人理を照らす、開闢の星・序章〜awakening,precious,star〜   作:札切 龍哦

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パパポポ『あれほどの宿痾、疑心暗鬼。物心つく前からあったのならば、暴力や戦いでは拭えまい』

リッカ「髀の時は、心の傷だった。これは、生まれつきって事だよね」

キラナ「元々あるものを変えるには、まるっと受け入れてあげて、自分で断ち切らなきゃダメだよ!」

リッカ「うん。だから…普段の私じゃ無いやり方が必要」

パパポポ『…………死を覚悟する無茶になるぞ』
キラナ「救う相手よりボロボロになっちゃうよ?」

リッカ「構わない。人を救うのは、そんなに簡単じゃない」

『「………」』

「でも、その為に戦うって決めたのは私。私は、私であることから逃げないから!」

パパポポ『……解った』
キラナ「じゃああるよ!とっておきのが!」

パパポポ『厳しい戒律と制限を擁する。忘れないで欲しい、リッカ』

リッカ「!」

パパポポ『君もまた、愛され救われるべき魂なのだということを』

リッカ「────はい!!」


救世主の在り様

『………………』

 

キラナ……アフラ・マズダの光輪と、聖霊にして神であるパパポポの力を借り、顕現装着せし究極の善の極致『メシアライザー・アルファ』。その鎧は普段の龍鎧の姿では無く、聖騎士の、或いは大司祭が着るが如き意匠を有する。

 

「君の有する力は、更に…いや、これは最早神にすら届いているとでも言うのか…?」

 

『…………………』

 

「神となる悲願……ミケラ様の道は閉ざさせない…!」

 

泰然と構える荘厳なる有り様に、レダは臆すること無く刃を向ける。ミケラの騎士として、新たなる神の再誕は防ぐべき懸念故に。

 

「龍華!交わす会話はこれで終わりだ!」

 

無数に展開される針。ミケラにより編まれた聖なる刃が、再びリッカに向けられ放たれる。

 

「我等は、戦いでしか認め合う事はできない!」

 

それはリッカに、過たず放たれその鎧を貫き───。

 

『─────』

 

「なっ…!?」

 

否。貫くことは無い。それどころか、まるで初めから『放たれなかった』かのように、その存在は事象から霧散していたのだ。

 

(な……何が起こった…!?)

 

防ぐでも、かわすでもなく。ただそれが無かった事に、事象と因果から消え去った結果に、瞠目するレダ。

 

メシアライザー・アルファ。その真髄は、『三位一体』の完成による『事象と因果の掌握』にある。

 

唯一神が掲げし、神、聖霊、そして救世主。三者揃って完全とする概念。現在では神は偽神により消え、救世主は原罪の為に身代わりとなった。

 

それを、パパポポという『聖霊』、キラナという魂まで善神に捧げし少女と光輪という『神』、そしてアダムとイヴの遺伝情報から生み出されしジブリールの遺児たるリッカを『救世主』に置換した、強制的な三位一体による『唯一なる神』の復権を旨とする、窮極の光と善を形とした規格外を越えた規格外の形態。

 

暴力手段や攻撃手段を何も持たず、ただ事象干渉と因果律の掌握のみを能力とする光輝なる神々の力の再現。

 

今や魂まで人類悪に染まりながらも、彼女に祝福と翼を授けたジブリールが、一分間だけ神の意思の代行者、受肉した救世主の在り方を世界に顕す事を可能にする。

 

人を倒す、戦うのではなく、曇り、迷い、嘆くものを救う姿。

 

『───!』

 

それこそが、『メシアライザー・アルファ』。一分のみ現れる、全ての救いとなる光の顕現である…!

 

「これほどの、これほどの姿と力を…!」

 

辺りに湧き出る、死に触れし者達。一歩一歩歩む度、それらが正しく光の中に還って行く。

 

「一体、どれほどの人生を歩めばこの領域に……!」

 

当然ながら、これ程の力を有する故に代償は決して小さくない。

 

リッカの本質は、ゲーティアの儀式により魂にこの世全ての悪を刻まれている。鮮やかな、曇りもない純粋なる悪なことは不文律。

 

それ故に、この姿になっているだけで反発作用による耐え難い苦痛と喪失感、それに伴うダメージを負い続ける。それは、身体が末端から消えて無くなっていくような想像を絶するもの。

 

そして、破壊力や攻撃力といったものも皆無であり、武器を振るうことすら出来ない。誰かを倒す事は出来ず、ただ、その魂を救う為のもの。

 

因果律や事象の力は、過てば世界の改変や消滅、救うべき魂の輪廻の追放すら招く。アフラ・マズダと唯一神の力は二倍ではない、二乗なのだ。1000×2ではない。1000×1000である。

 

『…………!』

 

リッカの顔に、脚に、腕に亀裂が入る。少しずつ粒子に浄化、否。昇華が始まっている。人の身で完全に行使できる力ではあり得ない。

 

だがそれでも、リッカは使用に踏み切った。アジ・ダハーカやアンリマユを宿しながら、それを扱う意味を理解できぬ阿呆ではない。

 

人の身でありながら、救世主を名乗る傲慢を理解できない彼女ではない。だがそれでも、会話した際にはこの力の使用を踏み切った。

 

