人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜 作:札切 龍哦
マレニア(まさか、ミケラ兄様が使ったであろうゴッドウィン兄様の肉体に何か…!?)
【【【【【】】】】】
マレニア「………何であれ」
「ここは通さん…!今の私は──」
【【【【【…!】】】】】
「カルデアの刃なのだから…!」
アンスバッハ、ティエリエ、そしてムーアの三者。
三者が挑む、赤獅子のフレイヤ。その戦いは、激しい炎が如くに燃え盛った。
アンスバッハの血の斬撃。ティエリエの洗練された毒。ムーアの守護の大盾。
それらを前にしてもなお、決して退かぬ勇猛なるフレイヤ。
神に捧げる剣闘の如き戦いは、一瞬の如く。或いは永劫の如くに続いた。
しかし、それには終わりが来る。今まさに、決着という形で。
「どうやら…お互いに、余力はそう残っていないようだな…」
勇猛なるフレイヤですら、足運びにふらつきを残す。三者の連携に、彼女は最早満身創痍。
いや、満身創痍では本来あり得ない。死して然るべきなのだ。アンスバッハという、王朝にて最強の騎士に、更に助勢二人という絶望的な戦いにおいては。
生きている。戦いが続いている。その事実こそが、彼女が比類なき赤獅子の戦士であることへの証明。その武勇こそ、比類なき赤獅子の証明。ラダーンの配下に相応しいものであったのだ。
「自分は、護る。護り、抜く」
ムーアは、フレイヤの剣を受け続けた。治癒を受け、傷つき、治癒される。繰り返しの苦痛にも折れず。
「私には、譲れぬものがある。倒れは、しません」
何度も切り裂かれながらも、フレイヤの身体の精細を奪った毒のティエリエ。
「えぇ。我等は神に挑む身。…幕引きと、致しましょう」
血に塗れながら、微塵も疲弊やダメージを思わせぬアンスバッハ。最後の睨みが交錯する。
「そうだとも!これにて決まる。この戦いの決着が!!」
フレイヤは鞘を捨てた。そして盾をも捨て去り剣を両手に構える。
「ミケラか、黄金樹か!新たなる時代の到来に、この決着を捧げよう!!」
フレイヤは最後の力を持って駆けた。
そのダメージは尋常でない。その衝撃で、身体中に刻まれた傷から鮮血が噴き出す。
「さぁ見せてくれ!!お前達の燃える信念を───!!」
彼女に小賢しい技術はない。ただ力を、ただ気炎を、ただ敵に叩きつける。
「………!!」
ムーアが、シールドバッシュにて迎え討つ。彼女の渾身の、全身全霊の獅子斬りを。
「ぬぅううぁぁあぁぁあアアアアアアッ!!」
「くう、っ…………!!」
ムーアは耐えた。この渾身の獅子斬り、全身全霊の一撃にすら矢面に立った。
それは、勇気の守護。母に捨てられた哀しみに囚われた心では成せぬ力。果たせぬ護り。
だが、それでもなお。フレイヤの気迫と信仰は揺るぎなかった。
「くぅう、っ………!!」
ムーアの大盾が。緑青の大の大人が覆われる大盾が。
「貰ったぞ!ムーア!!」
『砕けた』。叩きつけ、叩きつけ、叩きつけた獅子の牙が。それを果たした。
ムーアの、青き護りを打ち砕いたのだ。
「っ…………!」
ムーアはそれでも、身体でフレイヤの突進を阻まんとした。闘志までは砕けなかったのだ。彼の心の勇気だけは。
「くっ!?」
丸腰。鎧があるとはいえ、泥臭さの極みにおける抵抗に、フレイヤは目を剥くほどに驚愕する。
「リッカが、教えてくれた…!」
「ムーア、貴殿は……!!」
「悲しみの終わる、未来に…!!」
フレイヤの動きが、鈍った。猛獅子斬りのセットアップが遅れた。
「─────っ!!」
死地に、ティエリエが飛び込んだ。ムーアの捨て身を、繋げんとする決死行。
「ははっ……!」
ムーアは蛮行だった。ティエリエは蛮勇だった。フレイヤは笑った。
しかしそれは嘲笑でも、侮蔑でも、嗤う事では断じて無い。
ムーアは温厚だった。争いを好まなかった。
ティエリエは臆病だった。自身を力無く、頭弱きと侮蔑した。
それが、それが今。こんなにも強く戦っている。
己を懸けて、戦っている!
