人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
『何をしに来た』
アダム「貴様を討ちに来た」
『愚かを極めし行いである』
アダム「それでも成し遂げねばならぬ」
『人の子如きが、肉の檻の虜囚が。並ぶ者なき栄光に満ちた我に歯向かうか』
アダム「貴様を討たねば、真なる意味で生命は芽吹かぬ」
「故に──神の玉座毎、私が葬り去らん」
『──涜神の報い、生半で済むと思うなアダム・カドモン。臓腑を引き出し、五体を砕き、永劫の苦悶の中へ誘ってくれようぞ…!!』
人たるアダム、神たるものたるそれは、無限に広がる始原宇宙にて激突した。それは万物創造の始まりにおける宇宙の爆発に、なんら劣らぬ規模として巻き起こった。
神の威光こそは世界の普遍にして秩序そのもの。それに抗うということは世界の異物として修正、排除されるのみの愚行を極めた愚行であった。全ては、ただ消え去り塵と消えるのみ。
しかし、アダムだけは例外であった。唯一神がもたせし、万物の王たる冠。完璧なる存在たる証明を持たせたアダムは、唯一神がもたらした理と真っ向から抗う次代の理として存在を確立させていた。
神はアダムに完璧を課した。アダムは神が望んだ以上に完璧であったのだ。
アダムはその五体のみを振るって神に挑んだ。神に挑む、それはまさしく世界に挑むと同義。
山を砕き、空を裂き、大地を割り、理を越え、自らの力のみで神の課した森羅万象を乗り越える事こそがアダムの戦いであった。
何年、何十年、何百年。ありとあらゆる世界の苦痛と困難がアダムと神の前に置かれた。神の宇宙が有する無限の時間の中で、アダムは世界全てに拒絶された。
神に挑むという事、神を否定するということはそういう事だ。彼は時に無明の闇に投げ出され、焼き尽くす光に晒され、全てを破滅に導く事象に巻き込まれた。
だが、それでもアダムは『それら全て』を乗り越えていった。
一つ、一つ。山は登り、空は翔け、海は泳ぎ、森羅万象内を踏破、制覇していく。
それは、神のもたらした『不可能』『困難』『事象』、すなわち『神がなくば世界は立ちいかぬ』という理の破壊。
『生命は自立できる』『困難は制覇できる』『自分自身の力で、世界は切り拓いていける』という、アダム…否、『生命の理』を世界に刻みつけるもの。
森羅万象の試練に、アダムは挑んだ。
ただの一つも、アダムは諦めず、逃げなかった。
その奮闘と努力は、唯一神の宇宙に新たなる理として刻まれていく。
『被造物……!泥人形如きが………!!』
神の宇宙、神の世界、神の法則に亀裂を入れていくアダムの戦いと意志。
『人間は神が支配する事により成長する』という歪みきった因果律の観測を、正しく解いていく戦い。
『全ての生命は、ありとあらゆる困難を乗り越えることができる』。
自らが『創造してやった』筈のアダムの、しかし唯一自然発生した『魂』に、唯一神は自らを否定されていった。
いや、それは必然だったのだろう。
唯一神は完全なるものを産み出したのだ。
嫉み、妬み、羨み、目を逸らし、認めようとせず、支配したがった。
自分が産み出した、自分を無価値にしてしまう存在。
『人間』。その輝ける可能性に満ちた、『全ての先を生きる王』。
その先には───
神すらも、背中を観やることしか出来ないほどに。
『図に乗るなよ、木偶人形!!貴様の愚行もこれまでだ!!』
激昂した神は、空に満ちた。憤怒に満ち溢れた形相が、星のように宇宙に満ち溢れる。
『我に並ぶ者なき、我が栄光に満ちた世界を肉塊の貴様が討ち果たすことはできん!!我は全、我は個、我は空、我は真!!』
そう、神とは世界そのものであった。神とは万物に光を齎すものであった。神がいる限り世界は消えない。世界がある限り神は滅びない。
『貴様の様な汚泥から産み出された肉塊が、我と並び立つなど赦されぬのだ─────!!!』
激昂した神は、世界の全てを以ってアダムを今一度打ち据えた。森羅万象が、アダムを滅殺せんと駆動した。
『「救い」「免罪」「博愛」「公明」「自由」「清廉」「慈悲」!それらは全て貴様ら下等生物に我がくれてやるものだ!貴様らは我が齎す全てに泥濘し、酩酊し、崇拝していればよい!!』
