人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
〜
ラダーン【ノリで頷いてみたが、私は魂!リッカより離れられん!】
【皆を頼むぞマレニア殿!大丈夫!我等、最強だから!】
〜
マレニア「何が大丈夫なのだ…?」
(一先ず、殿を務めよう。話したいこと、皆あるだろうし。そして…)
「……胸騒ぎがする。なんだ、これは…?」
「────時は来た!!」
フレイヤ。赤獅子により見出されし剣闘士にして、猛き女戦士。ミケラに救われ、忠誠を誓うもの。
「王を決める、神に捧げるに相応しい戦い!さぁ、存分に燃えるような戦いをしようじゃないか!」
高々と掲げる剣に、獅子の盾。彼女は数にて絶対に不利であるこの戦いにおいても、誇り高く堂々と在った。
「フレイヤ殿。貴方の真っ直ぐさ、迷いの無さは大いに活力を得られました。この様な対峙となり残念です」
対するは、アンスバッハ。純血騎士の名を戴くモーグの腹心。
その手には鎌。かつてあらゆる敵を血に沈めた鎌。
「ですが、譲れぬものがあります。お見せしましょう、我が刃を」
なんと老齢ながら、フレイヤと真正面から切り結ぶ役割を選んだのはアンスバッハだった。猛々しきフレイヤの刃と盾から、華麗なる鎌技で攻め立てる。
「行きますよアンスバッハ殿!モーグに捧げし血の技を今!」
振るわれるフレイヤの直情的、かつ逞しい一撃。当たれば骨すら砕く一撃を、アンスバッハは流れる、美しい動作で無為に帰す。
「むっ!」
瞬間、フレイヤが出血する。ゆらりと滑るような動きに繰り出される鎌の一振り。あまりに自然で、流麗で、美麗なる一閃。
だがそれは美しさと裏腹に苛烈な出血を強いる老獪な一撃。それは若き頃、破砕戦争にてあらゆる全てを血に染めた狂気を垣間見させるものに他ならない。
「くっ、ぬぅっ……!!」
流れる水の如く。しかし触れ合った獲物は血溜まりによる血の祝福へと。
アンスバッハの刃は、そういった流麗なる死をもたらす刃であり、恐ろしいまでの熟練の技術の結晶であるのだ。
「ハッ、ハハハ!ハハハッ!」
なんとフレイヤは斬られながらも笑っていた。戦いに流血など当然。
こうでなくては!
そうでなくては!
「アンスバッハ殿!あなたの刃は、戦慄する程に美しい!」
敵に送る、惜しみない称賛。かつてのマリカの、全ての敵を葬る為の戦いではなく、ゴッドフレイが齎した戦いの祭典。
ラダーンが愛した形式は、全ての赤獅子が掲げるもの。フレイヤはアンスバッハに、賛辞を送った。
「だからこそ、この手で手折りたくなります!」
深々と、肩に鎌が突き刺さる。それは深い、強打の一撃。
「む………」
アンスバッハは鎌を抜き放てなかった。フレイヤが筋肉に極限まで力を込め、刃を止める肉壁を形成したのだ。
「捕まえましたぞ、アンスバッハ殿!!」
瞬間、渾身の右拳がアンスバッハの顔面、老爺の仮面を深々と捉えた。カウンター。それをフレイヤは狙っていたのだ。
「むうっ……」
吹き飛び、たたらを踏むアンスバッハ。老齢、寄る年波は如何ともし難い。口から血を流し、よろめく姿に隙が見える。
「次はこちらの番です!赤獅子の刃、受けてみよ!!」
跳躍し、全身ごと叩きつける赤獅子の得意技『獅子斬』。当たれば身体すら真っ二つになるほどの剣圧がアンスバッハに迫る。
「────」
しかしアンスバッハはフレイヤを見ていない。流れ出る血、燃える呪血を、モーグウィンの騎士の証を拭った右手を見ていた。
「─────フフッ」
軽くアンスバッハが笑った。
その瞬間。
「!!」
フレイヤは驚愕した。アンスバッハは防御しない。回避もしない。
ただ、獅子斬りするフレイヤに突っ込んだ。被弾、切創、死すらも交差するその剣圧に、防御や回避するべきそれに。
「ぐぅうっ!?」
なんと苦悶を漏らしたのはフレイヤだ。そこに巻き起こるは、熱い血の熱風。
「存外に滾ると言うものですな…。戦の高揚というものは!」
アンスバッハはなんと、鎌の逆手に血を宿し手刀を振り回していたのだ。呪血を直接手で切り裂き叩きつける、無謀かつ狂気の近接技。
それらは血塗れにする相手以上に自身から血を噴き出しかねない捨て身。防御や回避など要らぬと相手に肉薄する狂然とした純血騎士の技。
アンスバッハ。彼はかつて、誰よりも血に狂っていた者であり。
モーグが最も愛する騎士の一人なのだ。
