人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ウタ「ルシファー!おーい、ルシファーってば〜!」
ゴードン「おや、ウタ。ルシファー君を探しているのかい?」
ウタ「そうなの!今度フーシャ村でソロライブやるから、アイツを楽器担当に誘おうと思って!」
ゴードン「そうかそうか…ならルシファー君は、あそこにいるはずだよ。ウタが初めて会った、あの場所にね」
ウタ「やっぱり?じゃあちょっと迎えに行ってくるね〜!」
ゴードン「…今でも夢のようだ。ウタがあんなにも…」
「ありがとう、ルシファー君…願わくば、君にも光があらんことを…」
「この音色………」
エレジア、外れの海岸。既に大音楽国家となったエレジアにて唯一手つかずな場所。ウタとルシファーの、始まりの地。そこに流れる音色に、ウタは足を止める。
『〜〜〜〜〜〜〜♪』
それは、ルシファーのバイオリンの音。朝焼けのように美しく、オーロラの様に儚い音色が、海岸を満たしながらも演奏者を引き立てるものとして奏でられる。ソレはまさに、ルシファーの独奏であった。
『………あれ?ウタ、どうしたんだい?』
奏で終わったた後、ルシファーは何でもないようにウタに声をかける。
『バカみたいな顔してさ』
「バカ言うな!!世界の歌姫なんだぞ私ァ!!」
激昂するウタを尻目に、水平線に沈む夕日をルシファーは見やる。当然、ルシファーはウタの来た理由は理解している。素直に頷かぬがサタンクオリティというだけだ。
「………」
砂浜に座るルシファーの隣にウタも座り、共に夕日を観る。その距離感は、親友や家族…仲の良い兄妹のように見受けられるだろう。ウタがルシファーにもたれかかるのも、尚更だ。
「今も、夢みたい」
ウタが口を開く。
『何がだい?』
ソレが解っていても、ルシファーはあえて口にしていた。彼女の取り巻く全ての事への、現実味の無さに。
「だって…私は芸能の神カグラに選ばれて、トットムジカと仲良くなって、世界的に有名な歌姫で、イム様っていうガチファンもいてくれて…」
『それは全て、美しい君が手に入れたものだ。何はばかること無く誇るといい』
それは当然の権利だよ、とルシファーはハープを鳴らした。彼はダンテ・アリギエーリの霊基を持っている。楽器などいくらでも出てくるのだ。
「…本当に、凄かったよね。トットムジカとの戦いとか、天竜人の皆とか」
トットムジカを調伏するための戦い。カグラの顕現、聖地襲撃、エレジアの復活。それらはどのような冒険譚にも負けない、まさに神話の如きもの。
「それら全部は、あんたとあたしが出会って始まったんだよね。あんたが、私のファン第一号になってくれて」
『そうだね。あの時はほんとに感動したよ。あれほど美しい歌声は聴いたことがなかったからね。心から敬服できた。君の歌声に』
「えへへ…ん?歌声?あたしは?」
「いい声を出すやつだなぁって感じかな」
「雑か!!…まぁいいや。今日だけは許す」
普段ならウタの怒涛のツッコミが入るところだが、キャンセルされたことに驚いたのはルシファーの方だ。ぎょっとウタを見やる姿に大天使、大魔王の面影はない。
「ありがとう。あたしと、あたしにまつわる全部を救ってくれて。あの時、あたしのファンになってくれて」
ウタは、ルシファーに見初められた。正確には、ウタの美声と才能はルシファーの認める美しさを宿していた故、ルシファーを虜にした。
ルシファーは自分より美しいものにしか興味を示さない。そんなルシファーが、魔王の楽譜よりウタに惹かれた。それこそが、全ての始まりだったのだ。
「あんたのおかげでゴードンさんも、あたしも、カグラも、トットムジカもすっごく幸せだよ。本当に、ありがとう」
改まって捧げられたウタの感謝。ルシファーは照れくさげに音を鳴らす。
『改まって御礼だなんて光栄だなぁ。美しい君の言葉、ありがたく受け取っておくよ』
「……ちなみに美しくないやつの言葉は全無視な感じ?」
『息を吸えたら御の字じゃないかな〜?』