「はは、あっはははははははははっ!!」
天晴だった。そこに、その在り方にフレイヤは見た。
魅了し、従えるだけでは成し得ぬ境地。
魅了し、奪うだけでは至れぬ信念。
誰もが勇気を抱き、英雄に、勇者になれる。
弱者を、勇者に変える。勇者を英雄に変える。
素晴らしき──『新時代』の片鱗をだ。
「がふっ………!」
ムーアは、フレイヤの膝蹴りを受けた。アームハンマーを受けた。青銅の鎧に、無数の亀裂を刻まれ叩き伏せられた。
「がはぁあっ…!!」
ティエリエは、フレイヤのラリアットを受けた。空中で3回転し、血反吐を吐き床に沈んだ。
「ぐうっ……!!」
しかし、フレイヤは吸った。ティエリエの捨て身の毒を。竜すら眠らせる、微睡みの毒を。
「く……………」
闘志の源泉は心。心を眠らせる毒により、フレイヤの闘志は強制的に挫かれる。ふらつくフレイヤ。
───それこそが。致命の隙。
「貰いましたぞ、フレイヤ殿」
老獪に、老練に、二人が拓いた活路のみを待っていたアンスバッハが迫り、
「────見事……!」
フレイヤが、敗北を悟り賛辞を口にした瞬間。
「ぐぅああぁあぁぁっ────!!!」
アンスバッハの、一度に五度は斬り裂く王朝鎌技。モーグと共に開発した、流麗なるアンスバッハの真髄。
「──私の、敗北……ですね。アンスバッハ殿」
「強かった。本当に。……三者で挑めた事が、勝利の要因」
アンスバッハは静かに、鎌の血を拭い払う。
「それを導いた……カルデアの皆様に。この勝利を捧げましょう」
倒れ伏すフレイヤ。アンスバッハはすぐさま、二人を看護する。
「無事ですかな、御二方。よくぞ、よくぞ奮闘なさいました」
「……悲しみを、終わらせたい。そのため、だから」
「トリーナ様に報いるまでは…死ねません、ので」
「えぇ。そうです、その通りですな」
二人は、レンやラニにより治療されていく。フレイヤに打ち勝ったのは、三人の力あればこそだ。
「ふふ、はははは……」
フレイヤは尚も笑う。大の字になり、天井を見上げながら。
「まさに、燃えるような戦い。それを、まさか三者から受けられるとは…」
「フレイヤ殿…」
「戦いを好まぬもの。戦いに向かぬもの。騎士ならぬ二人すらも、雄々しく戦いに導く何か。それが、あなた達の世界の熱か」
アンスバッハは、静かに頷いた。
「ミケラ様の治世は、平和であるのでしょう。しかし、凪の海を心に齎せば、それが救世となる訳では無いのです」
「…………」
「滾りも、願いも、想いも。全て一人一人に懐かれしもの。そして、一つ一つが無二のもの。我等は、それらを尊び重んじる世界の為に戦いたいのです。フレイヤ殿」
それこそが、フレイヤを下した理由。
誰もが誰もの、信念と想いを持つ。
それを許されるがゆえに……人間は、限界を超える。
そんな世界の為に、戦う。三者の力を、フレイヤは理解した。
「……お見事です。アンスバッハ殿。ムーア、ティエリエ」
「………」
「トドメを、お刺しください。敗けし戦士の居場所など、無いものが普通なのですから」
フレイヤは出血により動けなかった。アンスバッハは、幾分以上に余裕を有する。
「…………では」
アンスバッハは鎌を構え、フレイヤに近付き───。
「………!?」
自らに宿る治癒を、フレイヤに移したのだ。フレイヤの傷が、癒えていく。
「何を……!?」
「盲目的に仕えることばかりが、忠節ではありませぬ」
アンスバッハは、流れ出る血を眺めながら告げる。
「乱心した主に刃を向ける。諫言の刃を持ち得て初めて、忠臣足り得ましょう」
彼は、血に狂いし騎士。
しかし同時に、比類なき理性の人である。
「参りましょう。認め合ったのであれば、我等はまた同士足り得るはず」
「アンスバッハ殿……」
「生命を、奪いたいわけじゃない」
「えぇ。貫きたいのです。胸に宿した願いを」
ムーアとティエリエもまた、フレイヤに頷く。
「……あぁ、すみません。ミケラ様」
フレイヤはそれを以て……
「私は……彼等の見た世界をも、見たくなってしまいました」
敗北を、受け入れたのだった。
アンスバッハ「さて。リッカ殿の決着にはまだ時間を擁しましょう」
角人たち【【【【【【【】】】】】】】
フレイヤ「これは!?」
アンスバッハ「死に生きる者ら。ミケラ様の用意した何かが破綻を始めたのやもしれませんな」
フレイヤ「ミケラ様…!」
アンスバッハ「失礼ながら、僥倖というものです」
アンスバッハはゆっくりと、鎌を再びもたげる。
アンスバッハ「暫し、血の渇きを癒すと致しましょうか」
「っ……」
フレイヤを侮っていたわけでは断じていない。
ただ、血溜まりに沈めることを自重していた。
「貴方という人は…」
当然とばかりに、世界に侵入した者らを斬り裂いていくアンスバッハを見て…
フレイヤもまた、新たなる運命たる戦いに身を投じるのだった。