人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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人は、人と繋がり世界を作る。


そこに心があり、分かり合うから素晴らしいのだ。

解っている。

解っているのだ。

だが、できない。

どうしても、できない。


母すらも、父すらも。

仲間すらも。

恋人すらも。

どうしても……

ただ、信じることができない。

どうしても、できないのだ。

心が通じた全てを、皆殺しにせずにはいられない。

裏切れらる事が怖いのだ。

裏切られるくらいなら、裏切り者の汚名はあまりに軽い。

だが……

自分を裏切った人間など。

果たして、何人いたのだろうか。



一つの針として

「おおおおっ!!」

「………!!」

 

リッカの刀、レダの剣が静謐なる清めの場に剣戟の音色を奏でる。それは、互いの信念を乗せた渾身の一刀のぶつかり合い。

 

リッカはマリカを、世界を助け偽神の手掛かりを、自身と全ての世界を救うために戦う。

 

レダはミケラの掲げる、彼を神とした優しい楽園の世紀を実現させる為に戦う。

 

それが近しいのだとしても、二人はこうして戦っている。

 

導いた者の差異。

 

黄金樹に、世界に導かれたもの。

 

ミケラに導かれたもの。

 

絶対的な正義は無い。あるのは、願いの強さと祈りの強さ。

 

負けられない。捨てられない。

 

譲れない大切なものがあるからこそ、二人は今懸命に戦っているのだ。

 

例えそれが…

 

互いの事を知り、通じ合いを果たせる相手なのだとしても。

 

「だぁあぁあっ!!」

 

居合と斬撃を織り交ぜ、レダに肉薄していくリッカ。彼女の戦いは、相手を叩き潰す事ではない。

 

「レダさんっ!私達は、戦う以外の道だって選べる!」

 

戦いの呼吸の中、リッカはレダに問い掛ける。それは、可能性の模索。

 

「私達の目指す理想は、世界は!きっと共存しわかり合えるものだよ!」

 

優しい世界。楽園の世紀。それはきっと皆で作れる。

 

「ミケラ様だけに背負わせるんじゃなくて!皆で!」

 

「それは不可能なのだ、龍華!」

 

レダの鋭い剣技が、リッカの事は魔を穿つ。

 

「ミケラ様が、ミケラ様のみが掲げる世界でしか救われないものもいる。ミケラ様の世界でしか生きていけない者もいる!故に私は、ミケラ様に全てを捧げたのだ!」

 

「そんな!」

 

「世界を崩すのは、いついかなる時も針の一刺し、蟻の一穴だ…!私はそれを痛感し、また自覚している!」

 

鍔迫り合い、兜と鎧越しに向かい合うリッカとレダ。

 

「人を信じられぬ宿痾を懐いた私を招いた世界は、破滅と鮮血のみを齎す…!それは何よりも私が、痛感している事実だ!」

 

「人は変わる!変わっていける!!」

 

リッカがレダを蹴り飛ばし、左手のオルテギュアーから月の弓矢を乱射する。

 

「あなたが誰かを信じられなくても!世界に生きる皆が必ずあなたを良い方に変えていくはずだよ!」

 

「人を信じれぬという業は……」

 

レダはそれらを、周囲に針を展開し迎え討つ。

 

「人が生きる世界で掲げて良いものではない!」

 

相殺される、互いの攻撃。その意見の如くに。

 

「どれほど優しく暖かい居場所であろうと、どれほど素晴らしい世界であろうと血に染め、穢す。私はそういう悍ましい女なのだ!」

 

肉薄するレダ。リッカは天沼矛にて受け止める。

 

「何故こうであったのかは私にも分からない。ただ、ずっとずっとそうだった!母も、父も、家族すらも私は信じられなかった!」

 

「…!」

 

「無償の愛すら信じられぬ者が、世界の何処に居場所を許されるという…!?私はそういう、あってはならぬ者なのだ!」

 

