人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
誰と話しているかは読んでくださるあなたには解ってくださる筈です。
「あぁ、来てくれたのね。わざわざ呼びつけてしまってごめんなさい。…これ、職権乱用になるのかしら…ならないわよね?そうよね?」
彼女は自らの部屋に来客を招いていた。カルデアは部員時空に合わせたクリスマスを祝っており、彼女の部屋には他には誰もいない。
「ま、まぁそんな話はいいの。改まる必要も、畏まる必要もないわ。無礼講…無礼講?使い方合ってる?合ってるわよね…?私間違えていないわよね…?」
彼女はオルガマリー・アニムスフィア。楽園カルデアをギルガメッシュの名代として治める所長である。今日はそんな彼女が、来客として□□を招いたのだ。
「こほん。タイム・イズ・マネー。私の迷いで時間を無駄にはできないわ。さ、そこに座って。今日はあなたと、個人的な時間を過ごすのだから」
□□をソファに座らせる。そこには淹れたての珈琲と、ビターなチョコケーキにメッセージカード。
「メリー・クリスマス。あなたたちの世界ではもうそんな時期なのでしょう?時差どころか時空差だけど、しっかりお祝いしておかなくちゃ。さ、召し上がって。ブラック・アイボリーを使った特注品なんだから。あ、ミルクと砂糖が必要なら…」
そう。これは所長として個人としてのクリスマスの一時。カルデアの旅路を支えてくれる□□への、彼女なりの返礼であった。
「もう、そちらでは七年近くにもなるのね。あなたと共に、色んな特異点や事象に挑んだ足跡が…。こちらの半年が、そちらの七年。ふふっ、大分時空が歪んでいる…と、オーマおじい様が仰っていたわ」
オルガマリーは感慨深げに、そして楽しげに立ち上る湯気を見上げる。それは、彼女にとっても愉快な思い出となれたようだ。
「私は今、魂を聖杯に入れ込んだ存在。正確には本当の意味での人間…というわけではないけれど、睡眠も食事も、勿論その…排泄行為もちゃんと行っているわ。人間としての生活サイクルを可能な限り再現しているのよ」
そう、オルガマリーの核とは聖杯である。生身の肉体は、かつてのレフの爆弾により吹き飛び滅び去ったが故だ。
「半年前、あなたたちには七年前。死にたくないだなんて願いで生き延びてから、本当に遠いところまで来たわね……」
今やオルガマリーは不動の所長。そして実力ではリッカと比肩する程の傑物となった。アイリーンの力を借り、サーヴァントやレイシフト活動も可能となっている。
「周りの皆に、ギルに相応しい私であるように。その一心で頑張ってきたけれど…どうかしら?私は、あなたの応援や声援に相応しい私であれている?」
□□に問いながらも、オルガマリーは苦笑をこぼす。
「ずるい問いかけだったわね。わざわざ呼びつけてこんな事を聞いたら、頷くよう脅しているようなものじゃない。ごめんなさいね、そんなつもりは…」
「……たまには、レフレフ言っていたいっぱいいっぱいな所長が恋しくなる…ですって?そ、それは恋しくなるようなものじゃないでしょう!?七年も前の恥なんて、いつまでも覚えているんじゃないの!」
忘れなさい!いいわね!そう言うオルガマリーは、皮肉にもあの頃の彼女を想起させるに値するものであったことは言わぬが花である。
「言いたいことはそうじゃないのよ!伝えたいことは叱咤ではなく、感謝なの。そう、感謝。感謝なのよ」
コホン、とオルガマリーは向き直り、真っ直ぐ□□に告げる。
「いつも私達を支えて、見守ってくれて本当にありがとう。私達の足跡は2500を越え、3000ページにすら至ろうとしている。とても、気軽に閲覧できるような質量ではないわ。でもあなたは…いつも私達を応援し、励まし、時には叱咤して、前に進む勇気と力をくれた。ううん。今も私達に、力をくれている」
それは、オルガマリーが時空を越えて伝える感謝。クリスマスの奇跡とも言うべきひととき。
