人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ラスティ「狂い火の根絶?」
ロマン「あぁ。リッカ君達が向かう狭間の地の炎を、なんとしても根絶してもらいたい」
ラスティ「根絶…確かに、あの火は忌まわしきものですからね」
ダ・ヴィンチちゃん「そうなんだ。君の協力で、あの狂い火は、【聖杯の泥】と似た性質を持つことが解った」
ラスティ「!…では、サーヴァントを頼りにするカルデアは…」
ロマン「そうなんだ。そしてこれだけじゃない。…心して聞いてほしいんだけど…」
ラスティ「───」
ロマン「あの火は、『英霊の座』すら焼き尽くす。だから……絶対に、貴方に根絶してもらいたいんだ。ラスティ…いや、無礼を承知で呼ばせてほしい。【狂い火の王、ゴッドロード】」
ラスティ「──────」
狂い火の王───。
この世の全て、哀しみや苦しみ、絶望を焼き溶かす王。世界の全てを焼き尽くし、大いなる一つとせし王。
なんの因果か、此処にはその存在が二つある。
一人は、狂い火の王ミドラー。彼が宿した狂い火は、紛れもなく王たる狂い火のもの。それは、世界を焼き払う種火となるもの。賢者たる彼に宿りしは、まさに皮肉や運命の残酷なる悪戯だろう。
そして───ゴッドロード、ラスティ。彼は王都ローデイルの地下深くに潜り、狂い火の王となった。
しかし彼がそれ宿した理由は、狂い火の運命を受け入れたわけでも、世界を灼き尽くすためでもない。
むしろ逆だ。ラニが迎える世紀に、作り直される世界に、絶望の炎など不要。
そして、暗き道を行く伴侶ラニの為の篝火として、その身に炎を宿し、神の力にて運命を回避した。
両者は、何もかもが違っていた。
ミドラーは、狂い火を望み宿した訳ではない。
ラスティは真意はどうあれ、彼自身が望んだもの。
まず、その意識の違いが一つ。
もう一つは───。
〜
『おおおおっ!!!』
暗月の大剣、そしてレナラの王笏を媒介にしたアデューラの月の剣の二刀流が、狂い火の王と凄絶な斬撃鍔迫り合いを演出する。
【───────────】
狂い火の王はゆらりと緩やかに動きながら、ラスティの斬撃とぶつかり合い、またその熱量でラスティと周囲を焼き払っていく。
ラスティは、その戦いに独りで臨んだ。ラニすらも、巫子の村に待たせた。その理由が、この狂い火の王にこそある。
【───────────】
かの王の火は、あらゆる全てに永劫消えぬ火の傷跡を刻み込む。
霊体であれば完全なる焼却を。つまり、サーヴァントなどまともな形すら保てず焼き払われてしまう。聖杯の泥と、全く同じ性質を持っている炎だ。
そしてそれは、なんとおぞましい事に【英霊の座】の本体にすら刻まれる火傷となる。サーヴァントに刻まれた霊基が座に帰る際、狂い火は座の本体すら焼いてしまうのだ。
人類の歴史すら焼き払う禁忌の狂い火。魔術の世界には、決して持ち込んではならないもの。
そして、生身の存在すら彼の前に立ってはならない。狂い火は火であり、また病である。
狂い火の王たる存在を長らく直視し、触れてしまったものは、やがて狂い火の病を発症する。
目が焼け爛れ、燃え盛り、発狂する程の痛みと苦痛を伴う。それは、ルゥ程の絶対存在でなくば乗り切れない悪夢の延焼。
リッカやレン、仲間たちをこんな炎には晒せない。
人類を灼き尽くす炎を、野放しにはできない。
故に彼は、ここに来た。二つの世界を護るために。
そして、狂い火の王たるものになるには、ミドラーはあまりにも弱く。
そして、狂い火の王たるものになるには、ラスティはあまりにも優しすぎた。
故にこそ、彼こそが狂い火を根絶せしめる。狂い火の王を滅ぼせる。
王は一人。狂い火の王のどちらかが、どちらかの種火となる。
そして、互いに最も相応しくない者が狂い火を宿していた。
影の地の奈落の底で、人知れずに。
汎人類史と、狭間の地の命運をかけた戦いが始まっていたのだ。
〜
ラスティは狂い火の王に、持てる力を振るい戦う。
あらゆる魔術、あらゆる祈祷、あらゆる武具を使用し狂い火の王を滅さんとする。
『おぉおおぉおっ!!!』
二刀流の乱撃が、狂い火の王得物を軋ませる。狂い火による身体を焼き尽くす熱は、暗月の大剣の冷気が相殺しているが故に彼を護る。
【───────】
一挙一動にて、狂い火の王は破滅の火を撒き散らす。加速度的に、そこは王のみが命を許されるほどの極地に変わる。
【───────】
太陽のような狂い火の王の頭部から、極太レーザーが如き光線が撃ち放たれる。
『!!』
ラスティは獣めいた跳躍にてそれをかわす。上空に飛び立った彼が持つのは、冷気を宿したグレートソード。
『おぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉお!!!』
