人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
シフ【ラスティ様】
ラスティ「シフ?どうかしたかな?」
シフ【お聞きしたいことが。マリカの事です】
ラスティ「マリカの…?」
シフ【マリカは…角人を、どうしましたか?】
ラスティ「!……忌み子として、井戸に捨て隠したよ。彼女は、憎しみを捨てられなかった」
シフ【………やはり………そうですか】
ラスティ「シフ?」
シフ【ありがとうございます。これで……】
【取るべき手段を、見つけました】
(死んだ目で残業する→機械がトラブルで早期残業終了→執筆でしたので感想メッセージ返信は明日以降行います!)
差別というものは、様々な要因で起こる。
身体的特徴、文化の差異、種族間の争い、それら様々な要因が絡み合い、差別は生まれる。
大抵は、身体的に劣る存在が被差別対象となる。それは、残念なことに自明の理である。
しかし、その例が全て当てはまると言えば決してそうではない。
差別されている側が優れており、それを疎み妬む多数が集まり、迫害に移れば差別も生まれる。
決して、弱いものが差別されることは不文律ではない。
強きものもまた、差別されうる。
そして差別されし強きものを苛むのは強さではなく、大抵が環境だ。
その環境が、正された時。
被差別者は、自らの強さと正しさを取り戻すのだ。
〜
「ぐっ、ぬぅううっ……!」
清めの間にて、復讐に燃える角人が呻く。剣戟の音が、鋭く響いている。
【─────】
角人と切り合うは、シフ。リーダー格の彼女が、正面から角人と戦っていた。
いや、それは戦うというには相応しくない。シフは、徹底的に黒き刃で角人の二刀、ファラクスを弾き捌くのみ。防御とパリィに終始しているのみだ。
角人を削り取るのは、死角から迫るラトリアとグィネヴィア。完全なる不可視の二人が、角人を少しずつ削り取り、突き刺していく。
「小賢しい、巫子の死に損ない共が…!」
忌々しく呻くも、三人の連携は圧倒的であり、それは最早勝負にすらなっていない。角人の恵まれしフィジカルも、苦痛と出血の時間が延びているだけに過ぎないのだ。
シフ達巫子は、角人の儀式の道具として不当に貶められた。
しかし、神たるマリカは神となりし巫子である。それはつまり何を意味するのか。
即ち、巫子の全てが神たる資格を持つ存在であるということ。年端もいかぬ子ならば迫害出来ようが、皮肉にも壺の中で成長した巫子たる彼女らは、角人すらも上回る身体的強者なのだ。
力の様相と、形勢は完全に逆転していた。角人は、侮りしシフ達に刻まれていく。
「がっ、がフッ!ぐふっ…!!」
ラトリア、グィネヴィアの斬撃に微塵も容赦は無かった。一太刀入れるたびに内臓がまろび出、腱や筋肉が寸断されていく。
一言も、二人は発しない。だがそこには、比類なき殺意と怒りと、憎しみがあった。
「ま、だだ……まだ私は、倒れるわけにはいかない……」
血だるまに、血まみれになりながらも角人は剣を手放さない。
「復讐を、果たすのだ…母の、妻の、子の、復讐を……マリカに、黄金樹に…」
【……………………】
「全てを、奪われたのだ……!なんとしても復讐は…この、復讐だけは……!」
角人が尚も、剣を振るい復讐を果たさんとする。
【家族を、仲間を想える心はあるのだな。心なき畜生とばかり思っていた】
だが───怨み骨髄、怒髪天で言えばこちらも然り。
【その心を────】
死角から、真正面から、側面から。シフ、ラトリア、グィネヴィアが走り距離を潰す。
「!!」
角人は気付くが間に合わない。三人の加速はあまりにも速く───
「がふっ…!!!」
角人の身体を、貫いた。
【僅かなりとも我等に向けていたならば、貴様の運命は違っていただろうに】
圧倒的であった。怒りに満ちた黒き刃、巫子にして神の同胞たる三人の力は、デミゴッドにすら届くほどに強きものだった。
「……すま、ない……」
力無く崩れ落ちる角人。傷と出血は甚大だ。致命傷にも届いだろうか。
「すまない…母よ、妻よ…幼…」
譫言のように、死んでいった家族達を偲ぶ角人。
「……ミケラ………一族を…救って………」
そこにあったのは、切実な願い。ミケラならば、弱いものや名もなきものを祝福する。せめて、優しき世界へ彼女らをと。
【そんなわけないじゃん】
その時、角人の祈りを引き裂くように冷たい声をラトリアが飛ばす。
【お前ら角人は、みーんな永遠に穢してあげる】
ラスティの持ち物からこっそり拝借した、苗床の呪い。これを植え付けられた死体は、永遠に呪われ瀆される。
