人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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影樹とは、黄金樹の影であった

律とは呼べぬ、暗い思いから生まれ

それ故に脆く、ねじくれていた。


拒絶の棘

「ここが…影樹の麓だね」

 

影の城の焼け落ちた教会から更に先に行き、リフトを経由した地下部分。広く開け、足元に満ちる黄金の液体が満ちる不可思議な空間。そこに、リッカらが辿り着く。

 

「黄金樹を見た後の感想になるが……。酷く歪なものだ」

 

ヘラクレスの言うように、堂々と屹立し、狭間全てを照らし出していた黄金樹と、影樹とは似ても似つかない。歪み螺子曲がった二つの巨大なる樹木が、無節操に絡まり尽くし伸び上がったかのような無規律、無秩序さ。

 

【むぅ。まるでヤケを起こしているかのようだ。自らが、影の地が置かれた状況を誇示しているかのような…】

 

ラダーンの言う通り、そこには破滅的なメッセージを齎している。

 

存分に拒み、傷つけるがいい。我等は見捨てられたのだ。捻じれながらも天に屹立する様は、物言わぬ慟哭を表すかの如くに。

 

「棄民扱い…だもんね。やっぱり…辛いんだろうね…」

 

リッカの言葉が発されたと同時に、その空間を照らすかのように輝くものがある。

 

【あれは…】

 

無垢なる黄金に輝く、偉大なる輪。本来のエルデンリングより砕かれ分かれた、大いなるそれの一欠片。

 

「大ルーン!デミゴッド・ミケラのものと思われます!」

 

輝きを放つミケラの大ルーン。ねじれ歪んだ影樹と対照的な、静かに柔らかくすべてを照らし癒すような存在感を放つそれが、リッカ達の眼前にて輝いている。マシュが声を上げると同時に、注目が集まる。

 

【解せぬ。ミケラは何故大ルーンをこの様な場所へと置きさったのだ…?】

 

ミケラはこの地に、神となるためにやってきたとされる。それが、この大ルーンを棄てる行為に繋がることにラダーンは接点を見出せなかった。

 

「アンスバッハさんが言うには、ミケラは瞳とか肉体とかを削って各地に捨ててるみたい。マレニアさんも真意は読めないけれど、瞳を捨てたって聞いたら血相変えてた」

 

【瞳を!?……瞳、それは次代の神たる選ばれし者の証なのだ。マリカの後を継ぐ神人。かつて肉体を有していたラニも、その神の瞳を有していた】

 

ミケラ、マレニア、そしてラニ。マリカが産んだ子供の中で三人が神たる資格を有していた。

 

ただ、マレニアは腐敗にて瞳を腐らせ、ラニは二本指の支配を嫌い肉体ごと瞳を捨てた。そしてミケラは永遠に幼く、成長する事は永遠に無いことから神にはなれない。

 

【奴は全ての黄金を、マリカと黄金樹にまつわる全てを捨て去らんとしているのか。肉体も、力も、神たる資格も】

 

大ルーンを捨てるということは次代の神たる資格を捨てたということであり、またその力も、魅了の根源もこの地に捨て去っている。

 

彼は、生まれ持ったあらゆる全てをこの地に捨てているのだ。そうまでして、それほどまでにして成さねばならない事はなんなのか。

 

「ミケラとの約束を、ラダーンさんはしていたと伺います。その時のミケラさんは、どの様な存在だったのでしょうか」

 

マシュの問い。そう、ミケラの本来の人格を、リッカらは預かり知らない。

 

【ふむ。やはり可憐という印象が先に来る。自らが脆弱に生まれながらも、弱者…無もなきものを愛し、祝福し、誰もが奴を愛し祝福した。愛という観点において、奴を上回るデミゴッドはゴッドウィン殿ぐらいであったな】

 

「ゴッドウィン……陰謀の夜にて殺められた、黄金の一族の長子か」

 

【然り。まぁ私は父祖ゴッドフレイ、そして宰相の獣セローシュに夢中でありミケラにそれほど興味は無かったのだが…奴と話したのは、ほんの一言二言だった】

 

ラダーンが盗賊、または怪物などから村や民を護るための戦いから凱旋した日に、ミケラが自らの前に現れたという。

 

【奴は言った。私は必ず神になります。そして約束が果たされた時には…私の王に、なってください、と】

 