疑心暗鬼、人間不信。サバイバーズ・ギルトやメシアコンプレックスのような、心に巣食う病。

 

「君が世界を想うなら、尚更私を殺す他無い!君の目の前にいる者は、君たちの盤石を崩す毒虫なのだ…!」

 

バックステップにて仕切り直すリッカ。レダは剣を突きつける。

 

「この剣を見ろ。これはミケラ様によって祝福され、かぎりなく祓われている。しかし…君ならば感じ取れるはずだ」

 

その無垢なる白き刀身。感じ取れるのは、拭いきれない血の匂い。

 

「かつて私は騎士団にいた。ミケラ様に仕える針の騎士団。皆ミケラ様に仕える忠実な騎士であった。私にも、こんな私にも優しくしてくれた…素晴らしい人々達だった。私には勿体ないほどに」

 

「……いた?まさか………」

 

「そうだ!私が全て粛清した。この手でだ!物心ついた瞬間、母と父を貫いたように!家族のようだった…親しく触れ合っていた!…恋人と、呼べるような者も…」

 

再び、肉薄し斬りかかる。

 

「『今は違う、だがいつか』!『いつか変わるなら、いっそこの手で』!そんな想いを懐いた。懐いてしまったのだ!その結果が今のこの私なのだ、藤丸龍華!」

 

リッカが、受け止める。

 

「自分では、どうしようもない…。親も、恋した人も、仲間も、家族も。疑念を懐さなくて済んだ者は一人もいなかった!」

 

「レダさん…!」

 

「君には分からない、分かる必要もない、分かってはならない!……誰かを疑わなくてはならない苦痛を、疑ってしまう苦しみなど…!」

 

二の太刀が、すり抜けた。リッカの鎧を容易く貫くレダの針剣。

 

(ディルムッドの破魔の赤薔薇と同じ!?)

 

「ミケラ様と私は同じなのだ!宿痾のせいで、まともに生きることすらままならない!そんな私が、せめて優しい世界の為に出来ることがあるのなら…!」

 

空中の無数から、レダの剣が展開される。

 

「それは、優しい世界の礎となる事!神の本懐を、果たさせる事だ!心を殺し、捧げ、ただの一つの針として!」

 

「……!!」

 

「そして始めて私は世界の為に生きることが出来る!刺し貫くしか出来ない女の、無二の使命にして果たすべきもの!」

 

魔力で編まれたリッカの龍鎧を、貫くミケラの祝福。

 

「ミケラ様に、心を捧げる他に!私が世界に生きる資格は無いのだ…!!」

 

放たれる無数の剣。リッカの身体に、数本が突き刺さる。

 

「っづぅ…!!」

 

だがその大半を弾き返し、再び相対するリッカとレダ。

 

「……心など、備わらなければよかった」

 

「!!」

 

「私は、人でなくて良かった。何も考えず、何も思わない一つの針で在りたかった。神に仕える、一つの針で在れば良かったのに」

 

その宿痾に、最も苦しめられていたのは誰なのか。

 

理不尽に殺された者が、一番無念であることも理解するが故にレダは誰にも本心を吐露しなかった。

 

自分は、疑心暗鬼の殺人鬼だ。それ以上でも、以下でもない。

 

ならば、それならば何故自分は人で生まれたのか?

 

「そうすれば誰も疑わない。そうすれば誰も傷つけない。ありもしない裏切りに、心の籠もった触れ合いに針を突き刺すこともない。敵以上に、味方を殺すことなど無かったのに」

 

針であれ。心など捨て去り針であれ。

 

ミケラなら。ミケラの魅了ならばそれは叶う。

 

「このような女に、世界に居場所などない。……いや。あってたまるものか」

 

「……!」

 

「君達が目指すべき世界に!優しく尊い世界に…!こんな血塗れの針など、あってたまるものか!」

 

だから、理想の共有を拒絶する。

 

大切だと解っている。

 

素晴らしいと解っている。

 

