人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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ミドラーの館

ゴッドロード「………」 

霊魂『う、うう………』

ゴッドロード「…」

霊魂『何故だ、何故こんな仕打ちをするんだ……俺達は、同じ同志だろう……』

ゴッドロード『……───』

霊魂『ぎゃあぁあああぁぁぁぁぁっ!!』

ゴッドロード『この先か…』




■■■■■、ミドラー

ミドラーの館を、ゴッドロードは歩き続けた。

 

その館は、ミドラーと呼ばれる賢者の住居であった。

 

その存在こそは、この館の凄惨なる有様の根源であった。

 

「!!」

 

罪人を苦しめる獄吏、閉じ込める角人が館に点在している。そこにいる館の住人すべてに、劫罰を与える為の存在。

 

ゴッドロードは招かれざる来客であり、彼等とは関係ない。しかし、そこにおいて排除されるべきものと判断されることは当然の摂理であった

 

ゴッドロードに襲いかかる獄吏、そして角人達。

 

『─────』

 

それらは全て、燃え盛る黄色き炎に焼き払われた。言葉もなく、断末魔もなく、塵も残らずに燃やし尽くされたのだ。

 

ゴッドロードこそが、その禁忌の炎を知るものであった。彼は言葉もなく、焼き払われ散逸した館を歩んでいく。

 

『……』

 

進んだ先に、女の屍があった。

 

その女の屍は、幼児の背骨と頭蓋骨の松明を抱いて死んでいた。

 

手に取ると、それは辺りを照らす黄色い光源となった。黄色い狂い火が、宿っていたのだ。幼児の遺骨に。

 

『……………』

 

「うわああああああああっ!!!」

 

思案に耽っていると、館に響き渡る絶叫が耳をつんざく。

 

おぞましい断末魔であった。五体を串刺しにされているかのような断末魔。

 

この世で最も恐ろしい罪業の責め苦を、劫罰を受けている者のみが発せられる慟哭の絶叫であった。

 

『……………』

 

ゴッドロードは、立ち上がる。

 

遺骨と女の骸を、そのままにしながら。

 

その存在と、相まみえるために。

 

 

巨大な絵画の前にゴッドロードが立つ。

 

その絵画には、人物が描かれていた。花畑の中で優しく微笑む老人と、傍らに寄り添うヴェールで顔を隠した女性。

 

それが、この館の主たる賢者ミドラー。そしてその妻、ナナヤである。

 

彼は影の地における、角人が蝿になる病を治療するための研究をしていた。

 

先にゴッドロードが歩んでいた地は、花が咲き乱れ動物達が根付く楽園であった。

 

だが、ミドラーは宿してしまったのだ。

 

禁忌の火を。

 

黄色い火。狂い火の炎を。

 

それは本意では無かったのだろう。彼は角人達の最高の劫罰を受け、地獄の苦しみの中で妻ナナヤに縋った。

 

────耐えてください。

 

その呪いの言葉を受け、ミドラーはずっとずっと耐え続けた。

 

いや、今も耐え続けている。

 

『…………』

 

ゴッドロードは、ナナヤの肖像を見つめている。

 

ヴェールに隠されている筈のナナヤの表情を。

 

それは…いやらしい嘲りの笑みを浮かべていた。

 

彼はそのまま、絵画を焼き払い、焼き尽くした。

 

すると、その先に隠し通路が見つかる。

 

彼は歩んだ。そして……

 

ミドラーのいる、対話室へと辿り着く。

 

そこは、ホールとも言うべき巨大な空間。

 

その空間の中央に、ミドラーはいた。

 

「うわああああああああああっ!!」

 

その身体は骨と皮だけでおり、衣服はボロ切れにまで劣化している。

 

苦痛と絶叫に喘ぐ彼には、脳天から股を、黄金の大剣が貫いていた。

 

それは、角人達が最高の劫罰に用いたもの。貫いた相手を、内側から無数の逆刺にて抉り抜くもの。

 

身体を巨大な棘で脳天から貫かれた老人。体格も殆ど骨と皮だけな上に、幾本もの逆棘が頬や脇腹を内側から突き破っている姿は、痛ましいなどという言葉では表せない。

 

「………痴れ者が……!!」

 

ミドラーはゴッドロードを見つけると、貫かれた全身を使い排除せんと襲い来る。

 

「うわああああああああ!!!」

 

伝染する発狂。それらに断末魔を混ぜ込み、ミドラーは悶え狂う。常人では、それにつられ発狂を呼び込むであろう絶叫。

 

「近付くな……!禁忌に、近付くな…!!」

 

