人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
ラスティ「この先の、焼き払われた教会。その先に封印の樹木があり、それを焼き払うことにより…エニル・イリムが姿を現す」
レン「そこに、神の門……ミケラが向かった場所があるんだね」
ラスティ「あぁ。だがしかしその前に、蕾の聖女ロミナを倒さなくてはならない」
ルゥ「スボミー」
ヘラクレス「含みのある聖女だな。敵なのか?」
ラスティ「あぁ。彼女は腐敗に救いを見出した異形の存在であり、封印を護る強力な…」
黒き刃【あ!きたきた!おーい!】
ラニ『む』
黒き刃【なんかムカデとかサソリみたいなの!皆で倒しておいたよ〜!】
ラスティ「!?」
【なんかウネウネしてたよね。話も通じなさそうだったから倒しちゃったけど…】
【私達、大丈夫だよね?こいつを倒した事で封印がー!とか、違うよね?】
ラウフの遺跡。古き文明の名残を残す遺跡の最奥、焼け落ちた教会跡の中央にラスティ達は到達した。その向こうにある、封印の影樹を焼き払いエニル・イリムたる影の地における聖地を目指すために。
ラスティの計算では、そこにはメスメルの火に焼き尽くされ、腐敗に縋り新生したムカデとサソリの意匠を有する異形、蕾の聖女ロミナが立ち塞がり一戦を交える手筈だったのだが…。
「あ、あの刺傷だらけで倒れているエネミーが、ロミナなのでしょうか?」
マシュの困惑は、黒き刃達に取り囲まれ絶命しているロミナに向けられていた。黒き刃達は、各地の諜報と偵察の斥候に立候補した巫子達だ。
だが、計算違いがあるとすればその戦闘力の高さだった。彼女達は風のような身のこなしと、鋭く軽やかな刃さばきを有した生まれながらの暗殺戦闘集団。
そこに更に、不可視の衣に敵の命を奪う死の力を宿した刃を握った暁には、そこにいるのは見えず、戦うことすら許されぬ神殺しすら容易い暗殺者の群れ。
腐敗の眷属たる力を得たロミナといえど、かつてゴッドウィンすら屠った黒き刃の集団暗殺にはひとたまりもない。無事、ラスティらが来る前にあえなく殺害と相成ったのであった。
【あ、王様に皆様!これはえっと、その、あのぉ…】
【会話は試みたのですが、最早腐敗の力に呑まれたモンスターだったので暗殺を、と…】
【よ、余計なことしちゃいましたか…?】
しかし、その圧倒的な戦闘力と体躯に似合わず、彼女達はまだまだ子供の情緒と精神を持っている。どうやらロミナと対話を試みたが失敗し、返り討ちにしたという状況なのだろう。
「………いや、ティシーもアレクトーもすっごい強いし強かったから不思議でもなんでもないんだけどね…」
【ら、ラスティ様!泣いておられるのですか!?】
【やっぱり私達、先走っちゃったんだ!】
【だからとりあえずいい感じに真正面から時間稼ぎしようって言ったじゃん!?】
『いや、違うぞお前達。これはお前達の優秀さに涙しているのだ』
独りでにボスエネミーを下す部隊が旅路において仲間にいる。そのあまりの圧倒的アドバンテージ。
「一人じゃない旅路って、凄いや……」
ロミナの撒き散らす腐敗の蝶や、蠍の尻尾から突き刺され注入される腐敗毒。ムカデの巨体から繰り出される圧倒的質量ローリング。
それらが全て処理されていた事実に、ラスティは楽園の旅路の充実ぶりに感涙を禁じ得なかったのであった。
「皆で王になる、って…こういう事なんだね」
「楽に勝てるのが一番だよねぇ」
レンとルゥはそっとラスティの肩を叩くのであった。これにて障害は消え去り、後はエニル・イリムを封印する影の木の処理を残すのみ。
【この先に、焼き払えそうな木があります。察するに、種火が必要と見受けられますが…】
「それは心配ない。私の宿す火で即座に焼き払ってみせよう。その後は竜体となり、皆を一気に神の門に通ずる…清めの間へと導こう」
エニル・イリムは角人達の聖地であり、内部には大量の角人達が立ちはだかることをラスティは知っている。中には全く怯まない神獣を降ろした戦士や角を生やした武人。祈りを捧げ遥か遠くからスピラを放ってくる祈祷師や踊るように切り刻んでくる呪剣士といった一筋縄ではいかない存在が目白押しだが……
「あんな奴らは無視するに限る!」
地道に登った結果、一人一人に壮絶な死闘を繰り広げたラスティからしてみても、戦うことにまるでメリットは見出だせない。今の自分達には翼がある。それを活用しない手は存在しなかった。
【はっ!では私達は、皆様の背後に侍りバックアップを!】
【マリカが神になった場所なんだって。どんなとこなんだろうね?】
【景色がいいんじゃないかな?それで…景色がいい?】
【2回も言ったし、それ意味おんなじじゃーん】
会話自体は他愛もない幼子でありながら、金髪と白き肌の美貌を黒き鎧とフードで隠す戦慄の暗殺者たる彼女らに、ラスティは内心震え上がりつつ感銘を受ける。
(彼女達が味方で本当に良かった…!)
