人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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この先、おそらく元気と巫女があるぞ

「うう、ううう…うおおおおおおお!いてえ!いてえええ!」

 

ルゥとアマテラスが、うめき声…というには余りにも大きい絶叫を頼りに足を運ぶと、坂の中腹に声の主はいた。

 

 

「腕が!足が!壊れちまったぜんぶが!うおおおおおおお!!」

 

『………これは』

 

その声の主──。四肢を根本から噛み千切られ、乱雑に捨て去られた芋虫が如くの有様の老人が、死体漁りの衣装を着る老人が絶叫していたのだ。

 

『ワフ…!(惨い…!この様な凄惨さ、自然な手傷ではありません!)』

 

アマテラスが吠え、ルゥに乞う。

 

『ワン!(筆しらべを使います。ルゥさん、神力にて彼の四肢の部分を描くのです!)』

 

『うん。これもまたベールの所業か…』

 

ルゥは歯噛みし、アマテラスの神気を筆の形として世界の法則に筆を走らせる。

 

アマテラスの対界宝具『筆しらべ』。世界に神霊の法則を疑似展開再現し、神代の神の御業を再現するもの。宝具という形で、魔力を使う制約にて起動するアマテラスの奇跡。

 

ルゥはその格式にて、森羅万象に筆を走らせた。それにより、噛み砕かれし老人の四肢が立ちどころに書き足される。

 

「…ベール!ベールよ!我が恐怖よ!儂はまだ、生きているぞ!たまらなく、飢えているぞ!お前の心臓に! 必ずや!お前にも、恐怖を! うおおおおおおおおお!!」

 

『声の大きい死に損ない…それって死に損ないっていうのかなぁ…』

『ワフ…(…いえ、これは…)』

 

二人が筆しらべにて、老人の絶叫を聞きながら四肢を再生させる。アマテラスの慈悲は、彼を見捨てなかった。

 

『ワンッ(大丈夫ですか?立てますか?)』

 

アマテラスの問いかけ、身体を揺さぶる行為。老人はそれに…何も、応えない。

 

「…いてえんだ。たまらなく、いてえんだよ」

 

『……!』

 

その口をついて出て来た言葉は…勇ましさとは無縁であった。

 

「もう、やめてくれ。悪かった…儂が悪かった…。やめてくれ…お前が、恐ろしいんだ…」

 

『ご老人…』

 

「…だから、もう、壊さないでくれ。…もう、やめてくれ…壊さないでくれ…」

 

四肢は蘇った。身体の傷は消え失せた。

 

だが、老人の…ベールにより砕かれた心は、神の御業を以てしても修復することは不可能であった。

 

『ワゥ……(……四肢を噛み砕き、命を奪わず捨て置く。ご老人が味わった恐怖と絶望は、いかばかりでしょうか…)』

 

沈痛にアマテラスが鳴く。ルゥもまた、老人の心砕けた様子に紅い神域の瞳を曇らせる。

 

『……私の知る人間と、竜達の狩猟は対等であった。力ある竜、力をつけし人。自然の摂理と調和の中で戦い、狩りを通じて、大自然の営みを紡いでいった』

 

『ワゥ…?(ルゥさん…?)』

 

『だが、このおじいちゃんを見てみよ。挑んだ相手に敬意無く、感謝無く、もたらすは苦痛と絶望それのみ。あまつさえ、命を奪う事もないまま生き地獄を味わわせ、勇気と覚悟を侮辱する。それは、未熟な人間の過ちとは理由が違う』

 

ルゥの白き肌に、紅き紋様が浮かび上がる。神域の赤雷が、充溢を示す。

 

『この様な狼藉、蛮行を竜たる者が行った。人間の持つ尊厳を、挑まれる側たる竜が行った。……龍たる者として、看過できないやらかしだ』

 

彼女は祖龍。本来ならば人間一人が死にかけていようと、命を脅かされようと動じることなどあり得ない。

 

しかし彼女は、人の持つ心と勇気、生命を愛し、尊び、重んじていた。その魅力に、惚れ込んでいた。

 

竜の生命に飽き足らず、ベールは人間の勇気すら愚弄して見せたのだ。それは、人を愛する古き龍の逆鱗に触れる行為である。

 

『仕置きの手に加減は要らぬ様だな……』

『ワゥ…(ルゥさん…)』

 

普段のほんわかなルゥの見せぬ、険しく恐ろしい表情に、彼女の人間への愛の深さを知る。

 

『ワンッ(一先ず、脇に彼を安置しましょう。筆しらべの花で守らせます。しかる後、ギザ山へと)』

『うん。よろしくね、あまこー』

 

口調が絶妙に混ざり合っているポンコツさにも安心しながら、老人を安置する。

 

『では征こう、あまこー。ギザ山のベールに、何としても会わねばならん』

『ワン!(はい!)』

 

