人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ティマイオス『重ねて言わせてもらうが、お前の神殺しは確かに意味があったのだ、アダム。転生者達の暴走だけでなく、悪魔たちの思惑すらも打ち砕いた。お前は、数多無数の神の悪意をも殺したのだ』
アダム「………そうだな。そうであったと願おう」
パパポポ『……いや、待て。まだ解らぬことがある』
ティマイオス『なんだ』
パパポポ『汎人類史の唯一神は、ビーストΩに殺され成り代わられた。力を求めたと言うならば、殺された神もまた転生者達と似た神になる筈だが…』
ティマイオス『大事なのは力ではない。意志と精神だ』
パパポポ『!』
ティマイオス『恐らくだが…辿り着いていたのだ。その答えに。そして、宇宙の真理に』
パパポポ『……………そうか…………』
『話し込んでしまったな。今日のところはそれぞれ切り上げ、また互いの整理が終わってからとしよう。私もメイも逃げはしない。いつでも、どんな対話にも応じる覚悟だ』
メイ、そしてティマイオスの告白、唯一神の来歴。鮮烈かつ衝撃的な神の真理を受け止めるため、その場は一度解散となった。
夕方に差し掛かっていたため、メイとミカを寮まで送った後、リッカとパパポポ、そしてアダムがシャーレにて食を共にすることとなる。開示された情報は、誰にとっても鮮烈すぎた。パパポポにさえも。
『よもや自分のルーツを事細かに知らされる日が来るとは思ってもいなかった。長生きはしてみるものだっポ』
いつもの様に軽快に、泰然と話すパパポポ。しかしそこには動揺と気遣いがあった。リッカとアダムに、自身の事で思い悩まぬ様に、と。
「…ビーストΩは、マルドゥーク神の威光と偉大さを見ておきながら、まず力を欲した。そこが、まずそもそもの破綻であったと私は見る」
『ふー、やっとお腹が落ち着いてきました!あれ?皆様どうかしましたか?なんだかとても神妙な顔立ちなような…?』
「アロナ、ちょうど今我等の叙事詩の最後の敵のパーソナリティが明かされた所だ」
うぇえ!?とようやく食べすぎリンクによる胃痛から解放されたアロナを襲う青天の霹靂。その愛くるしさに空気が緩和される。
『うむ。だが、この世界の私はそうではなかったのだな…』
パパポポの言う通り、この世界の殺されてしまった唯一神はそうではなかった。
最早その生前の有り様を知るもの、触れたものは零三しかいない。だが、彼女の話した唯一神の人柄は優しく、慈愛に溢れ、自分を超えた力すらを託す程に被造物達を愛していた。
「もしかして、『真化』と『万物創造』の両方を成し遂げることが出来たのは、この世界のパパポポ様だけだったんじゃないのかな?」
リッカは予想する。それ故に汎人類史は可能性に溢れ、それ故にビーストΩに狙われ、殺されてしまったのではないかと。
『それであるならば、この世界の私は正しくマルドゥーク神の真価を受け取ってくれていたのだな。本当に大切なものは力ではない。後に続くものへと託すこと。唯一無二の絶対者ではなく、数多無数の生命の輝きこそが…世界に必要な色彩であるのだと』
それ故に、汎人類史にてマルドゥーク神の偉業、天地開闢にあたる万物創造を成し遂げ、可能性に溢れた世界を有した。数多無数の生命の在り方を愛したのだと。
『……私は、ただ愚かなだけの嫉妬の化身では無かった。その事実を、今は嬉しく思う…』
パパポポの声には、安堵の震えがあった。彼こそが、ビーストΩの愚行と蛮行に何よりも胸を痛めていたが故に。その在り方は、幾ばくの救いとなったのだ。
「パパポポ様、よしよし…」
『少しは皆のパパとしていいところがあってよかったっポ…』
「恐らく、私が殺した唯一神αもそれを察知し、勘付いたのだろう。殺された刹那、獣となり単独顕現を有したのならば…道理の説明はつく」
アダムの神殺しによって神としては滅んだ唯一神αが、内部の転生者達の世界に穴を空ける程の自尊心と人類愛(自身らのみに光と愛が満ちよという自尊の獣性)によりビーストΩに覚醒し、落ち延びた。
そして単独顕現により、汎人類史の神の力を奪わんと顕現し、安息日の神を殺した。
「転生者、という性質から…唯一神はその来訪と襲撃を読めなかったのだ。世界にとっての異物であり、存在していないものを予測するのは不可能だろう」