(さすが、マリカの同郷にして懐刀だな)
【あ、ルゥちゃんだー!】
【レン、魔術教えてー!】
そんな彼女達と共に、あとはいざエニル・イリムへ……。
その時であった。
「……成る程。黄金樹に、マリカに導かれし王をこの手で討つ。それはメスメルを殺すよりも鮮烈な復讐になり得るだろうな」
殺意と、秘めた怒りに満ちた声。そして静かに佇む武人の気配。ラスティらの前に、2人は現れた。
【!!】
【あ、あの仮面!!】
黒き刃達が、片割れを見た瞬間に殺気立つ。それは異形の、毛虫を固めて作られた仮面。
【あいつ、角人だ!私達を壺に詰め込んだ、角人だよ!】
【あの仮面をしたやつに、私達は鞭でいっぱい叩かれて壺に入れられた…!】
【私達の、敵!】
毛虫の仮面は、儀式と神事に向かう角人がつけるもの。壺を作る儀式にも、それは用いられる。即ちそれは巫子たちの、不倶戴天の証。
【よくもあんな…!ぶっ殺してやる!!】
【仲間達に、マリカにもよくもあんな酷いことを!!】
【もう私達は、壺になんか入らない!!】
殺意のままに飛びかからんとする黒き刃達を、ヘラクレスとラスティ、マレニアが制する。
「待つんだ、君達!」
「復讐に身を委ねては、身を滅ぼすぞ」
【でも……でも、痛かったんです!】
【凄く痛くて、辛かったんだよ…!】
【お前たちは、そのために生まれてきたんだって…!】
黒き刃達は、それでも透徹した理性の人だった。静止に、我を取り戻す。
「解っている。解っているよ」
ラスティはそれを受け…角人と、落葉のダンたる二人に話しかける。
「知っての通り、ここにはミケラの敵しかいない。特に角人…マリカの祝福を恣にする私達は、どうしようもなくお前の敵だ」
「フン。故にこうして現れたのだ。壺人にすらなり損なった役立たずの巫子どもを侍らせる気狂いの貴様の前にな」
「……一応聞くが、悔恨の念は無いんだな」
「角無しの巫子共にか?なぜいちいち儀式の道具や供物に同情する理由がある。中にはそいつらを孕ませる家畜にも使った物好きもいるが…私にはどうでもいいことだ」
巫子達を侮蔑しているわけではない。角人にとって、徹底的に角無しは差別対象なのだ。
「私が望むのは復讐だ。メスメルは私の村を、母を、妻を、幼き子を焼いた!その復讐を果たすためにミケラに尻尾を振ってまでこの地にやってきた。黄金樹の王を、この手で殺してやるために!」
角人は、メスメルの聖戦の生き残りだ。彼の火により、彼以外の全ての同胞は焼き殺された。
【自業自得だよ、バーカ!ざまぁみろ!】
【メスメル様は正義の聖戦を行った!お前たちみたいな気持ち悪い忌み子を焼き払ってくださったんだ!】
【お前なんかを産んだ婆と、アバズレと、忌み子はみーんな地獄に行ったんだ!未来永劫呪われたまま!私達の怒りと呪いの報いだよ!】
巫子からすれば、そんなものはただの報い。野蛮な蛮族が、ただ負け犬となっただけの話。
「角無し如きが…!私の家族をその穢らわしい口で語るな!!」
殺意に満ちる教会。今や戦いは避けられない…一触触発、その瞬間。
「ミケラの同士達は、尋常なる決着を清めの間にて待つ」
ダンが、口を開いた。
「王と、終わらぬ復讐はそこで終わらせるのだ」
それだけを告げ、二人は消えていく。
「顔を見せたのは宣戦布告だ。お前たち黄金樹に与する者は、皆この刃で切り刻んでやる」
「………」
「殺してやるぞ、マリカ。お前の希望を全て。そして次は、お前の番だ…!!」
剣呑を極めた対峙はそこで終わり…
後は、封印を残すのみであった。
黒き刃【……お願いします。あの角人は、私達に】
黒き刃【怨み骨髄だよ!絶対、絶対許せない!!】
ラスティ「……おそらく、清めの間にて…ミケラの信徒と全面戦争が起きる」
黒き刃【………】
「その時に…君達の怒りを叩きつけてやるんだ」
【!】
【【【【了解!!】】】】
ヘラクレス「……復讐、か」
レン「やりきれないね」
ルゥ「哀しいなぁ…」
ラニ『……これもまた、新時代への禊であり。ミケラが神とならんとした理由なのやもしれんな』
ラスティ「……………」
─────狂い火で封印を焼き払い、現れるエニル・イリムを見つめながら…
ラニの言葉に、静かに耳を傾けるラスティは何も言葉を発さなかった。