人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ルゥ『おーい!おじいちゃんやーい!』
アマテラス『ワフッ!』
ルゥ『どこ行っちゃったんだろ…』
ラージャ『…お、祖龍サマか』
ルナ『ご帰還、お待ちしておりました』
シャガ『やほー!』
ルゥ『おー、皆!お疲れ様〜!ねぇねぇ、おじいちゃん見なかった?弓持ってる…』
ラージャ『……あぁ、それなら……』
ラージャの指差した先。
ルゥ『────』
そこには、三人が飛竜から守り抜いた…
エーゴンの、抜け殻の骸があった。
あまこー『ワフ…………』
ルゥ『…………』
『…………頑張ったね』
『頑張ったね、おじいちゃん………』
「ああ、貴方が成し遂げたのですね。古き時代からの、我らの悲願を…」
ルゥとアマテラスは、大竜餐教会へと帰還した。燃え滾るベールの心臓を、持ち帰って。それは、古竜と飛竜の因縁、確執が終わった瞬間でもあった。
「…我が王は、慧眼であった。人の、燃え尽きぬ飢えと、猛き心。 まさにそれが、憎き我らの仇を、ベールを屠ったのだ」
フローサクスは告げる。
「慈愛の龍王よ、貴方はまさに王たるに相応しい」
『私だけの力じゃないんだよ』
ルゥは鄙び、縮んでいた。そして傍らにあるアマテラスを、優しく抱き寄せ撫でた。
『神と、人と、竜に龍達が力を合わせた。そして、あの暴竜を調和の輪の中に呼び戻すことができたんだ』
『ワフッ』
『ベールは、調和した命だったよ。不倶戴天の命なんかじゃない……確かに懸命に生きた、生命だったよ』
ルゥらの調和は、間に合った。ベールが比類なき暴虐の化身として、世界に仇なす者となり果ててしまう前に、その生命を裁定した。
ルゥが必ず滅すると決めし『赤龍』とは違う。己の誇りと矜持、生き様を破壊と暴力でしか表現出来なかった竜だった。
我は我の望むままに、暴虐であった。それを、祖龍と主神の力を目の当たりにしても、微塵も己を曲げはしなかった。
『最後の最期で……ベールは我の手を、取ってくれたんだよ』
最後まで、刃と翼を振るい上げた。祖龍の生命を奪わんとした。
その刃は届かず、命を落とした。
だが、その手は確かにルゥの手に置かれたのだ。
それを以て、ルゥは調和を果たしたと判断した。
死してようやく、ベールは破壊と暴虐以外のコミュニケーションを果たした。
『不器用で、ヤンチャな子だったなぁ…』
アマテラスは博愛、ルゥは慈愛をそれぞれ示した。
ベールには、確かにそれが届いたのだ。
『……そうですか。それが、龍王の裁定であるならば』
フローサクスは、頷いた。
『我が王が告げています。その判断を、尊重しよう。偉大なる龍王よ』
『王じゃないよぉ。せめて女王って言ってぇ』
『龍王よ、そのベールの心臓は…如何になさるのですか?』
ヒィン、と小さく呻いたルゥは、手にした心臓を見つめる。
燃え滾るような熱量を有し、未だ熱く熱く燃え盛る心臓。
『それが為すは至高の竜餐。あなたに比類なき力を齎すでしょうが……』
『……………』
『ワフ…』
ルゥはその心臓を、暫く見つめていた。ベールの生きた証である、その心臓を。
『……ベールはプラキドサクスと戦い、敗れ、種族単位でその罪を贖う羽目になった。人に喰らわれ、力とされる運命を背負わされた』
『…………』
『……もう、いいと思うんだ。ベールは死んだ。この黄金律の世界で、私が、あまこーが、エーゴンが。ベールの命を全うさせた』
飛竜達の永遠の贖い。人に喰らわれる宿痾。
それはこうして、ルゥ達により葬られたベールの、その死を以て赦免、免罪としても良いのではないかと。ルゥはフローサクスに告げた。
『ワフッ(この心臓からも、ベールの覇気みなぎる反骨心を感じます。恐らくこの心臓だけでも、決して彼は誰にも屈しないでしょう)』
アマテラスの言う通り、ベールは心臓だけになっても服従を拒否している。
竜餐を行えば、その者に比類なき暴虐の力と、逃れ得ぬ破滅の運命を与えるであろう。アマテラスは、それを看破した。
『だから、この心臓は弔うよ。ギザ山のてっぺんに、竜の戦士と一緒に』
ルゥはベールの所在を決める。フローサクスは、それに異を唱える事は無かった。
『…わかりました。竜王と並び立つ尊き御方の意思ならば、私に異論はありません』