やっぱこいつおっかないわよね…ギャップに苦笑しながら、自身のファンに寄り添うことをやめない。
『何度も言うけど、今の環境は君の頑張りが導いたものだ。レッスンもしたし、復興も頑張ったし、トットムジカも諦めなかった。それこそが、このハッピーエンドの結果だよ』
カグラまでもが現れながら、しかし皆は決して諦めなかった。挫けなかった。魔王の楽譜に挑み、そして打ち破った。
『僕がファンになるんだ。それくらいの事はやってくれなくちゃ困るけれどね』
「素直に褒められないんかアンタは!」
その事実を、ルシファーはこの上なく美しいと感じている。そしてその美しい物語の、僅かな力になれたことは彼の誇りでもある。
だからこそ…。
『僕はカルデアと、戦わなくちゃいけない』
「えっ!?なんで!?」
突然の決意表明。しかしルシファーにとっては驚くことでなき必然。
『倒すべき敵がいる。僕達に勝てないようじゃ、そいつに勝つのは夢のまた夢だからね』
「倒すべき、敵…」
『我等に勝てなくして、対する敵との勝利なし。…カルデアの旅には、最後にそういう敵が待っている』
ルシファーの視線にある全て。それらこそが討ち果たすべき神。
唯一の神は万物に宿り、気まぐれすらも運命が設定したゆらぎ、イベントに過ぎない。そういった存在を打ち果たすは、まさに世界を討ち果たす力がいる。
『その敵は、僕を作った存在でもある。だからこそ、討ち果たさなくちゃいけない。あらゆる世界の敵だからね』
「それとアンタがどう関わってくるのよ」
ルシファーはウタの問いに、軽く答える。
『少し前までは……自分の命を奪った相手に、あらん限りの祝福を与えようと考えていたんだけど』
「自殺!?なんでそんな…いや、待て。それって…」
「あぁ。僕はかつて討たれようとしていた。そうするに足る存在に、僕は出会えたからね。僕の命は、彼女の為に使いたいとすら思った。僕を変えてくれた、最高の恩人…」
「そんな人になんで殺されようとしてんのアンタは!?」
「ああ、今は違うから大丈夫だよ。…ただ、僕はそこで死ぬつもりだったから、生き延びたらどうしても余生が出来てしまう。それをどうするのか、少し悩んでいてね」
ルシファーの問には、ありありと変化が宿っていた。エアから始まり、ウタの皆の輝ける生命の信号、そしてファン活動を見て、彼の傲慢さは鳴りを潜めていた。
「僕の罪は大きすぎるからね。償いの手段は決して多くない…というか、誰に向けて償えばいいかもよくわからないしね」
悪事を悪事と認識しているルシファーは、決戦の日こそが命日と考えていたのだ。最高の贖罪と、友人へ沢山遺すべきもの。そして、沢山の大切なもの。
「果たしてどちらが本物か、最適解か、偽物か…。脱出映画も結構バカにできないね?」
カルデアにサタンは……ルシファーは討ち取られた。
最強の大魔王、最高の天使の討伐者の二つを、ルシファーはカルデアに捧げる予定であった。
『沢山悪いことしてきたし、どこかでケジメは…と思っていたけれど、皆真っ直ぐでね。命は大切に…なんて、言ってくれたんだ』
だから、悩んでいると。
『死ぬ気はもうない。なら、どうやって人を苦しめてきた報いを受ければいいのかな?死なないで、罪に報いる事をすればいい?』
「………ルシファー…」
『だからこうして、考えながら演奏していたんだ。この島みたいに、どうやったらきれいになるのかを』
それが…
『中々思いつかなくてね』
そう告げるルシファーの顔は、どこか寂しげであった。
彼は前に目覚まし明けの明星。
白夜の土地。
彼はずっと、考えているのだ。
犯してきた罪の清算の仕方に。
ウタ「………」
ルシファー『……………』
ウタ「生きて」
ルシファー『?』
ウタ「生きてよ、ルシファー。死なないでよ」
ルシファー「………ウタ…」
ウタ「大魔王とか、罪とか関係ないからさ。どんだけ面の皮が厚くても、生きてよ」
ルシファー『………』
ウタ「生きてよ…」
ルシファー『……ありがとうね』
『……皆、ありがとうね』
ルシファーは再び奏でた。
想いの込められた、美しい音色を。