「っ………!」

 

いつだって、殺す為には戦わない。リンボの頃から、そう誓っていた体を

 

自分の戦いは救う為。助ける為。誰かの力になるために。

 

それが生まれ持った宿痾で、本人すらも苦しんでいるのなら。

 

それのせいで、生きる資格が無いとまで言わせるのなら。

 

その宿痾こそ戦うべき敵であり。

 

その魂こそ救うべき友である。

 

『…………!!』

 

藤丸龍華は倒れない。彼女の中には、たくさんの善と想いが詰まっている。

 

それが、この力の反作用による自壊を瀬戸際で防いでいる。

 

残り三十秒。済土の時はすぐそこに。

 

「く、来るな!来てはいけない…!」

 

レダは、剣を構える。

 

「私は死ぬべきだ!針としてしか生きられぬ私は!」

 

ゆっくりと、リッカは歩み寄る。

 

「友すらも……信じられぬ、私等は…!」

 

その剣は、弱々しく突きつけられる。

 

『……………』

 

リッカは、立ち止まった。

 

「…生きているべきでは、ないのだから…」

 

自身すらも抗えぬ宿痾。

 

突きつけられた剣を、リッカは見やる。

 

『────………』

 

その突きつけられた切っ先に、左手の掌を添え…

 

「!?」

 

ゆっくりと、突き刺していく。掌を貫通し、深々と突き刺さっていく剣。

 

「な、何を…!?」

 

レダは動けない。まるで魅入られたかのように。そして、跪く。

 

『…………』

 

リッカの手が止まり、そして剣を掴む。

 

『大丈夫。あなたの宿痾は、もうあなたを苦しめないよ』

 

リッカがそう問い、頷いた。

 

『私が、みんなが、世界が。あなたをあなたのままに受け入れる』

 

「!?」

 

『あなたが誰もを信じられなくても、私はあなたを信じ続ける。あなたの針で、私は絶対に死んだりしない』

 

無条件の肯定と受容。無償の寛容を示す。

 

『あなたが誰もを、何もかもを信じられないのなら。いつか信じることが出来るようになるまで、ずっとそばにいるよ』

 

それこそが、レダに向けられしもの。

 

ゆえにこそ、あなたは生きていてもいいのだと。

 

『その宿痾だって、あなたの大切な一部だから。心ごと無くしてしまうのを、救いだなんて呼べないよ』

 

「……龍華……」

 

『一緒に行こう、レダさん。こんな私にだって、居場所ができたんだもの。ちょっと疑り深いくらいどうってこと無いよ!』

 

そこに、浮かべた笑顔は。変わらず彼女のものであり。

 

「───私は………」

 

レダの本心の、最後の扉を開く。

 

「生きていても…私のままで生きていても、良いのだろうか…?」

 

血にまみれた針だとしても。

 

そこに、世界に、果たして置き場はあるのかと。

 

『うん、勿論!生きていちゃいけない生命なんてない。それは私が保証する!』

 

瞬間、レダの背後に天より吊り下げられし巨大な鎖が顕現する。それは、世界が持って宿らせた宿痾の呪縛。

 

「──君の、友として……私は、生きていても良いのだろうか」

 

『うん!平和な世界で、その疑り深さは慎重さっていう美徳に変わるよ!』

 

「……そうか。私は、私のままで…そして私は、ミケラ様に救いを押し付けていたのだな……」

 

救いに、神の力は必要ない。

 

ただ、自分を受け入れるだけでいい。

 

「──ありがとう、友よ。そして、申し訳ありません。ミケラ様」

 

その、宿痾の呪縛にて繋がれていた鎖が、ひび割れていき。

 

「救いとは、自らが自らに齎すものでした。…そして、救いは……」

 

レダが、自身を受け入れたことにより……

 

「貴方様という神にも、与えられてしかるべきものでありました………」

 

彼女自身を縛っていた、世界からの鎖が砕け散る。

 

生まれ持った宿痾とは、言うなれば世界により与えられた奇蹟。奇蹟は必ずしも良いものではない。

 

神や世界に与えられた理不尽な奇蹟を、全く同じ力で砕く。或いは救う。

 

それこそがメシアライザー・アルファの力。かつて真なる唯一神がもたらさんとした、完全なる救い。

 

『うん!それじゃあ救いに行こうよ!』

 

リッカは朗らかに宣言し…。

 

『ミケラ自身も、助けに!』

 

一分を迎え、砕け散った聖鎧と共に倒れ伏すのであった。




リッカ「…………………」

レダ「君は、本当に無茶をするな。誰かの為に戦うとは、こんなにも命懸けなのか」

リッカ「…………………」

レダ「……だが、その道を歩むものこそ、誰かを救う資格を持つのだろう。全てを救うため、全ての苦しみを理解する」

リッカ「…………………」

レダ「…私の負けだ。そして……君の戦いに、私も力を貸そうとも」

リッカ「…………………」

レダ「ミケラ様を、救う。誰かの為に、自身を捨ててしまったあの方に、今一度、愛を」

(共に挑もう、リッカ。神たる者…ミケラ様に)

優しくリッカを擁するレダ。

その姿に、最早迷いも疑いもありはせず。

……ミケラへの道は、拓かれたのだ。
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