『うん。ありがとね、フローサクス』
『……我が主は告げています。私の使命は終わり、また新たなる使命を果たせ、と』
それは即ち、フローサクスが楽園カルデアに力を貸すと言うこと。
『竜王が座す霊廟、ファルム・アズラへの道を導き、異なる世界の龍と、竜を繋ぐ架け橋となりましょう。私を、連れて行ってくださいますね?』
ルゥとアマテラスは頷いた。それはベールの心臓を貪り食うより、よっぽど価値のある報酬だ。
『もちろん!よろしくね、フローサクス!』
『ワフッ(ルゥさんは抜けていますから、しっかり支えてあげてくださいね)』
『そんなぁ』
こうして、フローサクスは楽園カルデアの竜の巫女となった。
それはプラキドサクスとミラアンセスの、友誼と友好の同盟の証でもあった。
『ふふっ、わかりました。龍の祖たるあなたよ。では、帰還いたしますか?』
ルゥは、首を横に振った。
『帰る前に、弔っていくよ。エーゴンおじいちゃんをね』
『エーゴン。あの竜の戦士は……』
そう、この山は……
竜の戦士の、墓碑となったのだ。
〜
主がいなくなったギザ山は、穏やかだった。竜の声も、嵐も、音を示すことは無い。
その頂点に、二つの魂が埋葬された。
一つは暴竜ベール。その滾る心臓は、何者にも喰らわれること無くギザ山へと還った。それはベールの尊厳を、何者も侵すことなき裁定であった。
『ばいばい、ベール。生まれ変わったらもう少し落ち着こうね』
そしてもう一つは、竜の戦士エーゴン。ベールと戦い、恐怖を取り去った魂は天へと昇り、死んだ。
そう、死んだのだ。狂った黄金律において、魂は天に解き放たれた。それは死というよりも、世界の法則すら振り切った大往生。
即ち、悟りともいうべき逝去であった。
『アオォォォー………ン(さようなら、エーゴンさん。背中から感じた魂の熱い滾り…決して忘れはしないでしょう)』
アマテラスの長い遠吠えは、弔いの鐘のようにも響き渡った。過ごした時間は決して長くはなかった。
だが、神や竜にはない熱い魂の鼓動は、常にそれらを魅せる人の輝きだ。確かにルゥは、アマテラスは、フローサクスはそれをみていた。
『ワフッ(では、最後の手向けを)』
アマテラスが筆しらべにて、世界に書き込む。
すると、ギザ山の頂点に花が咲き乱れ、ベールとエーゴンの墓碑を彩る。
『おぉ〜。粋だね、あまこー』
『ワフッ(竜の戦士や暴竜には、可愛らしすぎるでしょうか)』
『いいのいいの。死んだ後くらい、穏やかに飾ってあげようよ』
ルゥはその弔いを良しとした。魂の慰めと安らぎを、彼女は否定することはない。
これもまた、尊重の一つ。生命は、生命に刻まれた使命を得て生まれ落ちる。
それを果たす事が出来た幸運な魂は、死して尚も輝く。
滅せど、滅びること無く有り続ける。
その生命を、全うした。その事実は、唯生きているだけの生すらも振り切る程の功績だ。
ルゥはその生命の終わりを、確かに認めた。
彼女の決定に、壊れた世界の律などが異を挟めるはずが無い。
彼女は慈愛の裁定を以て、二つの魂を狂った世界から解放させたのだ。
『……やがて、竜達も知るでしょう。罪は、贖われたのだと』
フローサクスが宣言する。永劫の罰は、最早赦されたと。
『それならよかった。それなら、帰ろうよ。皆のところに』
ルゥは、改めて告げる。ベールを取り巻くすべては、本質ではない。
『すごく濃厚だったけど、カルデアにとってはただのサブクエストだもん。本題に戻らなきゃ!』
『ワフ!(はい!世界を元に戻さなきゃ!)』
『世界を…。そうですか。エルデンリングを求めるのですね』
『うん!さぁ帰ろー!リッカたち、心配してるかなぁ』
『ワフッ(案外していませんかも。まぁルゥさんだし、みたいな)』
『ヒィン…』
『王を目指す人間たち…』
『出会うことが、楽しみですね』
フローサクスの言葉を最後に、ルゥたちはギザ山を後にした。
ギザ山の山地には、墓がある。
誇り高き竜の戦士と…
燃え滾る、暴竜ベール。
半身は今…
巡り合い、一つとなったのだ。
ギザ山。
嵐と雷が響き渡る、厳しき山。
だが、どういうわけか……
厳しき山に似合わぬ、山頂に満ちた花々は。
───生命を滾らせているかの様に、決して枯れる事が無かったという。