ただ一人の転生者でなく、数多無数の転生者の集合体。それを読み切ることは、さしもの唯一神にも出来なかったのだ。
「異世界転生には、転生特典がつきものだから…もしかしたら、込められた魂の分だけ力を持っているかもしれないんだね」
殺せば殺すほど、取り込めば取り込むほどその力は増していく。ビーストΩの自尊の貪欲は、今まで経験してきた通りだ。
『全宇宙にて、真化人類の痕跡を探し回っている今こそ直接的な干渉はしてきていないが…やがて、全宇宙の魂を掌握したヤツと戦うかもしれぬということでもあるのだな』
それこそが、叙事詩における全世界、全時空、全宇宙の命運をかけた決戦。バビロニアにおける最古の神格。王権の神にして、自尊の獣。全宇宙を貪る愛、そして悪と雌雄を決する事。
「それが……私達の旅路の最後に待つ、敵。最強にして最後の戦いなんだね」
人理を救った後、脅かされし全宇宙の運命…そして、全知全能をかけて戦う。
それはカルデアの……ギルガメッシュが今紡ぐ人類最先端の叙事詩の最大のクライマックスが見据えられたという事でもある瞬間であった。
「………リッカ、敵は強大だ。今まで地球が、遍く生命が紡いできたどの様な試練よりも」
リッカの震えを見たアダムは、彼女の励ましをせんと言葉を紡ぐ。
しかし、リッカが有する震えは、全く別の意味を有していたのだ。
「───いいね、燃えてきた!何せ、全宇宙を滅茶苦茶にしてきたヤツと正面切って戦って、ボッコボコにできるんだから!」
そう、それは武者震いだった。比類無き強敵、そしてそれを討ち果たせる相手となる事への歓喜。それに、リッカは討ち震えていたのだ。
『だ、大丈夫かなリッカちゃん。敵はこれまでになく強大だ。唯一神の力を振るう獣と考えたのなら、想像を絶する困難に…』
「大丈夫だよ!」
パパポポの不安を、力を知る故の絶望をリッカは強く振り払う。
「私達の旅路に、楽しい事はあっても簡単な試練なんて一つもなかった!」
『!』
「私達は力を合わせて、今までの戦いに打ち勝ってきた!ならそれを、神気取りのケダモノに見せつけてやるだけだよ!どれだけ強くなろうと、どれだけ大きくなろうと、ビーストΩは私達にとって越えていくべき相手に何にも変わりはないんだから!」
数多無数の試練は、戦いは、痛快無比の勝利は、リッカの心を比類無きものに鍛え上げた。創世の神ティアマトを越える、悪意と自尊の全宇宙の敵たる獣を前にしても揺らがぬ程に。
「終末の獣?上等!こっちだってアンリマユとアジーカ、三位一体のビーストα!始まりと終わり、どっちが強いか白黒つけてやらなきゃね!」
『リッカちゃん…』
「だから、そんなに曇らなくても大丈夫だよ、パパポポ様。私は、ううん。きっとカルデアの皆は大丈夫。絶望にも沈んだりしないし、逃げ出したりもきっとしない」
確信と誇り、自信と信念はリッカの胸と魂にて燃え盛る。
「私達は越えていくよ!お母さんにはありったけの敬意と感謝を込めて、頭がおかしくなったお父さんには、握り拳と絶縁状を叩き込んで!ギルとエア姫様の目指す宇宙を、あんなヤツの独壇場にはしておけないからね!」
『───────』
「見ていてよ、パパポポ様!あなたが産み出してくれた生命は、決して間違いなんかじゃなかったって…!私が、私達が証明してみせるから!」
パパポポは見た。その輝きに、その強さにこそ。人を羨み、妬んだ神の欲する真価があるのだと。
「……………」
アダムは、その決意と決心を誇らしげな気持ちで見た。
汎人類史の人間は未だ幼年期であり、アダムの完成度には遠く及ばない。
しかしその心には、魂には、在り方には。紛れもなく神々が望んだ輝きが宿っている。
エデンには無かった、全てを超越した無限の可能性が宿っている。彼女らの繁栄は、決して間違いなどでは無かったのだとアダムは確信を持った。
「……本当に、本当に立派になったな。リッカ」
アダムは誇らしげな気持ちでリッカを撫でた。
それを、幸せな面持ちで受ける彼女に…
なんの憂いも、存在してはいなかった。
────転生者こそが、この世界の最大の敵……
フォウ(エア…)
────なら、ワタシ達が成すべき事も…きっと。そういう事だよね。
フォウを抱え、エアは星空を見上げる。
その表情は静かに…
しかし確かに。リッカの燃えさかる覚悟とは対照的な、秘めたる決意に満ちていた。