人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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かつて、落葉に黄金樹の衰えを見た者たちは

律の揺らぎに備え、厳格な信仰を自らに課した

そして、新しい神に仕えようとした


落葉のダン〜序〜

「……………」

 

落葉のダンと、ヘラクレス、そしてマシュが構える。

 

「ヘラクレスさん。大英雄たるあなたにこの様な事を告げるのは烏滸がましいのですが…」

 

「いや、理解している。あれは僧にして、武人だ」

 

目深く被った帽子は、視線の交わりすらも堕落とする禁欲的な修行の証。

 

彼は落葉のダン。なんと、ミケラにはレダよりも古くから仕えるもの。

 

彼は無口を通り越して、レダすら言葉を聞いたことが無いほどに寡黙。先の宣戦布告すら、驚天動地の会話であったのだろう。

 

「……………」

 

彼は静かに構え、ヘラクレスと対峙している。彼も手練れ、ヘラクレスが醸し出す覇者の気風を感じ取っていた。

 

互いに言葉はない、静かに構えを向け合う時間が刻々と過ぎていく。

 

両者とも、全く言葉は交わさない。ただ、必殺の間合いを測る。

 

言葉は要らずとも、互いに解り合う領域にて言葉無く語る。

 

────それ故に。

 

「……………!」

「─────はっ!!」

 

その激突は無駄を極限までに排した、最低限の生命のやり取りにへと変化した。

 

口論も、熱弁も、侮蔑も、討論も、宣誓もない。

 

そこにはただの、死闘があった。

 

「!!」

「ぬうっ!」

 

互いに首をガッチリと極めたロックアップ。体格的にヘラクレスが勝るとも、ダンは決して退かない。

 

「ふんっ!!」

 

だが、ヘラクレスは剛力無双の大英雄。拮抗は瞬く間に解け、ダンを白き床へと叩きつける。

 

「!!」

 

肺から絞り出された空気を吐き出す間もなく、首をへし折る為に繰り出されたヘラクレスの踏みつけをもんどり打ってかわす。

 

そして即座に、祈祷による光輪を飛ばした。彼は拳や蹴りの他に、信仰による祈祷も使いこなす。

 

「ヘラクレスさん!」

 

マシュのカバーを受け、同時に盾を踏みつけ跳躍するヘラクレス。

 

「ぬぅんっ!!」

 

跳躍から繋げるヘラクレスの踵落としは、ダンの世界たる清めの間の床を叩き割った。ビキビキと嫌な音を立て、亀裂が広がっていく。

 

「!」

 

ダンは即座に、ヘラクレスの懐にて練り上げた必殺の『発勁』を叩き込む。内臓破裂すら起こる、必滅の奥義。

 

「ぐう、っ!」

 

練り上げられた気功は、ヘラクレスの鍛え抜かれた肉体すらも貫通しダメージとなる。僅かに顔が、苦悶に揺らぐ程の。

 

「ふんっ!!」

 

しかしヘラクレスは人類最強の大英雄。即座に回し蹴りを行いダンを蹴り吹き飛ばす。

 

「…………………!!」

 

その蹴りの威力は破滅的であり、咄嗟にガードに入った…その程度で相殺できるような威力ではなかった。

 

「………………」

 

両腕が痺れ、だらりと垂れ下がる。折れてはいないが、甚大なダメージだ。痺れにより、振るうことは暫く叶わないほどの。

 

ダンがヘラクレスと戦えているのは、ヘラクレスの戦いが対人では無く対神獣、対怪物に重きを置いているからだ。その威力は強力無比であり、積極的に振りに迎えば即座に打倒すら夢ではない。

 

しかしヘラクレスは、対人パンクラチオンよりもこの形態にて勝負を行っている。侮りや侮蔑では断じてない。

 

それは、自らが彼の壁となる決意の現れ。ヘラクレスは彼の拳と脚を、信仰を、全て受け止める腹積もりであった。

 

これが最後の戦いになるやも知れぬなら、せめて全霊を尽くせ。

 

自らの人生の決算を、こちらに見せつけてみせろ。

 

そう、ヘラクレスは伝え。あえて相手に触れたら必ず壊すパンクラチオンではない、大ぶりな戦法を選択したのだ。

 

「二人の間に…なんだか、不思議な感覚が満ちている気がします」

 

それは言葉なき対話。互いに、人生を懸けて積み重ねてきたものがあるが故の声なき誇示。

 

「マシュ嬢。あれこそが武人同士の、言葉のいらぬ語らいと言うものです」

 

「ナタンさん!」

 

特に因縁がある存在はまだここにはいないのでローテーションで血祭り作業に勤しむナタンが、それを付け加える。

 

「ただ倒し、倒される関係に終わらない。それはまるで、皆様が求めている世界の形に他ならないではありませんか」

 

「確かに…!ヘラクレスさんは、見極め語らっているのですね…!」

 

「そう、この戦いは…短く、しかし鮮やかな決着を見るでしょう。燃えるような赤獅子でもなく、決意と疑心暗鬼に駆られた騎士でもない。静かに、そしてやがて畳み掛けるように!」

 

ナタンの解説の通り、その戦いは静かに、また素早く再開された。

 

「──────!」

「おおお……っ!」

 

一瞬で間合いを詰め、お互いに壮絶なクロスカウンター。肉がちぎれ骨が砕ける感覚と音すら、二人は決して怯まない。

 

互いに、ノーガード。避けることも防ぐこともしない壮絶極まる殴り合いが、清めの間を血溜まりに変えていく。

 

「血、血!!血の滾りィイィイィイィイィイッ!!」

「ナタンさん!?」

 

「失礼、この血の貴族ナタン、取り乱しました。御覧なさい、あの壮絶な殴り合いを!」

 

互いに一歩も引かず、素手にて互いを砕き合う壮絶な一戦。血が、辺り狭しと飛び散っている。

 

「言葉は不要。見届けるのです。互いの人生を懸けた、殴り合いというぶつかり合いを…」

 

「ナタンさん…」

 

ナタンの示す通り、その一撃一撃は重く、深く互いに突き刺さる。

 

言葉はない。ただの一つも会話はないと言うのに。

 

二人は神妙に殴り合い、血を噴き出し流していく。

 

「見えてくる筈だ。落葉のダンがどのように、何をもってミケラを護るのか…」

 

頬骨を砕き合い肉を引きちぎる殴り合いを、マシュは不安げに見守る。

 

互いに、言葉は少ない。いや、皆無かもしれない。

 

しかし、どちらかが討ち果たした時、片方の真実の記憶を受け継がれる時が来る。

 

この戦いは、沈黙こそが金。

 

言葉よりも雄弁に、信念を懸け。

 

その激しい源流闘争は、続けられる。

 

永く。あるいは…

 

この段階における説得が、成功するかである。

 




ナタン「さて、次は誰をささくれにしてあげますかな…」

マシュ「…………」

…今更なのですが、あの方は一体何者なのでしょう…


突如現れたナタンの素性もまた、気になるマシュであった。

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