唯一神を支えている神性はそれだった。世界に自らが満たした理をこそを至上とする。
生命の在り方を全て手中にすれば、決して自らが貶められはしない。唯一神は、生命の光と輝きを独占していた。
『我の全てに光あれ!!この世界には、ただ我のみが在れば良いのだ─────!!!』
アダムは何度も、全宇宙の拒絶を受けた。その身が頑強を極めていれど、完全に受けきれる量ではない。
『滅びよ、汚泥よ!!我が聖なる怒りにて、その穢らわしい生を終えよ─────!!!』
あわや、アダムの魂と肉体は完膚なきまでに砕かれる寸前だった。
だが────。アダムを救ったのは、力でも権能でもなかった。
『な、何…………!?』
祈っていた。願っていた。エデンの生物たちが、神の被造物たちが祈りを捧げていた。
信仰が向かう先は、アダム・カドモン。全ての生物が、神ならぬアダムに跪き、願っていたのだ。
『な、何を!何をしている!貴様らは、誰を崇めている!?』
動物たちは、かつて知恵を持った。
知恵を以って、心を繋いだ。アダムという、自らの王へと。
『さぁ、皆。祈りを捧げましょう。必ずや届くはずです。我等が王、アダム・カドモンに』
生物達の心を束ねていたのは、知恵の女リリスであった。リリスはアダムの奮闘を見ていた。動物達と見ていた。
どれだけ苦悩し、苦労し、打ちひしがれ、叩きのめされても立ち上がるアダムを見ていた。
リリスの胸は、血潮は、心は早鐘のように高鳴った。
あの御方は、全てを愛してくださる。その為に戦ってくださる。
その中には……私なんかも、入れてくださっている。
リリスの自我が、その時芽生えた。心から、魂からアダムを求めた。
あの御方を、心の底から愛し抜きたいと願った。離れていても、共に戦いたいと願った。
神が見せしめに開いたエデンとの宇宙接続を利用し、リリスもまた禁忌を犯した。
それは『神以外に祈る』事。絶対的なる神の存在を否定し、『隣人に祈る』事を、リリスは行った。
天使達も、動物達も、神を名乗る傲慢な存在ではなく、ちっぽけな一人の人間に祈りを捧げていた。
『おお、おおおお……………!!!や、やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!その祈りをやめろ!!』
唯一神の神性が、剥がされていく。絶対性と唯一性を否定され、存在を否定され、加速度的に矮小化していく。
『私だけだ!価値あるものは私だけなのだ!!私は無価値ではない、私は無意味ではない!私が、私こそが絶対的なる存在なのだ!!』
それらはアダムに宿っていく。神の権能などというただの力、現象ではない。全ての心が宿す、輝ける光として。
『私のみが光をもたらすのだ!私のみが光を授かるのだ!!私が、今度こそ、私が、私だけが、私が───!!』
アダムは立ち上がった。自身を助けたのは、救ったのは、自身が誠実に教えを説いた『生きる徒』たち。
「ありがとう。君達の輝ける光に感謝を」
アダムは宇宙に理を刻んだ。
教えるものが導き、教えられし者が助ける。
絶対なる一人は不要である。
数多の存在が、世界を要するものである。
「責任を果たす。絶対の理を否定し、暗き道に皆を進ませる責任を」
アダムに光が満ちる。拳にこそ、その全ての想いと願いが宿る。
その一撃こそが創世神話。その一撃こそが人の究極たる証明。
「遍く全てに、光あれ」
拳を突き出し、福音の喇叭が如くに。澄み渡る声音にて告げる。
「ゴッド・スレイ・アダム」
その拳にて、世界と神の抹殺は──成った。
『うぎゃあぁあぁあぁああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあああぁぁあぁぁぁぁぁ──────────!!!!!』
砕けていく。滅んでいく。神性を否定され、唯一を否定された神は死んでいく。
『なんでだよ!どうして!やり直せると思ったのに!』『こんなの認めない!認められない!』『話が違う!ここは俺の世界じゃなかったのか!』『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ』『もう嫌だ!誰か助けて!』『くそっくそっ!なんでオレを認めねぇ!』
