人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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アスラ【私は、あなたの時代に相応しくない】


マリカ『アスラ、それは何故?』

アスラ【あなたの世界は、黄金の豊穣の世界。我が身は黒く汚れた、おぞましい禁忌の火だ。許されるはずがない】

マリカ『………アスラ、それは違うわ。我が王ゴッドフレイの、比類なき友』

アスラ【……!】

マリカ『祝福とは、慈悲とは、愛とは。救われぬもの、弱きものにこそ与えられなくてはならないの』

アスラ【女王……】

マリカ『数多の敵があなたを呪うなら、私は無二の祝福と恩寵を貴方に賜わさん。神の名において』

アスラ【……………】

マリカ『そして、いつか………』

────貴方に、運命の伴侶が出来た時。

───溢れんばかりの愛と、祝福と、恩寵が齎されますように。

───神ではなく、女王ではなく。

──たった一人の、人としての願いをあなたに。

──アスラ・ルー。優しく誠実なる、黄金樹の理性よ。


狂い火の果て

厄災の業火。

 

かつて戦士の理性、アスラ・ルーがホーラ・ルーと共に戦い、全ての敵を討ち果たした際に受けた呪いと、宿業が形となったもの。黄金樹の敵の怨嗟と呪いを、全て引き受けたもの。

 

アスラは戦士が、仲間が、マリカが、世界が呪われぬように全ての宿業をその身に引き受けた。彼はその身を、呪いと怨嗟の受け皿にしたのだ。

 

その呪は炎となり、その怨嗟は雷となり、アスラの魂と肉体を焼き焦がした。しかしアスラは、超人的な理性と自制で完全なる制御を果たしてみせた。

 

マリカは、黄金樹の時代でアスラただ一人に火と炎を有する事を許した。それほどまでに、マリカはアスラを信じていた。

 

黒き薪の王とは、アスラが至聖女たる女神セフィアラと結婚した際についた名である。

 

アスラは聖都セフィアラに生まれる厄災、諍い、罪業を引き受ける役割を担い、黒き薪として妻と民に尽くした。

 

それは都と妻、民の善き心と市政を守護し、その治世は永く繁栄した。

 

罪業により骨すらも焼き尽くされる苦痛は想像を絶するものだが、アスラの理性はそれすらも捻じ伏せる程の堅牢さであった。

 

黒き薪とは、罪業に身を焼かれながらもけして狂わぬ者が灯す火。

 

そしてそれは、セフィアラとアスラとの愛の結晶たる息子に託された。

 

世界を救うに相応しい力と意志を有さんとする子──。

 

黒炎の王、エングウィンたる息子に。

 

 

【おおおおおおおおおおおッッッッ!!!】

 

ラスティが黒炎を滾らせ、渾身の拳を狂い火の王へと叩きつける。それは本来なら腕を焼かれ、燃え尽きるものだ。

 

【──────────】

 

だが、狂い火の王に放たれた一撃は燃え尽きる事無く深々と太陽が如き顔面に突き刺さる。

 

燃え尽きることなく突き刺さった拳。そう、それもまた焔であるが故に。これはまさに、王の炎のぶつかり合い。

 

火が弱いほうがかき消される。小細工無しの渾身の力量と器の勝負であった。

 

【がぁあぁあぁあぁぁあっ!!】

 

素早くラスティは狂い火の頭を首相撲の要領でロック。無数の膝蹴りをゼロ距離で叩き込み続ける。

 

【うおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!】

 

ラスティの先祖にして父、アスラは戦士であった。理性による武具を好んだが、その武力もまた、ホーラ・ルーに次ぐもの。

 

【だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!】

 

その直子たるラスティも、武具を使わぬ戦いが不得手であるはずが無い。首相撲を捻り下ろす要領で、狂い火の王を地面に叩きつける。

 

【ぜぇあぁっ!!!】

 

背骨を踏み砕かんと振り下ろした踏みつけは、狂い火の王のゆらゆらとした動きにかわされる。

 

否、それは反撃であった。

 

【!!】

 

ふわり、と浮き上がった狂い火の王は、劫罰の大剣をラスティに振り下ろす。

 

それは最高の苦痛を齎す逆刺の大剣。突き刺さればミドラーの二の舞となる。食らってはならぬ禁忌の技。

 

【ぬぅうぅうっ!!】

 

ラスティは受け止めた。両手でその剣を受け止め、体勢を崩しながら押し留める。

 

【ぬぅおおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおっ………………!!!】

 

渾身の力比べ。狂い火の王と黒き薪の王の、正面からの勢力争い。

 

分水嶺であった。この接戦に負けた炎が、吹き消される。

 

【ぬあああああああああああっ!!!】

【────────────────】

 

力の限りに吼えるラスティ、不気味に燃え輝く狂い火の王。決着は、すぐそこに迫っていた。

 

黄色い狂い火と、赤と黒の炎雷が激しく燃え上がり火柱を形成する。辺りは燃え滾り、地獄絵図の様相を見せる。

 

生命を全て焼き滅ぼす狂い火、その王。しかし──ラスティに勝算が無いわけではない。

 

ミドラーは理性の人であった。狂うことなくその火を宿したがゆえ、狂い火の王としては弱すぎた。

 

対してラスティは、その身に三本指の火を直々に受け、厄災の火を共に受けながらも微塵も狂わなかった。

 

資質という点では、ラスティは狂い火の王として比類なき才覚を有していたのだ。ならば、火力において遅れは取らぬ。

 

【うぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおッッッッ!!!!】

 

そしてラスティには、狂い火の王とは全く異なる火種があった。魂に燃え盛る薪があった。

 

それは、愛する伴侶ラニであり、自らを産み落とした両親であり、友であり、家族であり、仲間である皆への比類なき愛。

 

そして、それら全てを生み出す世界と、生命そのものへの愛。彼はそれらの想いを燃え上がらせ、炎を滾らせていたのだ。

 

ラニの齎した月の世紀は勿論のこと、リッカ達の世界の事を知り尚益々それは強くなった。

 

平和が、満ちていた。戦うこと無く、怯えること無く人が過ごせる世界があった。人が人の為に生きれる世界を知った。

 

生命が生まれることは、何よりもすばらしい事である。彼はそんな世界の有様を、とても好ましく思った。

 

故にこそ、負けられない。狂い火の理念を拒絶する。

 

それは、極めて単純な理屈だ。全てを焼き溶かし、大いなる一つになってしまったのなら。

 

それでは、叶わないからだ。ラスティの、遍く命の本懐が果たせない。

 

即ち──

 

【はぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあッッッッ!!!】

 

愛する者と、心を通わせる奇跡。

 

世界で共に行きていく喜び。

 

それらが全て、奪われてしまうからだ。

 

苦しみを有する者たちの嘆きは正しい。

 

しかし、その正しさで奪ってはならぬ宝が世界にはある。

 

それを知るからこそ。ラスティは決意した。

 

【貴様は此処で燃え尽きるのだ、狂い火の王よ…!】

 

この場で、この狭間の地にて、狂い火の根源を撃滅するのだと。

 

【──────────】

 

狂い火の王が、燃えている。焼き尽くすは、狂い火の王に非ず。

 

そう、それはラスティの厄災の炎。燃え滾る黒き炎に、狂い火の王が逆に焼き尽くされているのだ。

 

【消え去れ!!皆が迎える世界に…!】

 

最後の審判が如くに、狂い火と業火が共に燃え盛る。

 

【狂える火など、継ぐ必要は何処にも無い──────!!】

 

やがてそれは辺りの全てを巻き込んで…

 

全てを吹き飛ばす、大爆発を起こした。

 

 

奈落の森は、焼け落ちた。

 

二人の王により、草木も生物も焼き払われた。

 

残り火が燻っている。

 

二つの炎の爆心地は、クレーターが穿たれていた。

 

そこから、一つの影が立ち上がる。

 

『────────』

 

燃え滾り、その炎と原型を絶やさなかったのは…ゴッドロード、ラスティであった。

 

二つの王の炎の戦いは、ラスティに軍配が上がった。それはまさに、生命と王の故の勝利と言う他無いものだった。

 

狂い火の王は、ラスティの炎により跡形もなく吹き飛ばされた。

 

狂い火の王は、滅んだのだ。

 

『───────』

 

だが、ラスティにはやるべき事が残っている。

 

狂い火が焼き払った森の、再生だ。

 

『───────』

 

跪き、ラスティが祈る。その手に握りしは、白金で編まれし『慈愛の女神の聖印』。彼が受け継いだ、もう一つのもの。

 

彼はアスラの宿業と、母セフィアラの奇跡と祈りを受け継いでいた。

 

彼が持ちうる全ての精神力を注ぎ込み、祈りを捧げる。

 

すると────奈落の森に、奇跡が起きた。

 

焼き払われた大地が、木々が、動物達が再生していく。正確には、新生…再誕とも言うべきもの。

 

傷つき、焼き払われ、燃え尽きた全てが、かつての緑と、豊かさと、花が一面に咲き誇る楽園の姿を取り戻していく。

 

それこそがセフィアラの奇跡。祝福を、奇跡を、未来を、慈悲を、『祈った者とその全て』にもたらす祈祷。

 

それは律であり、法であり、理。傷つけることは叶わぬが、遍く全てに慈悲を齎す神の愛。

 

アスラの業と、セフィアラの愛。ラスティは確かに、それを受け継ぐ子であった。

 

やがて、祈りを終える頃には全てが元通りとなった。

 

鳥が羽ばたき、鹿や羊、山羊が駆け回り、花畑が一面に広がる秘境へと。

 

『───────』

 

動物達に迎えられながら、ラスティは空を見上げる。

 

奈落の底から見上げた先、分厚い曇天でしか有りえぬ影の地の空に…

 

奇跡の青空と、華やかな虹がかかっていた。

 




ラスティ『…………!』

ラスティは見る。

ミドラー『────』
ナナヤ『─────』

肩を寄せ合い、微笑む二つの魂を。

ミドラー『ありがとうございました、王よ…』
ナナヤ『心から、感謝致します───』

ラスティに感謝を告げ、二つの魂は消えていった。

ラスティ「……どうか、安らかに」

天に昇る魂を、ラスティは厳かに見送る。

最早この地に、足を踏み入れる者はいないだろう。知るものは全て、ラスティが焼き尽くした。

この地は、奈落の秘境たる楽園となる。誰も、傷付くことは無い。

影の地の奈落。そこに皮肉にも、楽園は出来たのだ。

ラスティ「──────」

使命は終えた。ラスティは動物達を撫でながら、歩き出す。

「さぁ、帰ろう。皆の下へ」

影の地に燻る、狂い火。

それらを全て消した王は、先程の殺意や険しさを全て捨て去り…

穏やかに、愛する世界へと戻るのであった。
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