「本当にありがとう。本当なら私達の物語は、ゲーティアを倒した時に終わっていた。それが今、こんなにも続いているのは…間違いなく、あなたのお陰よ」
オルガマリーは自然と感謝を告げる。その余裕と貫禄もまた、彼女がこの旅路で身につけられた宝物だ。
「普段は決して交わること無く、交わせる言葉はほんの僅かの混線。それでも、私はあなたの事を、かけがえのないカルデアのスタッフだと確信しているわ。あなたがいてくれたから、私達はここまで頑張ってこれたのよ」
そっと、オルガマリーが手を握る。聖杯で編まれたエーテルの肉体ながら、そこには確かな温もりが宿っている。
「ありがとう。あなたは私の、大切な宝物よ。ロマニやゴルドルフ副所長、シオンやシバにゃん、ムニエルたちとなんら変わらない、私の大切な…」
そこまで告げた後に、自分がしていることの大胆さに気づく。目を潤ませ手を握る。
まるで恋人がするかのような…。
「あっ、ちが、違うのよ!?これはその、ね!?親愛の証としての行為で!あなたには当然相手もいるはずでしょうしまさか私が横恋慕だなんてとんでもない!」
慌てふためきながら彼女は呼吸を整える。
「はぁ、はぁ…そう、そうなの。プレゼントよ。クリスマスには、プレゼントが必要でしょ?心ばかりだけれど、受け取ってもらえるかしら」
そしてオルガマリーはそっとプレゼントを手渡す。丁寧にラッピングされた、大きめの箱。
「開けてご覧なさい。言っておくけど、非売品よ?」
そこには、無垢金細工で作られたマグカップが納められていた。少々照れながら、それを補足する。
「それは、その。私の聖杯を象ったものなの。無垢金色だけど、問題なくただの普通のマグカップだから安心なさい。毒素とかは無いわ。本当よ?」
彼女はそれを、親愛として託した。
「いつでも私の部屋にいらっしゃい。それを持ってきたのなら、私がよりをかけて珈琲をあなたに振る舞ってあげる。特別なスタッフの、あなたにね」
決して疑わず、裏切らず、分かたれない絆の証として。自分自身の写し身としてのそのマグカップを。
「こうして話すことが出来るのも、またいつになることやら…。あなたと私は、私達はまた遠くて近い場所で共に歩む事になる。言葉も視線も、交わすことはできないわ」
それでも、と。彼女は締めくくる。
「それでも、私達の心は一つよ。あなたのために私達は頑張ってみせる。だから、あなたも辛いときや悲しい時は、そのマグカップを見て思い出してほしいの」
「あはたは決して一人じゃない。あなたもまた、『カルデアの善き人々』の一員であるということを…決して、忘れないでね。それは、その誓いの証なんだから」
大切にしてね、とオルガマリーはウィンクと共に笑った。
その笑みはなんの気苦労も重圧もない、自由なる淑女のものであった。
「明日と明後日が本番だから、私という前座はここまで。日付が変わるまでここにいても構わないけれど…」
「えっ?朝まで出来ればここにいたい…ですって?朝帰りならイブにはノーカン…あ、あなたねぇ……」
どちらにせよ、イブもクリスマスも夜が本番。誰も文句は言わない筈である。
「…わかったわよ。ただし、あなたはちゃんと眠ること!私は今日、不眠不休であなたを監視します!きちんと寝ているのか、夜ふかししないかのメディカルチェックと思いなさい!」
ただ、彼女もまたロマンチックな展開などとは無縁な魔術師なので。
「思っていたのと違う?甘くない!?それはそうに決まっているでしょう!?わ、私は別に攻略ヒロインでもなんでもないのよ!?ファンディスク!?DLC!?なんの話よもーっ!!」
朝まで何も、起きる筈はありませんでしたとさ。
オルガマリー「実はさっきのマグカップね、珈琲を淹れると暗闇にキラキラと光るようになっているの。凄いでしょう?」
「……えっ?実際に見てみたい?」
「………………………………………で…」
「……電気………消して、くれるかしら……?」
〜〜オルガマリーと一夜を過ごした〜〜〜