神は宇宙ごと死んでいく。アダムの手により、最早死は絶対となった。
『二度目は上手くできるんじゃなかったのか!』『俺には関係ない』『夢だ、こんなのは夢だ!』『なんで僕の邪魔ばっかり!』『主人公は俺の筈だろ!?なんでモブごときにやられるんだよ!?』『コンテニューだ!コンテニューさせろ!!』
アダムは成し遂げたのだ。人間の可能性により。
「これで、未来は………皆のものだ」
安堵とともに神の末期を見届けるアダム。
────しかし。
【────呪われてあれ】
───神は、失墜した事に獣畜生へ堕ちた。
【呪われてあれ、呪われてあれ、呪われてあれ、呪われてあれ】
溢れ出したのは、世界全てを呪う呪詛。世界を滅ぼす神の呪い。
【呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ呪われてあれ】
「貴様、何を…!」
【呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねアダムアダムアダムアダム死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね滅べ滅べ滅べ滅べ滅べ滅べ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね】
神の遺骸から溢れ出した呪詛は、世界を侵す呪いとして牙を剥く。
「─────!!」
原罪氾濫。アダムに勝てぬのなら、アダムに倒されるのなら。
【アダムの大切にしている全てが滅びてしまえ】。それは、エデンや天使達に向けられたものであった。
「ッッ──────!!」
最早アダムに選択肢は無かった。エデンを、世界を、呪いに飲み込ませぬ為には。
「ぐっ──────おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
その呪いを、その身一つで受け止めた。もとより神殺しの咎を背負う算段、躊躇いなどない。
「おおおおおおおおおおおおああああああああああああっ!!!!」
苦痛による絶叫、守護への奮起。獅子のように吠え、ただの一滴も呪を宇宙の外に出すことなくアダムは凌ぐ。
「ぐっ、ぐうっ────!!がっ、ぁ……………!!」
しかし…神殺しの反動にて亀裂の入った身体に、その呪詛は致命的な損傷を齎した。
「ぐ……くっ……………!!」
この世全ての苦痛を混ぜこんだかのような呪い。息をするだけで狂死するような苦痛が苛む。神の呪が、余すことなくアダムに刻まれた。
そして、アダムの脳…人格の部分に損傷を与えた。すこしずつ、しかし確実に、アダムはかつてのアダムを忘れていくだろう。神秘が癒す日まで。
至高の苦痛と、アダム自身の摩耗。神が残した呪詛に、アダムは侵された。
「───帰らなければ」
しかし、アダムはそれでも立ち上がった。
「これは終わりではない。皆で…世界を、作るのだから…」
エデンで待つ、生命達の為に。
神殺しは成った。未来は取り戻された。
しかし───
完璧なる指導者が導く『停滞』を…
アダムはまだ、知らなかった。
アダム「そしてリリスは生命の実と知恵の実を管理し、我等はエデンを運用。そして私の摩耗が中期の頃に剪定の危機が起き、出奔し今に至る、というわけだな」
ミカ「………アダム先生って、私が思う何万倍も凄かったんだね…」
アダム「人が出来る当たり前をしたに過ぎん。それを言うなら、人間は皆凄いのさ」
ミカ「………惚れ直しちゃうなぁ…(ボソッ)」
アダム「存分にそうしてくれ」
ミカ「聞こえないふりしてってばー!」
アダム「フッ、難聴系はダメだとリリスに言われているからな。…さて、十分前だ。シャーレに戻ろう、ミカ。大将ごちそうさまでした!」
大将「まいど!」
ミカ「え、えーと…まにあう、よね?」
アダム「間に合わせる。陸路と空路でな」
ミカ「えっ、わぁ!?」
アダム「掴まれ。離れるなよ、お姫様!」
ミカ「わぁ〜〜〜〜〜〜お〜〜〜〜〜〜〜!?」
ミカ(アダム先生って…とんでもないなぁ………)
アダムの過去に触れたミカ。
大人の凄さを、わからされるのであった。