人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
レン「エニル・イリム…そこが、影の地の終点なんだね」
ルゥ「西の方っていうと、焼け落ちた教会を黒き刃の皆が見つけたって言ってたねぇ。その先かなぁ?」
ラスティ「そこまで情報を手に入れたのなら、秘匿する理由もない。そこから先は、オレが案内するよ」
ヘラクレス「む、そうか。ラスティ殿はかつて全てを踏破したのであったな」
ラスティ「あぁ。皆の道が見えたのなら、案内する事に迷いはない。ラニと共に、最後まで導くよ」
ラニ『黒き刃たちが合流を心待ちにしているようだ。働きに、報いてやらねばな』
マシュ「はい!……そういえば、先輩は何処に?」
マレニア「彼女は少し、席を外している。…話しておかなければならない相手が、いるのだそうだ」
マシュ「話しておかなければならない相手…?」
「…ここにいたんだね、レダさん。探したよ、とっても」
塔の町、ベルラート。角人達のかつての焼き払われた町の頂上。神獣が舞い踊る舞台にて、リッカは辿り着き見つける。彼女が、話すべき相手の姿を。
「…君か。その声音、その決意。知ったようだな。ミケラ様の愛…捨て去った半身より、彼の御方への願いを」
針の騎士、レダ。ミケラの騎士たる彼女は静かに、しかし全身に血を浴びながら佇んでいた。彼女は刺し貫いていたのだ。角人二人が形作る巨大なる…獅子舞。神獣たる強き舞を踊る、角人達の勇者二人を。
「この先の昇降台を上がった先に、ミケラ様の向かった聖地…エニル・イリムへと至る道がある。ミケラ様が見出した君ならば、必ずや至る事ができると信じていたからね」
無垢の如き白き装束は、血に染まっている。白き祝福を受けたであろうそれは、拭いきれない朱にて彩られている。
いや、始めからそうだったのだ。彼女はミケラの為に、その目指すものの為に、ありとあらゆるものを刺し貫いていた。
「君ならば、ミケラ様の下へ必ず至る事ができるだろうと。…彼自身が、私にそう告げていたから」
それが、自身以外の騎士全てであろうと。道を同じくした同志であろうと。不倶戴天の敵であろうと。その全てを、レダは刺し貫いたのだ。
彼女こそはミケラの騎士。彼女が信ずるのはミケラだけ。それら以外の全ては『まだ敵対していないもの』に過ぎない。
即ち………【いつか必ず敵対するもの】。彼女こそは、ミケラの鋭き針。
「であるならば…もう君に向けられるものは、親愛だけでは無いことは…解っているのだろう?」
ゆっくりとリッカに歩み寄り、そっとレダは…編み込まれた、針の如き剣を向ける。
「マリカに、黄金樹に……夜の王に導かれし君よ。ミケラ様と、相いれぬ戦友よ」
「…………」
そう。これは必然だった。マリカの為に、新たなる王とならんとしているリッカ達。新たなる神として、世界の為に成り上がらんとしているミケラ。
世界の理は一つ。敵対と、戦いは必然。であるならば、リッカとレダの対立は…避けられないものである。それは必然であるのだ。
「…どうして、今まで助けてくれたの?」
リッカは、それを問うた。いずれ必ず敵対するのが定めである。それは解りきっていたことだ。
しかし、レダは初期からリッカに接触し、様々な面で手を貸した。それは、リッカらの旅の心強い導となった。それらを、なぜと彼女に問う。
「……ミケラ様は、旅立つ前に私に囁いた。それは、信じるに難かったが…それでも、あの御方の言葉に違いなかった」
〜
苦難の時代は、もうすぐ終わる。
僕が終わるか、彼女達が道を譲るか。
優しい世界は、もうすぐそこに。
〜
「……ミケラ様は、君や君の仲間達の事すらも信じていたんだ。君が、君達もがまた、優しい世界……ミケラ様の理想を、叶えるのだと」
ミケラは、レダに告げていたのだと言う。リッカ達もまた、優しき世界を夢見る者だと。
「ミケラがそう語ったのなら、私達は解り合えるはずだよ!」
リッカは言う。そう、レダもまた、ミケラの意志を知るものだ。
「ミケラを殺して、許してあげてとトリーナ様は言ってた!でも許しなら、命を奪わなくても私達はきっとやり遂げられる!」
ミケラの愛は本物だ。トリーナに触れたのならばそれは間違いない。リッカ達は、殺し合う以外の道を探すことが出来るはずだと告げる。
「手を取り合い、同じ夢を実現する!新しい世界は、そうやって作られるべきだよ!」