ミドラーは、ゴッドロードを排除せんとあがき、もがく。

 

『…………』

 

ゴッドロードは、抵抗する事無くミドラーを押し留める。

 

まるで、労わるように。

 

『ミドラー』

 

「………!」

 

『もう、良いでしょう』

 

ゴッドロードが口を開く。それはミドラーに向けられた言葉。

 

先程の殺意からは想像できない、労りの言葉。

 

「…………、………………」

 

ミドラーは、呆然とゴッドロードを見あげた。

 

「…………!!」

 

そして、その目を見た。

 

燃え滾りながら、けっして爛れぬ黄金を宿す瞳を。

 

「…………そう、か………」

 

ミドラーは、すべてを納得したかのように床に伏した。

 

「……王よ…」

 

『………………』

 

「どうか、お願い致します…」

 

ミドラーは、顔を上げた。その姿は、孤独と苦痛と、絶望に喘ぎ救いを求める顔であった。

 

『──あなたの劫罰が…』

 

ゴッドロードは、そっと……

 

『今、終わる』

 

ミドラーの脳天に突き刺さっている、劫罰の大剣を握りしめた。

 

「………許しておくれ」

 

ミドラーは、小さく呟いた。

 

「許しておくれ………ナナヤ……」

 

それは、彼が愛する妻の名前。先立った妻、ナナヤへの懺悔。

 

彼が発した言葉は、それが最後であった。

 

『………!』

 

ゴッドロードが力を込め、ゆっくりと大剣を引抜く。

 

「あっ、がっ!ががっ、あがぁあぁっ!!」

 

それは当然、身体を余すこと無く貫く刺ごと引抜くという事。ミドラーの身体全てを、傷つけながら抜き放つという事。

 

「あがぁあぁァァァァァァ!!!あああああああああああーーーっ!!」

 

首の付け根から、ミチミチと肉の裂ける音がする。首が、人体にあるまじき程に延び、胴体から離れていく。

 

【ぎゃあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁああああああああーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!】

 

やがて、断末魔と共に彼の苦しみは終わる。

 

ゴッドロードが、その首と頭ごとミドラーに刺さった大剣を引き抜いたが為だ。

 

高々と引き抜かれ、掲げられたそれには、苦悶の叫びを上げながら絶命したミドラーの頭と首。

 

『────…………』

 

その頭を炎で焼き払い、黄金の劫罰を終わらせた。

 

残った胴体の傍らに、引き抜いた剣を放り投げる。

 

『………………』

 

静寂。

 

やがて───変化が起こる。

 

『……!』

 

ゴッドロードの前にある、首を無くしたミドラーの亡骸。

 

それが、ゆっくりと起き上がる。

 

『来たか…』

 

骨と皮だけの身体、そして首のない身体が、ゆらりと起き上がる。

 

その頭にあたる部分には何もない。

 

何も───無かった筈だった。

 

『─────…………』

 

燃え盛る、黄色い太陽が如き炎。

 

辺りに燃え広がる、黄色い狂い火。

 

際限なく燃え盛るような太陽が、ミドラーの空虚なる頭部に宿る。

 

『………!』

 

やがてその炎は、対話室の全てに満ち溢れた。

 

あらゆる全てが燃えている。あらゆる全てが燃え盛る。

 

ミドラー…否。

 

【ミドラーだった何者か】は、劫罰の大剣を手に取った。

 

ミドラーを貫いていた逆刺は、ゆるりと巻き取られる。

 

そしてそれは、燃え滾る何者かの得物になった。

 

そして取る。本来ならば太陽への信仰に使う、礼賛の姿勢を。

 

『………………』

 

ゴッドロードは把握していた。

 

この場に存在する者を、【同じ】として理解していた。

 

それは、サーヴァントや英霊と共に歩むカルデアの旅路にあってはならないもの。

 

マリカの、アスラの、ラニの世界にあってはならないもの。

 

かつて自分が、何者も悪用し、世界の破滅のトリガーにならぬように身に封印したもの。

 

ミケラの針を使い、永劫に制御し自らに封印したもの。

 

故にこそ、ゴッドロードは殺しに来た。

 

王は独りでよい。

 

マリカやカルデアの旅路に、このような炎と王は必要ない。

 

彼は静かに、戦いの構えを展開する。

 

『その火は、誰を焼くこともなく消えるだろう』

 

王としての不倶戴天の存在を討つために。

 

もう誰も、その存在を悪用しないように。

 

ゴッドロードは………

 

ラスティは、愛する世界と人々の為に。

 

孤高の戦いを、挑みにやってきたのだ。




狂い火の王


ミドラー

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