だからこそ、遠ざける。

 

拒絶する。

 

壊さないよう。

 

貫かないよう。

 

「藤丸龍華!私は君に近付いた!同志と呼んでしまった!」

 

「!」

 

「それこそが間違いだったのだ…!それは君という存在に、私が惹かれた事の証明!」

 

故にレダは、ミケラの理想に固執する。

 

心を捨て去り、一つの針へ。

 

恩を仇で返す事も、いつか裏切ると思わぬ物へ。

 

心の宿痾を、ミケラは忘れさせる。

 

忘れなければならない。平和な世界で生きていきたいと願うなら。

 

優しい世界に、せめて居場所を与えてもらえるならば。

 

「私達は、出会うべきではなかった…!」

 

訣別の意味を込め。

 

親愛を感じたが故に。

 

「君の全てを…!私は知るべきでは無かったのだ──!!」

 

リッカを完全包囲する、レダの針の乱射。

 

「うああああああ────っ!!」

 

リッカの、アジ・ダハーカの力は機能不全を起こしている。

 

彼女は悪などではない。

 

リッカに敵意や、悪意など微塵も持っていない。

 

ただ、大切だと感じてしまった。

 

彼女の頑張りを、得難いと思ってしまったから。

 

だから、突き放すしか無い。

 

共に歩めば、いつか必ずリッカを突き刺す。

 

裏切られる前に、自ら殺す。

 

そうさせたくないから、そうしたくないから。

 

針として。リッカを今貫かんとしている。

 

「っ………───」

 

哀しいまでの葛藤が……

 

狂おしいまでの、リッカに対する親愛があった。

 

「……っ」

 

リッカの言葉は届いている。届きすぎている。

 

だからこそ、殺さなくてはならない。

 

武力で潰してはならない戦いが…

 

救わなくてはならない人がここにあり。

 

それをするには…

 

アンリマユと、アジ・ダハーカでは。

 

やや、門外漢であったのだ。

 




リッカ「……………」

レダ「……………」

リッカ「……それでも」

それでも。

リッカ「それでも……。私は、レダさんを拒絶しないよ」

倒れ、仰向けになりながらリッカは告げる。

「世界に生きる資格なんて要らない。どんな生命だって生きていい」

レダ「!」

リッカ「生命を謳歌する権利は、誰にだって赦されているんだから」

レダ「……………………た、戯言を………!」

リッカ(アジーカ、セーヴァー。ごめん…)

アジーカ【うん】
セーヴァー【あぁ、しゃーねーな。今回はな】

リッカ(うん。───行くよ!)

リッカ「───キラナ!パパポポ様!」

瞬間、リッカの漆黒の魔力が弾け飛ぶ。

レダ「なっ……!?」

リッカ「戦いは、何も殺し合う為にするものじゃない」

リッカが空に手を伸ばす。

するとそこに、翅が舞い降りる。

レダ「鳩…だと…?」

そして、リッカを包み込む光の輪。

キラナ『選手交代!』
パパポポ『善側の面目躍如。ハトは剣よりも強し』

リッカに示される、『聖鎧』に『天使の翅』。

レダ「その、姿は…!」

パパポポ『仮想装着。『親愛礼装』、シャムシード・ジブリール』
キラナ『リッカちゃん!ぶっつけでゴー!』

リッカが手にしたものは、武力だけではない。

数多無数の愛も共に。

パパポポ『着用時間は約一分。さぁ往くのだ、ジブリールの遺児よ!』
キラナ『言葉のパンチで、諦めムードをやっつけろー!』

対話の力を、一極に完全凝縮した爆縮形態。

リッカ『行くよ。レダさん』
レダ「…!」

リッカ『その諦めを、絶望を…終わらせる!』

光輪、そして大天使の力を借りた光の聖鎧。

身を焼き焦がす善と聖なる力に堪えながら、レダに向かうリッカ。

全ては、心に巣食う絶望を吹き晴らすために。



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