「………ああ。君は、本当にまっすぐだ。眩しい程に」
レダは歩き、リッカに近付く。それは、排除の姿勢ではない。
「手を取り合う事で、穢れてしまうものもある。それは、優しい世界には持っていってはならないものなんだ。リッカ」
レダの手。敵対者である角人の血に…いや、ミケラの敵と判断した全ての血にべっとりと塗れた血が、リッカの手を握る。
「私達は、ミケラ様の愛と優しさのみを最後の縁に決めた身だ。彼の目指す世界を、優しい世界を、楽園の世紀を夢見る者だ」
「…!」
「だからこそ、ミケラ様を命をかけて御護りする。彼の夢を、彼の想いを救いとして。……わかるだろう、リッカ」
強く、リッカの手をレダは握った。
「信仰は、けして二者に向けてはならない。神を信じるのであれば、それ以外の全ては、刺し貫かなくてはならないのだと」
「レダ、さん…」
「ミケラ様の優しい世界。君達が見る尊びの世界。どちらも、次代を作るに相応しい願いだ。逆を言えば、それら以外の可能性は必要ない」
だから彼女は刺し貫いた。角人を、死衾の乙女を、狂い火の信仰者を。
最後の覇者を決める戦いが、ミケラとリッカ達であるように。彼女の進む道は、血に染まった粛清の道筋だったのだ。
「だから……ここから先の私達の道は、訣別だ」
そっと手を離す。名残惜しさが香る、ゆっくりとした動作で。
「私は、人を信じられない。猜疑心の塊で、ミケラ様の魅了がなければ誰もを粛清してしまっていた女だ。…でも、君は。君の言葉だけは、真っ直ぐに信じられた」
「!」
「それは、君がミケラ様と全く同じ力を持っていることだ。神が如き魅力…。惹き寄せられるような魅了を、君もまた有している事に他ならない」
そしてレダは、リッカとすれ違いながら歩き出す。エニル・イリムに繋がる道へと。
「君を導き、話している間…。戦友と、親友。そして愛らしい妹をいっぺんに得たような、心地よい気持ちだった」
「レダさんっ…!」
「でも……ミケラ様の世界を、私は捨てられない。私は、君を…君を、貫かなくてはならないんだ」
そうしなくてはならない、という決意。
しかしそれは、そうしたい、という意味では決して無い。
「君は疑う事をせず、私の言葉を信じてくれた。私にはできない、他者への信頼を示してくれた。…だから、だからこそだ」
だからこそ……彼女が、彼女たちがいい。
「ミケラ様の世界ではない世界を作るのだとしたら……君達がいい。ミケラ様も、きっとこんな気持ちだったのだろうね」
昇降台に乗りこむレダ。ガコン、という起動音は、きっと最後の別れの合図。
「最後まで、君は私の友であってくれた。……だからこそ、今だけは。自分を曲げてこう言おう」
「!」
「決着は、清めの間にて。私が、ミケラ様へ仕える同士達が、君達の…旧律の王達を阻むだろう」
そして、昇降台が上がる。姿が、見えなくなる。
「…さようなら、戦友よ。次に出会うときは、互いの命をかけて殺し合う時だ」
最後まで……『自身の意志』にて、排除の意志を見せぬまま。
「願わくば、その優しさが…この先にもずっとずっと陰らぬ事を願って」
「レダさん…」
「さらば、藤丸龍華。……私が唯一、信じる事の出来た人よ」
その言葉を最後に、レダは消えた。
自らの信仰に殉じるために。
自らの信じた世界を迎える為に。
「…………」
リッカもまた、譲る気はない。今の、愛を捨てたミケラには。
なれば後は、どちらかが道を譲るか決めるのみ。どちらかが、世界を作るかどうかを決めるのみ。
だが、それでも…
「……殺し合うしかないなんて、言うつもりも。納得するつもりもないからね、私は」
彼女は、強く見つめていた。
誰も取りこぼす事無い、困難なれど輝かしい結末を。
その、黄金の色褪せぬ瞳は…
強く強く、未来を見つめていた。
アンスバッハ「解り合い、通じ合えど戦わなくてはならない。なんと、辛き事でしょうか」
リッカ「アンスバッハさん!」
アンスバッハ「はは、心配故見に来てしまいました。間違いが起きては、たまりません。下世話をお許し願いたい」
リッカ「全然大丈夫ですよ!……でも、不理解と誤解からの殺し合いには、ならなそうです」
アンスバッハ「えぇ。きっとその心意気には意味があります。…ですから、彼女もこう頼み事をしたのでしょう」
リッカ「頼み事?」
アンスバッハ「はい。あなたに、『ムーア殿を頼む』と。伝えられました」
リッカ「ムーア……?」