【悍ましい蛮族。破綻した気狂いたち。赤子の赤子、ずっと先の赤子まで……。角人は皆呪ってあげる】
ラトリアの怨み、憎しみは想像を絶していた。彼女は見ていたのだ。
友達が、泣き喚きながら壺に押し込まれるところを。
友達が、鞭で打たれ腐れゆくところを。
友達が、尊厳も何もかもを踏み躙られるところを。
そして自分も、同じ目にあった事を覚えていた。否。三人は皆同じだった。
壺の中で死ぬだけだった自分を助けてくれた人達の為に、角人を滅ぼす。
死など生温い地獄に。誰が家族の下に逝かせるものか。
「……やめて、くれ……」
角人は弱々しく呻く。
「家族の下に…逝かせてくれ……」
永劫に汚されたなら、二度と生まれ変われず死ねない。呪われたまま未来永劫ずっと停滞する。霊的な信仰をする角人にとって、死ぬよりも苦痛である仕打ちだ。
【呪われろ。呪われろ、呪われろ……!!私達にそうしたように!お前達も!!】
【……………】
今、穢れし刃が振り下ろされる。
【穢れてしまえええええっっ!!!】
今、怒りと憎しみの刃が角人を貫き───
【えっ……!?】
【もういい。こいつは直に死ぬ】
シフが、ラトリアを止めた。
【シフ、なんで?こいつ角人だよ?】
【もういい】
【殺さなきゃ。ううん、死ぬよりも辛い目にあわせなきゃ。私達巫子の無念を、晴らさなきゃ】
【もういい】
【よくないよ!!忘れたの!?こいつらは私を、私達を!!私に、あんな酷いことをしたんだよ!!】
グィネヴィアも、シフも、ラトリアも、壺に入れられた。ムチでぶたれ、背中が腐り、肉塊と混ざった。
地獄そのものだった。死ぬことも出来ず、悶えるばかり。ラトリアはそれよりも、友にされた仕打ちに怒った。
【やられたことをやって何が悪いの!?苦しんだ分苦しめて、何が悪いのよ!?】
【……………】
シフは、それでも首を横に振った。
【マリカと、同じ轍は踏んじゃいけない】
【!!】
口にしたのは、マリカの名前だった。
【マリカの治世を、王より聞いた。マリカは角人を迫害し、捨てていた。憎しみを、捨てられなかったんだ】
【当たり前じゃない!怨んで何が悪いの?憎んで何が悪いの!?】
【今こいつに死以上の苦しみを与えたら、それは呪となって次の世代に引き継がれる。私達は、王達の優しい世界をも穢してしまう事になるのだ】
ぎょっと、ラトリアの手が止まる。それは、復讐の連鎖。
【マリカは角人に、最期まで呪われていた。それはマリカが、角人への憎しみを持ったまま神になったからだ】
【………………マリカが……】
【グィネヴィア、ラトリア。私達は、違う道を歩もう。優しい世界に、呪いや穢れを持ち込んではならない】
シフは告げる。噛み切った唇から、血が滴りながら。
【巫子達の憎しみは、私達で…終わらせよう。呪いも穢れも、未来にはいらないんだ】
【…………………………】
グィネヴィアは、刃を下ろす。
【……ラスティ様や、リッカは……復讐させるために助けたのでは、ないでしょうから…】
物静かに、怒りを…憎しみを収める努力をしたのだ。
【ううううっ………ううううっ……………!!!】
ラトリアは……快活で仲間思いなラトリアは、慟哭しながら座り込む。
【あんなに……あんなに辛い思いをしたのに……やり返すことすら、許されないなんて……】
【…………すまない……】
【返して、返してよ……!死んじゃった皆を、壺にも入れずに死んじゃった仲間を、皆を返してよ………!!うっ、ううっ……ううううっ……!!あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあっ……………!!!】
恥も外観もなく、ラトリアは泣き伏した。慟哭を、繰り返した。
【すまない…ラトリア、すまない……】
【ラトリア……】
だが、それでも。それでもラトリアは、シフとグィネヴィアの願いを受け入れた。
彼女は、呪いを断ち切る戦いを行ったのだ。
「………………」
角人は……
誰にも看取られる事無く、死んでいた。
復讐を果たせず、何も為せずに死んだこと。
それが、敗者となった種族の末路であった。
ラトリア【ぐすっ、ぐすっ……ひっく、ううっ……】
グィネヴィア【ラトリア、落ち着きましたか?】
ラトリア【…………うん】
シフ【……ありがとう、ラトリア。願いを、聞いてくれて】
ラトリア【………私達は】
シフ【!】
ラトリア【私達は………平和な世界で、優しい壺を作ろうね……】
シフ【……………っ!】
シフは、グィネヴィアとラトリアを抱きしめた。
ラトリアが考えた、角人の文化を塗り替える優しい復讐。
三人は暫し……
肩を寄せ合い、涙した。