュオルタ【私はどうだろうな〜。リッカさんと誰かの殻を被っているからフレンドリーなだけで、本来のアンリマユはとんでもなく恐ろしいものなはず…私は生きていけないかもしれませんね…】
〜
異聞帯の王を差し向けた彼。私は三人の存在に最後まで戦わんとしました。
その時、私を助けに来てくださったのは先輩でした! いえ、先輩であり先輩でないのですが、紀元前一万年前から頑張って生きてきた先輩なので間違ってはいないといいますか…
と、ともかく! 私は彼の絶望の源泉を見抜いたのです。彼は名声や、富などが欲しかったわけでもなく、未来を望んでいたのではない。
彼は、ただ過去を取り戻したかった。自身の喪った、かけがえのないものを取り返し、今度こそ自身の運命を取り返さんとするために…
〜
マシュオルタ【とんでもない奴ですね! 喪ったのは全部自分の自業自得なのに、他人から奪い取ろうとするなんて!】
藤丸マシュ「……」
マシュオルタ【それで当然、そんな無礼なイキリ鯖太郎はやっつけたんですよね!?】
〜
はい。私が王から賜った、秘蔵中の秘蔵強化パーツ。それは聖杯たる万能の願望機…オルテナウスと共に、私の比類なき力となってくださいました。その力は、全ての藤丸立香さんの尊厳を護るために振るい、その怪物を討ち果たしたのです。
決戦霊基外装オルテナウス。御機嫌王とお姫様が一から素材とカスタマイズを吟味してくださった至高無二の逸品の力。私は、円卓に刻まれしゲーティアの光帯の熱量を円卓から放ち、その怪物を討ち果たしたのです。それこそが、彼の救いとなることを信じて…
〜
【倒し、生命を奪うことが救い? それはいったいどういう事なんです?】
藤丸マシュ「恐らく、その先輩がひたすらに蓄えた力の全ては…」
〜
はい。彼の望みと願いは、『マシュ・キリエライトとの再会』。いなくなってしまったマシュ・キリエライトにもう一度出会うため
に全ての藤丸立香の可能性を集めたガチャガチャを画策したんだと今は思うのです。
どれほど邪険に扱おうと、どれほど他人に成り代わろうと、決して満たされることのない願い。
だって、もう『消えてしまったマシュ・キリエライト』はどこにもいません。
いくら誰かに成り代わり、新しい自分になったとしても。それは『あの日のマシュではない誰か』に果たして納得できるのでしょうか?
それほどに慕った人ならば、きっと一番違和感を感じるのは自分のはずですから。だからこそ、あの人の野望は阻止しなくてはならなかったのです。
私は、いいえ誰もあの人の代わりには成れない。それを知りながら目を逸らし、自分を騙し続ける先輩の成れの果てを…私は倒すことで、終わらせたのです。
……その後の事は、ガチャガチャから先輩を救出したり、ぐだ子さんの力強い報酬交渉を行い、この件は幕を閉じたのです。
あの人は、ただ自身のマシュに会いたかったのでしょう。ですがそれは、きっと永遠に叶うことない夢、妄執の呪となっていたかもしれません。
先輩だった人の行いは、決して許されるものではありませんでした。私の先輩を景品、受け皿扱いなんて万死に値する愚行です。
でも…でも。それでも彼は『藤丸立香』だったのです。世界を救い、駆け抜けた旅路の主人公。
振り返り、というのであれば。ぜひ私は語りたかったのです。
そんな先輩がいたことを。
私達は、先輩と一緒にいられる幸せ者なのだと。
先立つ不幸を、決して行う事のないように。
そしてどうか、お二人にも覚えていてほしいのです。
確かに、誰も覚えておらずとももう一人…
私達を愛してくれた、先輩がいたのだということを。
藤丸マシュ「話してくれて、ありがとうございました。私もより一層、あの人を護るために頑張ります!」
マシュオルタ【いいなぁ、二人ともとても強くて…】
マシュ「他人事ではありませょ!あなたももっともっと強くなります!」
マシュオルタ【えっなんですかこれ!?強制参加なのですね!?】
藤丸マシュ「強くなるまで、返しません!」
マシュオルタ【そんなぁ〜!?】
マシュ「………改めて、さようなら。先輩だった人」
(あなたの救いになれぬとも、せめて私達は、あなたを覚えていますから…)
それは、とある一人のマスターの成れの果てとの戦いの記憶。