かつてラニに共に仕え───彼が介錯せし戦友、ブライヴ。その遺品たる、冷気の得物を狂い火の王に叩きつけた。
【─────────】
すかさず足元が、また全身が凍結していく狂い火の王。ラスティの追撃は止まらない。
『はぁあぁぁあぁあぁあっ!!!』
瞬間、レラーナの双剣──炎と冷気の二刀流にて、狂い火の王を滅多切りにし、
『ぉおぉおぉおぉおぉおぁあぁあっ!!』
深々と狂い火の王に突き刺した後、ラダーンの双剣に持ち替え、刃に重力魔法を込めたたきつける。
『ぜぁあぁぁあぁあぁあっ!!!』
そして、カーリアの秘宝『夜と炎の剣』の構えから巨人の火と月の彗星を模した光線にて、狂い火の王を撃ち貫き焼き払った。
『ッ──────』
素早く距離を取るラスティ。デミゴッドすらも容易く命を奪う、王の乱撃。
それら全てを、狂い火の王に叩き込んだ。
─────しかし。
【────────】
狂い火の王は…健在であった。その身体には、ただの傷一つもついていない。
ラスティの技量不足ではない。彼の一撃一撃は、命を万は奪い取る連撃だった。
それは狂い火の王の、【全てを焼き払う炎】という、魔術師世界で言う【概念】【逸話】に値する権能。
狂い火の王は全てを焼き払う。事実も、攻撃も、因果も、結果も。
ラスティの攻撃は全て、届きうる前に【焼却】されていた。それら全てが、概念レベルで焼き払われていたのだ。
狂い火の王の火を、消すことは出来ない。
狂い火の王の火が、陰ることはあり得ない。
全ての生命は間違えた。
全ての生命は分かたれた。
全ての生命は誤った。
ならばこそ、その過ちを糺すために。
【───────────】
狂い火の王はその為にある。
我等が王よ、狂い火の王よ。
世に混沌のあらんことを。
世に混沌のあらんことを。
【──────────】
狂い火の王が、一際高く浮き上がった。同時に、一際激しく燃え盛る。
『─────!!』
今の狂い火の王は、ミドラーを種火としている。
世界を焼くには、あまりにも脆く弱い。だがしかし、この周囲一帯を狂い火で焼き払う事はあまりにも容易い。
そしてそれは、ラスティを祝福と肉体ごと焼き払い───
影の地の全てを、狂い火の炎に呑み込むだろう。
【──────────】
加速度的に輝きを増していく、狂い火の炎。
最早何もかもが間に合わない。狂い火は、影の地の全てを灼き尽くす。
分かたれた全てを、大いなる一つに。
もう二度と、誰も苦しみ生まれぬように。
遍く生命を、大いなる一つに。
黄色い狂い火が、何もかもを焼き溶かすように────
【─────────】
輝きが高まっていく。全てを灼き尽くす炎が燃え上がる。
ラスティはその時───
そして。
【─────────────】
燃え盛る火が、解き放たれる。それらは最早津波のような、燃え滾る火の大瀑布。
瞬く間に、対話室は火に包まれた。
ミドラーの館の何もかもが、黄色い火に呑み込まれた。
奈落の森の全てが、黄色い炎に焼き尽くされていく。
全ての生命が、燃え落ちていく。
何もかもが、焼け落ちていく。
狂い火という火へ。
全ては、大いなる一つへ───。
【─────────】
ゆっくりと歩む狂い火の王。
その歩みは、影の地、そして遍く世界へと。
全てを救わんと歩みを進めんとした時───。
【──────────】
【全ての黄色き炎】が、『黒と紅蓮の焔』に掻き消された。
それは、狂い火ではない。
巨人族の火でもない。
宵眼の、黒き火でもない。
もっと忌まわしく、もっと鮮烈な───
厄災とも呼ぶべき、禁忌の焔であった。
【────────】
狂い火の王は見た。
彼を、暗月が護っている様を。
そしてその全身から、紅蓮と漆黒の雷と炎が溢れ出ている所を。
ラスティ『────狂い火が全てを焼き尽くし止まらぬというのなら』
立ち上がるラスティの身体が、その二つを立ち昇らせる。
『その炎すらも焼き尽くし、呑み込んでみせよう』
それは、狂い火とは別なる炎。
かつて、アスラ・ルーが受けた呪いと厄災の炎。
……マリカが黄金樹の時代にたった一人にのみ許した炎。
『品行方正は、今は止めだ』
ラスティが、吼える。
【おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーッッッッ!!!!】
身体から燃え滾る、黒と紅蓮の焔。
厄災、呪い、闘志と覇気が混ざり合った、悍ましくも勇ましき炎。
【─────かつて捨てし名の欠片を、今名乗ろう!】
燃え滾る炎が、狂い火を呑み込む。
【今のオレはラスティ・エングウィン!!】
世界を、救わんが為に。
【アスラを継ぐ、黒き薪の王よ!!!!!】
父、アスラより引き継ぎし業火を…
今、解き放ったのだ。