「アンスバッハさんだけでは、ありません」
「!!」
瞬間、特製の毒が満ち満ちた特注の毒がフレイヤに散布される。それを調香瓶にて自在に操るは、ティエリエ。
「ぬぅうぅうっ!!」
ティエリエは弱い。毒も少ない。しかしフレイヤは全力で回避せざるを得なかった。
毒を吸えば、死に至る。それは少なくとも頑然たる事実。ティエリエとフレイヤならば、即座にティエリエは捻り潰される。
しかし、毒はそうではない。
「刃では斬れず、鎧では防げない」
毒こそは、弱者を最も救った刃。
そして、強者を最も屠った刃。
「侮るな。ティエリエの毒を」
ティエリエは毒のプロフェッショナル。
それは一流の戦士すら、無様に回避に注力せねばならぬほどの厄介さを有していたのだ。
「ティエリエ!まさか貴殿までが自らを示す戦いに参加するとは!」
「……」
「謝罪しよう!弱き優男と侮っていたなぁッ!!」
しかし、フレイヤは無様な後退はしない。
なんと獅子斬りによる跳躍前転を二度、三度繰り出し毒を『物理的』に乗り越え切りかかったのだ。
「!」
『猛獅子斬』。赤獅子の中でも特に勇猛な者が振るう技。フレイヤは弱者と侮ったティエリエにそれを放つほど、彼を認めたのだ。
ティエリエの毒はあまりに強力。味方と自分すら分断するほど。ティエリエは、性格から戦いと連係に不得手であった。
「もらったぁッ!!」
フレイヤの剣が、ティエリエを真っ二つに叩き斬る。それは容易いことだ。
「───させない」
緑青の鎧、青銅の巨大な大盾を構えるムーアがいなかったのならば。
「ぬぅおっ!?」
猛獅子斬りを、ムーアは受け止める。苛烈なる攻撃を、斬撃の牙を、ムーアはゆっくりと押し返す。
「護る。誰も、悲しまないように」
全身を固めた緑青の鎧のままに、防御に特化したムーアは、一歩一歩盾を構え圧していく。
ムーアは腐敗の眷属。毒には腐敗という形で耐性がある。
彼のみが、ティエリエとコンビを組める人材だったのだ。
「ありがとうございます、ムーア」
「戦う、自分も。悲しみを終わらせる、未来のために」
戦いに向かない気質の二人が、勇気をもって立ちはだかってみせる。
「ははっ、ははははははっ!」
フレイヤはその事実を、呵々大笑で讃える。
「流石は黄金樹の王だ!その魅力は、貴殿らまでに勇気を与えたか!」
「フレイヤ様」
「譲れぬものが、あるのです。魅了ですら、手放せないものが」
「そうか、そうか!信念はいい、誓いはいい!心が燃えねば戦いはできない、道理だからな!」
フレイヤは笑う。かつてミケラを愛していたものを。どうあれミケラを裏切った者たちを。しかしそれは侮蔑ではない。
「互いに間違っていないのであれば衝突は必然!良いとも、ならばとことんまでにぶつかり合おう!」
「フレイヤ様。自分達は、殺し合いを良しとしない」
「はい。……トリーナ様は言いました。ミケラ様を救ってと。私達は、同じ道を歩けるはず」
フレイヤは剣を掲げる。
「いいや。異なる道だとも。魅了無くば救えぬ命の為の優しい世界。それは言い換えればミケラの独裁!」
「!」
「誰か一人が全てを愛する世界。その歪さを…お前達は知った筈だろう?」
ミケラを愛する世界。
ミケラだけを愛する世界。
ミケラしか愛せない世界。
それの過ちを、お前たちは知るところだとフレイヤは問う。
「それが歪と言えど、それでしか救われない者もいる。どうしても人を信じられぬ哀れな女がまさにそれ!」
「レダ様…」
「誰もの敵なら拒絶しよう!だがそれで救われる命あるならば、私は命を懸けて世界を実現する!救われる命の価値は、数ではないのだからなぁ!!」
再び、フレイヤは信念の刃を振るう。
「御尤もにてございますな、フレイヤ殿」
「!」
「ならばこちらも同じ事。……リッカ殿。あれほど眩しく、輝きに満ちた若者の心を、無慈悲に漂白すること」
アンスバッハ、ティエリエ、ムーアがフレイヤに抗う。
「赦せませんな。それだけは」
「私の愛は、トリーナ様へ」
「忘れちゃいけない。勇気だけは…!」
清めの間に、四つの信念がぶつかり火花を散らしていた。
………………しかし。
マレニア「…………」
(なんだ、この胸騒ぎは…、…!)
その時、それは現れた。
死の騎士【】【】【】【】【】
マレニア「貴公らは…!?」
マレニアには、覚えがあった。
「───ゴッドウィン兄様の、近衛騎士……!?」