「察するに、強さだけでないラダーン殿の人格や精神に、次代の王の資格を見たのかもしれんな」

 

ヘラクレスの予測に、リッカとマシュがうんうんと頷く。最強の力を持ちながら謙虚で、優しさに満ち、豪快で慈悲を有するラダーンを、王として見初めるのはなんらおかしいことではなかったからだ。

 

【だが私は、その問いを受けなかった。私は王ではなく、正しく強い王の刃にして護り…将軍の立場を望んでいたからな】

 

ラダーンは王座に興味がなく、野心にも遠い人物であった。自らが王になろう、王であろうとは微塵も考えていなかったのだ。

 

【破砕戦争に参加していた際も、私に大ルーンが齎されたが故に、王たる者を見極める為だった。大ルーンを集め王の資格を有するものを、我が魂にて試すために参戦した。自らが王となろうとは考えなかった】

 

「そういう部分が……ミケラさんには、素晴らしく思えたんだと思います」

 

【そうであったか……。ともすれば、リッカらに出会わず、朽ち果てていたならば。一度くらいはヤツの願いに応え、ヤツの約束の王となっていた世界もあったやもしれんな…】

 

決して悪ではない。ミケラは純粋に、次なる世界の到来を願っていた。

 

世界を、少しでも優しくしたい。ラダーンの強さと優しさこそが、それを導く王に相応しいと確信していたのであろう。

 

【だが…。今の私はリッカらカルデアに義理と恩義がある身。断じてヤツの傀儡、王になる気はない】

 

ラダーンは告げる。ミケラの恐ろしさを。

 

【ヤツの力とは魅了。神の力として、ヤツは生きとし生けるもの全てに愛された】

 

「神の力…?愛される事が力なのでしょうか?」

 

【愛するを強いることができたのだ、マシュ。奴は他者の心を奪い、盗む。愛という感情で、他者の全てを漂白する】

 

自らを、愛するように仕向ける。自らを愛することを強いる。それこそが、ミケラの神、デミゴッドとしての力。

 

「フン。幼きものへの庇護欲こそを力とするか。ギリシャポイントが高まる話だ」

 

(ギリシャポイント…?)

 

【その力の根幹は、あの大ルーン…。捨てたということはもう行使は叶わぬはずだが…くれぐれも、ミケラと相対した際は細心の注意を払い、心を強く確かに持つのだ】

 

全てを魅了する。愛することを強いる。それこそが、ミケラの力にして神たる所以。

 

先に戦ったマレニアの言葉が蘇る。

 

『ミケラこそ、最も恐ろしいデミゴッド』

 

どの様な力を有しているものも、どの様な想いを有するものも。

 

ただミケラのみを愛し、ミケラのみを信じるようになる。それは確かに、恐ろしき心の殺害であろう。

 

そしてそれは奇しくも楽園の…

 

いや。全宇宙に生きとし生けるもの全ての不倶戴天の敵、『ビーストΩ』の在り方に極めて酷似している。

 

……それを捨て去ってでも、成すべき事。

 

「……ゆくゆくは、ミケラの口からもちゃんとお話を聞かなくっちゃね」

 

それは必ず、ミケラ本人より問いたださなくてはならないものだ。

 

故にこそ、全ての戦いに負けるわけにはいかない。道半ばで果てるわけには行かない。

 

この地の救済こそは、やがてビーストΩのいる宇宙に通ずる道筋となるべき戦いなのだ。

 

そのためにも、まずはマリカと、マリカ本人の望みであった世界を取り戻さなくてはならないのだから。

 

「行こう、みんな。あの大ルーンさえあれば、大ルーンは全部揃うはずだから」

 

リッカが意を決して、大ルーンへと歩み寄らんとした……

 

その時であった。

 

「先輩!お気をつけください!周囲が振動しています!」

 

マシュの言う通り、周囲が振動している。何者かが出る前兆のように。

 

「単純に持っていってください…とは、ならぬようだな」

 

ヘラクレスとマシュが構え、リッカの装いがラダーンの鎧へと変わる。

 

そこに──現れしものこそ。ミケラの大ルーンの守護者であった。

 




捻じくれた太い蔓が絡まり合った、巨大な黒いヒマワリのような姿。

【………………!!】

影樹の化身。

それが、大ルーンを護る影樹の意志そのものであった。
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