アマテラスは再びルゥを乗せて地を疾走する。走った後の、花を咲かせながら。

 

『ワンッ(ご老人、大丈夫でしょうか…)』

 

『…おそらく元気だ』

 

『ワフ?』

 

『如何なる存在も、心を弄んではならない。老人が再起するとすれば、自身で砕けた心を治すしかないのだ』

 

『…ワン(はい)』

 

人の心を操らず、弄ばない。やろうと思えば、祖龍への畏怖でどうとでも叶うとしても。

 

『アォンッ(お互い、惚れてしまった弱みですね)』

『???』

 

どこまでも人にゾッコンな龍に、アマテラスは走る脚に気力を込めて応えるのだった。

 

…そして、影の地から南東付近。竜の洞窟に差し掛かる。

 

竜の洞窟を抜けなくては、ギザ山の麓には行けない。それは、獣人や竜の犇めく地を走り抜けねばならないという事でもあった。

 

『む、あれは……』

 

ルゥがアマテラスの背中から、進行方向にいる人影を見つける。

 

『ワゥッ(人……いえ、あれは竜人でしょうか)』

 

全身を岩の肌に包んだ、二足歩行の竜人。その手には、さざれ石を切り出したかのような長き大太刀を構える。

 

『道を阻んでいるように見える。気のせいかな?』

『ワン(いえ、まさにその通りかと)』

 

ルゥがそっとアマテラスの背中から降りる。そして、竜人と向き合う。

 

『暴竜を諌めに向かう。退け』

 

【……………】

 

『二度は言わぬ。退け』

 

ルゥの言葉を聞いたが早いか、竜人は駆け出していた。

 

『────』

 

立ち尽くすルゥに、身の丈は在らんかという刃渡りの太刀を振り上げ、首筋に向けて一気に振り下ろす。

 

『ワフ!?(ルゥさん!?)』

 

一切の行動を取らないルゥ。しかしアマテラスには、サムズアップのサインを贈っていた。

 

『だいじょぶ。見てて』

 

ルゥは──なんとかわすことすらせず、むしろ斬りやすいように首を傾けてすらみせた。太刀筋が、完全に通るように。

 

【────!!】

 

振り下ろしたさざれ石の太刀が、ルゥの首筋に斬り下ろされる。ルゥの肉体に、刃が通り──

 

【!?】

 

否、通らない。渾身の力で振り下ろし、叩き付けた。勢いも間合いも完璧な一斬。

 

ただ、ルゥの肉体を微塵も傷つけること叶わなかったという残酷極まる生物間の絶望的な格差があった。祖龍という存在、即ち神域の鳥、世界卵といった存在と同じくするもの。

 

彼女の優しき迂闊さを取り払えば…。全ての生物が、彼女に勝る道理など万に一つもあり得ないのだ。

 

【!!】

 

瞬間、凄まじき速さにて竜人の首に手が伸びる。

 

『身の程を知らぬ竜の木っ端を一々殺めているほど…』

 

ルゥの手により、やすやすと脚が地上から離れるほどに持ち上げられる竜人。

 

『我は暇では無い』

 

【!!!!!!】

 

瞬間、夜闇すらも朝に変えるかのような閃光が竜人の全身を穿つ。

 

音すら遅れる紅き雷霆が、静電気のような規模で竜人を打ち据えたのだ。

 

【───、───】

 

直撃を受けた竜人が、自ずと地に頭を擦り付ける形でルゥの前に跪く。

 

『三度目だ。消えろ、下郎』

 

あまり虫の居所が良くない上、竜に対して人程優しくないルゥは吐き捨てるように告げてアマテラスにまたがる。

 

『ごめんね、またせちゃった』

 

『ワフ〜(人に対しての慈悲は竜には希薄なのですねぇ)』

 

『竜は社会人、人間は学生みたいな認識だもの〜』

 

そう、出発しようとしたその時。

 

【……御無礼を、お許しください。プラキドサクスが如き、御方よ…】

 

『…!』

 

竜人が懸命に身体を起こし……

 

二人に、跪いて見せたのであった。

 




竜人【ベールを討ち果たすおつもりでしたなら……どうか、この竜狩りの太刀を、お持ちください】

ルゥ『竜狩り……だから龍鱗、さざれ石の刀身だったのか』

竜人【我等は、待っていました。ベールを下し、打ち払える存在を……そして今、竜王が如き威風のあなたが現れた。我等が悲願をどうか…】

ルゥ『悲願…』
アマテラス『ワフ?(どうしますか?)』

ルゥ『……聞いてあげよう。リッカやカナメならそうするもん』

竜人【感謝を……。洞窟を抜けたなら、まずは東にお向かいください】

ルゥ『東?ギザ山じゃなくて?』

竜人【はい。そこにはいるのです…竜贄の巫女、古竜フローサクスが】

新たなる導きを、ルゥ達は得たのであった。
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